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ワンピ、幽白、かしこい消費者が年末年始に見たネットフリックス [実写映画化希望!]

年始にまとめて見たネットフリックスの配信作を紹介するよ。
ひと月契約で790円でこれだけ見られるのは、ビデオレンタルすること考えたら安すぎるね。
広告付きプランだけど、ほとんど広告見てない気がする。

ねとふり.png

見たいの見たら解約。これが賢い利用方法だと思う。

「聖域サンクチュアリ」


CGでも映像化不可能気味な相撲の世界を、
協会への忖度なしにマネーパワーで描き切った連続ドラマ。
空気読まないクソガキが、チミモウリョウうごめく聖域に足を踏み入れる。

「こちらも薄謝でお願いしてる身ですし、役者さんに無茶はさせられませんよ。
それよりみんな無理なく仲良く、程々で行きましょう。」
…ってところが一切感じられない、すごい。4回泣きました。

「ある用務員」で見て、こいつ本当に役者なの?どこから連れてきたの?
…とビビった一ノ瀬ワタルが主演。

記者の女の子は沢尻エリカかと思ったら、ガッキーの後にポッキーのCMやった子だった。
大河の代役もこの子がやれば良かったのに。

寺本莉緒の胸がひたすら揺れていた。ある意味、デッドオアアライブの実写映画版である。
あんなの嘘だと思っていました。お詫び申し上げます。

これ見終わった後、貴闘力のYouTubeチャンネルをひたすら見続けてしまった。

 
「ワンピース」


原作の初期を映画向きになるように再構成してはいるのだが、
アホな映画マンにありがちな、「俺が一般ウケするように手直ししてやんよ」感がない。
あくまで原作が聖典であり、制作者は殉教者。世界観を忠実に、細部まで気合い入れてコントロールして映像化している。外国人にここまでリスペクトされてしまう尾田栄一郎は偉大な漫画家だ。

ゾロ役の真剣佑の肉体がすごい。まるで漫画だ。
コビー役が漫画みたいに細すぎる。調べてみたら性の定義の難しい人だった。
アメリカ版のアニメでは、タバコの代わりにアメを舐めていたサンジだったが、ネトフリ版ではそれすら無くなってしまったのは悲しい。

 
「幽遊白書」


やはり映像は豪華だが、聖域やワンピに比べると濃さがそれほどでもなく、
映画というよりニチアサ豪華版という感じの演出に感じた。

戸愚呂編までを映像化。
原作が映像化向きになるのはこれ以降だと思うので、第二期が楽しみな作りではあった。

売れ線バトル漫画のお約束にのっとったキャラクターデザインをなるべく忠実に映像化。
妖狐化した鞍馬など、少し不思議な感じになっている。
幽助の制服は3年奇面組っぽい。

批判の多いぼたん役だけど、これはこれで怪しくていいと思う。
シナリオを再構成した結果、雪村と雪菜の距離が近くなり、名前が変に被ってることに気づく。

「VIVANT」


日本も韓国に倣って世界進出を狙おう、
というテーマでTBSが作ったスペシャル連続ドラマなのだそうだ。
ネットフリックスでなくても見ることができる。

堺雅人、二階堂ふみ、阿部寛、役所広司、嵐二宮、林原めぐみなどの豪華キャスト。
お話は要するに「24トゥエンティーフォー」で、衣装と撮影地がスターウォーズ。

ドンデン返しと究極の選択のつるべうちで疲れるし、後に残るものは割と無い。
映像も割とライブ感ある荒い感じで、いかにも日本のTVドラマって感じ。

24と違うのは、主人公が人道的にどうかというような行為をした後、
緊急避難で正当防衛だしで押し切って気にもとめないのがトゥエンティーフォーだったが、
VIVANTは丁寧にフォローを入れており、リアリティーないけどこれは日本ドラマ独自のお家芸だと強みになる可能性も感じる。ある種、職人芸だ。

キーワードとなる「別班」という言葉はこのドラマで初めて知りました。
ちと陰謀論好きそうですけど。

「プルートゥ」


ものすごい作画と動き。
しかし浦沢直樹の解像度の高い作風が、
鉄腕アトムの世界のアラを目立たせる相性の悪さは以前ブログに書いた通り。
強烈な不条理を、感動のドラマが素通りしていく。

どうせなら浦沢直樹はロボットと人権についての外伝を描くべきだと思う。
それは読んでみたい。

「ちひろさん」


ショムニの安田弘之の漫画の映画化&ネトフリ独占配信。
原作者の苦手なところ毒消しされていて、いい塩梅に。

元風俗嬢のヒロインを演じるのが有村架純。
濡れ場はあるが、脱ぎはしない!
台本読んで、「風俗嬢役は面白そうだけど、裸は嫌!」って断ったんだろうか。
それはともかく、やっぱりこの人、芸風がキョンキョンに似てる。

二回泣いた。ナカジが焼きそば食って泣くところ。

 
「トークサバイバー」1&2

2のアンジャッシュ渡部が面白かったので1も見た。
ドラマを演じる流れで笑える話をするという、「笑ってはいけない」の亜流みたいな企画。
とんでもない予算をかけて映像を作っているが、そこは蛇足としか思えずほとんど飛ばしてしまった。
勝ち残りとか脱落の基準もよく分からない。
 
 
【まとめ】
「バスタード!」をワンピースぐらいのお金かけて実写映像化してほしい。

 
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畏怖すべき大槻一翔のスタンド能力「欅姉妹の四季」「ピッコリーナ」 [名作紹介]

初見の印象は、
よくわからん漫画というものであった。
「欅(けやき)姉妹の四季」全4巻/大槻一翔

欅姉妹の四季 1巻 (HARTA COMIX)

欅姉妹の四季 1巻 (HARTA COMIX)

  • 作者: 大槻 一翔
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/01/15
  • メディア: Kindle版

どこでその存在を知ったかは忘れたが、
購入動機は、絵がエロウマかったからなのは間違いない。

とにかくめちゃくちゃ上手い。見せ方も分かってる感じだし、
脱いだ衣類などの小物の描写、ロングショットの背景も完璧。
情報量も、細かいけどうるさすぎない。ちょうど良い塩梅だ。

いちかばちか5.png

ただ話がよく分からない。
ただただ、セクシーな絵をどう見せるかということに終始、徹底した日常系という感じか。
それなのに話が時々男のスケベ目線を嫌悪する感じになる。

ところがである。
末妹の幼女がビキニで男友達と水遊びに行くのを説教する話があったかと思えば、
幼女の足をマッサージしたりするギリギリアウトな気もするエピソードがある。
そこがよく分からなかった。

スケベ目線に厳しいのは、
コンプラ的なエクスキューズなのかもしれないとも思った。
もちろんそういう意味がないこともないのだろうが、本質的なことではないのかもしれない。

作品として非常に重要なのは、作者が女性だということだ。
最初は「かずと」なのかと思っていたが、「いちか」と読むらしい。

 
そんな大槻一翔の新作、
「ピッコリーナ」が発売されたと知ったが、購入は迷った。
あらすじを読むと、バニーガールと焼き鳥屋の恋物語だという。
全然そそられないんですけど。…っていうか意味不明。

しかもヒロインのそっくりさんが4人ついてくる。おそ松くんか?


ピッコリーナ 1 (青騎士コミックス)

ピッコリーナ 1 (青騎士コミックス)

  • 作者: 大槻 一翔
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/03/20
  • メディア: Kindle版

で、
ずっと迷ってたんですけど、
いろいろあって先日「ピッコリーナ」の購入に至りました。

そして読んでみて作画に圧倒された。

いちかばちか3.png

いちかばちか7.png

これはあれだ、
もちろんスケベを期待する読者に対するサービスでやってるのもあるけども、
女性でも同性に感じる女性の体、仕草の美しさ、
それを追求するのが作者の大槻一翔のまんが道、スタンド能力なんだなって思い至りました。

いちかばちか1.png
(画像は「欅姉妹の四季」)

鍛えられた、磨かれた肉体の美しさ。
それは男でも男に見惚れることがあるので分かる。

自分も昔山本KIDみたいな体に憧れ、鍛えに鍛えたことがある。
最近では実写ワンピースのゾロ役の真剣佑がすごかった。

いちかばちか4.png
(画像は「ピッコリーナ」の焼き鳥調理描写)

磨かれ鍛えられた肉体は純粋に美しいもの。
もちろん異性を見る目にはスケベ心もプリインストールされてるのは逃れられない業だけれども、
それだけじゃない、純粋に美しいと思える部分も必ずあるのだ。

ファッションの基本はその健康的な体の線を出すこと。
ギリシア彫刻だって裸の美しさだ。

いちかばちか2.png
(画像は「欅姉妹の四季」)

それを悪徳だルッキズムだとか批判するバカな考え方がある。
本能が狂っとるよ、と思う。
で、こういうものを描いているのは必ず男性だという固定観点から抜け出せない人もいる。
女性なのに女性が分からない女性が一定数いる。

そんな女性が青木さやかのように、
「なに見てんのよ!」と吠えているのをネットでよく見かけるが、
誰もお前なんか見てねーよ。お呼びじゃないのである。

優れた男性向けエロ漫画を、女性が買うことがあるのを知っている人は少なくない。

いちかばちか6.png
(画像は「欅姉妹の四季」)

そういうスケベ心への嫌悪に対する通過儀礼はあると、
1巻で伏線を貼り、最終巻のとあるエピソードがその説明だったのかもしれない。

大槻一翔「ピッコリーナ」2巻がいつ出るか知らないが、
次回は発売前から予約して購入することにする。

 

欅のまんが棚 (HARTA COMIX)

欅のまんが棚 (HARTA COMIX)

  • 作者: 大槻 一翔
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/11/15
  • メディア: Kindle版



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風刺漫画家が絶賛した中国漫画の今。「中国漫画史話」と史セツキ「日本の月はまるく見える」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

こないだ中国共産党と戦う漫画家の作品を紹介したけども、
中国の漫画事情って実際どんなもんなんだ?

規制もあるけど、ゲームも映画も勢いがあるという話はよく聞く。
しかしチャイナマネーで漫画がすごくなったという話は聞こえてこない。

とりあえず1984年に筑摩書房から出版された「中国漫画史話」を読んでみた。


中国漫画史話 (1984年)

中国漫画史話 (1984年)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2024/01/03
  • メディア: -

その序文によると、
中国の漫画家は長らく不当な弾圧と戦い続けてきたが、
毛沢東死後の政変により一気に良い流れに。
この本の原書が中国で出版された1982年、中国漫画は大繁栄の時を迎えているという。

その苦難の道のりをまとめたものが、この「中国漫画史話」というわけだ。
結論から言うと、中国近代史に詳しくないとついて行きづらい内容に思えた。
とりあえず初見は全体の流れを把握するに留めた。

 
パンチが効いてるのも片寄みつぐによる序文だ。
片寄氏は日本の漫画家らしいのだが、中国漫画を絶賛する一方で日本の漫画に対して厳しい。

巨大産業化したものの、その内実は衰退としか思えないのに、
とか、

この筆鋒によって(中国の)文部大臣級の高官が失脚したといいますから、どこかの国の政治漫画のように、毎日これでもかこれでもか、といわんばかり描いても、一向に悪徳政治家を葬れない非力な漫画とは大違いです。
とか、

大衆化といえば水割りか低俗な平準化でしかない、日本の大衆路線は改めて考え直されてよいでしょう。
とか、

最近、わが国は”マンガ大国”だ、などという思い上った声もありますが、そんな態度では、この力強い中国の漫画にやがて追い抜かれてしまうでしょう。謙虚に、その苦闘を学びたいものです。
とか、

日本の劇画ブームに対して手厳しいことから、片寄氏は絶対風刺漫画家に違いないと思った。
名前はその辺の偏った思想を暗示したペンネームなのだろうか。

ちなみに序文が描かれた1984年は
「アドルフに告ぐ」「課長島耕作」「北斗の拳」「美味しんぼ」「ドラゴンボール」などが連載開始して間もないあたりである。この年の少年ジャンプ発行部数は390万部。

で、
日本の漫画より素晴らしいと片寄氏が序文で讃える中国の漫画が、以下のような作品。

かたよってる1.png

なんか、まんが道に出てくる読者投稿欄を思い出す。
片寄みつぐ氏は、日本がこういった漫画で溢れかえったら幸せだなと考えているのだから、
権力を持たせたらいけない人である。

ちなみに「中国漫画史話」が邦訳される3年前(原書が執筆された前年)
鉄腕アトムの海賊版が中国で流通している。

かたよってる2.png
(画像は吉本浩二/宮崎克「ブラックジャック創作秘話」3巻

ところで、
この「中国漫画史話」によると、
大昔から歴史的彫像に漫画的表現が見られるものがあり、
それを「漫彫(まんちょう)」と記述している。

検索してもあまり出てこない言葉だ。
似たようなので横山泰三が「漫刻(まんこく)」というのをやってる。

日本に鳥獣戯画があるように、
中国にも漫彫からなる長い漫画の歴史があるということの説明なのだが、
写実的とは言えない像が漫画表現になるなら、日本の土偶だって漫画になると思うのだが。。。

そもそも中国でも「漫画」と呼称するのは、なんか変な気がする。

というか漫画の「漫」って何なんだという根本的な疑問がある。
浪漫(ロマン)の漫か?と思って調べてみたら、
エッセイ的な文章を示す「漫筆」と言う日本の言葉から「漫画」と言う名称は作られたらしい。
これが中国でも使われるようになった、というわけだ。

<訂正>清水勲「漫画の歴史」によると、
「漫筆」は中国の言葉で、そこから日本で「漫画」という言葉が出来た説と、
中国に「漫画」と呼ばれた鳥がいて、その生態から付けられた説があるそうです。


驚くのは、
日本では1959年に誕生した週刊漫画誌が、中国では1928年にすでに誕生している事。
その雑誌「上海漫画」の部数がどのくらいあったか本には言及がないが、100号の表紙が掲載されているので最低でも2年は続いた計算になる。凄まじい勢いである。

本には、
1979年に中国で創刊された「風刺と幽黙(ユーモア)」は隔週刊行で毎回100万部をあっという間に売りさばくとあるのだが、よく見ると「タブロイド版、四頁」と書いてある。タブロイド版とは新聞半分の大きさ。四頁とはひょっとして4ページってことなのか???

…フリーペーパー以下じゃないすか。
その時、中国では本当に漫画が繁栄していたのか?
「風刺と幽黙」をいくらで売っているのか?興味は尽きない。
その雑誌の内容についても、プロパガンダっぽいという感想をネットで見かけた。

 
片寄氏も序文で言及しているのだが、
「中国漫画史話」本文は1980年代の中国漫画の繁栄がどういったものかについては触れていない。

本当のところ中国の漫画事情はどうなんだいと、さらに検索を続けてみると、
現在「モーニング・ツー」で中国人が漫画を描いていることがわかった。

史セツキ「日本の月はまるく見える」だ。
https://comic-days.com/episode/4856001361133077320

かたよってない.png

ボーイズラブ好きの中国人女性漫画家が、日本の出版社からオファーを受け、文化や政治の違いに葛藤しつつ執筆するという内容で、まだ単行本化されるほど連載を重ねておらず、全話無料で読むことができる。大変に面白かった。

史セツキ氏は、中国の一人っ子政策をテーマにした短編も描いている。
https://comic-days.com/episode/3269754496647351420
第80回ちばてつや賞一般部門奨励賞受賞作

さらに史セツキ氏のインタビュー記事も発見。
https://gendai.media/articles/-/113266

それによると、作者が中学生の頃の中国はあまり規制もなく、日本の漫画やアニメも普通に楽しんでおり、ネットでシャーマンキングの女性向け同人誌を見つけ、BL好きになったという。表現規制が強まったのは2014年以降で、キスシーンはボーダーにあり、運営が自主規制することもあるらしい。

現在の中国漫画は紙の書籍化は少なく、人気作品にならないと原稿料も発生しない。
作者によると、「日本の月はまるく見える」は現在の中国では公開できない内容とのこと。
今後どんな圧力があるか分からないので、読めるうちに読んでおこう!
そして自由な漫画表現が許される日本に生まれた幸福を噛みしめよう!

こうにちおうに俺はなる!.png
(辣椒「嘘つき中国共産党」によると、人気抗日ドラマは日本漫画に影響を受けているものもあるという)

東京MXで放送されていた「魔道祖師」というアニメは、
中国のオンライン小説が原作でコミカライズもされている。
神保町の内山書店では中国漫画の取り扱いが増えているというネット記事も発見した。

ダイヤモンドオンライン
日本の若者の間で「中国発」漫画・ゲームの人気が上昇中、次世代の中国観とは
https://diamond.jp/articles/-/311222?page=2

「静かなブーム」的な見出し詐欺なのはご愛嬌。


漫画 魔道祖師 漫畫版 第1巻 台湾版 落地成球 墨香銅臭 赤笛雲琴記 コミック 魏無羨 藍忘機

漫画 魔道祖師 漫畫版 第1巻 台湾版 落地成球 墨香銅臭 赤笛雲琴記 コミック 魏無羨 藍忘機

  • 出版社/メーカー: 平心出版
  • 発売日: 2021/09/30
  • メディア: ペーパーバック



魔道祖師 1 (ダリアコミックスe)

魔道祖師 1 (ダリアコミックスe)

  • 出版社/メーカー: フロンティアワークス
  • 発売日: 2023/12/22
  • メディア: Kindle版



魔道祖師 1 (ダリア文庫e)

魔道祖師 1 (ダリア文庫e)

  • 出版社/メーカー: ダリア文庫e
  • 発売日: 2021/08/01
  • メディア: Kindle版



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年またいじゃったけど第五回もう年も変わりますが去年読んだこの漫画がすごい!賞 [名作紹介]

あけましておめでとうございます。

今年はアクセス数が三分の一に激減しましたが、なぜか収益は変わりません。
ソネットがブログサービスを手放したせいか、データが実態に近いものになったのかな?
おかげで運営費が賄えてますし、月の漫画購入費の足しになっています。

ほとんど自己満足のこのブログですが、今年も愛読いただければ幸いです。
いつまで続くかは正直分かりませんが。また動画もやりたいです。

さてコロナ禍もあり、ここ2年ほど開催しなかった
「もう年も変わりますが去年読んだこの漫画がすごい!賞」を今年は発表!

対象となるのは2022年に自分が読んだ漫画作品。
2022年のうちに選ぶと、1年の後半に読んだ漫画の方が印象が強くなるので、
1年寝かして選考しようという、なんて平等なこの企画!

っていうか、去年のうちにやらなきゃダメだったんですな。
久しぶりなんで間違えちゃったよ。
まあいいや。

過去の大賞作品はこちら。
2017年第一回大賞「ばくおん!!」おりもとみまな
2018年第二回大賞「建安マエストロ!」中島三千恒
2019年第三回大賞「王道の狗」安彦良和
2020年第四回大賞「デザイナー 渋井直人の休日」渋谷直角

ちなみに選考の対象となる2022年、Amazonで注文した件数は251件。
その中の栄えある1位は…、

2023年大賞「シートン」谷口ジロー
マスターシートン.png
2017年に亡くなった「孤独のグルメ」の谷口ジローが、2004年から07年にかけて連載した作品。全4巻。氏は20代の頃にも「学習漫画シートン動物記」を手掛けており、過去に「ブランカ」「犬を飼う」なども描いていることから、得意で思い入れのある題材なのだと思われる。

自分は子供の頃に学研の学習漫画でシートン動物記を色々と読んでいてそちらの方も色々思い入れがあるのだが、谷口版「シートン」はそれらのエピソードが全てシートンが体験したものに置き換わって描写されている。

考証的に正しいのかよく分からないが、全4巻が一本筋が通った話になっていて読みやすいと思う。
その筆致は緻密で、淡々としているが中身はゆっくりと燃え上がっており、爆発しそうなのを知性で抑えこむかのようなきわどいテンションがある。人間があまり足を踏み入れていない「自然」という神の領域に踏み込む、人間の冒険を描いている。

紙の本はけっこうなお値段がする。新装版はさらにめちゃ高い。紙の本は値上げする一方だと思われるので、気になる人は早めに押さえておいた方がいい。Kindle Unlimitedで1巻だけ読めるので、電子版もお勧め。
ジョジョの奇妙な冒険第四部で承太郎がシートンの言葉を引用していたが、そこに興味を持った方は絶対に読んで損しないはずである。

 
次点「いつか中華屋でチャーハンを」増田薫
いつか6.png
大胆な人物のデフォルメと、あたたかみのある料理描写。そしてひたすら町の中華屋さんを食べ歩くというアイディア。全てが味わい深い。一部モノクロ化された紙の本を電子化して、さらにフルカラー電子版も購入したが、紙のままでもう一冊手元に置いておきたいぐらい素晴らしい作品だと思う。ただし周囲で共感してくれる人がいない!もちろんレビューは絶賛が多い。皆様はどう思われるか。ということで次点となった。

描いているのが本業漫画家でないせいかミュージシャン、発想が素朴で新鮮。誰が漫画を描いていてもおかしくない、日本の層の厚さを感じさせもする。
過去に記事化している
 

次次点「マンガ獄中面会物語」塚原洋一
めんかい3.png
片岡健のルポルタージュ「平成監獄面会記」のコミカライズ。
死刑囚に実際に会いにいくという説得力はものすごいものがある。
報道は?司法の現場がどうなっているのか?噛み合わない歯車を回す社会の潤滑油の成分がどういったものなのか?その軋む音を聞かずに済んでいる我々の生活とは何なのか考えさせられる。

続編が電子版のみで発売されている。
わかりにくいのでもう少しちゃんとPRしてくれたら、もっと売れるだろうにと思う。
過去に記事化している
 

さらにこの際だから紹介したい作品を挙げていく
「吾妻鏡」竹宮 恵子
あん3.png
大家に歴史漫画を描かせる「マンガ日本の古典」という企画の一編。
「鎌倉殿の13人」副読本としてものすごい重宝した。
作者が畠山重忠にどんどん傾倒していく感じが伝わってきて面白い。

謀反の疑いをかけられたら、いかにして冤罪を訴えるかということをよく考えるのだけど、
考えるだけ無駄なのだという人間の本質がよく分かる歴史素材だ。
過去に記事化している。

 
「この社会主義グルメがすごい!! 」内田 弘樹/河内和泉
死んだおばあちゃん.png
擬人化された社会主義国家が自国の(あまり美味しくなさそうな)料理を紹介する漫画。
読むと口の中に土の味が広がるかのようで、社会主義は不味そうと思えてしまうのは、戦前戦後の風刺漫画家も思いつかなかった、とんでもない風刺表現が今ここに誕生したのだってな気がする。

元は同人誌なのだそうだ。
やはり日本漫画のレヴェルは高い。

 
「パルノグラフィティ」板垣巴留
パルのグラフティ2.png
バキの板垣恵介の娘が家の様子を紹介した貴重な漫画。
範馬勇次郎のような父親像も面白いが、娘も大概なのが面白い。
過去に記事化している。

 
「かくかくしかじか」東村アキコ
かくかく6.png
自伝的内容。絵が上手いとはどういうことか、考えさせられる。
過去に記事化している。

 
「メンズエステ嬢の居場所はこの社会にありますか?」鶴屋なこみん
メンエス3.png
風俗嬢によるエッセイ漫画。作画担当は別なのかと思いきや本人が描いているらしいので、やはり日本の漫画の層は分厚いと思わせるクオリティ。
過去に記事化している。

 
「日本人なら知っておきたい日本文学」蛇蔵
キラキラ1.png
天地創造デザイン部の蛇蔵。蛇蔵作品はほとんど買っていて、いずれも傑作である。その才能に見合った名声が得られてない気がする。この際だから推しておきたい。
過去に記事化している。


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漫画家はどこまで国家権力と戦えるか?「マンガで読む嘘つき中国共産党」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

その昔、漫画とは権力を批判することと同義語だった。
これは「新聞」というメディアの中でしか漫画家が生きられなかった時代のためだ。

黎明期の漫画家は基本的にカット描きなので、
定期的に大量の注文がなければ生活することが出来ない。
なので新聞の嘱託(しょくたく)になることは必須であり、ステイタスだったのだ。

漫画の始祖の一人である北澤楽天は、福沢諭吉に迎えられ「時事新報」で活躍。
のちに総理大臣以上の知名度になる岡本一平は朝日新聞に入社。
その弟子の近藤日出造は、愛人同伴で読売新聞に所属した。

前回紹介した30年前に書かれた水野良太郎の本によると、
海外も同様で、フリーランスの漫画家を名乗ると軽く見られる傾向があったという。

政治を批判してこそ漫画。
多くの風刺漫画家が劇画ブームを軽蔑して理解できないまま滅んでいったのは、
そういった歴史的な強固な刷り込みによるものもあったのである。
 
 
それでは昔の漫画家が、
どれぐらい政道を批判できたのだろうか。

宮武外骨(1867-1955年)は大日本帝国憲法発布をパロディにし、3年8ヶ月投獄された。

ラージャお1.jpg

一方、
近藤日出造は軍部に積極的に協力したとして戦後批判され、戦犯として逮捕されることに怯えた。

「おとうさんとぼく」を描いたドイツの漫画家、
E.O.プラウエンことエーリッヒ・オーザーもナチスからの依頼に妥協を強いられる。
結局、下宿先の夫婦に密談を聞かれて密告され、処刑の執行を待たず自殺した。

なかなか漫画や偉人伝のように、
火炙りにされても意志を貫くという風にカッコよくはいかないものである。

決してb3d.png
(画像は蛇蔵「決してマネしないでください」3巻
 
命懸けで描かれた漫画は多いが、
他人から命を狙われても批判する漫画を描き続けたのは、
自分の知る限りオウム真理教から暗殺されかけた小林よしのりぐらいだと思う。

ふるいち9.png
(画像はゴーマニズム宣言9巻。この後、殺して平気でシラを切ってたと想像すると怖すぎる)

批判するべき権力というのは国家権力だけではない。
小林よしのりもベストセラー作家になれば権力であるから、
そのことに自覚的でいるべきだと知識人らから諭されるコマがあって、印象に残っている。
 
 
批判を許さない不健全な国家には、優れた漫画は存在しない。
実際は不満が顕在化する国ほど良い国で、政治の不満が一切見られない国は悪い国なのだ。
北朝鮮のように。

日本の政治家の多くは、漫画家らにからかわれてナンボという気概を持っている。
森喜朗などは、女性に乱暴する役で漫画に描かれても、宮下あきらの漫画に出演できて喜んでいたというからちょっと許しすぎだし、逆に女性蔑視だと別方向から非難がありそうだ。

モーリン1.png
(画像は宮下あきら「天より高く」21巻。Kindle Unlimited対象作品。)

国家権力を批判する側は相手が殴り返してこないことに甘えすぎで、
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの精神で職業差別の域にまで達して批判しているのはどうかと思う。
褒めるととこは褒める。批判するところは批判する、でやってくれないと白けてしまう。

例えばこんなものは政治批判でも風刺でもなんでもない。
ジャスミンとウメコに逮捕されろ.jpg
怒りに任せて人間性を失った人というだけである。
それを支持している人が何十万といるというのだから、本当に呆れ返るしかない。


 
毎度前置きが長くて申し訳ないが、
今回紹介するのが中国人による風刺漫画、
辣椒(ラージャオ)「マンガで読む嘘つき中国共産党」だ。

マンガで読む 嘘つき中国共産党

マンガで読む 嘘つき中国共産党

  • 作者: 辣椒
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/01/18
  • メディア: Kindle版
辣椒は元々「変態辣椒」(超・辛口という意味)と名乗って、ネットで政治を批判していた。
絵はかなり上手いと思う。
訪日してるところパスポートを取り上げられ帰国できず、現在はアメリカで暮らしているという。

らあじゃお4.png

漫画には、中国で風刺漫画を描くことの困難さ、
政治権力への介入を許さない中国共産党の酷さが描かれている。

辣椒の漫画が面白いと思った人が、勝手に漫画をTシャツにプリントして販売。
そのことで役人がやってきて、色々話を聞かれたことに始まり、
自然災害で起きた人命救助の不備を指摘した記事をRT(拡散)したことにより逮捕される。
R Tで逮捕なのだ。辣椒がインフルエンサー(影響力がある人)だからである。

インフルエンサーになら逮捕に抵抗する対抗手段もある。ネットでSOSを求めるのだ。
「革命が起こったらお礼参りに行く」という脅しには役人も怯えるらしい、というのが面白い。
なろう小説のようにそれで無双はできないにせよ、ある程度の駆け引きが可能なのだ。
まあ、それが通用するのも政治犯としてまだ小物だからなのかもしれないが。

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そんな国にいるものだから、来日した辣椒は日本に感激する。
そのことを親日的だと非難され、帰国することが出来なくなるのだが。

らあじゃお2.png

辣椒は日本の選挙運動をみて、真っ当だと涙を流すほど感激したという。
同時に、そんな日本の政治を、必要以上に非難する人たちに強烈な違和感を受けたとも漫画に描いている。
ですよね!
また、それによって左翼運動家から非難を受けることもあったようだ。

らあじゃお3.png

まあそれも漫画を出版した2017年の話で、
今現在の辣椒が日本に対してどういう感想を持っているかは分からない。
隣の芝生は青く見えるもの。

雁屋哲にとってのオーストラリア、
ひろゆきにとってのフランス、
フェミニストにとってのスウェーデン、

実際に住んでみれば、色々とアラが見えてくるものだ。
問題を抱えてない地上の楽園みたいな国があるとすれば、そんなものは北朝鮮のような国なのだろう。

森が4.png
(画像は小池みき「同居人の美少女がレズビアンだった件。」Kindle Unlimited対象作品)

世界は繋がっている。
他国と比較して、当たり前がどこなのか、
違うとしたらどんな事情があるのか、
変わることでどんな影響が生じるのか、

そこまで加味して風刺する。
そんなことの出来る漫画家がどれぐらいいるか。
見識を持った運動家もどれぐらいいるか。
そして批判によって起こる摩擦にどれぐらい耐えられるのか。
そんなのが、たくさんいるわけは無いのである。

風刺漫画家は、幼稚で浅はかなのが有象無象だと劇画をよく批判していたが、
風刺漫画家にしたって玉石混交だったはずである。

新聞の風刺漫画が、少年ジャンプのようにアンケート競争の完全実力主義だったら、
横山泰三の連載が39年間1万3561回も続いているはずがない、
という事を最近よく考えるのだが、
それで連想するのは成人功「いんちき」の最終回だ。

「うあー なんかこのまま新聞の4コマみたいに1万回くらい続けさせてもらって細々と生きてく人生設計があ〜」
いんちき.png
(ちなみに1996年ごろ「アフタヌーン」で連載されていた。全2巻でプレミアがついている。)

風刺漫画がヌルいというのは、何十年も前から国民的共通認識なのかもしれない。
新聞みたいな安定したところで年金もらうような仕事をしている人が、
国家的な弾圧に逆らって漫画を書くことなどできるわけがないではないか。
 
 
国家の弾圧に耐えた偉人の漫画はいっぱいあるが、
そこに出てくる拷問は、「勇午」大西巷一の漫画にように詳しく描かれていない。

のちに自分の伝記が出版されると分かっていたならまだ拷問に耐えられるかもしれないが、誰も知られず痛い思いをして死んでいくぐらいだったら宗旨替えして相手の靴を舐めた方がマシ、という考えも分かる。

そういうことを踏まえた上で、風刺というものを考えていきたいのである。
とりあえず小林よしのりと、辣椒と井上純一は立派だ。
わたしゃ真似できません。


 

中国嫁日記(一)

中国嫁日記(一)

  • 作者: 井上 純一
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2015/01/31
  • メディア: Kindle版



中国工場の琴音ちゃん 1 (ダンガンコミックス)

中国工場の琴音ちゃん 1 (ダンガンコミックス)

  • 作者: 井上純一
  • 出版社/メーカー: ダンガン
  • 発売日: 2016/06/05
  • メディア: Kindle版



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これさえ読めば海外漫画通?水野良太郎「漫画文化の内幕」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]


漫画文化の内幕

漫画文化の内幕

  • 作者: 水野 良太郎
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 1991/03/01
  • メディア: 単行本

1991年に出版された、水野良太郎「漫画文化の内幕」という本を読んだ。
水野良太郎(1936-2018)は早川書房の「キャプテン・フューチャー」のイラストを手がけた人で、風刺漫画家と分類できる。国際的にも活躍しており、漫画協会の理事も勤めていた。

せそうあきら4b.jpg
「世相漫画で知る中国」収録、中国「風刺と幽黙」に掲載された水野氏の似顔絵。左は牧野圭一、右は小野耕世?)

本の前書きから厳しい。

不勉強なマンガ評論家気取りの、独善的見解の受け売りがマスコミに定着しつつある昨今には苛立つばかりである。見解の相違という次元ではなく、それ以前の知識を持たぬまま、「これが漫画(劇画)だ」なんて、エラそうに言ってほしくない。

これまで何度も風刺漫画家の時代錯誤な漫画評を紹介してきた。

今回もそんな感じになるのかなと思って読み始めたが、手塚治虫が亡くなって2年後の本なせいか、劇画に対する追及が若干弱い気がする。この本によると、この時期の日本のひとコマ漫画業界はほぼ死滅しているらしい。

「劇画」という言葉は戦後、貸本漫画を描いていた漫画家 辰巳ヨシヒロや、さいとう・たかをなどが、大人を対象にした漫画で物語を軸にした作品に命名したと言われる。

作品のスタイルとしてはすでに戦前の欧米にあって決して新しいものではない。当時まだ若かった彼等は、そうした海外の漫画事情を知らなかったのではないか。しかし、長いストーリー展開を軸にした作風というのは、これまでの日本の大人漫画にはなかったスタイルだった。

この文章から、
水野氏は辰巳ヨシヒロとコミュニケーションを取ったことが無さそうなのが伺える。

水野氏の劇画への解釈は、単純に写実的なタッチのストーリー漫画が劇画だと受け取れるもので、さらに本の中で海外のそういった作品を執拗に「劇画」と紹介して、辰巳氏の革新性を貶めようとしているのではないかという警戒感が私の中に生まれた。

この辺から、水野氏の本音が見えるような気がする。

実際のところ日本では、大人が読むにはあまりにも幼稚なイメージの成人向け劇画や《マンガ》本が多すぎる。絵がコドモ成人向け漫画的だと尚更の印象だ。

欧米の成人向け劇画や漫画でしばしば見られる知的な楽しさや魅力が、日本の劇画に乏しいのは紛れもない事実である。出版物としてのイメージもまた、お粗末すぎる。それらに夢中になる読者の知的センスを疑われるのは当然ではないか。

劇画スタイルの漫画が好きか嫌いかという次元の問題ではなく、すべて知的で高尚であらねばならないと言うのではない。大人が読んでもハズカシくない、魅力的な劇画が日本で目につかないのが悔しいのである。

大人の観賞に耐え得る魅力的な劇画が、日本にも無いわけではない.しかし、それらがガサツで薄汚い作品群に埋って掲載される漫画雑誌の在り方は、もっと検討されてもよさそうである。

本に書かれた水野氏の透けて見える本音を要約すると、
漫画は知的なものであるべきだ!
だからもっと海外を見習え!
と、いうことだと思う。この辺、風刺漫画家の限界を感じる。

知的であることは良いことだ。
しかしそのことが風刺漫画家の慢心を招き、読者の需要と乖離してもそれを受け入れられない悪循環を産んだことは、これまで何度も書いてきたことである。

でんしゃでまんが.png
(画像は小林よしのり「新ゴーマニズム宣言」1巻

その結果、
やっぱり風刺漫画家は絶滅してしまったようなのであるが、その段階に至っても「知的」を錦の御旗に掲げ続ける水野氏の漫画論には首をかしげざるを得ない。

そして、おそらく水野氏的な漫画論の極北にいるドラゴンボールなどの漫画が、現在世界的にファンを増やし続けている現象がある。そこから人間とは何かと考えるのが現代的な漫画論というものだ。水野氏の漫画論はそんな未来を予測するものではない。

なぜメキシコ政府がドラゴンボールのアニメの最終回を1万人のスタジアムを使って放映するに至ったか?フランスの大統領が「ワンピース」や「鬼滅の刃」の新刊を買うのか?なぜ湘南にやってきた中国人が「スラムダンク」に出てきた電車を見て涙を流すのか?水野氏の本の理論では説明できないだろう。

スラダン3.png
(画像はにしかわたく/初田宗久「ブラック企業やめて上海で暮らしてみました」

海外にも優れた売れてる漫画は山ほどあるのだろうが、
そこに読者も作り手もコンプレックスを一切感じないことが小説や映画との決定的な違いであり、誇れる部分だと思う。

「漫画文化の内幕」は、
ひどい言い方をすれば水野氏の海外コンプレックスに溢れた本である。

それにもまして日本の劇画/漫画評論家の絵画的美意識は疑わしいものだ.劇画や漫画が紛れもなく絵画芸術の一分野であることなど思いもよらないのだろう。彼等がソウル・スタインバーグローラン・トポールロナルド・サールについて論じたのを見たことがない。《ブラック・アンド・ホワイトの魔師》と言われたアメリカの劇画家ミルトン・カニフのデッサンの魅力について、日本の劇画/漫画評論家が論じた例を知らない。『ターザンをダイナミックに描いて一世を風摩したバーン・ホガースを知る日本の劇画/漫画評論家がどれだけいるだろうか。

とはいえ、日本漫画最高!の意見に安住しても風刺漫画の末路を辿るだけで不健康だ。
今はネットで手軽に調べてどんな作品なのか雰囲気だけでも分かるのだから、この際だから数件調べてみた。

やはり役立つのはツイッター(エックス)で、誰かしら呟いているので勝手に引用してみた。許されたし。ピンク色の文字は「漫画文化の内幕」での紹介部分である

とりあえず本に対する論評はここまでで、
以下の海外漫画家調査レポートは気まぐれで追記するので、お暇ならまた読みに来てよねーん。

スタインバーグはこないだブログに書いた。
ホガースは現在も書店で技法書が流通しているので省略。
ということでロナルド・サールから。

ロナルド・サール Ronald Searle(1920-2011)イギリス
戦争では日本軍の捕虜となったり、アイヒマン裁判の法廷画家などもしている。
芳崎せいむ「金魚屋古書店」でも3話にわたって取り上げられている。


ローラン・トポール Roland Topor(1938-1997)フランス
文章も書くようで、脚本家として「ファンタスティック・プラネット」に関わっているらしい。


ジェラード・スカーフ(Gerald Anthony Scarfe)1936-
新聞の政治風刺漫画にしてもジェラード・スカーフのような、大胆でシャープなデフォルメによる斬新な作風を試みる雰囲気さえ、日本にはない。

「ジェラルド・スカーフ」表記だとよく出てくる。
ディズニーなどのアニメーション作品も多く手がけており、
代表作は「ピンク・フロイド ザ・ウォール」




ヴァージル・パーチ(Virgil Partch)1916-1984
ひとコマ漫画専門の漫画家は基本的には一コマ漫画しか描かないのである。(中略)ヴァージル・パーチのコミック・ストリップス「ビッグ・ジョージ」は例外的であり、

代表作「ビッグジョージ」「キャプテンズギグ」


レイモン・ペイネ(1908-1999)Raymond Jean PEYNET
1950年代に「アサヒグラフ」が日本で初めて彼のロマンティックな作風を紹介して以来、日本の菓子メーカーがイメージ・キャラクターに使ったりして、ファンが増えた。

BS漫画夜話で、ペイネが永島慎二に影響を与えていると指摘されていた。
軽井沢にペイネ美術館がある。世界初・日本で唯一の個人美術館なのだそうだ。



モルト・ウォーカー(1923-2018)Addison Morton Walker
アメリカでは人気漫画家モート・ウォーカーが古い城を買い取って、漫画美術館として経営してい る。彼が蒐集した五千点もの漫画の原画を展示し、自ら館長におさまり、入場料を取っての経営 である

代表作「ビートル・ベイリー」
アニメ化もされており、「新兵ベリー」というタイトルでテレビ東京やキッズステーションで放送。
1971年に鶴書房から全10巻、2004年にも文芸社から邦訳版が出ている。
団子鼻でヘルメットで目を隠したキャラデザインは、石ノ森章太郎が踏襲してる気がする。



ジャン=ジャック・サンペ(1932-2022)Jean-Jacques Sempé フランス
1970年代にはフランスの世界的な現役のナンセンス漫画家、J=J・サンペのデッサン展も銀座の画廊で開かれたが、どれも当時としてはリーズナブルな価格だった。




アルベール・デュブー(1905-1976)Albert Dubout フランス
1980年代の中頃だったと思うが、日本橋・三越デパートでは、フランスの国民的人気漫画家だった故アルベール・デュブウの個展が開かれた。40号程の油絵が十数万円前後で売られていて、その大衆的価格に驚いたものである。私のポケット・マネーでも買えそうな価格だっただけに、なぜ見送ったのか今でもひどく後悔している。デュブウは戦前から戦後にかけてフランスでは圧倒的な人気を博した漫画家だったが、日本では殆んどなじみが無く、三越デパート側も彼の評価を迷ったのではないか。展示場所も「フランス・食品フェスティバル」のコーナーの一角に、埋めぐさついでという印象だった。彼の作品が度々『文春・漫画読本』でも紹介されていたのに、誰の記憶にも残っていなかったのだろうか。

尻尾を立ててお尻の穴を見せる感じの猫の絵が、
こないだ発売された荒木飛呂彦「ザ・ジョジョランズ」2巻に出てきたので、ひょっとしてと思う。





ジャン・エッフェル Jean Effel(1908-1982)フランス
パリの小さな古美術店で、ジャン・エッフェルの小さなデッサンが額に入って売られていた。彼も戦後一世を風鯉したフランスを代表する風刺漫画家のひとりだった。




ミルトン・カニフ Milton Caniff(1907-1988)アメリカ

彼の描いた『テリー&ザ・パイレーツ』に登場する「ドラゴンレディ」は短気な女性の蔑称として広まったそう。水野良太郎はカニフに影響を受けていると指摘する人もいる。



<追記>
「あしたのジョー」の時代ぐらいの感覚で読んでいたが、「漫画文化の内幕」が出版された1991年は「ナニワ金融道」「スラムダンク」「沈黙の艦隊」「幽遊白書」「寄生獣」「クレヨンしんちゃん」などが連載している時期である。ジャンプが615万部突破。4年後に650万部達成。この時期にこのセンスはちょっと痛すぎる気もする。外国漫画好きにしたって、何十年前の漫画を持ち上げてるんだ。。。

 
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一級エロ建築士、鬼ノ仁が描く「一級建築士矩子の設計思考」 [実写映画化希望!]

今回オススメする漫画は
鬼ノ仁「一級建築士矩子(かなこ)の設計思考」

なんと一級建築士が描いた建築漫画だ。
面白そうだろう。

あねは3.png

なんで一級建築士が漫画なんか描いているのか分からない。
というかこの漫画、用語や理論が難しく、正直なに描いてるか分からない部分も多い。
ハッキリ言って詰め込みすぎだ。文字が潰れているぐらい細かくて分からない箇所もある。

というか、
こんな漫画が俗悪たる劇画の巣窟と噂される漫画ゴラクで連載しているというのも分からない。
作者は普段エロ漫画を描いているらしい。

一級建築士がなぜエロ漫画を描いているのだ。

あねは1.png
(画像は「鬼ノ仁短篇集 愛情表現」Kindle Unlimited対象作品/18禁)

漫画を読めば分かるが、一級建築士の資格は誰でも取れるものではない。
2巻で資格試験の様子が描かれていてオススメなのだが、人間業ではない。
エロ漫画表現を単純に邪悪と切り捨てていけない理由がここにある。

あねは5.png

わからんことだらけだ。
一級建築士がエロ漫画を描く理由。
まずそれを描くべきなのではないか。

アメリカよ、これが日本だ。

あねは2.png

前述の通り、この漫画は何描いているか分からない部分がある。
かといって、分からない部分が「ヒカルの碁」のように分かった気にさせる演出にも乏しいと自分は感じる。
エロ漫画家に一級建築士の霊が取り憑く漫画にすれば良かったのではないか。

こんな漫画が続く訳が無い。
繰り返しになるが俗悪な劇画の巣窟たる漫画ゴラクの連載なのだ。
作者もそう思っているが、なんと数多のボーダーを乗り越え、現在3巻目を用意しようとしている。

あねは4.png

単行本1巻は1年で4刷り。
建築雑誌も注目の漫画として取り上げているらしい。
奇跡がここにあるのだ。そこに立ち会わない手はないだろう。

ボーダーにあるからこそ、作者はありったけのものを詰め込んでいる。
出し惜しみなしだ。
わたしゃ、その熱意にうたれるのである。

あねは6.png
 
作中には、
読者を惹きつけるための作者の努力も散見する。

本来、パンツはくだろうという危険な場所にスカートで立ち入ったり、
流行りのお一人様グルメルポ漫画の要素もある。
ちなみにヒロインの経営する設計事務所は飲み屋も併設している。
(カフェや食堂を併設した事務所は実際にあるらしい)

おそらく、そのうちNHKで連ドラ化するのではなかろうか。
ヒロイン役は浜辺美波か。
おそらくすでに漫画を読んで、「美波、この役がやりたいです」と事務所に働きかけている頃だ。

世の中に建築ドラマブームを巻き起こせば、
星里もちるの「りびんぐゲーム」の再評価、ドラマ化もあるかもしれない。

もうネットフリックスは動き始めているかもしれない。
みんなも買おう!「一級建築士矩子の設計思考」!



 
一級建築士矩子の設計思考 1

一級建築士矩子の設計思考 1

  • 作者: 鬼ノ仁
  • 出版社/メーカー: 日本文芸社
  • 発売日: 2022/03/09
  • メディア: Kindle版



一級建築士矩子の設計思考 2

一級建築士矩子の設計思考 2

  • 作者: 鬼ノ仁
  • 出版社/メーカー: 日本文芸社
  • 発売日: 2023/04/18
  • メディア: Kindle版



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いいも悪いも版元しだい、鉄人本よどこへ行く?横山光輝「鉄人28号」を55冊買ったワケ [心に残る1コマ]

所有する鉄人28号が55冊になった。
横山作品としては「三国志」60巻に次ぐ多さ!
事情により、光文社文庫版、潮出版原作完全版、秋田コミックスセレクト版と買い集めてしまいました。

なぜこんな事になったのか?

いくつもの出版社から単行本が刊行されているような名作を購入する場合、
なるべく安く、封印未収録回&修正が少ないやつを選びたいわけで、
過去にもそんな葛藤をブログに書きましたけど、鉄人が特に難しかった。

そもそも購入のきっかけは、
鉄人の掲載誌だった光文社の漫画雑誌「少年」の傑作集を読んで面白かったから。

なので候補の中から最初に選んだのが1996年から刊行された、
光文社文庫「鉄人28号」全12巻と、「・鉄人28号」全13巻。

鉄人28号 全12巻完結(文庫版) [マーケットプレイス コミックセット]

鉄人28号 全12巻完結(文庫版) [マーケットプレイス コミックセット]

  • 作者: 横山 光輝
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • メディア: コミック

「続」ってなんだろう、という疑問はありましたけど、まあ光文社ですよ。
かつての自社に多大な利益をもたらした鉄人を復刻するわけですから、間違いないと思うじゃないですか。

間違いありまくりだったわけですよこれが。

びっくりするぐらい絵がひどい!
生原稿は印刷したら破棄されてしまうのが、鉄人発表当時の業界の慣習。
なので印刷されたものを生原稿として複製するしかないわけで、ひどくなるのはしょうがない。

しょうがないのですが、
同じ光文社から出版されているのに、
1989年に「少年傑作集2巻」に再録されたものと比べて
1996年の鉄人の方が印刷が汚くなるのは理解不能!

<比較参考画像1>2005年:潮出版「原作完全版」より。
もともとはこんな絵だったと思われる。
アシスタントがトレスして描き起こししたもの。
べつじん28号1.png

<比較参考画像2>1989年:光文社「少年傑作集2巻」より。
かすれてはいるが、線はそれほど潰れていない。
べつじん28号2.png

<比較参考画像3>1996年:光文社「光文社文庫 鉄人28号」より
そしてこれが問題の鉄人。
べつじん28号3.png

線が接触し、電灯のかけアミ線が潰れてしまっている。
左のヒゲの男性の目玉とまぶたが完全に癒着し、真っ黒になってしまった!

 
実はこの問題の光文社文庫版「鉄人28号」、20年ぐらい前に数冊購入したことがある。
購入したことがあるのだが、読むのが辛いと挫折してしまっていた。
そりゃ辛いわ。

ここにはどんな絵が描かれているのか?コマによってはニュアンスがまるで伝わらないのだ。

べつじん28号5.png

なので「少年傑作集」で鉄人を読み返してみたとき、
「あれ?思ったよりもスラスラ読めるぞ?」と不思議に思っていたのでした。
加齢で自分の許容範囲が広がったのかな、という風に理解していたのですが…。
なぜ同じ出版社なのに、こうも出来が違うのか。同じ素材を使えなかったのか理解に苦しむ。

 
で、光文社文庫版は掲載順もやばいみたいなことを教えていただいたので、
掲載順が真っ当だという潮出版「鉄人28号 原作完全版」全24巻を購入するに至るわけである。
これを最初に選択しなかったのは、アシスタントが新たにトレスしたもので絵が違うからである。
光文社文庫全12巻と全13巻。原作完全版24巻で、この時点で鉄人の単行本は49冊になった!

というわけで光文社文庫版と、原作完全版を交互に読み進めていたのですが、
光文社文庫版の「掲載順が違う」、というニュアンスを自分が完全に理解できてないことが分かりました。

 
鉄腕アトムやブラックジャック、
伊賀の影丸、サイボーグ009などはエピソードの順番がシャッフルされているものがあり、
光文社文庫の鉄人もそういう感じなのかと思っていましたが、そんなレベルじゃなかった。

光文社文庫はエピソードの途中で話を完全にカットして、
続きを1年後に刊行を始めた「続・鉄人28号」に収録しているのだった。
で、そちらでまた途中で終わっているので、無印の鉄人本に戻って続きを読む。
何を言ってるのかわからねーだろうが、そういうことだった。

ドラゴンボールで例えると、
ベジータがやってくる!というところでその巻が終わり、
次の巻はベジータが仲間になってるところから始まる、そういう編集をしている。

よくよく読むと毎度巻末に、
光文社文庫COMIC SERIES「鉄人28号」全12巻は、雑誌「少年Jに昭和31年7月号から昭和41年5月号までの11年にわたって掲載された作品から、現在刊行されている新書判に収録された部分を除き、例月号に連載されたストーリーを完全復元したものです。
とある。

この「現在刊行されている新書判に収録された部分を除き」というのが読者に対する説明というわけだ。わ、分かりにくい。そもそも新書版とは何社の本を指すのか。新書版は鉄人の11年の連載のどの辺を収録しているのか。光文社文庫版には1巻に鉄人連載年表など掲載しているにも関わらず、その辺の説明が一切ないのは奇妙な編集方針である。

ちなみに、この「現在刊行されている新書判」というのは、秋田書店から1970年に出版されたサンデーコミックス版「鉄人28号」全10巻。現在もAmazonで新品で購入できる大ベストセラーである。


【コミック】鉄人28号(全10巻)

【コミック】鉄人28号(全10巻)

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: コミック

理解が追いつかないので、
サンコミとほぼ同じ内容である秋田コミックセレクト版「鉄人28号」全6巻を購入してみる。
こういう経緯で所有する鉄人の単行本が55冊になったわけである!

すると秋田コミックセレクト版は、光文社文庫版で割愛されたあたりから話が始まっていた。
鉄人年表で確認したところ、連載3年目のモンスター編。そんなんありか!
鉄人誕生の経緯とか、これまでの話のあらすじとか説明一切なし!※
※しかしサンデーコミックス版は現在も売られてるぐらいだから、なんか評価が高いのである

秋田書店のこの思い切った編集も、
光文社文庫の説明文「現在刊行されている新書判に収録された部分」を、よりわかりにくいものにしている。
というか光文社の説明文は、サンデーコミックス版を読んだ人にしか伝わらない説明に留まっているのだ。

話を光文社文庫に戻すが、
この先は削除されています。続きは秋田書店の本でお読みください」とか注釈をつけるべきだったのだ。かなり不親切な編集方針だと思う。というか原作者がこれを許すのか、と首をひねってしまう。出版された1996年はもう四半世紀以上も昔のことになるが、それなりに洗練された出版文化だったはずだけど。。。

そもそも1958年に鉄人が最初に単行本化された時から話にカットされた部分があり、
5度目の単行本化でそれを初めて復刻させたというのが光文社文庫版の価値だそうなのですが、
それからさらに選択肢が増えた今現在、名作を蔵書に加えたいと思って購入するには光文社文庫版はかなり辛いものがありました。

ある程度原稿が溜まったら単行本にして出版する、という現在当たり前に行われている商習慣ですが、定着したのは1966年あたりから。そんなものが売れるわけない、と当時の人は当たり前に思ってたというから驚きです。しかし社会現象を巻き起こした鉄人ですら最初の単行本は7巻で途中終了というのが歴史的事実。横山先生も刊行が途中でストップしたのは「売れなかったからではないか」とコメントを残している。

鉄人の単行本史を調べると、想像以上の試行錯誤があって驚く。
出費はかさんだけども有意義であった。

というわけで、現在は光文社、潮出版、秋田書店と3社を並行して読み進めています。
あと飯城勇三「鉄人28号大研究」も同時に。その辺の単行本検証も詳しく書いてあるので、まずコレを読むべきだったのかも。ただし光文社文庫版が最新の鉄人単行本だった頃の本なので、現在はさらに新しい鉄人単行本が出ています。








鉄人28号フィギュア鉄人26号ノスタルジックヒ―ロ―ズ

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ネタバレあり!ゴジラ・マイナスワン。一点減点。 [名作紹介]

ゴジラマイナスワンを見に行ってきました。
4回泣きました。
以下ネタバレあり。



ドラゴンクエストユアストーリーのこともあったし、
あまりゴジラに興味がないしで躊躇していたのだけども、
アメリカで大ヒットとかニュースで報じられてたり、
YouTubeなどに有名評論家のレビューがアップされてそれも見たいなということになり、

水曜日の料金安い日に行くか!…と思ったけど面倒臭くなってやめて、
その翌週の水曜日、今度こそ!…ということで本当に見に行って参りました。
チケット代1300円。駐車料金が1時間無料で400円の1700円の出費。
映画って高いよなー。

平日の1回目ということもあって、お客さんは5組ぐらい。
ちなみにファイナルウォーズ(北村龍平ファンなので)シンゴジラ(庵野秀明ファン)は劇場で見てるので、
邦画のゴジラは公開されるたび19年間欠かさず見ている計算になる。

 
というわけで最新作はどうだったんか。
今回のゴジラは出てくる前兆がある。
戦争から逃げて、黄昏れる神木くんが海を眺めていると、何かたくさんプカプカ浮いてる。
これが前兆。

プカプカしてるものがアップにならないので、なんだろうと頭の中で候補を挙げる。
正解はその中のひとつにあった、内蔵が飛び出ちゃった深海魚。
水圧の高いとこから低いところに一気に移動したために起こる現象。
アップにしないのは、必要以上にグロい映像をお客さんに見せたくないという、山崎監督のエンタメ精神ではなかろうかと思う。

そして出てくるゴジラも、逃げ惑う人をパックリコするのだが、咀嚼しない。
放り投げるだけ。
この辺も、必要以上にグロい映像をお客さんに見せたくないという山崎監督のエンタメ精神なのではなかろうか。

地元に戻ってくる神木くんでしたが、家も近所も焦土。
隣の家のおばさんも、生きて帰ってきて非国民みたいな冷たい態度で神木くんガッカリ。

このおばさん、モブかと思っていたら後でも出てきてドキリとさせられる。
よく見たら安藤サクラじゃないですか。こないだ見たボクシング映画良かったなあ。

ヒロイン登場。
逃走中に神木くんに押し付けた赤ん坊を神木くんがどうするか、遠くからしっかり観察。
害は無さそうだと赤子ともども神木くん宅で居候を始めるしたたかヒロイン。
しかも赤ん坊は拾った戦災孤児で、処女性もキープというキャラデザイン。

さらにその数年後、
ひとつ屋根の下で一緒に暮らすのに、結ばれてないというラブコメ関係!
これも山崎監督のエンタメ精神なのである。
ハリウッドよ、これが日本だ!

マイナスワン1.png
(画像はベンジャミン・ボアズ/青柳ちか「日本のことは、マンガとゲームで学びました」

よく見ると、ヒロイン演じるのはシン・緑川ルリ子こと浜辺美波
令和特撮映画の女王様だ。

そんな処女性キープの令和特撮女王の欠点は、お乳が出ないことにあった。
ミルクを買う金もないし、どうする赤ん坊の食糧問題!
そこに助け舟を出してくれるのが誰であろう、安藤サクラなのであった。
この赤ん坊がらみのベビーターンで私は泣いてしまった。

安藤サクラが提供してくれたお乳で餓死を免れる赤ん坊。
もちろん安藤サクラ自ら出したのはお乳ではなく、ミルクと交換するための食料であった。
っていうか、腹減ったとぐずりもしない情緒の安定した赤ちゃん。
これも山崎監督のエンタメマジックである。

ゴージラ、ゴジラ高収入♪
神木くんは水雷撤去の仕事を見つけ、たっぷり危険手当てをもらって家を新築。バイクにも乗る。
しかし戦争のトラウマでたまに発狂しかける神木くん。
そんな神木くんを、豊かかどうかよく知らないけどとりあえず胸で全力で受け止める浜辺美波なのであった。
ここでゴジ泣き2回目。

そしてゴジラが襲来。
水雷撤去のついでに足止めを依頼された神木くんだったが、
馬鹿でかくなったゴジラによって、応援に駆けつけた戦艦も大破させられてしまう。

こんなの勝てるわけねえ!
神木くん無力な民間人なのに、どうやって倒すんだと思わされる。

ゴジラが銀座に襲来。
今年のゴジラは、背ビレが尻尾の方からガシガシ盛り上がっていき、最後にものすごいレーザーを吐く。
爆炎が成層圏にまで達する勢い。この映像がローアングルで迫力だ。


運悪く、ゴジラの視線の先にあった電車に乗っていた浜辺美波の車両がピンポイントでゴジラに狙われ、浜辺美波が鉄棒運動からの海にダイブ。

ぬれネズミになった浜辺美波が銀座を歩いていると、またゴジラに追われる。
逃げ惑う群衆の中から都合よく浜辺美波を見つける神木くん。
愛の力だなあー、って、そんなワケあるかい!

ゴジラビームに吹っ飛ばされる瞬間、浜辺が体当たりで神木くんを物陰に吹っ飛ばす。
目覚めた神木くん、浜辺美波が吹っ飛ばされた先を確認すると、一面廃墟である。

次のシーンが浜辺美波のお葬式で、残された子供が泣いてるシーンで本日3度目のゴジ泣き。
この子役にどう演技つけてるんだろう。ガチ泣きだ。

しかし浜辺美波が死ぬシーン、ちょっと吹っ飛ばされ方がわざとらしい。
ビームを避けようというより、受け止めに行った余裕がある感じに見える。

「この世界の片隅に」でヒロインが連れていた姪っ子が死ぬシーンみたく、一瞬何が起こったのかわからないみたいな演出の方が良かったのではないか。

民間主導でゴジラ対策本部が作られ、神木くんも参加。
水雷撤去に関わっていた科学者を演じる吉岡秀隆がプランを明かす。

ゴジラに大量のフロンガスを巻き付けて、海底に引きずり込んで水圧で殺す作戦だ。新しい。
念押しで、海底から海面まで急浮上させて潜水病を食らわすオマケ付き。

ゴジラをトラップに誘導する飛行機乗りの役目を神木くんが引き受ける。
作戦が失敗したとき、爆弾抱えて特攻する覚悟である。
かつて神木くんのビビりで仲間を全滅させられた整備士を探し出してメカニックを依頼するのだった。


ハセガワ ゴジラ-1.0 日本海軍 九州 J7W1 局地戦闘機 震電 劇中登場仕様 1/48スケール プラモデル SP579

ハセガワ ゴジラ-1.0 日本海軍 九州 J7W1 局地戦闘機 震電 劇中登場仕様 1/48スケール プラモデル SP579

  • 出版社/メーカー: ハセガワ(Hasegawa)
  • 発売日: 2023/12/27
  • メディア: おもちゃ&ホビー

ここからあまりトラブルなく進む。
ブリーフィングで言ってたことをそのままやってるだけで、若干退屈なシーンであった。

ところで、
ゴジラを深海に引き摺り込まなきゃいけないのに、まだ足のつくとで作戦開始したなと思ったら、ゴジラが海底深く引き摺り込まれていった。…ということは、ゴジラは立ち泳ぎしていたのだろうか?

例によってゴジラの生命力が想定以上(観客的には想定内)で、神木くんの特攻でゴジラを倒す。
しかし整備士の粋な計らいで、神木くんは寸前で脱出できたのであった。

そして浜辺美波も生きていたのだった。
よく分からんが良かった良かった。
ここで4度目のゴジ泣き。嗚咽する勢いである。

 
帰り道、ふと思った。
あれ普通死ぬよな。浜辺美波のことである。
まず結構な距離を吹っ飛ばされて、瓦礫に体を叩きつけられたはずだ。
そこから熱線で、、、死体も見つからずに葬式やったのだなという理解だった。

そこで思い出したのが、病院で再会した浜辺美波の首筋にチラッと映った変なアザである。
そうか!浜辺美波はゴジラ人間になっていたから助かったというオチなのか。
すると次回作「ゴジラ・マイナスツー」ではゴジラ人間になった浜辺美波が熱線を吐くのか!

…そんなわけあるか!

おそらく、取ってつけたように生きてたことにしてもお客さんは不満に思わない、
そういう計算が山崎監督の中にあったのだと思う。
例えあのアザがなかったとしても、俺はこのラストで良かったと思う。

それでも不満なマニア向けのエクスキューズとして、
浜辺美波のゴジラ人間という生存の理屈づけを山崎監督はした、そういうことなのではないかと思う。

 
と、いうわけでゴジラマイナスワン。俺は非常に良かったです。
思い返すと色々ご都合主義というか、ベリースウィートな寓話的なお話なのかもという気もしますが、見ている間はほとんど気になりませんでした。画作りも豪華で、大迫力。

あまり残るものはないのですが、「見ている時ひたすら楽しくて、終わって劇場を出たら全て忘れている」、といったようなエンタメの究極に近い作品なのではと思いました。

 
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新人起用に専属契約で大ヒット!知られざる週刊サンデーの歴史 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

週刊「漫画サンデー」の創刊は最初の漫画専門の週刊誌として、相当に話題を呼んだ。

「近藤日出造の世界」の305ページに、気になる文章があった。

著者の峯島正行氏が「漫画サンデー」初代編集長なのだ。
創刊に際し、峯島は日出造に協力を仰いだ。
その結果を書いた一文である。

ここでいう漫画サンデーとは、
あだち充や高橋留美子が描いてる小学館の少年サンデーのことではなく、
2013年に休刊した実業之日本社の「漫画サンデー」、略して「マンサン」のことである。

峯島氏はマンサンが最初の漫画週刊誌だと書いている。
そうだったっけかと調べてみた。

最初かどうかは知らないが、
やはり少年マガジン&サンデーの方が、マンサンより半年ほど早く創刊していた。著者の記憶違いなのだろうか。

少年サンデー1959年3月17日
少年マガジン1959年3月17日
漫画サンデー1959年8月11日

そういえば、
少年サンデーとマガジンは創刊当時は総合誌だったという解釈もある。
どちらも創刊号の漫画の掲載本数5本。他はグラビアや小説。そんな時代だったのだ。
だから最初の漫画専門誌はマンサン。そういう捉え方なのかもしれない。その時はそう思った。

「近藤日出造の世界」のあと、
須山計一の「日本漫画100年」という本を読んで震えた。

その本の巻末に漫画史年表があるのだが、
1959年の項目には漫画サンデー創刊とあるのみで、少年サンデー&マガジンは記載がない。

…これか!
繰り返しになるが、震えたのである。
大発見だ!

シン・ポンコツおやじ1.png

つまりどういうことか。
少年サンデー&マガジンなど漫画ではない。
その創刊は漫画の歴史に記して残すに値しない瑣末な出来事。
そういう考えが一部にあったということだ。

一部とは何か。
とりあえず峯島と近藤日出造、
それと漫画100年を書いた須山と、それを受け入れる読者と出版&漫画関係者。
何度も書いているが、そういう考えが当時のいわゆる「上流」において支配的だったことがより鮮明になる記述だ。

ちなみに「日本漫画100年」は1968年初版の本で、当時少年サンデー&マガジンは創刊9年目。
1968年はマガジンで「あしたのジョー」が始まった年でもある。
すでに「巨人の星」「天才バカボン」「おそ松くん」「オバケのQ太郎」「伊賀の影丸」「仮面の忍者赤影」「エイトマン」、「サイボーグ009」「ゲゲゲの鬼太郎」など、漫画史に残る傑作の数々が世間を賑わせていた。


「日本漫画100年」を書いた須山計一は明治生まれの漫画家で、
この時代の漫画家の本を読むと名前がよく出てくる。

漫画史研究の本を何冊も出しており、夏目房之介もジッちゃんの名にかけて須山の著作を読むように勧めているほど、その見識を認められている。だから今回読んでみたのだ。ちゃんとした人のはずである。

そのちゃんとした須山の本、「日本漫画100年」の204ページでは、
昭和30年代の「漫画ブーム」に次々と創刊された漫画週刊誌(隔週刊含む)を紹介しているのだが、

シン・ポンコツおやじ4.png

漫画タイム、
土旺漫画、
週刊漫画Times、
漫画サンデー、
漫画天国、

そして漫画読売を紹介するにとどまり、
やはりマガジンとサンデーは蚊帳の外なのだった。

ダメ押しとして、
237ページの「漫画界最近の話題」の章にはこうある。

シン・ポンコツおやじ5.png

週刊型の漫画誌の発刊がひきつづいて、四十三年春現在ではその数二十五種もでている。しかしすでに十年以上(原文ママ)の歴史をもっている「漫画サンデー」「週刊漫画タイムス」などをのぞくと、その多くは低俗なエロ雑誌にすぎなく、ただ表紙に漫画という字を冠しているのである。

とりわけ、アクション漫画、劇画と称するものの中には、退廃的のもの、軍国主義調のもの、変質者的のものなどあって世の批判をうけだしている。

繰り返しになるが、
漫画史研究家として何冊も本を出している須山計一の1968年(当時63歳)の見識がこれなのである。
説明していなかったが、漫画サンデーはいわゆる風刺漫画専門誌である。
もっとも当時は「漫画」とは風刺漫画のことであり、そんな断りをする必要すらなかった。
 

さて、そんな漫画史の権威が認める漫画サンデーだったが、
「近藤日出造の世界」によると創刊間も無くは予想したより部数が伸びていかなかった。

峯島は近藤と相談し、テコ入れとして新人を起用し、雑誌に新風を送り込もうという話になる。風刺漫画の世界はベテランが仕事を独占し、新人が入りにくい世界だったという。

そこで選ばれたシンデレラボーイが、杉浦幸雄の弟子だった富永一朗である。
のちにお笑いマンガ道場に出てた人だ。

漫画サンデー編集部は、話題作りのために富永に規格外の長編を依頼する。
なんと毎号4ページも与えたのだ。4ページも!
(…風刺漫画なので、4Pでも大長編なのだそうだ。)

そこで富永一朗の描いたのが「ポンコツおやじ」だ。
エッチで下品すぎるという苦情もあったが大評判になったらしい。

その影響から、富永には他社から原稿依頼が殺到してしまう。
それは放置すれば富永が早々に潰されてしまう量だったという。
峯島は近藤らと相談して、富永とマンサンの間で専属契約を結ぶことを思いつく。

ハレンチな新人起用と専属契約。
少年ジャンプの創刊が1968年なので、9年ぐらいは早いことになる。
もっとも、専属と言っても週刊誌でなければ他社でも書いていいという、緩いものではあった。
そもそも任されるページ数が少ないからね。

富永の作風が気に食わない漫画評論家の伊藤逸平が専属契約を含め批判すると、反論を日出造が書いたりして話題になったようではある。ジャンプ編集部がそのことを意識していたのか?とりあえず西村繁男の著書には記述がない。

 
須山計一「日本漫画100年」にもポンコツおやじに関する記述がある。
その紹介の前に白土三平の「忍者武芸帳 影丸伝」を丸々1ページ使って解説しており、
悪書と呼ばれた劇画にあっても、さすが白土は扱いが別格だなと感心するのだが、ページをめくると…

シン・ポンコツおやじ3.png

「日本的アクション漫画の代表は富永一朗の「ポンコツおやじ」であろう」と続くのである。白土三平を露払いにしているかのようである。

シン・ポンコツおやじ2.png

白土の紹介記事をよく読むとベタな解説に徹しており、須山の白土三平に対する感想がないし、何よりタイトルを「忍者武芸 影丸伝」と間違えている。ちなみに「オバケのQ太郎」の作者を赤塚不二夫だとしている箇所もある。(220ページ)

影丸伝をしのぐ、
日本的アクション漫画代表の「ポンコツおやじ」とはどんな作品なんだ?

検索してみたが、Amazonで見つかるのは1966年の当時の単行本のみだ。
コンビニコミックで復刻とかもない。一過性のものに終わり、読み継がれてはいないらしい。

筑摩書房の全集「現代漫画」の第二期に「富永一朗集」があり、
そこにポンコツおやじもあったので読んでみた。
正直、まったくピンとこない。

シン・ポンコツおやじ6.png

50のオッサンと、70のババアの友情ドタバタ劇、というコンセプトらしい。
ハイテンションのセリフ回しが歌の文句みたいで独特のリズムがあり、
訳のわからない展開と併せてトリップしていく感はある。G=ヒコロウみたいだ。

しかしこれで白土三平を超えるアクション漫画とする須山の感性こそポンコツおやじである。

てんくうせんきしらと2.png

全集「現代漫画」の鶴見俊輔の、子供漫画の解説は感銘を受けたので、
期待して富永一朗の巻末の解説を読んだが、小難しくてよく分からなかった。

不思議なことに富永一朗は風刺漫画の賞、
文春漫画賞には5度もノミネートされているが、一度も受賞に至ってない。

2006年に出版された現代漫画博物館1945-2005には、富永一朗の名前がない。
ついでに言うと近藤日出造の名前もない。
もちろん須山計一の名前もない。

 
現在、長谷川裕「貸本屋のぼくはマンガに夢中だった」という本を読んでいる。
貸本や、ストーリー漫画に夢中になった作者が、風刺漫画専門誌だった「漫画讀本」について書いているのが印象に残ったので引用したい。

肝心の絵も、あまり魅力的でなかった。似顔絵を描かせたら天下一品の清水崑や、市井の風景を綴密なタッチで描く六浦光雄など、数少ない例外を除くと、「漫画読本』の大人マンガの絵は、どれも油っ気がなく、淡白に見えた。そこには手塚マンガや杉浦マンガのような、どのページをめくってもあふれ出してくる、ぎらぎらしたものがほとんど感じられなかった。

それに対して、子供向けのストーリー・マンガや劇画は、たとえデッサンが怪しげだろうが、パースが狂っていようが、そんなことを忘れさせてしまうほどの熱気、生命力にあふれていた。劇画やストーリーマンガの若き作者たちは、不器用ながらも、むずかしい構図や人物の微妙な表情などを、なんとか描き込もうと努力していた。その結果はおおかた野暮ったく、どこか破綻しており、けっして成功しているとは言いがたかったけれども、そこには作者の真剣さがにじみ出ていて、その迫力が読者をとらえて放さなかったのではないか。

そうした貸本マンガ・劇画にくらべると、私には、「漫画読本」の大人マンガは手抜きにしか見えなかった。というよりは、ネームとコマ割りをみっちりと構成し、一コマ一コマを多大な労力をかけて埋めながら描かれた、新興のストーリー・マンガや劇画には、さらりと淡白な味をねらったこれまでの大人マンガを手抜きに見せてしまうほどの、強烈なエネルギーが充満していたということなのだろう。

それから四十年たった現在でも、時事マンガ、一コマ・マンガの類は、旧態依然のまま、まったく変化していない。戦後のストーリー・マンガや劇画があれほど激しく、その表現様式を変化、発展させていったことを考えると、これはなんとも不思議なことだ。

いずれにせよ、熱気とエネルギーを欠いた大人マンガが、子供の目に退屈に映ったのは当然で、いかに軽妙酒脱だろうが、デフォルメの妙があろうが、「漫画読本」は、貸本マンガや劇画の持つ圧倒的な。パワーの前には勝負にならなかった。このころが全盛だった「漫画読本』は、以後、しだいに読者を失い、ついには廃刊に追いやられる。

漫画讀本が廃刊になるのは「日本漫画100年」の2年後の1970年。
「日本漫画100年」には同じく1970年に常識外の負債を近藤日出造らが抱えて倒産する、日本初の漫画専門学校「東京デザインカレッジ」開校についても華々しい話題として扱っている。涙。

劇画は邪悪

おそらく明治大正から生きていた人は、こうとしか考えられなかったのだろう。
それだけに戦後の漫画の変化は予測不能で劇的で、強いアレルギーを伴うものだった。
それは手塚治虫や劇画がもたらしたものだと言って間違いない。

なぜ戦前の漫画史は一度人々の記憶から消え、手塚トキワ荘史観がはびこったのか?
…と言う疑問のヒントも、ここにあるような気がする。
劇画の第一人者のさいとうたかをも、かつては「劇画は漫画とは全く違うもの」と言っていた。

スマホの縦読み漫画にAIイラスト。
漫画を取り巻く環境は今なお激変の時代を迎えようとしている。
同じことが起こらないと言えるだろうか。
今の多くの漫画ファンが、ひょっとしたら将来の須山峯島近藤になっているのかもしれない。

弘兼憲史・猪瀬直樹「ラストニュース」に好きなセリフがある。
通用しない2.png
「ふむ…しかし、キミが父上を乗り越えるまでにはもうちょっと時間がかかるでしょうなあ。」
「東都新聞は百年の歴史を誇りますが、テレビ業界はたかだか四十年(1993年時点)の浅い歴史しかありません。経験が必ずしもプラスに働くとは限らないでしょうね…

 
さいきん雁屋哲が、しりあがり寿の風刺漫画を芸術だと絶賛しているのを見て「ふふっ」となった。
上流だった風刺漫画はほとんど現在死滅している。

そんな光景を見てきたからこそ、手塚治虫のこのセリフなのかもしれない。

残りません.png
「…マンガは残りませんよ。」
「…そうかなァ… そうでしょうか。」
「作者と一緒に時代と共に、風のように吹き過ぎていくんです。ーそれでいいんです。」

 

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