巨匠が描く!燃えよ鬼のツンデレ副長!横山光輝「少年忍者 風よ」 [歴史漫画]
アニメだと思っていたら実写ドラマだったのね。
「三国志」「徳川家康」など、歴史漫画といえば横山光輝。
横山光輝が新選組を描いたらどんな感じだろうというのを度々妄想していたのだが、
実際に存在することがわかった。1978年に少年マガジンで描いた「少年忍者 風よ」だ。
「決して復刻してはならぬ。」と、
横山光輝が生前 言い含めていた四大作品のうちのひとつなのだそうだ。
封印作品か。わからねーはずだ。
それが横山の死から2年後に全2巻で出版されている。
巨匠にゃ悪いがすごいありがたい。
みんなも今のうちに買っておこう!
原作は葉山伸。
「少年忍者 風よ」のあらすじは、
戦国時代に衰退した忍者軍団「鈴鹿衆」が再起をかけ、討幕に動き出すというもの。
鈴鹿衆のエースストライカーになるべく育てられた11歳の少年、風太が主人公。
不意打ちで面白かったのだが、
ヒロインのボクっ子美少女忍者の名前が「知恵(ちえ)」で、いい名前だなーと思っていたら、
その名付け親の鈴鹿衆指導者の名前が「牙波羅(げばら)」だった!
こんなの腹筋崩壊ですわ。
肝心の新選組こと試衛館メンバーは、
牙波羅を師と仰ぎ剣術修行にはげむ田舎の若者として登場する。
その中で、もっとも比重高く描かれるのは土方歳三。
定番の鬼の副長イメージだが、風太に対しては鬼のツンデレ副長になっているのが面白い。
しかし新選組的な描写は、池田屋まで。
その後は鈴鹿衆と、敵対する忍者軍団との最終決戦となり、新選組の出番もないまま終わる。
原作者とうまくいかず、人気もあまりなかったのか途中で無理やり終わらせた感がある。
チグハグな部分も目立つ。だから封印作品なのか。
原作者が当初考えていた結末はどうだったのか。
宿命のライバルとして土方歳三を設定したということは、
おそらく五稜郭までは描くつもりだったはず。
だが、彼の所属する幕軍は滅びゆくジリ貧組織である。
そんなのと主人公を五稜郭まで戦わせたって面白くもなんともない。
戦わせるなら幕府より明治政府側の方だろう。
ちょうど漫画の実際のラストは、
組織の都合で牙波羅にいい様に使われていたことを知った風太が、
納得できずに鈴鹿衆の前から姿を消すところで終わっている。
漫画が続いていたら、風太は鈴鹿衆を敵に回し、
土方と協力して五稜郭まで薩長土と戦ったのではないか?
それで風太は最後、五稜郭で戦死するのかな?と考えたが、
土方がデレて、風太だけ五稜郭から逃した方がしっくりくる気がする。
美少女ボクっ子忍者の知恵ちゃんも風太抹殺のための指揮をとらされるが、非情になりきれないだろう。
そのことを見抜いた牙波羅は「男として育ててきたが、しょせん女か」と、風太ともども知恵を抹殺しようとするにちがいない。
そこに颯爽とあらわれた土方が
鈴鹿衆ら政府軍を蹴散らし、二人を逃したところで討ち死にする。
(画像は、ながやす巧「壬生義士伝」)
戊辰戦争が終わり、祝杯を上げる牙波羅。
かつては復権のために清貧に耐え忍んできた彼も、
悲願を達成して気が緩んだか、権力の欲に取り憑かれ堕落していた。
ある日、謎の男女二人によって牙波羅は暗殺される。そこで物語は終わる。
…とまあ、そんな構想を原作者は考えていたのでは無いかと思った。
そういえば、
実際に土方って五稜郭陥落の前に、若い部下を二人逃してるんだよね。
そのうちの一人は市村鉄之助という。
沖田総司が病死せず、市村に成りすまして土方に従軍する漫画「賊軍土方歳三」という作品もある。
たぶんそういう史実から逆算して、
「少年忍者 風よ」は作劇されたのでないかと思うのだ。
うまくいかなかった作品かもしれないが、
横山光輝が新選組を描いたというとこだけとっても貴重な存在である。
目的のために非情になりすぎる組織の必要悪という裏テーマもある。
おそらく薩長土の影の部分も描くつもりだったのだろう。
みなさまはどう思われるか。
つげ義春が描いた幕末もの、「幕末風雲伝」も最近読んだのだけど、
単純に明治政府=善、幕府=悪の勧善懲悪で描いてなくて良かった。
巻末対談によると、つげはあまり幕末の知識もないまま描いたと述べている。
マジだったら結構すげーと思う。
こちらも「少年忍者 風よ」同様に、当初の結末を迎えられなかったらしい。
主人公が新聞記者となって明治政府と戦う続編を構想していたが、執筆はされなかったようだ。
残念ムネン、アトヲタノム!Σ(°Д°;
つげ義春「幕末風雲伝」読む。
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) April 27, 2024
龍馬漫画好きの俺も唸る、
1958年に描かれたとは思えない斬新な作品だった。
近藤勇をしのぐ無名の浪人たち。
けっきょく誰に殺されたかわからない龍馬。
おそらく黒幕は薩長土という展開。
巻末対談で作者曰く、
ほとんど幕末の知識がなかったという。信じられない! pic.twitter.com/Rk42C53e7K
項羽と劉邦、あと巨乳。若年層アレンジが楽しい大山タクミ「バウンダー 最強の少年 項羽と」池野雅博「レッドドラゴン」 [歴史漫画]
「横山光輝で読む項羽と劉邦」を読んだ。
出版社が単行本化の際に「若き獅子たち」から「項羽と劉邦」に改題を持ちかけ、渋る横山光輝に
「司馬遼太郎の前に長与善郎の項羽と劉邦(大正5年刊行)があります!」
と言って説得したという話が面白かった。
そんな感じで、横山光輝がどんな資料をもとに、どんなアレンジを加えたのか検証をしている。
「バウンダー 最強の少年 項羽」という漫画の存在を知り、購入してみた。
作者は大山タクミ。アニメ攻殻機動隊のコミカライズを手がけてきた人らしい。
連載は月刊マガジン。2巻で打ち切りだったようで、殷通を殺したところで終わっている。
少女や老婆など弱者をいかに惨たらしく殺すかに卓越した作画技術を注ぎ込んでおり、打ち切られるのもわからないでもない(しかもそういう殺戮を行うキャラクターが主人公の仲間になったりする)。
しかし、楚漢戦争を若年層に向けてダイナミックに脚色するという試みは一見の価値があると思う。
例えば項羽軍の猛将、龍且(りゅうしょ)。
横山光輝は以下のように描写している。
バウンダーでの龍且は、エレザールの鎌みたいな武器を使いこなす巨乳の少女として登場する。
史実では龍且を倒した韓信も仲間として登場。
とっさに名前を龍且と偽るが、本名は田姫(でんひ)。
この先、どういう展開を構想していたのか興味深い。
ちなみにこの漫画には劉邦が登場しないまま終了。始皇帝の行列も見ない。
少年向け楚漢戦争漫画といえば、
「レッドドラゴン」の感想を書いたつもりが書いてなかった。
これもなかなか素晴らしい惜しい漫画で、その年読んだ中ではかなり上位のインパクトだった。
レッドドラゴンは劉邦の舎弟、盧綰(ろわん)を主人公にした漫画。
作者はゴブリンスレイヤーのスピンオフを描いている池野雅博。
ちなみに本宮ひろ志が赤龍王で描く盧綰はこんな感じだ。
こちらは劉邦軍のマイナー将、奚涓(けいけん)を巨乳美少女化。
さりげなく2コマ出てくる戚夫人も巨乳。
しかし呂雉はちっぱいであり、のちの悲劇を暗示しているところが面白い。
残念ながら劉邦が咸陽を陥落させたあたりの5巻で終了。
最後は駆け足で亡命する盧綰をどう処理するつもりだったのか明かしているが、非常に面白い。
白登山の戦いまでの構想があったようだ。これが読めなかったとは残念でならない。
それにしても、この時期の、楚漢戦争のコミカライズの集中具合はどうだ。
2015年 池野雅博「レッドドラゴン」月刊少年エース:全5巻
2016年 川原正敏「龍帥の翼 史記・留侯世家異伝」 月刊少年マガジン:全25巻
2017年 高橋のぼる「劉邦」ビッグコミック:全15巻
2017年 大山タクミ「バウンダー最強の少年項羽」別冊少年マガジン:全2巻
キングダム効果で企画が通りやすかったのだろうか。
しかし少年向けは揃って打ち切り。
オッサン向けは読んで無いけど多分どちらも完結まで行っていて、明暗がくっきりだ。
高い作画技術で巨乳美少女を出せば売れるというものでもないから少年漫画は難しい。
本宮ひろ志も人生初の打ち切り宣告されたのは楚漢戦争ものだったという。
「項羽と劉邦、あと田中」って漫画もあったな。
ウェブで現在も連載中。現在7巻まで。
三国志、水滸伝の原点、横山光輝「片目猿」を見つめる目 [歴史漫画]
横山光輝「片目猿」がすごく良かった。
斎藤道三の出世を助けた忍者という基本フィクションなのだが、のちの水滸伝や三国志などの歴史漫画につながる、横山作品の中では重要度の高い作品だと感じる。その割に知名度が無い作品だ。これまでまるで評判を聞くことがなかった。
片目猿は「伊賀の影丸」の週刊連載中期頃に描かれた作品。片目猿は月刊連載なせいか、作画が影丸より丁寧で密度が高く感じる。描かなくていいようなところまでビッチリと書き込んでいる。
片目の猿は武士を助ける片目の忍者だが、
のちの横山作品「隻眼の竜」は片目の武士を助ける忍者という逆転現象になっているのが面白い。
よくよく考えると、片目猿は白土三平「忍者武芸帳影丸伝」の翻案なのかもしれない。
忍者武芸帳も、武士を助ける忍者漫画として始まっている。そこが段々グダグダになっていくところが武芸帳の苦手なところだった。武芸帳ファンに言わせると片目猿はシンプル過ぎるストーリーなのだろうが、自分にとっては「こういうのが読みたかったんだよ!」と思わせられた。
片目猿と影丸、服装も似てるし、片目猿の眼帯も影丸の片目を隠す長髪のイメージなのではなかろうか。
名前も、かためざる→かたざる→かげまる(深読みしすぎ)
片目猿は斎藤次郎が解説を書いた版が存在する。
斎藤次郎はアオイホノオで、デビューした島本和彦を一番褒めた人物だ。
その斎藤氏による片目猿論評が的確すぎて戦慄すら覚える。
>歴史にむかって、肩肘いからせることもなく、そこから、遠大な思想をみちびき出そうともせず、ひたすらに、エンターティンメントの素材として、史実をつきはなす、横山光輝の目は、人間ドラマの極限にある、凍るようなさみしさを、見すえているのかも知れない。
現在、歴史漫画の大家となった横山の資質としてほぼ定説となっているドライな作家像を、その歴史漫画一作目で既に看過している。恐るべし斎藤次郎。あなたは一体誰なんだ???
(ぐうぜん本を一冊だけ2年前に購入していました。)
購入した講談社文庫版「片目猿」には欄外の煽りもそのまま掲載されていて楽しい。
掲載位置まで全くそのままでもないようだが。
(初出では横山光輝の住所が掲載されていた!)
その欄外煽りに、次回作「蛟竜(こうりょう)」の予告があったので、続いて読んでみた。
蛟竜とは天に昇る前の竜のこと。
豊臣秀吉の軍師として知られる黒田如水の若き日を描いた漫画だ。
こちらは忍者成分が薄まり、どこまで史実かどうか知らないのだが、片目猿とは打って変わって本格的な歴史漫画になっているように感じる。大国の狭間で、バランス取りを間違えると一気にゲームオーバーになってしまう弱小武家が主人公だ。武装した主人公のデザインが、蛟竜の一年後に始まる仮面の忍者赤影に似ているのが興味深い。
片目猿に比べると、蛟竜はびっくりするぐらい印刷が汚く感じる。
1960年代に一般的だった、読み順を示すために貼り付けられていたコマノンブルが、片目猿では撤廃されているのに、次回作である蛟竜では貼ってあったり無かったり。
同じ講談社漫画文庫だ。
紛失原稿が多いのがその原因のようだ。
200ページを超える蛟竜の原稿、著者の元に返還されたのは100ページそこらだったらしい。
ちなみに掲載誌は小学館のボーイズライフ。
小学館ですら、当時すでに大人気作家だった横山光輝の原稿の扱いがこんなものだから驚く。
ちなみにこのあと、秋田書店の横山光輝「サンダー大王」を読んだのだが、これも第一話から原稿紛失してるっぽい。。。1971年の作品。
コマノンブルの終焉時期について調べた貴重なツイートがある。
この時期、漫画の読み方は一般教養となったわけだ!
漫画家のすがやみつる・唐沢なをき両氏の会話から興味を持った「少年漫画誌はいつ頃までマンガのコマ内にコマノンブルを振っていたのか」問題。
— #NoWar(人民)HiroshiHootoo (@HiroshiHootoo) June 6, 2023
❶講談社発行「週刊少年マガジン」では1969年8月10日号までコマノンブルが存在し、翌週の8月17日号以降は撤廃されていました。(続く) pic.twitter.com/t7f6bbXz8K
蛟竜―風雲児黒田如水伝 (講談社漫画文庫―横山光輝時代傑作選)
- 作者: 横山 光輝
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2023/06/10
- メディア: 文庫
史上初の空襲をおこなったのはモンゴル軍。石田点「ゾミア」を読む [歴史漫画]
以前、モンゴル漫画ブームの記事を書いた際、
あれもあるぞこれもあるぞという盛り上がりに一部でなったので、
その影響で知った石田点のモンゴル漫画、「ゾミア」を購入して裁断、そして読んだ。
ちなみにこういう場合は3-2-1巻の順番で裁断していく。
ゾミアはこれを書いている現在、ヤンマガwebで全話無料で読める。
自分も1話はネットで読んでみたのだが、
『史上初の「空襲」を行ったのはモンゴル軍』
という歴史豆知識のインパクトにやられ、あとは読まず購入に至った。
原作は浅村壮平。
作画は「テロール教授の怪しい授業」の石田点。
この作品が連載作第二弾なのだそうだが、3巻で打ち切りになったようだ。
読んでみると、「さもありなん」と思う。
正直、一話を読んでそのあとしばらく展開が頭に入ってこなかった。
男同士のキングダム的友情から物語が始まるが、あまり特徴の無い二人。
耶律楚材(やりつそざい)が出てくるのだが、終盤で再会する相棒はそれと見分けがつかない。
テロール教授の時も思ったが、キャラデザがいまいちというか、妙に古いなと思う。
頭の中の白紙状態が続く中、ぼんやりと仲間に入ったマスクマンがタイトルにもある「ゾミア」に関連する重要キャラクター。構成的に最強でなくてはならないと思う主人公の相棒を遥かに凌駕する漫画的な戦闘力を持っている。ちなみにマスクの下は可愛らしい少女。
なぜこの少女を第一話から出さないのだ!と、読んでいてもどかしい。
歴史物にありがちな、時系列でエピソードを紹介しなきゃいけないという思考に陥り、毎回一番面白いものを!という至極当たり前のことを怠った結果のように思えて悔しい。
悔しいと思うのは、この漫画が3巻ぐらいからなんだか面白くなってくるからである。主人公チームはジンギスカン(作中ではチンギス・ハーン表記)の暗殺を実行に移すのだが、そのジンギスカンがいる天幕で見たものは想像もできないようなものだった。これ、二話目ぐらいでやらなきゃいかんことのような気がする。
タイトル「ゾミア」もあまりよくない。
要するに山の民的な意味らしいのだが、聞き慣れないので中国の歴史物という想像がしづらい。
単行本の装丁も尖っていて、内容を想像しづらい。
最終巻の3巻で普通の装丁っぽくなってる気がするが、売れなかったからだろうか。
巻末に参考文献として紹介されている本の中に、
「ゾミア―― 脱国家の世界史」という本があり、
未完で終わったそのあとの展開はこの本の中にヒントがあるのかもしれない。
定価で7040円もしますけど。買えるか!
ちなみに漫画の第一話で紹介されるモンゴル軍による空襲、史実なのだそうだ。
和睦のしるしとして、町の鳥やら猫やらをもらう。→尻尾に火をつけて逃す→自動追尾で街に戻っていく。→火事で大ダメージ!…という仕組みなのだそうが、ホンマかいなと思う。
戦法としてあまり有名じゃ無いのは、大した損害を与えられなかったせいじゃ無いかと思う。
嫌がらせレベル?
漫画「ゾミア」によると、
フレフレ少女でお馴染みの、応援の際の「フレー!フレー!」もモンゴル軍由来なのだそうだ。
調べてみたが、諸説あるらしい。
最後に、
耶律楚材を漫画にしたのはこの漫画の意義のひとつであると思う。
でもでも、よく考えてみると「やりつそざい」が何やった人なのか、なんで知ってるのか思い出せない。名前が変わってるから?世界史の授業で習ったんだっけ?
ウィキペディアで来歴をざっと読んでみたのだが、ものすごい魅力的なキャラクターである。
にも関わらず、その辺が漫画ではほとんど描かれていない。
というか耶律楚材が主人公、あるいはバディな漫画で良かったはずである。
つくづくゾミアは惜しい漫画だと思う。
続編は無いと思うので、他に誰か耶律楚材を漫画化してくれませんか。
モンゴル漫画ブームな今がチャンス!
(画像は桜玉吉「ブロイラーおやじFX+」収録の「花のジンギスカンちゃん」)
蒼天航路、墨攻好きなら読むべき鄭問「東周英雄伝」 [歴史漫画]
さっぱり筋が覚えられないからだ。何度読んでも新鮮。
三国志や水滸伝と違って、時代も国も人物も、あちこちに飛ぶ短編集だからしゃあない。
そんなこんなで春秋戦国時代に少しは詳しくなって、
そろそろ読みごろだろうと思ったので、鄭問(ちぇんうぇん)の「東周英雄伝」を読む。
3巻の墨翟(ぼくてき)のエピソードがとにかくいい!
墨翟は酒見賢一の「墨攻」でおなじみ、墨子の開祖だ。
これだけでも読む価値があると思う。
「墨攻」で墨翟の伝説を語るシーン。
作者の鄭問は台湾人の漫画家(故人)。
東周英雄伝は1990年から週刊モーニングで連載された。
1994年の蒼天航路と東周英雄伝、ノリがちょっと似てるなと思っていたら、
作者の王欣太が鄭問に強い影響を受けていることを語っている動画を見つけた。
さてこの東周英雄伝、春秋戦国時代の英雄を一話につき1エピソードで語る短編集なのだが、
話が時系列順に並んでいないので、横山光輝「史記」以上に知識が定着しづらい。
しかもインターネットで検索しても、日本語ページでは名前すら出てこない英雄も散見する。
wikiの東周英雄伝のページを併読するのが良かろうと思う。
印象的でいて、日本ではあまり知られていないであろう、
三つのエピソードを厳選して紹介する。
一つ目。
2巻の十五話に出てくる華周と杞梁は、
二人で300人を返り討ちにしてしまう屈強な戦士。
思わず、これって史実なの?って疑ってしまう。
郷里の期待を一身に受けて上京するも、ロクな審査をされず二軍扱い。
拗ねていたところを親に激励され一念発起。…しすぎて二人とも戦死。名は残った。
ふたつ目。
3巻に登場する處女(しょじょ)は100人の男たちを一蹴するワンダーウーマンみたいな武勇の持ち主。
荊棘花(けいきょくか)とも呼ばれる。彼女が鍛えた越の兵は、孫子が鍛えた呉の兵を撃ち破る。
臥薪嘗胆で知られる呉越の戦いの時代の人物だが、横山史記にも久保千太郎の漫画にも出てこない。
なんでやねん。
三つ目。
衛の第19代君主、懿公(いこう)。
鶴が大好きで、畑に使うべき用水を鶴に与えるためにケチり、人民の反感を買う。
やがて異民族に攻められると、周囲から「鶴に守ってもらえ」と総スカン。
懿公の最期について漫画には書かれていない。しかしwikiには、
「衛の懿公は中国史上唯一、人間に食べられた君主である。」とある。
鶴の恩返しは無かった。
(ちなみに生まれたのは鶴)
もうちょっと春秋時代を理解したいと思ったので、ビギナー向けの「春秋左氏伝」を購入。
「春秋」は簡易な歴史書だが、
孔子が製作したという伝説から行間が深読みされまくり学問にまでなった。
解釈には主に三つの流派があり、「左氏伝」もその中のひとつ。関羽や福沢諭吉が愛読したという。
…という理解。
東周英雄伝 1~最新巻(モーニングデラックス) [マーケットプレイス コミックセット]
- 作者: 鄭問
- 出版社/メーカー: 講談社
- メディア: コミック
春秋左氏伝 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典 (角川ソフィア文庫)
- 作者: 安本 博
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2014/08/28
- メディア: Kindle版
究極のネタバレタイトル漫画、学研「タロとジロは生きていた」 [歴史漫画]
この日をおいて他にはない、タロジロ漫画を紹介するのは!
学研まんが名作シリーズ「南極物語 タロ・ジロは生きていた」。
構成が石森章太郎(当時)、作画は弟子のシュガー佐藤。
他にもありそうな気がするが俺の知る限り唯一のタロジロ漫画だ。
※追記:他にもありました。
本日1月14日は「タロとジロの日」。
— 図解博士_高速バスター ミナル 電子版発売 (@skull_bear) January 14, 2023
南極に取り残された犬たちに一体何が……。
工藤市郎氏による「南極のタロとジロの物語」。
完全にイっちゃってる目のタロジロが表紙。
実際はほのぼのとした画風で
淡々とタロジロのサバイバルが描かれていきます。#タロとジロの日 #今日は何の日 pic.twitter.com/OKrF22yHaw
学研版「タロジロ」の初版は1983年の5月20日。
自分が所有しているのは中古で買った1985年の13刷。売れてるなー。
流通量の割に古書ではあまり見かけない。
Amazonでは現在五万円の価格が付けられている。
タロ・ジロは生きていた―南極物語 (学研まんが名作シリーズ)
- 出版社/メーカー: 学研プラス
- 発売日: 2023/01/14
- メディア: 単行本
自分は数千円で入手できたが、なんとサイン入りだ!
石ノ森章太郎のサインだったらよかったのだが、
残念ながら前の持ち主だった小学5年生のもの。学研漫画はこのパターンが多い。
「大切に読んでね」と
裏にマジックで大きく書いているのが本心なのか挑発なのか迷うところ。
だが、このサインのおかげで価値が下がって安く買えた可能性もある。
さて、1983年は「南極物語」という映画が大ブームだった。
今回紹介する漫画は当然そのタイアップ的な作品で、そもそも学研が映画製作費の大部分を出資しているそうだ。
ヴァンゲリスのテーマソングに合わせて
スクリーンに映し出される南極の光景にワクワクしない人がいるだろうか。
大ヒットして興行成績は1997年の「もののけ姫」に抜かれるまでずっと一位。
実写映画の興収としては2003年の「踊る大捜査線2」まで抜かれなかった。
が、正直あまり内容は覚えていない。
簡単にいうと南極に置き去りにされた犬が最後に飼い主と再会する実話を基にした話なのだが、
犬が南極でサバイバルするシーンのほとんどは誰も見てないので当然フィクションである。
そりゃ退屈だ。
痕跡から推測された脚色もあるにせよ、
1968年に昭和基地近くで遺体が発見されたリキが、
1983年の映画と漫画ではシャチと戦って水中に没していたりと意味不明なこともしている。
制作当初はもっと人間に焦点を当てたドキュメンタリーものとして企画されていたらしいが、
不評だったので路線変更されたとか。
が、ラストシーンでタロジロが飼い主と再会するシーンは当然実話に基づくので濃度が高い。
やはり印象に残っているのはその再会シーンだ。
この学研版は映画よりもその再会シーンが忠実と言ってる人もいるようだ。
今回、ラストシーンだけ見比べてみたけど正直よく分からない。
ちなみにネタバレタイトル漫画と紹介しているが冗談です。
結末は映画公開前から喧伝されていました
子供の頃に読んだ時は、
犬たちが氷の大地をアドベンチャー!ワクワクすっぜ!
生き残って飼い主と再会できてバンザイ!という印象しかなかった。
鎖に繋がれたまま死んだ犬の残酷さがあまり頭に入ってこなかった。
大人になって読み返すと事故の一種であるとはいえ、ひどい話だなと思う。
人間の身勝手さ、恥に向き合って、晒した話だとも言える。
その恩恵にあずかって我々は豊かな生活を送っている。
が、そんな人間の恥映画を作ったところで客が金払ってまで観にくるわけがない。
しかし大金をかけなければこの映画は作れないし、啓蒙もできない。
そこで折衷案を。。。
うまいこと折り合いをつけた、にしちゃ成功しすぎた。
文脈を考えると非常に奥深いものがある原作かもしれない。
そのうち調べてみようかな。
タロ・ジロは生きていた―南極物語 (学研まんが名作シリーズ)
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釣りする人は太公望。横山光輝「殷周伝説」の続きを19年ぶりに読む。 [歴史漫画]
釣りが終わるまで黙って待ち続けたという太公望のエピソード。
それを最初に見たのは「三国志」すら知らなかった頃に読んだ本宮ひろ志「赤龍王」。
自分を太公望に見立てて周の文王を待っていると答える韓信を、項羽がホラ吹きだと大笑いする。
韓信は内心「そう思うのは、項羽が周の文王に及ばないからだ」とほくそ笑む。
知識が無いので子供心になんのこっちゃと思うしかない。
今読むとすごい面白いけどマニアックだな!
(赤龍王は読み放題サービスKindle Unlimited対象作品)
その少し後に読んだ横山光輝の「三国志」にて、
天才諸葛亮孔明をスカウトするシーンで太公望エピソードがまたまた登場。
その後、この太公望エピソードはずっと「なんか有名らしいぞ」という感覚しかない。
学校の歴史の授業でも教わらないし、他のメディアで引用されることもほぼない。
詳細を知ることは一切なかった。
何十年を経て、
横山光輝「史記」にも登場するぐらいか。
(ちなみに上のコマで太公望のそばにいるのは文王ではなく弟子の武吉と思われる)
そんな太公望エピソードの、
待望のコミカライズが横山光輝「殷周伝説」なわけですよ。
(この漫画の文王は、別日の不在時には待っていたが、太公望と会えた当日は即、話しかけている)
思えば三国志→項羽と劉邦→史記→殷周伝説と、
殷周秦漢を逆行して横山光輝は中国史を語ってきたわけですな。
三国志が1971年開始だから、約四半世紀かけて!
ちなみに殷周伝説で太公望が登場するのが全22巻の中の4巻。
釣りのエピソードが描かれるのが6巻。けっこうかかっている。
そんな「殷周伝説」を自分は4巻までしか買ってなかった。
横山漫画を200冊近く所有している自分が、
殷周伝説をなぜ4巻で買うのをやめたかというと、色々ツラい内容だったからである。
そもそも元ネタとなった封神演義が、ほうぼうで荒唐無稽と言われる内容。
封神演義は天女だの悪霊だの仙人だの大暴れする話らしい(らしい、そういえば原作よく知らん)。
子供がピョンピョン飛び跳ねて戦場で武将を討ち取る。
三国志から史記までで積み重ねてきたリアリティラインを大きく崩す内容になっている。
流石に4巻で我慢できなくなって買うのをやめてしまった。
他に気になっていたのは作画のクオリティのこともある。
殷周伝説に取り掛かった横山光輝は当時60歳になっていた。
亡くなるのは9年後で、実質この作品が遺作となった。
連載中に色々体も悪くし、休載していた時期もあったらしい。
体力気力の他に、歳をとればほとんどの作者は「目」をやられる。
そんな状態で、
ここ数十年積み重ねてきたノウハウから逸脱した新作を描くのは本当に大変なことだと思う。
悪いことに同時期に同じテーマを扱った藤崎竜「封神演義」が少年ジャンプで始まっていた。
連載開始は殷周伝説が封神演義より二年早かった。
しかし殷周伝説の単行本の刊行開始は諸事情により遅れに遅れ、
封神演義全23巻の刊行が終了してから3年も経った頃だった。
自分が殷周伝説を読んだのは単行本化されてからなので、
横山光輝「殷周伝説」には余計に古さを感じたのだ。
藤崎竜「封神演義」は実に今風、コミケ風、コスプレ風に大胆に原作を脚色している。
当時藤崎竜は25歳。光輝60歳。感覚のみずみずしさで叶うはずがない。
(藤崎竜「封神演義」での太公望の釣りシーンは4巻。この漫画の文王は1秒も待たない)
そんな自分がつい最近、殷周伝説全22巻を買い揃えた。
それが何故かといえば、横山氏本人が作画の荒れに苦心し、
加筆修正のために単行本の刊行を遅らせていたというエピソードを知ったから。
そもそも単行本化しないという選択肢もあったそうだ。
本人も気づいていたのか…。
こんな切り抜きが出てきました。平成15年に「殷周伝説」が初めて単行本化された時のインタビュー記事。作品終盤の絵の乱れが、本人としては耐えられなかったようですね。
— ひら (@hira282828) September 29, 2022
それと歴史のif物に対するコメントが先生らしくて興味深かったです。 pic.twitter.com/i8v6iqjcBt
結局、全て修正することが叶わぬまま、
2004年の4月15日、寝タバコによる火事で横山光輝氏は亡くなったのだそうだ。
享年69歳。
しかし、残念ながら先生の構想の全容がわかるような状態ではなく、このままでは最終巻の刊行ができません。仕方なく原稿を元の形に戻して連載時のまま刊行する事になりました。私は遺稿を家に持ち帰り、涙を飲んで元の形に復元したのでした。#横山光輝
— こばやし将 (@show_kob) September 19, 2022
そんなわけで巨匠の苦悩を噛み締めつつ殷周伝説を再読する。
4巻の刊行が2003年だから、19年ぶりに続きを読むことになる。
意外に違和感なくスムーズに読める。
続きが気になり、毎日2冊づつ裁断して電子化しては読む、ということを繰り返した。
19年経って藤崎竜「封神演義」の記憶がだいぶ薄れているというのもあると思う。
藤崎竜「封神演義」も5巻ぐらいで買うのをやめていたのだが、
殷周伝説と比較したくなって、こちらも単行本を買い揃えてしまった。
そんなわけでついに太公望の故事の前後を知ることができた。
フィクション要素が多いのだろうが、何らかの事実の影響を受けてる可能性もある。
周の成り立ちを理解してから「史記」を読むとまた味わいが違う。
実際の殷がどんな文化レベルだったのか創造するのも楽しい。
ちなみに殷周伝説6巻の太公望の釣りのシーン。
太公望はえらい王様を待たせただけでなく、
自分が乗った馬車を王様に引かせるなんてことも要求したそうだ。
相手が張飛だったら殺されてますよ!
「新撰組流血録 壬生狼」を読んで新選組マスターになろう! [歴史漫画]
「これだ!」と思うものを見つけた。
漫画のタイトルは「新撰組流血録 壬生狼」。
「新撰組血風録」と間違えそうなタイトルだ。
検索しても「血風録と間違えてるでしょ?」って結果しか出ない。
紙の本としては、1999年に「真説新選組」のタイトルでリイド社から新装版が出ている。
その本の後書きによると原題は「壬生浪」だそうです。
この漫画、
おそらく「るろうに剣心」の鵜堂刃衛の元ネタとなった作品なのだ。
鵜堂刃衛
「新撰組流血録 壬生狼」の芹沢鴨
「るろうに剣心」2巻の登場人物制作秘話、鵜堂刃衛の項目にはこう記されている。
>黒笠に白装束という、これまた「マッド」な衣装は十四、五年前の新撰組漫画に主人公として登場する初代新撰組局長芹沢鴨を参考にしています。(この芹沢がなんと土方並のカッコよさ!)この漫画を知っている人がいたら、その人は新撰組おたくやマニアを通り越して、もはやマスターです。
ようやく俺もマスターになれた!?
いやそれにしてもこの「新撰組流血録 壬生狼」の芹沢はカッコいい。
黒笠に黒いマフラー、白装束といういでたち、スラリと伸びた背。
大変な発明である。
作画は「赤き血のイレブン」の園田光慶。
流血録の芹沢鴨は驚くことに近藤勇と超仲良し。
梅毒に侵されて余命いくばくもないので、
組織発展のために悪名を一手に引き受けたという脚色がされている。
しかしいわゆる芹沢一派である新見錦らと試衛館組の仲は悪く、
隊をまとめるために局中法度が作られ、
1話にひとつずつ、隊規をテーマにしたストーリーが展開されるという構成になっている。
面白いのが、一話ごとに不思議な余韻をもたせたまま終わらせていることだ。
打ち切りエンドというか、「俺たちの戦いはこれからだ!」という感じで最後まで語りきらず、「でもこの後どうなったか想像できるでしょ?」って感じの結末の話が多い。
読者に難解だと思わせるかもしれないが、なんか新鮮だ。
脚本は久保田千太郎。
久松文雄とのコンビで中国史漫画を描いていた人だ。
今回、wikiを見て初めて知ったのだが、
酒見賢一原作の「墨攻」(作画:森秀樹)の脚本も久保田氏によるものなのだそうだ。
偉大なり久保田千太郎。
そういえばヒラマツミノルの新撰組漫画、
「アサギロ」にも黒笠に似た剣士が登場する。
作風に合わないし、なんで「るろ剣」のパクリだとか言われかねないことをするのかなと思っていたが、「新撰組流血録 壬生狼」インスパイアもあったのだろうか。そう思わせるほどに流血録の芹沢はカッコいい。
ちなみに「アサギロ」の黒笠は河上彦斎である。
河上彦斎は「るろ剣」の緋村剣心のモデル。
強すぎず、弱すぎず、存在だけは異彩を放っているという、
なんのために出したんだかよくわからないキャラクターだ。
性格も…流血録の芹沢というより鵜堂刃衛寄り。
なんなんだろう。
モータルコンバットのライデンに似てる気もする。
意外と変な漫画だった。横山光輝「時の行者」 [歴史漫画]
作家別では誰の単行本が一番多いのか調べてみた。
5位:秋本治120冊
(こち亀まだ全部揃えてない)
4位:森川ジョージ135冊
(すべて「はじめの一歩」)
3位:弘兼憲史152冊
(島耕作以外は3タイトル)
2位:荒木飛呂彦153冊
(全作品あるような気がする)
そして栄えある第一位は…
1位:横山光輝190冊でしたー、パチパチパチ
…けっこうあるなあ横山作品、でもマニアの域にはほど遠い。
なんてったって代表作の「赤影」やら「伊賀の影丸」やら読んだことないんだから。
鉄人28号も文庫版を数冊買ったっきりだった。
それでもこの数なんだから結構すごいと思いませんか。
そんなこんなでまた横山作品を購入しましたよ。
「時の行者」と「地球ナンバーV-7」の二作品を!
「時の行者」は子供の頃に立ち読みで少し読んでいて、
いつかちゃんと読み返したいと思っていた作品。
これを今回紹介します。
時の行者 コミック 1-3巻セット (講談社漫画文庫―横山光輝時代傑作選)
- 作者: 横山 光輝
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/02/10
- メディア: 文庫
未来からやってきた少年が、
科学兵器でオサムライさんたち相手に無双して神と崇め奉られるという、
まあ典型的な異世界転生モノのご先祖様的漫画です。
この漫画の代名詞的な必殺技のバリヤー。強すぎて途中から弱体化。中の酸素ガー、とか言い出す。
読み返してみると、シンプルでいて変なところのある作品だと思う。
タイムトラベルものと言えば藤子F不二雄の「TPぼん」や、
タツノコプロのタイムボカンシリーズなど、
さまざまな時代や地域を駆け巡るものを子供の頃から見てきましたが、
この「時の行者」は戦国時代終盤から始まって、
江戸時代100年ぐらいまでの超・地域&期間限定!
しかもこの時代でなければならない理由も特にない!
何度目だナウシカ、みたいな
他の横山作品とダブった歴史エピソードも出てくる。
作者が得意な時代を選んだんでしょうな。
漫画の主人公になくてはならない、
話を動かす強い目的意識というのまで無かったりするからぶっ飛ぶ漫画だ。
毎回ボンヤリしてるところで事件に巻き込まれ、
適当に暴れて毎回話が終わるという不思議な作風。
これじゃアカンと思ったのか、
途中から女の子を探しているという一見ロマンチックな設定が付け加えられるのだけど、
ほっとけば帰ってくるけど何だか心配なので毎度探しに行ってる、ぐらいの温度なんすよ。
女の子の目的はズバリ歴史の改変。
いきなりすごい強い動機を持ったヒロインの登場。
人類ほぼ滅亡の未来を変えるために、
何故か江戸時代前期に集中して歴史を変えようと試みるが、毎回失敗してるようだ。
藤子F不二雄の「TPぼん」だと時の流れは不安定で、
気をつけないとちょっとしたことで大きく歴史が変わってしまうのだが、
「時の行者」の時の流れは非常に強固。
過去は変えられないかもしれないけど未来なら、
と主人公がテーマ的なことをさとして物語は終わるのだった。
手を抜いているといえば巨匠に失礼だが、
横山作品の中ではテキトー感が散見される「時の行者」。
それでも十分面白いから、意外と変な作品、という印象になってしまう。
何でだ!って思うのが。
10章(文庫版表記)に出てきたキャラクター。
続く11章でも全く同じ顔の人物が別人として出てきちゃう。
↓10章に登場する奥平源八
↓11章に登場する中山助六郎
あだち充に匹敵する、キャラの判別が難しさ。
それが横山光輝作品のお約束とはいえ、
なんかえれえ適当じゃないすか?と思う。
ちなみに6章でも同じ顔が出てくる。
↓天草四郎
今やオワコン時代劇になってしまったのか、
この漫画で初めて知ったマイナーな故事もあった。
「浄瑠璃坂の仇討ち」とか知らなかったよ。
そう意味で時代が集中してるのもいいかもしんない。
知ってるつもりですらなかった田中正造の無名時代 [歴史漫画]
以前、
「直訴ブルドーザー、訴状が天皇陛下に届いたのは112年後!」という記事を書いた私ですが、
最近もなんとなく田中正造について調べていて、
1992年5月17日放送の「知ってるつもり?!」という歴史番組を見た。
とうぜん田中正造の回だったのだが、
ゲストのほとんどが田中正造を知らなかったので衝撃を受けた。
司会の関口宏による「田中正造を知ってますか?」との問いかけに、
立川志の輔(落語家)「知らない」
海老名香葉子(作家)「存じ上げない」
マリ・クリスティーヌ(タレント)「初めて聞きました」
加山雄三(歌手/俳優)「僕も知らないんですよ」
唯一、
教育者である北野大(ビートたけしの兄)だけが知っていた。
まあ現在でもそこら辺の兄ちゃん姉ちゃんに「田中正造って知ってるか」と聞いても知ってる人は少ないのかもしれないが、そこそこ見識のありそうなこのメンツでほぼ知られていないのは意外すぎた。
立川志の輔は「人からも博識だと誉められ、自分でも知識がある方だと思っているが知らなかった」と言っていた。
海老名香葉子が、
「孫が学校で習ったらしい」と言っていたので、
田中正造が再評価されたのは意外と近年で、
1980年代ぐらいのことなのではなかろうかということもあるのではなかろうか。
立川志の輔(1954年生まれ)
海老名香葉子(1933年生まれ)
マリ・クリスティーヌ(1954年生まれ)
加山雄三(1937年生まれ)
北野大(1942年生まれ)
ちなみに私の母も田中正造を知らなかった。
自分が田中正造を強く印象付けられたのは、
小学館の「少年少女日本の歴史」18巻。
初版は1983年4月15日だ。
ちなみに1974年に三國連太郎が田中正造を演じた
「襤褸の旗(らんるのはた)」という映画が作られている。
西田敏行、中村敦夫、志村喬、古谷一行など、けっこうな俳優が出演しているが、
あまり田中正造の知名度を高める結果にならなかったということになる。
みなもと太郎(1947年生まれ)が警察署長だった祖父を回想した漫画「松吉伝」に、
祖父の尊敬する人物は田中正造だったと、左翼運動家に聞かされ納得するシーンがある。
人によっては話の通じる話題でもあることが分かる。
(「誰?」と思った読者も多い可能性があるということでもあるね)
歴史上の有名人の認知もジェネレーションギャップがある。
死後の名声も、時代によってあったりなかったり。
はかないものですな。
(画像はみなもと太郎「風雲児たち」ワイド版12巻)
日本の歴史 近代国家の発展: 明治時代後期 (小学館版学習まんが―少年少女日本の歴史)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1998/02/04
- メディア: 単行本