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福沢諭吉は二人いた!?平山洋「福沢諭吉の真実」を読んだ [歴史漫画]


福沢諭吉の真実 (文春新書)

福沢諭吉の真実 (文春新書)

  • 作者: 平山 洋
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2004/08/20
  • メディア: 新書

平山洋「福沢諭吉の真実」を読み終わった。
言葉を厳密に取り扱うとキリがない話なので簡潔に述べるけども、
福沢諭吉悪人説を唱えた安川寿之助の批判本だ。

安川によると、
福沢の著作を全てを読むと、とんでもない差別者であることがわかると。
漫画原作者、雁屋哲がそれに乗っかり、美味しんぼに引用した上にそれ用の漫画を出版した。
その上下巻を読んだことは以前書いた。

当然、福沢諭吉悪人説はにわかに信じがたい。
そもそも雁屋哲の言うことも信じがたい。

「初期の栗田さん」という言葉が象徴するように、美味しんぼは途中からひどい内容だ。
特に敵役だった海原雄山が善人に仕立て上げられていく路線変更は、
思春期に受けたひどい裏切りとしてトラウマになったものである。
金玉均5.jpg

話をもとに戻すが、平山洋の「福沢諭吉の真実」の要点をあえて簡潔にまとめる。
言葉を厳密にしようとすると長くなるし、まとまらないので。

・安川寿之助が証拠とした差別的な文章は弟子が書いた。

…ということである。

正直、ちょっと無理くり擁護しようとしてないかと思わなくもない。
が、安川が証拠とする文章に、他人の筆が入っていることは他の研究者も認めているのだそうだ。

福沢諭吉は時事新報という新聞を発行していた。
ここに書かれた文章を、福沢の言葉として本にまとめた人がいたので混乱が始まった。
ウルトラ超ざっくり言うと、新聞の社説を、新聞社の社長が全部書いているかと、そういう話だ。
もちろん、お前が出した新聞なんだから、お前の責任だろと言う理屈もわからんでもない。
というか、わかる。

だが、ある時期から福沢諭吉は言うことが不自然なまでに極端に変わったというのは、
安川寿之助も認めているし、雁屋哲もそれを漫画に書いているのである。
福沢諭吉の真実2.png
ちなみにこれは自説の自己否定につながるので、
この後「いや悪党の本質は変わってないから」みたいなフォローが加わる。

これが「ゼロ THE MAN OF THE CREATION」だったら、
「福沢諭吉は二人いたのだーッ」というオチになっていたと思う。

二人目の福沢諭吉は時事新報の主筆を務めた石河幹明という人物。
ウィキに「1859年11月11日(安政6年10月17日)、水戸城下に水戸藩士・石河竹之助幹孝の三男として生まれる。」と書いてある。ああ…、と思ってしまうのは差別だろうか。(差別だと思う)水戸は尊王攘夷思想のメッカだ。石川の政治主張が当時の需要と合致し、悪人・福沢諭吉が爆誕したというのが「福沢諭吉の真実」の要点である。この人がどうしてそんな権力を握ったかは話すと長いので本を読んでいただきたい。

雁屋哲の福沢批判漫画を読んで、強く印象に残ったのは、安川が証拠としてあげるソースは膨大&難解すぎて、おおよそ一般人が読んで研究し尽くせるものではないということだ。反論する平山洋の本を読んでもよくわからない部分が多い。そうだったのかと納得しつつも、本当かなあという疑念はどこまでも消えない。

だが、雁屋哲の漫画を読んで、
平山洋への反論を書いていた印象が全くないというのは一つの答えだと思う。

弟子の執筆に言及したのは、私の記憶ではここぐらい。さらっと流している印象。
福沢諭吉の真実3.png

あれだけ(雁屋哲なりに)フラットに、お騒がせおじさんの極端な意見と受け取られないように、普通の考え方してたらこう同意できるよねとうるさいまでに心を砕いて構成していた「まさかの福沢諭吉」が、『他人が書いていた』という話を根底から覆す反論をほぼ無視しているのである。怪しすぎる。そう考えるとこの本は事実確認よりもゴシップを優先している本ということになる。

 
以前「まさかの福沢諭吉」を論評した時も書いたが、
福沢諭吉を懇切丁寧に悪人化していく雁屋哲の作業は、
美味しんぼに敵役として登場した海原雄山を、
DVまで正当化して無理やり善人化してしまった流れと非常にかぶるのである。

それともう一つ。
雁屋哲は「まさかの福沢諭吉」を当初、安川寿之助の名前を前面に出して発表しようとしていたが断られた。前述したが、ソースが難解すぎて雁屋哲自身が検証しきれないというのが、安川の看板で出版しようとした理由なのだそうだ。

雁屋哲はアオイホノオを読んでも分かるとおり、非常にキャラの立った人物である。
福沢諭吉の真実1.png
もっとゴーマニズムのように、俺様の意見を傲慢に語るけども!って語り口でやれば面白いのになんでやらないんだろうという疑問があった。それは本当にフラットにやろうとすれば、平山洋の反論に触れざるを得ないからというのが理由の一つにあると思う。

あくまでもフラットな福沢検証漫画ではなく、安川寿之助の説のコミカライズですよとすれば、平山洋の反論に触れずに済むからだ。この「まさかの福沢諭吉」出版の際のやり取りは、雁屋&安川が互いに責任を押し付けあっている光景を連想してしまう。

陸奥2.png
大事なのは人物だよ。言ってることや党派なんてどうだっていいのサ。主義主張はどうにでも変わるけど人物は変わりゃしないからね。」by安彦良和「王道の狗」

 
再三繰り返すようだが、雁屋哲が言うようにこの話は難解だ。
事実関係を間違えないように語ると、書くのにとんでもない時間がかかる上に結局発表できないこともありうるので、ここに書いたことは今現在の忌憚のない私個人の感想であることは改めて断らせていただく。

後日、また「まさかの福沢諭吉」を読み返し、また「福沢諭吉の真実」を読み返し、個人的な研究を捗らせ発表したいと思う。高かったんだよ「まさかの福沢諭吉」。こんなん2冊も買わせやがって。いやあ、何度でも読み返せてお値段以上だ。
まさかの3.png
 

福沢諭吉の真実 (文春新書)

福沢諭吉の真実 (文春新書)

  • 作者: 平山 洋
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2004/08/20
  • メディア: 新書



マンガまさかの福澤諭吉 上

マンガまさかの福澤諭吉 上

  • 出版社/メーカー: 遊幻舎
  • 発売日: 2016/11/01
  • メディア: 単行本






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