いつか行きたい「3つのおかず」。李昆武「チャイニーズライフ」の舞台を探す。
チャイニーズ・ライフ――激動の中国を生きたある中国人画家の物語【下巻】「党の時代」から「金の時代」へ
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2013/12/21
- メディア: 大型本
引き続き「チャイニーズ・ライフ」という漫画の素晴らしさを語る。
同じ間取りの社宅を、同じような構図で描いて、
それぞれの生活感の違いを表現しているところがわかりやすいだろうか。
とくに猫ちゃんがいい。
ただ、ネットの小さい画像では伝わらない気もする。
ぜひ紙の本を手に取っていただけたらなと思う。
よく見ると、ワンルームなのである。
住宅事情はあまり良くなかったようだが、悲壮感はあまり無い。
アメリカ人から見た日本の住居がウサギ小屋と言われるのと同じようなものかも。
年代的には1970年代ぐらいと思われる。
そういえば最近、
中国でミネラルウォーター会社が不買運動にあってるというニュースを見た。
ペットボトルの赤いキャップが日の丸っぽい、親日企業だ!という非常に知的極まりない理由だ。
その会社の社長は中国一の資産家として知られ、財産は九兆!Σ(°Д°;
経済の行き詰まりがささやかれる人民の不安の表れではないかとも思う。
「チャイニーズライフ」にもミネラルウォーターの会社の社長が登場する。
その社長さんは非常に良い人なので、不買のニュースを聞いた時この人の会社だったらどうしようと不安になったのだが、どうやら違ったようで安堵した。それにしてもミネラルウォーターって儲かるんだな。まさに水商売だ。
ところで、
李昆武(Li Kunwu)の「チャイニーズライフ」以前の代表作は「雲南18怪」。
雲南省の珍しい風習をイラスト化したもので、以下のサイトで見ることができた。
https://oka-ats.blogspot.com/2012/08/oka01-qfobcfyxzifaeset.html
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) March 17, 2024
昆武と知り合いになったミネラルウォーター会社社長は、
自社製品のラベルに「雲南18怪」をプリントすることを思いつく。
このミネラルウォーター、
探せば見つかるかなと調べてみたら、発見できた!感動!
https://ethnicsuzuki.com/unnan18kai/
昆武とミネラルウォーター社長の出会の場となったレストラン、「3つのおかず」も見つけた。
作中で、クズ鉄拾いでお金を貯めた夫婦が開業させて大成功したレストランだ。
http://siusam.net/archives/9023923.html
なかなか中国旅行は難しいけれども、
この「3つのおかず」にはぜひ一度行ってみたいなと思っている。
「チャイニーズライフ」の舞台となる雲南省に興味が湧いた。
中国の、うんと南の方にあるようだ。
映画で何かないかなと調べてみたら、「単騎、千里を走る。」という映画が出てきた。
高倉健主演で、2005年の映画。
話題作だったので存在は知っているが、地味そうで敬遠していた。
監督は、田舎の素朴な恋愛を描いた「初恋のきた道」で有名なチャン・イーモウ。
こっちは見たことがある。
「単騎、千里を走る。」は、
余命いくばくもない息子と和解するために、息子の念願だった名人芸を撮影しに中国の雲南省に行くという話。
さまざまなトラブルに遭うが、雲南省の人たちが親身になってくれたことで、息子が求めていたものは名人芸ではなく、もっと別のものだったと気づくというオチ。
いい映画だった。
リアリティ重視の芝居で、だらだら喋っているのだが退屈しない。
その場に自分も参加しているかのようである。
この映画に出てくる雲南省は田舎である。
1998年制作の「中国の鳥人」という映画も舞台が雲南省でやはり田舎だった。
チャイニーズライフを読んで、日本の漫画家が一時期もてはやしていた人民服を着た中国人たちがその時期にかなり貧しかったと気づいて驚いたのだが、その辺が確認できた。
陳腐な解釈をすれば、「単騎、千里を走る。」は
「田舎っていいよね人情があって、それに比べて都会は」という映画だということだ。
TVでよくある発展途上国に行って、寄ってきた子供たちを見て、「子供たちの目が死んでない!キラキラしてる!」とかいうのが俺は嫌いだ。それは貧しさから来る娯楽の少なさ、余暇の多さでもあるからだ。
ではあるのだけれど、日本からやってきた一人の中年を歓迎するために、
村をあげて一列に机を並べ、飯を食うという「単騎、千里を走る。」のワンシーンは言葉にならない感動がある。その光景をフィルムに残したのがこの映画の価値だ。
それからたった20年でとんでもない経済成長を遂げた中国。
現在の雲南省はどうなっているのか。
YouTubeで探して見つけた動画では、とんでもなく発展してる。
国土が広いので、都心を離れるととんでもない田舎も残っているのだろうけども。
1980年に日中漫画家交流で中国の漫画家が来日した際、こんな文章を残している。
>日本の漫画家と中国の漫画家はそれぞれ社会制度の異なる国にいます。簡単に比較はできないと思いますが、例えば彼等の生活水準は、一般的に我々より高いでしょう。しかし、その生活水準を維持してゆくため、厳しい仕事をこなしていかなくてはならないのです。我々の生活水準は低くても、基本的な生活を送れる賃金が約束されています。几帳面にするか、怠けてするかは自分で決めることです。本当のところ私は怠け者ですので、日本の漫画家の忙しさには恐れを抱いてしまいます。ある晩、京都のフランス料理のレストランで、鈴木義司さんが感慨深げにこういいました。「中国の漫画家はいま一歩テンポを速めて、日本の漫画家はもう少しのんびりやればちょうどいいんじゃないの」私は、はっとしました。彼はきっとこの資本主義社会の緊張感を少し緩めたかったのでしょう。逆に私は、社会建設のために我々はもっと歩調を速めなければならない、と思ったのです。(「世相漫画で知る中国」より)
「チャイニーズ・ライフ」の作者の結論は、
「人権より秩序と経済発展」という、とんでもないものだったことを思い出す。
人権大国フランスで発表した作品でこの結論が許されるというのは、その筆致の凄まじさによるところが大きい。あと悲しみだ。
「チャイニーズ・ライフ」はそういう現実を知らされる傑作中の傑作だと思うのである。
チャイニーズ・ライフ――激動の中国を生きたある中国人画家の物語【上巻】「父の時代」から「党の時代」へ
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2013/12/21
- メディア: 大型本
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