SSブログ
あの人は今 ブログトップ
前の10件 | -

ニセ札犯から転身した漫画家、赤瀬川源平という人がいた!Σ(°Д°; [あの人は今]

偽札犯から漫画家に転身した人がいたと知った。
この年になっても漫画は知らないことばかりだ。
偽札犯の名前は赤瀬川源平(あかせがわげんぺい)という。

まずその存在を知ったのは「現代漫画博物館1945-2005」という本。
終戦直後から60年間、漫画史に残る750タイトルを選び紹介する内容だ。
偽札犯、赤瀬川源平は1970年を代表する20本の中に「櫻画報」(さくらがほう)で選ばれている。
菫画報の元ネタ?


現代漫画博物館

現代漫画博物館

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2006/11/07
  • メディア: 単行本

その櫻画報を紹介するために引用されたコマは、つげ義春「李さん一家」のパロディ。

アカヒガワげんぺい1.jpg

紹介文を読むと風刺漫画っぽい。
「文藝春秋漫画賞の47年」を調べてみたが受賞もノミネートもない。

ただ「孤独のグルメ」の久住昌之が1999年に「中学生日記」で受賞した際、
「赤瀬川源平に師事」と書かれていたことから、赤瀬川源平がそれだけ高名な人だというのは伝わる。美学校の講師をしていたらしい。

さらにウィキを調べてみて、
赤瀬川源平が「表面だけの千円札」を作ったとして、有罪判決を受けたと知ったのである。

厳密にいうと偽札犯では無く、「紙幣と間違える紛らわしいものを作った罪」なのではあるが、色々込み入った話なので簡潔にさせていただく。本人も「千円札を印刷したら起訴されて有罪になっちゃいました」と書いているし。

要するに赤瀬川源平は前衛芸術家なのだ。

千円札裁判終了後、弁護した瀧口修造に赤瀬川がお礼に送った千円札オブジェが4分18秒に登場する動画。


赤瀬川源平は執行猶予になった後、つげ義春「李さん一家」を読んで深い感銘を受け、「ガロ」で「御座敷」という漫画を発表。同誌の人気漫画家だった佐々木マキが推薦されて朝日ジャーナルで作品を発表し、手塚治虫以外に好評だった流れで赤瀬川源平にも朝日ジャーナル連載のオファーがくる。

そこで赤瀬川源平は前述の「櫻画報」を始めるのだが、その中で朝日新聞を揶揄する漫画を描いたことが上層部で問題になり、掲載号は回収され2週間の休刊、編集長は更迭、61人が人事異動を喰らう大混乱をもたらした。すごい風刺であり、アートだと思う。

アカヒガワげんぺいb1.jpg
ルバング島に潜伏していた日本兵も「偏向しとる」と思ったぐらい朝日はアカイのである。

この「櫻画報」の文庫版を購入してみた。
本の冒頭、序文が終わったらまた序文が始まるのを繰り返す。
計4度、18ページにわたって、新装版が出るたび書いた序文を収録しているのだから人を喰っている。


櫻画報大全

櫻画報大全

  • 作者: 赤瀬川 原平
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1985/10/01
  • メディア: 文庫

コンセプトは櫻画報そのものが本体の独立した雑誌であり、
掲載誌の朝日ジャーナルは包み紙にすぎないというものだ。
その中でゼロ円札を有料で交換するということもやっている。
欄外の煽りの、「善は急げ!悪も急げ!!」がなんかツボ。

アカヒガワげんぺいb2.jpg

肝心の漫画の内容であるが、正直よく分からない。
コマ漫画というより、グラビア漫画といった感じだ。
絵柄は水木しげるっぽく、かなり上手い劇画タッチだと感じた。

ちなみに水木しげるのアシスタントが描いた「水木先生とぼく」にも、
赤瀬川源平が水木プロを来訪する客として、つげ義春らと一緒に登場する。

アカヒガワげんぺいc.jpg
(中央が赤瀬川源平)

櫻画報だけだとよく分からないので、赤瀬川漫画の代表作としてよく挙げられる「御座敷」「おざ式」を読まないと肝心なことは分からないと思ったので、大枚はたいて「赤瀬川源平漫画大全」を購入。赤瀬川源平が亡くなった翌2015年に出版されたもので定価が2800円。中古相場はその倍だ。


赤瀬川原平漫画大全

赤瀬川原平漫画大全

  • 作者: 赤瀬川 原平
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2015/10/24
  • メディア: 単行本

デビュー作「御座敷」は良かったが、テンションはそこがピークだったと感じた。
やはり本業は芸術家で、そこまで漫画にのめり込むというほどのものでは無かったのだろうと思う。

アカヒガワげんぺい3.jpg

こち亀でも出てくる「トマソン」を始めたのも赤瀬川源平だったというからすごい。
他にも「老人力」を流行らせたり、
今でいう、みうらじゅんみたいな人なのだ。
 
アカヒガワげんぺい2.jpg
 
とりみき「トマソンの罠」という短編にも赤瀬川源平の名前が。
トマソンの罠.jpg


超芸術トマソン (ちくま文庫 あ 10-1)

超芸術トマソン (ちくま文庫 あ 10-1)

  • 作者: 赤瀬川 原平
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1987/12/01
  • メディア: 文庫



と、そんなことをやってる折、
他にも漫画史を調べている過程で、そろそろ読まねばならないと思った本が出てきた。
風刺漫画で投獄されたりした宮武外骨(みやたけがいこつ)を紹介した本、「外骨という人がいた!」である。


外骨という人がいた: 学術小説

外骨という人がいた: 学術小説

  • 作者: 赤瀬川 原平
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 1985/03/01
  • メディア: 単行本


この本、小学生ぐらいの頃に父から「面白いから読め」と勧められていたが、文字だけの本が苦手なので読まずにいた。しかし「外骨」という名前のインパクトは、ずっと記憶に残っていた。

購入の際、「外骨という人がいた!」の著者が赤瀬川源平だったのでビックリした。
こんな昔から俺は赤瀬川源平に触れていたのか!
櫻画報にも宮武外骨の滑稽新聞の引用が多数あったので気になってた。

ちなみに赤瀬川源平は直木賞作家でもある。
実家の居間の壁一面を本棚にしたほどの読書家の父が赤瀬川源平にどういう印象をもっていたのか興味深いが、数年前に死んでしまっているので聞くことはできない。

「外骨という人がいた!」は面白く、
全25巻で定価20マン以上する宮武外骨全集を散々悩んで購入してしまった。

親父も読みたかっただろうなと、その中の数冊を仏壇に供えたのだが、
そのせいか夢の中で親父から「迎えに行く」とメールがきたので、ここ数日死なないようにしている。

アカシェがわ.JPG


赤瀬川原平: 現代赤瀬川考 (文藝別冊/KAWADE夢ムック)

赤瀬川原平: 現代赤瀬川考 (文藝別冊/KAWADE夢ムック)

  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2014/10/28
  • メディア: ムック



nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:コミック

ドブに沈んだ19歳新人漫画家。豊島雅男「不眠症」 [あの人は今]


「ガロ」編集長―私の戦後マンガ出版史 (ちくま文庫 な 4-1)

「ガロ」編集長―私の戦後マンガ出版史 (ちくま文庫 な 4-1)

  • 作者: 長井 勝一
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1987/09/01
  • メディア: 文庫


長井勝一 「ガロ編集長」を読んだ。
さまざまな漫画家を世に送り出してきた名編集者の自伝本だ。
満州で山師をしていた話から、赤本、貸本漫画、ガロ。その人生は漫画の歴史そのもの。
面白くないわけがない。

トヨシマン9.jpg
(水木しげるの漫画に出演する長井勝一)

本の中で、長井氏の記憶に残るさまざまな漫画家を紹介しているのだが、
その中で一人、えええええーっ!っと驚いてしまう人物が挙げられていた。

その名は豊島雅男

誰だ。
名前だけじゃ自分だってピンとこない。
しかし長井さんの文章を読んでいくうちに、
水木しげるの漫画の出てきた人だ!と気づいたのである。

漫画界のレジェンドである水木しげるつげ義春池上遼一
彼らの顔にタバコの煙を吹きかける、
とんでもなく横柄で、嫌われ者のアシスタントとして豊島雅男は描写されている。

トヨシマン2.jpg
(豊島にタバコの煙を吹きかけられている三毛は、つげ義春がモデル)

トヨシマン3.jpg
(豊島は豊川名義になっている。タバコの煙を吹きかけられているのは池上遼一がモデル)

自分は、豊島が出てくる漫画が収録された水木しげるの単行本を三冊持っている。
それぞれ微妙に違うが、ほとんど同じ話だ。

おそらく1973年に描かれた「ドブ川に死す」がオリジナルなのだろう。
自分が先に読んだのは、オリジナルの2年後に描かれた「漫画狂の詩」。
どちらも「ビビビの貧乏時代」に収録されている。

「漫画狂の詩」ではタバコの煙を吹きかける豊島の奇行にただ驚かされただけだったが、
「ドブ川に死す」での豊島は、最後にラリってドブ川に落ちて死んでいたので驚いた。

豊島の訃報を知った水木だったが意に介さず。
それよりも朝食のパンが焦げたことに心を動かされる。

この漫画のラストがなんか好きだ。

トヨシマン8.jpg 

佐藤まさあきにとっても豊島は印象的なアシスタントだったらしく、
自伝「劇画の星をめざして」を読んだら豊島のことが描かれていて驚いた。

水木しげるから「アシスタントを一人回すから使ってやってほしい」という電話が入った。「どんな人物や。あんたとこで持て余したからこっちへ回すのと違うか?」と冗談で言ったのだが、水木の返事は「ううう…、そ、そんなことはナイっす」と、どうも歯切れが悪い。後から知ったことだが、この男は水木の顔にタバコの煙を吹っかけたり、当時、水木プロにいた池上遼一やつげ義春なんかを、人を人とも思わぬ態度で、水木も持て余していたらしい。それで、「あんた佐藤プロへ行ったらどう?」と言って厄介払いをしたということだった。

トヨシマン4.jpg

豊島が辞めないなら自分らが辞める。
アシスタントが口々に言うので、ついに豊島は水木プロ追放となる。

トヨシマン5.jpg
(このコマの藤山プロは佐藤プロがモデルだと思われる)

しかし佐藤プロはあまりにもハードだったらしく、豊島は水木プロに逃げ帰ってしまう。
「劇画の星をめざして」にはこう続いている。

ところが三日ほどもした朝、事務所に出てみると、布団がきちんと畳んであって、本人は影も形もない。再び水木のところへ逃げ帰ってしまったのだ。その男が帰って水木に言うには、「あそこは地獄プロです。夜中の4時まで仕事をさせられて、やっと眠ったと思うと朝の9時にマネージャーの兄貴が叩き起こしにきます。あそこではとても身体がもちません。もう一度ここに置いてください」と言ったそうである。さすがの水木プロの持て余し者も、佐藤プロでは通用しなかったようだ。それにしても根性がない。うちでは近藤も村松も川崎も文句を言わず、平気で仕事をしていたものを…。余談だがこの男は、のちにフーテンの仲間に入り、ある朝、新宿御苑の池の中に落ちて死んでいたそうである。シンナーかなにかの吸いすぎということだった。

トヨシマン6.jpg

ちなみに「ドブ川に死す」では豊島水死のきっかけになった薬物はシンナーではなく、
睡眠薬となっている。

話を最初に戻す。
そんな豊島雅男が「ガロ編集長」にも印象深い人物として登場していたから驚いたのだ。
なんと豊島はガロで入選を果たしていたのである。

「漫画狂の詩」でも、17歳で二科展に入選した経歴が紹介されていた。
人格はともかく、才能あった人だったのだ。

トヨシマン1.jpg

しかし長井が言うには、
絵は新人離れしていたが作風はあまり個性的とは言えず、
処女作以降はパッとせず、苦しんでいたと言う。

「ガロ編集長」を読んでさらに驚いたのが、
豊島が結核もちだったと書かれていたことだ。

長井も結核で何度も死にかけた過去があり、水木と一緒に相談にのっていたという。
長井は生活保護を受けてでも治療に専念すべしとアドバイスしていたが、
豊島はその決心がつかないままズルズルと日々を過ごし、悲惨な結末を迎えてしまったという。

 
自分の知る限り、豊島の出てくる水木作品は改稿含めて3本あるが、
いずれも結核だったとは描かれていない。

なぜ水木しげるは豊島の結核エピソードを描かなかったのか。
おそらく読者に同情する余地を与えたくなかったのではないか。
そこまでのものが豊島のキャラクターにあったのだろうか。

結核とは肺病である。空気感染する。
肺病持ちがタバコ吸うのもすごいが、
うつる病気なのに相手の顔に煙を吹きかけてたというのも、
嫌われて当然すぎてよく分からない話だ。
ほとんど暴行罪。

そんな豊島雅男が描いた漫画とはどんなだったのか。
せっかくなので、豊島の作品が掲載されたガロ1967年11月号を購入してみた。


月刊漫画 ガロ 1967年11月号 (通巻39号) 白土三平カムイ伝㉟ 林静一処女作掲載号

月刊漫画 ガロ 1967年11月号 (通巻39号) 白土三平カムイ伝㉟ 林静一処女作掲載号

  • 出版社/メーカー: 青林堂
  • 発売日: 2024/02/11
  • メディア: 雑誌

作品タイトルは「不眠症」
読んだ感想は長井さんとあまり変わらなかった。

トヨシマン10.jpg

ネタバレになるのだが、
ようやく眠れたと思ったら死んでいたと言うのがオチで、
睡眠薬の服用による事故で死んだ豊島の最期を暗示した作品と言えないこともない。

 
この豊島作品が掲載されたガロには、
先輩アシスタントの池上遼一と、師匠の水木しげるの作品も掲載されている。

また、豊島と一緒にこのガロ11月号でデビューした林静一はその後、
漫画「赤色エレジー」や、小梅ちゃんのパッケージイラストを描いて有名になった。

豊島雅男にも、いろんな可能性があったのは間違いない。

しかし全てはドブに捨てられたのである。

 




nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:コミック

裁判中に千秋でアニメ化。ノンタンといっしょだった漫画家、オオトモヨシヤス [あの人は今]

劇画の祖、辰巳ヨシヒロの自伝的漫画「劇画漂流」に、
オオトモヨシヤスという名前が出てくる。
オオトモヨシヤスは漫画家の弟子なのだが、その後どうなったかは分からないまま。

ひどいよノンタン1.jpg

あとで劇画漂流の文章版「劇画暮らし」を読んだら、
オオトモヨシヤスがのちのノンタンの作者と書かれていて、ビビってたじろいだ。
ひどいよノンタンひどいよ。

ひどいよノンタン2.jpg
辰巳ヨシヒロはいわゆる天才漫画少年だった。
手塚治虫や大城のぼるが原稿を預かって、出版化を交渉するぐらいの天才。

ちなみに大城のぼるについて説明しておくと、
手塚より先に漫画に映画的手法を持ち込んだとも言われる漫画家。
オオトモヨシヤスはその大城の内弟子の一人。
多忙な大城はオオトモに代筆させて、辰巳と交流をしていた。

横山光輝「闇におどる猫」に出演するオオトモヨシヤス。
オオトモ.jpg 
岸本は岸本修

そんなオオトモさんが描いたと劇画漂流に書かれているノンタン。
千秋が声優を務めたアニメ版で記憶している人も多いのでは無いでしょうか。
子供の頃にアンパンマンと同じぐらい何度も読み返しましたけども、
正直言って作者の名前を意識したことはありませんでした。



改めてネットで書影を確認してみると、表紙に書かれた名前はキヨノサチコ
オオトモヨシヤスの名前はどこにもありません。

ノンタン.jpg

ウィキを調べてみたら、オオトモヨシヤスは本名が大友義康。
大友はキヨノサチコの元旦那さんで、漫画の師弟関係でもあったそう。
「二人でノンタン」という本も出している。共同執筆者だったのだ。

しかし離婚をきっかけに著作権をめぐって9年間も争う裁判に。
大友の死後、キヨノが勝訴してノンタンの著作権者に一本化されたと書いてありました。

裁判が始まったのが1990年で結審したのが1999年。
千秋版が放送されたのが1992年から1994年の間だったという。
よくアニメ化できたな!
 
アニメのオープニングには原作者の表記がなかった。


ウィキによると、ノンタンの累計発行部数は3300万部超え。
一冊で100万部超えてるのもたくさん。200万部超えもある。
すごいよノンタンすごいよ。

 
オオトモヨシヤスは裁判中の1995年に61歳で他界。
キヨノサチコは2008年に60歳で亡くなる。
ウィキには二人でノンタンの原型となる企画の持ち込みをしたとあるが、
公式のノンタン誕生のページにはオオトモヨシヤスの名前は無い。

ノンタン2.jpg

ひどいよノンタンひどいよ。


ノンタンあそぼうよ(全23巻)

ノンタンあそぼうよ(全23巻)

  • 作者: キヨノサチコ
  • 出版社/メーカー: 偕成社
  • 発売日: 2020/04/01
  • メディア: 単行本



セキグチ ノンタン あらえるぬいぐるみ 537440

セキグチ ノンタン あらえるぬいぐるみ 537440

  • 出版社/メーカー: セキグチ(Sekiguchi)
  • 発売日: 2023/05/17
  • メディア: おもちゃ&ホビー



nice!(0)  コメント(2) 
共通テーマ:コミック

伝説のオレよりトーンを使った漫画、悠宇樹「マジカルトワイライト」 [あの人は今]

「探してる漫画があるんですけど…。」

「どんな漫画ですか?」

「読んだことないのでタイトルも内容も分からないんですけど。」

「内容も分からない?」

「はい。ただ、ある漫画家の絵にそっくりらしいんです。
 そして、その人よりもスクリーントーンを使ってるらしいんです。」

「ははあ、アレかな。」

悠宇樹(ゆうき)
「マジカルトワイライト」


マジカルトワイライト

マジカルトワイライト

  • 作者: 悠宇樹
  • 出版社/メーカー: 茜新社
  • 発売日: 1992/07/01
  • メディア: 単行本

伝説のエロ漫画である。
麻宮騎亜が「サイレントメビウス」3巻のオマケ漫画で触れて、知る人ぞ知る作品となった。

ゆうきりんりん3.png

 
当時、中高生に大人気だった麻宮騎亜だが、
悠宇樹の絵はそれにそっくりで、しかもエロ漫画なのである!
中高生はときめくしかない。

どちらが麻宮騎亜で悠宇樹かお分かりだろうか。正解は記事の一番下。
ゆうきりんりん.png

ただし当時はインターネットもない時代。
地方の書店のエロ漫画の流通量などたかが知れている。
作者のペンネームも、タイトルすら分からないのだ。

人に聞くのもはばかる内容だし。
麻宮騎亜そっくりのエロ漫画があるらしいと、半ば伝説と化していた。

本物を見たのは、高校の同級生が学校に持ってきていたのを見た時。
グループが違ったので、チラッとしか見ることができなかった。

ネット全盛の時代になってから、
時々思い出してはちょくちょく調べてはいたのだが、なかなか芯をくった情報に辿り着けず。
(ちなみに冒頭の会話はフィクションです)
最近、ツイッターで情報が流れてきたので検索してみたら、

問題の作品がAmazonで紙の本と電子書籍で販売されていることがわかった。
紙の本も、絶版だがそれほど高騰はしていない。
オンデマンド印刷のペーパーバック版も、エピソード単位から購入できるようだ。

ただ、いくつか単行本がある中で、
どれに問題の漫画が載っているのか分からなかったので、
思い切ってそれらしいのを三冊購入してみた。

「マジカルトワイライト」
「スウィートパーティー」
「トロピカルアイズ」

読んでみた結果、
マジカルトワイライトが正解だったようだ。

奥付を見るとマジカルトワイライトは1ヶ月経たずに3刷になっている。
他二冊も全て重版。いずれも1992年の刊行。超売れっ子だ。

ちなみに悠宇樹原作のビデオアニメ作品に「マジカルトワイライト」があるが、
そのアニメの原作本ではない。

購入した三冊はいずれもエロ漫画の短編集で、
探していたサイレントメビウスそっくりの作品はマジカルトワイライト収録の「待ってよダーリン!」。
犯人を捜索するサイバーポリスの婦警が、逆に手篭めにされてしまうという内容。
それにしても絵がそっくりだ。勿論見比べると画力の差は圧倒的なんだけど。

ゆうきりんりん1.png

麻宮騎亜だけでなく、
電影少女」を大ヒットさせていた桂正和の影響を感じる作品もある。
こちらの再現度はそれほどでもない。

エロ漫画としては、
当時の主要ターゲットをお値段以上満足させるものだったと想像が出来るが、
この年になって読むと陳腐に感じてしまうのはしょうがない。

ゆうきりんりん2.png
(画像は「スウィートパーティー」

中高生の性への憧れがふんだんに描写されていて、読んでいて微笑ましくもある。
作者だって当時の俺たちとあまり年齢が変わらなかったのだろう。

若者が妄想を膨らませて描いたリアリティの無いエロを、
大人はあまりめくじら立てて取り締まらなくてもいいんじゃ無いかと思った。

 
<クイズの答え>左が麻宮騎亜、右が悠宇樹
ゆうきりんりん.png

 
サイレントメビウス(1)

サイレントメビウス(1)

  • 作者: 麻宮騎亜
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/12/24
  • メディア: Kindle版



サイレントメビウスQD(1) (ヤングマガジンコミックス)

サイレントメビウスQD(1) (ヤングマガジンコミックス)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/11/06
  • メディア: Kindle版



nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:コミック

みんなが「ハイチャ!」と挨拶していた時代の漫画たち [あの人は今]

「ハイチャ」という言葉に目を奪われた。
なんだこれ、どういう日本語?

はいちゃ復活3.png

光文社「少年」傑作集4巻収録の関谷ひさしの「愛犬クマ」(1960年)の中のセリフなんですけど。
まさかDr.スランプ(1980年)のバイちゃの誤植ではないよね?

はいちゃ復活4.png

調べてみると、
幼児語で「はい ちゃいなら」の略。昔は常識的な言葉だったらしい。
かわいくないか?女子高生の間で流行りそう。

「ハクション大魔王」(1969年)「奥様は魔女」(1966年)「ルパン三世カリオストロの城」(1979年)の中でも使われているとか。

カリオストロの城を見てみたが、
司祭に化けたルパンが結婚式をぶち壊してズラかる場面で
「でわー、ハイチャっ!」と山田康雄の声で言っている。
全然気づかなかった!

ということは、Dr.スランプの「バイちゃ」は「ハイチャ」をもじったギャグなのだろう。
あまりにもバイちゃが普及したせいで、アラレちゃん終了後にバイちゃと一緒にハイチャも死語になった、そういうことなのではないかと思うが皆様はどう思われるか。

杉浦茂「少年西遊記」では「ハイチャイ」を発見。1956年ごろの作品。

はいちゃ復活2.png

鉄腕アトム「アトム対ガロン」にも「はいちゃ」があった。これは1962年の作品。

はいちゃ復活5.png

白土三平「サスケ」でも使われているという情報をいただいた。1961年開始の漫画

はいちゃ復活1.jpeg

この項は新しい情報が入り次第、追記していく予定。

それでは はいちゃ!

<2023年10月21日追記>
つげ義春初期傑作長編集2巻「忍法秘帳」1961年

たいどわるい.png

 

nice!(0)  コメント(4) 
共通テーマ:コミック

みなもと太郎の弟子、大塚英志の責任編集「comic新現実」で風雲児たちアニメ化の逸話 [あの人は今]

オークションを見ていたら、みなもと太郎の特集をした雑誌?があったので落札してみた。
タイトルは「comic新現実」。2004年発行で、「多重人格探偵サイコ」の大塚英志が編集長を務める雑誌なのだそうだ。

Comic新現実 v.2―大塚英志プロデュース (単行本コミックス)

Comic新現実 v.2―大塚英志プロデュース (単行本コミックス)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/07/06
  • メディア: コミック

読んで、まず目についたのがアニメ「Mr.味っ子」「Gガンダム」「ジャイアントロボ」の今川泰宏監督インタビュー。みなもと太郎ファンなら今川監督が「風雲児たち」をアニメ化してくれればいいのにと思いながら読んでいたら、なんと今川監督は解体新書編の頃に「風雲児たち」のアニメ化を打診していたという!

もとねたはこれもなのじゃ5.png

なななななんだってー!
しかもみなもと太郎はそれを断ったという!
「まだ本筋に入ってないから」と言う理由で!

なななななんて勿体無いことを!
しかもあんた本筋に入ったの、それから何十年年後よ?
結局40年連載を続けた「風雲児たち」は完結しないまま、品質に見合った人気を得られないまま、みなもと先生は亡くなられてしまった。結局、解体新書編は三谷幸喜によって2018年にNHKドラマになった。

解体新書編の前野良沢は、作者本人の性格が表れているのでは無いかと思った。

もとねたはこれもなのじゃ4.png

懲りずに今川監督は、その後も「レ・ミゼラブル」のアニメ化を何度も企画していたんだと。

さらに衝撃の事実。
手塚治虫の「ブラックジャック」の元ネタはみなもと太郎かもしれないという。

BS漫画夜話で「ブラックジャック」の回が放送された時に、「ある本で手塚治虫がブラックジャックキャラクターはみなもと太郎からいただいたと言っていましたが本当でしょうか?」と言う書き込みがあったという。

もとねたはこれもなのじゃ1.png

この話の時点で「ある本」は発見されておらず、現在においても発見されてるか不明。文章もよく読むと、手塚治虫本人が言ってるのを本当でしょうかと問うのは変で、書き込んだ本人がソースを見たわけではないのかもしれないという考え方もできる。

しかしブラックジャックの3年前に描いた「さすらいのむこうきず」の主人公デザインは確かにブラックジャックそっくりのキャラクターだ。スポーンのハンバーガーヘッドのようでもある。

もとねたはこれもなのじゃ3.png

ブラックジャック本編にも、みなもと太郎のパロディがある。

もとねたはこれもなのじゃ2.png
ブラックジャック秋田文庫版3巻「赤ちゃんのバラード」)

手塚治虫は「ルードヴィッヒB」の中でも、みなもと太郎を天才の一人だと紹介している。ここは素直にブラックジャックの元ネタはみなもと太郎として良いと思うのだが、みなさんはどう思われるか。

これもなのじゃ.png
 
非常にマニアックなムック、comic新現実は6号で終了。(当初の予定通りと強調してる)
毎号、みなもと太郎と大塚英志のディープな漫画対談があるので、全号購入してしまった。
なんと大塚英志はみなもと太郎の元アシスタントだというから驚きだ。

comic新現実は他に、かがみあきら吾妻ひでおあすなひろしなどを特集している。
5号は貞本義行特集。単行本未収録の漫画2本「DIRTY WORK」「System of Romance」を再掲載している。

 

Comic 新現実 vol.5 (単行本コミックス)

Comic 新現実 vol.5 (単行本コミックス)

  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/06/25
  • メディア: コミック




nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:コミック

パタリロ!削除されたタマネギ部隊初登場回のミステリーと、作者すら忘れた真実 [あの人は今]

前回、シャーロック・ホームズの「青いルビー」への指摘で、
「パタリロ!」の魔夜峰央が謝罪した件を調べていた時のこと。

「魔夜峰央」「謝罪」で調べていたら、別件が引っかかった。
なんとパタリロ!の中の一編が、読者が読むことができない封印回になっていたというのだ。
2014年ごろに解決した話だそうだが、全然知らんかった。
既知の人にはしばらく退屈な話が続くが我慢して読んでいただきたい。

その一編は、単行本4巻に収録された「マリネラの吸血鬼」。
心臓の弱い資産家の老婦人の財産を狙った甥っ子が、ラジオ等を使って老婦人を殺してしまう話。
ラジオから「おお…」と死んだはずの人の声が聞こえてくるコマが印象的でよく覚えている。

アガサん2.png

これは実はアガサ・クリスティーの短編、「ラジオ」が元ネタで、
ある大学のミステリー研究会から、盗作だから原作者にチクると手紙がきて、
以降単行本から削除され、文庫版でも未収録のままだったという。
その後、権利者の許可をもらい2014年にパタリロ!文庫版50巻で復活再掲載。

 
手持ちの単行本4巻を確認すると「マリネラの吸血鬼」が収録されていた版だった。
びっくりしたのはこれがタマネギ部隊の実質的な初登場回だということ。
これが欠番になってたというのは作品的にかなりのダメージなんじゃなかろうか。

アガサん6.png

文庫版50巻には当時の回想と、その後の経緯にふれた漫画が掲載されてるというので取り寄せてみた。
ついでにクリスティーの「ラジオ」が収録されているという短編集、「闇の猟犬」も購入。

 
本が届くのを待ってる間にネットで見つけた、
アガサ・クリスティーの人柄が分かる情報を紹介する。
クリスティーの家に一泊した日本人読者がいたらしい。

その人は数藤康雄さん。
大学時代、テープレコーダーを研究する研究室に所属していた時のこと。
1926年の小説「アクロイド殺し」に録音機を使ったトリックが存在することを知り、
当時にそんなトリックに使える録音機はないだろうとクリスティに手紙を送ったところ、
3週間後に「デクタフォンってのがありましたよ。」と返信が来て感激したという。

その後、文通のようになり、
ロンドンに行くので会えないかと送ったら「別宅なら一泊どうぞ」という話になったらしい。
TBSラジオで紹介された話で、クリスティとの2ショット写真も公開されている。

原作は読んだことないが、
三谷幸喜の「黒井戸殺し」を見てデクタフォンがすごく印象に残っていた。

原作は1926年。初めて邦訳されたのが29年後の1956年だという。
書いた当時が舞台の作品に、時代考証が間違っていると恐らく英文でクレームをつけてしまうとはすごい恥ずかしい話である。にもかかわらずこのアガサ・クリスティーの寛容な態度。
アガサ・クリスティーがそういった人物なのだということはまず心に留めておきたい。
 

さて、文庫版パタリロ!50巻と死の猟犬が届いたので話の続きを。
当時を回想した書き下ろし漫画はその本の巻頭、マリネラの吸血鬼の冒頭に挿入されていた。
ページ数は2ページ。その次のページに原作者、アガサ・クリスティーのクレジットが入っている。

アガサん5.png

よく見ると事実関係は割ととあやふやに書かれている。

魔夜峰央は漫画の中で、
「4巻目が発売されてすぐ」、と書いている。

アガサん3.png

さらに、
「がんばってパタリロコミックス10巻を目指そう」
と、編集長から言葉をもらったと描いている。

アガサん4.png

なんか引っかかるなと思って手持ちの単行本の奥付を確認すると、

初出が1980年の花とゆめ5号。

アガサんa2.png

単行本4巻の初版が1980年5月25日。

アガサんa1.png

ん?1982年6月25日の10刷???

…「4巻が発売されてすぐ」の話じゃなかったの?
「すぐ」から2年経過しているのに、手持ちの10刷にはマリネラの吸血鬼が掲載されてる!

もちろん削除の決定から実行に移すまである程度、時間はかかるだろう。
それにしたって2年は時間経ちすぎだし、10刷は刷りすぎだ。

おまけに10刷になった1982年はパタリロ!がアニメ化された年で、マリネラの吸血鬼も第12話でしっかりアニメ化されているのだ!
法的に揉めそうとわかって封印を決めた作品を2年後にアニメ化するだろうか。
ありえない。

じゃあ1982年の10刷以降に封印が決まったのでは?と仮定する。
すると今度は編集長にもらった言葉、
10巻まで出そう」に矛盾が生じる。

1982年5月にはパタリロ!は13巻まで刊行されているからだ。

ひょっとして編集者が削除すると言っておいて削除しなかったのかもしれない。
本当に「マリネラの吸血鬼」未収録のパタリロ!4巻は存在するのだろうか?
何か載ってないかとAmazonの書評を調べると、マリネラの吸血鬼未掲載の4巻を買った人のレビューを発見。

それによるとマリネラの吸血鬼が未収録になったのは15刷からであり、
(※これを書いている現在、ウィキペディアには16刷以降と書かれている)
それ以前のものはコレクター価格になっているという。
自分が現在所有している10刷は中古でまとめて安く買い直したものなのだが、ラッキーだった。

書評は2006年のもので、アニメ版「マリネラの吸血鬼」にも触れられているが当時は事情が明らかにされてなかったのか若干の勘違いが見られる。

なにが問題だったのかは詳しくは分かりません。放送禁止用語だったり精神病院の描写がまずかったといわれています。(中略)アニメでは第12話「マリネラの吸血鬼」で放送されていますが、内容は差し替えられています。

念の為、アニメ版「マリネラの吸血鬼」を見てみたが基本的に忠実にアニメ化されていると思う。

ただしクライマックスは
甥っ子はゾンビではなく吸血鬼のマスクを被る
パタリロが犯人のトリックを見破る
老婦人が死んでない(遺書焼失の後に明らかになる)

というエンタメ的で、至極真っ当な脚色が加えられている。
(タマネギ部隊のエピソードは無かったが、アニメでは1話からメーキャップした隊員が複数登場する)

10刷(左)と文庫版50巻(右)の修正箇所。
ちなみにアニメでも「入院」に修正されているがハーケンクロイツはそのまま。
さらに「桃井かおりです」はアニメでは「薬師丸ひろ子です」に変更されている。
アガサん8.png
 
さて原作の「ラジオ」も読んでみた。
原題は「ワイヤレス」。無線だね。
1971年の版で、翻訳は小倉多加志。
以下、ネタバレありです。

死の猟犬 (1971年) (世界ミステリシリーズ)

死の猟犬 (1971年) (世界ミステリシリーズ)

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: 新書

心臓の弱い資産家の老婦人の財産を奪おうと、甥っ子がラジオを使って死んだ夫の声を聞かせてショック死させる。遺言状が焼失してしまい計画がパア、というのは同じ。

原作では「死んだはずの夫がお迎えにやってくるかも?」という恐怖を描いているのだが、
パタリロ!ではそれを吸血鬼に変更している。
しかしこれでは作品のキモである「ラジオを使った殺害」が全く無意味になる。
吸血鬼の声がラジオから聞こえてきても、吸血鬼の声!…とは思わないだろう。

だからパタリロ!では原作通り、ラジオから夫の声が聞こえてくる事にしている。
そのために伏線として「夫の墓から死体が消えた」「きっと吸血鬼に魅入られたのだ」という情報を入れている。

アガサん1.png

ちなみに「ラジオ」には探偵役が登場しないし、甥っ子は財産は得られなかったものの完全犯罪である。

ただし、二、三ヶ月後までにまとまった金額を工面できなければ甥っ子は刑務所に行くことになっていることが結末で明かされる。老婦人は数年生きると主治医から聞かされていたので、甥っ子は殺害を急いだのだが、主治医から聞かされていた診断は実は気休めで、実際は二ヶ月の命だったことも明らかになり、甥っ子は絶望するというオチ。

何か引用をはっきり示す痕跡みたいなもの(例えば固有名詞が同じだとか)が見つかれば「マリネラの吸血鬼」はオマージュと言い切れたのだろうけど、残念ながらそういったものを見つけることが出来なかった。

 
さて今回の話のまとめ。

こうなると逆に15刷以降のパタリロ!4巻を手に入れたくなってきた。
単純にページ数が少なくなった単行本なのだろうか。それとも何か他の話を入れたとか?
※15刷以降にしか掲載されてない短編が代わりに収録されているそうです。

Amazonの中古では何刷かまでは確認できない。
かといって、それを確かめるためだけに新品買うほどの物好きではない。
新品には「マリネラの吸血鬼」が再録されてる可能性もあるし。

近所のブックオフでチェックしてみたのだが、パタリロ!の取り扱いはとても少なかった。
80巻以降が数点あるぐらいだった。まあ今後コツコツと探していくことにする。

魔夜峰央がクレームが入った時期を勘違いしているのは間違いない。
あと単行本が発売して2年も経ってクレームが入るというのもなんか妙じゃなかろうか。
俺は漫画ではなく、2年経って始まったアニメ化が原因なのではないかと推測する。

アニメは関東では視聴率8%だが、関西では20%もあったという。

関東の視聴率1%で38万人というから、8%でも304万人が見ていた計算だ。
漫画の読者数など軽く吹き飛ぶ影響力だ。
だからこそクレームを入れた大学のミステリー研究会の目にとまるまでになったのではないか!?

封印回になったせいでアニメの内容も変わったとAmazonの書評に書いていた人がいたが、
実際はアニメになったからこそ封印回になったという仮説。
なんとも面白い。

 
Twitterを見て、娘さんの漫画も読みたくなってきたので購入したよ!

 
<2023年4月5日追記>
パタリロ!35巻収録の151話にアガサ・クリスティーの血を引くキャラクターを発見。
初出は騒動から5年経過した1987年。どういう心理が働いているのだろう。。。
アガサくり.jpeg
 


☆パタリロ! ビニポ 全5種☆

☆パタリロ! ビニポ 全5種☆

  • 出版社/メーカー:
  • メディア:



劇場版「パタリロ! 」【通常版】Blu-ray

劇場版「パタリロ! 」【通常版】Blu-ray

  • 出版社/メーカー: ネルケプランニング
  • 発売日: 2019/11/15
  • メディア: Blu-ray



魔夜の娘はお腐り咲いて (eビッグコミック)

魔夜の娘はお腐り咲いて (eビッグコミック)

  • 作者: 山田マリエ
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2020/02/07
  • メディア: Kindle版



nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:コミック

37年ぶりの再会!池田邦彦「シャーロッキアン!」と名探偵ホームズ「青いルビー」の謎 [あの人は今]

シャーロック・ホームズファンのことをシャーロキアンというらしい。
シャーロキアン漫画家の関崎俊三による「ああ探偵事務所」を読んで得た知識だ。

シャーザック1.png

ところで自分は原典となるホームズをちゃんと読んだ事がない。

しかしシャーロキアン小説家の赤川次郎による人気シリーズ、
「三毛猫ホームズ」は子供の頃にかなり夢中になって何冊も読んでいる。
変な話だ。そこからジ・オリジンを読もうという気にはならなかったようだ。

三毛猫ホームズの推理 「三毛猫ホームズ」シリーズ (角川文庫)

三毛猫ホームズの推理 「三毛猫ホームズ」シリーズ (角川文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/10/01
  • メディア: Kindle版

それでも脳内になんとなくしっかりとしたホームズ像を捉えているのは、
シャーロキアン漫画家の藤子F不二雄による「ドラえもん」の、
シャーロックホームズセットの話のおかげに違いない。

シャーザック2.png

そういえば愛読している荒木飛呂彦の「魔少年ビーティー」も、
シャーロック・ホームズを下敷きにしていると「荒木飛呂彦の漫画術」の中で語られており、
我々は日々、知らないうちにホームズスピリットを摂取しているのかもしれないとも思う。。

 
それにしてもこれだけ有名な作品で、
児童向けのコミカライズの決定版みたいなものが無いとは、これまた不思議な話だ。
石ノ森章太郎がホームズの一編、「まだらのひも」をコミカライズしているが、
かなりキャリア初期の作品のようである。


まだらのひも (石ノ森章太郎デジタル大全)

まだらのひも (石ノ森章太郎デジタル大全)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/10/31
  • メディア: Kindle版

まだらのひもといえば、「ドラゴン拳」で知られるシャーロキアンの小林たつよしは
「まだらのひも」を2回もコミカライズしており、その2回分がまとめてKindle Unlimitedで読み比べできる。トーン指定の青鉛筆あとや、写植貼った影が写りこんでいるラフな作り。

シャーロック・ホームズ〜まだらのひも 1988/1992

シャーロック・ホームズ〜まだらのひも 1988/1992

  • 作者: 小林たつよし
  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2020/06/26
  • メディア: Kindle版

さらに吉田戦車の「伝染るんです」にも「まだらのヒモ」が出てくるが、
吉田戦車もシャーロキアンなのだろうか。

シャーザック3.png
 
さて、遅れてやってきた池田邦彦マイブーム。彼もきっとシャーロキアン。
前回の「カレチ」に続いて購入した池田作品はズバリ「シャーロッキアン!」だ。

小さい「ッ」が気になるが、本場イギリス流の発音なのだろうか。
調べてみたらイギリスではシャーロキアンのことをホームズィアンというらしいので違った。

シャーロッキアン! : 1 シャーロッキアン! (アクションコミックス)

シャーロッキアン! : 1 シャーロッキアン! (アクションコミックス)

  • 作者: 池田邦彦
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2013/04/30
  • メディア: Kindle版

「シャーロッキアン!」はホームズ好きな大学教授と、その生徒によるホームズ解釈人情漫画。
どんな名作にも多かれ少なかれ話の矛盾がある。ホームズも例外ではない。

例えばホームズの記録を探偵小説として後世に残したワトソンは、
従軍したアフガニスタンでケガをした経歴をもつ。その怪我の位置が作品によって異なるという。
そういった矛盾を、いかに好意的に解釈するかというのがこの漫画のキモである。

シャーザック4.png

本当の作者であるコナン・ドイルが間違えた…という解釈はシャーロキアン失格。
「シャーロッキアン!」では、ワトソンの本当の怪我の位置は股間だったので、
羞恥心からその都度咄嗟に偽ったのではないか?という解釈が採用されている。

また、そういった話から、
こないだ友達に嘘をつかれて傷ついたけど、そういった羞恥心からついた嘘だったのでは
と、仲直りする人情噺につなげて事件が解決する、変則的な推理漫画になっている。

でえ、
「シャーロッキアン!」全4巻中の2巻に「青いルビー(紅玉)」の矛盾が登場して震える。

シャーザック8.png

ルビーの色の中で青いものがサファイア。つまりルビーが青かったらそれはサファイア」という、
パタリロ!27巻」に収録された中の一編、「ウエディングベル」に書いてあった豆知識!
まさかこの話がより深く掘り下げられているとは!なんか嬉しい!

今年は2023年。パタリロ!27巻は1986年初版なので、実に37年ぶりの再会である。
(ちなみにシャーロッキアン!の2巻は2012年に刊行)

シャーザック7.png

そもそも「青い紅玉」の解釈は、シャーロキアンの間でもさまざまな議論されているらしい。
「シャーロッキアン!」によると原題は「ブルー・カーバンクル」。
カーバンクルは丸く研磨された宝石、あるいはガーネット(ざくろ石)を指す。



邦訳された際に生じた誤訳、というのがシンプルで最も普及している解釈のようだ。
現在は「青いガーネット」という邦題が付けられてるという。

この件についてパタリロ!の著者の魔夜峰央が謝罪したと軽く触れているブログがあったので調べてみたところ、謝罪文は「親バカ輪舞(ロンド)というエッセイコミックに掲載されていた事が分かった。

1998年、魔夜峰央の宝石趣味を語るシリーズの中で、再度ホームズの青いルビーはあり得ないと12年ぶりに指摘したところ、12年前には来なかったクレームが今回は複数寄せられたそうだ。

シャーザック9.png

ついでに魔夜峰央が見たというアニメ「名探偵ホームズ」の該当する回も視聴してみた。
かなり原作をアレンジしているようで、青いルビーは単なる小道具にしか過ぎない扱いだった。
ちなみにこのアニメ、監督が宮崎駿なのは有名だが、青いルビーの脚本は映画「この世界の片隅に」の監督、片渕須直だった。

シャーザック5.png
(アニパロコミックス15号Jean高汐「わんわん大行進」)

話を「シャーロッキアン!」に戻すが、実際には誤訳で片付けられる簡単な話ではないようで、
(いろんな色があるカーバンクルなのに)ルビーの赤ではない青」とホームズ自身も原文で言及しており、このことから現在もファンの間で議論が続いているらしい。

シャーザック9.png

そもそも原作者のコナン・ドイルが宝石に詳しくなかったのでは、と思ってしまうが、
そういう態度はシャーロキアン失格なのだろう。
ドアンザクを作画崩壊ではなく顔の長いザクだったのだと言える度量の広さと愛が必要だ。

「シャーロッキアン!」では、この青い紅玉が欲しいという女性が現れる。
これはホームズというよりかぐや姫なのではないかという推理がされる。
結末は是非、実際に漫画を読んでいただきたい!

 

シャーロッキアン! : 1 シャーロッキアン! (アクションコミックス)

シャーロッキアン! : 1 シャーロッキアン! (アクションコミックス)

  • 作者: 池田邦彦
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2013/04/30
  • メディア: Kindle版



シャーロッキアン! コミック 1-4巻セット (アクションコミックス)

シャーロッキアン! コミック 1-4巻セット (アクションコミックス)

  • 作者: 池田 邦彦
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2013/07/12
  • メディア: コミック



シャーロッキアンは眠れない―ホームズ物語に隠された63の謎

シャーロッキアンは眠れない―ホームズ物語に隠された63の謎

  • 出版社/メーカー: 飛鳥新社
  • 発売日: 2023/03/09
  • メディア: 新書



nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:コミック

松本零士の訃報から読んだ「漫画歴史博物館」で若き日の田中正雄に再会する。 [あの人は今]

松本零士先生が亡くなられた。

正直、ほとんどの作品と親しんだ事がない。
が、好きな漫画家の多くが敬愛している漫画家なので偉大さは分かる。
島本和彦や江川達也の影響でハーロックを文庫で買った事があるのだが、どこかにいってしまった。

えがわたつや個展終了お疲れ様.png

訃報をきっかけに前から気になっていた松本零士の著作、
「漫画大博物館」(日高敏との共著)を購入。

漫画大博物館

漫画大博物館

  • 出版社/メーカー: 小学館クリエイティブ
  • 発売日: 2004/11/04
  • メディア: 単行本

氏は古い漫画コレクターとしても有名で、この本はその松本零士コレクションの中から、
1924年から1959年に出版された漫画単行本を紹介したもの。

2004年に出版されたこの「漫画大博物館」は、
1980年の「漫画歴史大博物館」をリニューアルしたもの。
調べても違いが分からなかったので安くて新しい方を買ったのだが、
旧版には外国漫画が掲載されており、取り扱う作品の年代も3年長い。

単純にページを削った増やしたという話ではないようで、どちらの版にも一長一短はあるのだろう。
しかしなんだか損した気分になったので結局旧版の方も購入しちゃったい。
もちろん、あまり安い買い物ではない。

漫画読みというのは少し読んだぐらいですぐ詳しい気になって、
あれはこの作品のパクリだなんだ、やれ最近の漫画はつまらないなどと尊大な態度をとりがち。
誰でも通る道だけど。

が、この年になっても知らない作品が山ほどあることに気付かされる。
当時人気作と持て囃された作品ですら、全てを把握して記憶するのは不可能な量がある。
そんなことにちょっとでも抗いたくて、今回大枚はたいてみました。

 
さて、年代順に読み進めていて基本的に知らない漫画家ばかりで当然なのだが、
そんな中で子供の頃から愛読している「学研まんが人物日本史」で描いていた作家を見つけた。
田中正雄太田じろうだ。二人の歴史漫画は今読んでも面白い。

たなかしょうぞうも描いて欲しかった1.png

過去の二人と再会したのは昭和23年の項。なんだろうこの感覚は。
自分が生まれる前の時代にタイムスリップした先で知ってる人と遭遇したみたいな。
不思議な感動を覚える。

田中正雄は手塚治虫と親しかったらしく、そのことを漫画にしている。
おそらく手塚が亡くなったのをきっかけにしたのだろう。
それをホームページで読むことができるのだが素晴らしい!その表現力に惚れ惚れする。

たなかしょうぞうも描いて欲しかった3.png

たなかしょうぞうも描いて欲しかった4.png

たなかしょうぞうも描いて欲しかった5.png

たなかしょうぞうも描いて欲しかった6.png

こんなの読まないのは人生の半分ぐらい損してると割とマジで思うので、
少しでも多くの人に読ませたいとブログで紹介する機会を窺っていたのだが、
「漫画大博物館」購入をきっかけにTwitterに書いたら結構な反応があった。

田中正雄の作品は前述した「学研まんが人物日本史」等なら電子で手軽に読む事ができる。
新装版は装丁がちょっと好きじゃないんですけど。
チャーリーブラウンみたいなキャラクターがかわいい。

たなかしょうぞうも描いて欲しかった7.png

自分が所有している作品は全て学研に描かれたもの。
伊藤博文」「日蓮」「源頼朝」「平清盛」「平将門」「徳川家光」「日本の歴史11巻」「日本の歴史15巻」「日本の歴史16巻

中でもオススメは「伊藤博文」
伊藤博文の友達だったという近所のお爺さんから聞いた話を基に描いたと、最後のページで作者自ら出演して子供たちにメッセージを伝えている。

「ねえ、やる気になれば、人間一生の間にすばらしいことができるんだね。」
子供を大事にしてそうな人柄が伝わってくる。

たなかしょうぞうも描いて欲しかった2.png

ひとつ欠点を挙げるとすれば、作風に毒がなさすぎること。
田中正雄にかかると、女好きの伊藤博文も源頼朝も聖人君子みたいに描かれてしまう。
親が安心してお子様に買い与えられるのは間違いないが、毎回そんな感じなのでちょっとワンパターンかなと思ってしまう。

 
そんな田中正雄ブームだった私が、
今ハマってるんだと「日本の歴史16巻」の表紙(旧版)を知人に見せたところ、
「行くとこまで行っちゃったね」と温かい言葉をいただきました。

たなかしょうぞうも描いて欲しかった8.png


漫画大博物館

漫画大博物館

  • 出版社/メーカー: 小学館クリエイティブ
  • 発売日: 2004/11/04
  • メディア: 単行本



漫画歴史大博物館 (1980年)

漫画歴史大博物館 (1980年)

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: -



伊藤博文―維新と文明開化 (学研まんが人物日本史 12)

伊藤博文―維新と文明開化 (学研まんが人物日本史 12)

  • 出版社/メーカー: 学研プラス
  • 発売日: 1979/06/01
  • メディア: 単行本



nice!(0)  コメント(8) 
共通テーマ:コミック

江川達也「江川式勉強法」を読んだら血液が沸騰した話 [あの人は今]

「江川達也のようなプロが描いても失敗したのだ」
という小林よしのりの印象深い言葉がある。

ぜんしん.png

SAPIO2006年7月26日号掲載の
「ゴー宣・暫(ごーせんしばらく)」に描かれた言葉だ。

ここで言う失敗とは、
江川達也版ゴーマニズム宣言といわれるエッセイ漫画、
「江川式勉強法」が予想に反して全然ハネなかったことを指している。

※雑誌サイゾーに2002年から2004年に連載されたエッセイ漫画。未単行本化。

小林よしのりは売れることの難しさ、
新しい才能に対し畏怖を感じることを比較的忘れない作家である。
もちろん江川達也の才能も十分すぎるほど認めていただろう。

ゴーマニズム宣言的な漫画を江川達也が描いたら、
とんでもない傑作になると予感していたのは容易に想像できる。

ところで、
単行本化されなかったこの「江川式勉強法」という漫画が時々無性に読みたくなる。
数回本屋で立ち読みした記憶はあるのだが、内容が全く思い出せない。
腐っても江川達也だ、そんなに面白くないこともないだろう、読みたい。

そうして最近、何冊か掲載誌を取り寄せて読んでみたのだが、
「なにこのゴミ。」
…という率直な感想が浮かんで自分でも驚いた。

えがわしき1.png

取り寄せて最初に読んだ回は
「ドラえもん読んでると殺人事件を起こすようになる」ということを嬉々として書いている。
〇〇に××を持った人のような見識だ。以前はこんな人じゃなかった。
江川達也は教員時代にドラえもんを描いて小学生を喜ばせていた人なのだ。

えがわしき3.png

上の画像は
「まじかるタルるートくん」15巻に掲載されたエッセイ漫画、
「まんがと私」から引用したものである。

このエッセイ漫画は面白く、決して江川達也はエッセイ漫画が不得手な作家でない。
なのに約10年後に書かれた「江川式勉強法」では、前述したような体たらくだ。

 
そういえば
江川達也がSPA!で連載していたコラムの単行本、
「江川達也の時事漫画 にあいこ≒るリアル 1 この国のバカたち」を持っている。

江川達也の時事漫画 にあいこ≒るリアル 1 この国のバカたち (江川達也の時事漫画にあいこーるリアル (Vol.1))

江川達也の時事漫画 にあいこ≒るリアル 1 この国のバカたち (江川達也の時事漫画にあいこーるリアル (Vol.1))

  • 作者: 江川 達也
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2005/04/21
  • メディア: 単行本

時々思い出して「腐っても江川達也だ」と読み返してみるのだが、
「ひどすぎる」と感じていつも読むのをやめてしまう。
いまだに全部通して読んだことがない。
この本も「江川式勉強法」と同時期に書かれたものだ。

江川達也は「まじかる☆タルるートくん」で知った作家だ。
「東京大学物語」「GOLDEN BOY」の連載を始めた頃は天才だと思った。
「腐っても江川達也」、この時期の印象がいまだに消えない。

 
その天才がなぜ没落したか。
早い話が天狗になったからだ。
己の能力を過信し、処理できない量の仕事を引き受け、さらに顧客を甘くみた。

そういえば江川達也の弟子で、GTOをヒットさせた藤沢とおるが、
北斗の拳の原哲夫に「天狗になったことはありますか?」と尋ねる漫画がある。

えがわしき7.png
(画像は萩原一至「バスタード!!」20巻

しかし悲しいかな、天狗になろうがなるまいが、
ほとんどの作家はダメになっていくものだ。
ある意味、自然の掟であり、普遍的な人間の営みなのである。
つまらんものはつまらんが、戦って散っていった作家たちに一定の敬意は持ち続けているつもりだ。

ところが江川達也ときたら、
作品クオリティの劣化ぶりが漫画界の常識を越えすぎなのである。

いまや世代を超えて語り継がれる代表的な江川作品が、
究極の手抜き漫画との呼び声高い「仮面ライダー THE FIRST」のみという事実。
あんたそれでええんか?と思う。

えがわしき4.jpeg

デビュー作「BE FREE!」
熱心な漫画研究への痕跡の数々が散りばめられていることは
元アシスタントの山田玲司らが詳しく解説している。

次作である「タルるートくん」は掲載誌がウルトラ激戦区の少年ジャンプだったことから、
ずっと中堅作家的な扱いだったが、作品には常に心地よい緊張感があった。
読者質問コーナーに答える江川氏の態度も今からでは考えられない腰の低さである。
(別に謙虚になれと言いたいわけでは無い)

えがわしき9.png

青年誌に移った際のヒット作のひとつ、
「ゴールデンボーイ」のOAVを最近サブスクで見たのだが素晴らしい出来だった。
アニメスタッフの手間のかけ具合から作品へのリスペクトが伝わってくるし、
そこに参加している江川達也も実に楽しそうである。

江川達也はなぜそれらを全部捨ててしまったのだ?

漫画オタクが漫画を捨てたら、
単なるニヤけた小太りのオッサンになってしまった。
タモリ倶楽部で江川達也をみるたびに思っていたことだ。

 
最近知ったのは、江川達也の家庭環境が結構特殊だったということ。
そのことは「江川式勉強法」でも最終回で触れていた。

この辺にも江川達也没落の原因があるのではないかと思いたい。
そうすれば江川達也を軽蔑しなくても済む。

そんな時、「“全身漫画”家」という江川達也の自伝本があることを知り、購入して読んでみた。
…読んでみたのだが、どうにも書かれている家庭環境には半信半疑にならざるを得ない。

“全身漫画”家 (光文社新書)

“全身漫画”家 (光文社新書)

  • 作者: 江川 達也
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/01/05
  • メディア: 新書

没落期の江川達也の腹立たしい作風の特徴的なところは、
実行不可能な厳しい節制を読者に要求しつつ、自らには甘くブレがあるところである。
普段の言動からしてこの本は、自分の都合のいいように描いてる疑念が捨てきれない。

自分は氏の育児漫画「タケちゃんとパパ」が好きだったのだが、いま家庭はどうなっているのだろう。
 

…自伝を読んで収穫だったこともある。

ウィキペディアには著書からの引用で、
江川達也の最も尊敬する漫画家は水木しげると書かれていて、
そこは永井豪じゃねーのかよと不満に思っていたが、
「“全身漫画”家」ではデビルマンへのリスペクトについてしっかり項が割かれていて安心した。

手塚治虫については雑誌インタビューでボロクソに言っているのも見たが、
「“全身漫画”家」では批判しつつも
「生前もっとお話を伺っておけばよかった」
「誰しもが認める戦後漫画最大の功労者」とリスペクトも語っている。

他に「ど根性ガエル」「荒野の少年イサム」を愛読していたようだ。

変わったところでは小室孝太郎の「ワースト」の解説に5ページちょっと項を割いてる。
「ワースト」は単行本が四度も新装、復刻されるほどのカルト的人気ジャンプ漫画だ。
読んだことないけど、YouTubeやってる時にリクエストがあって知って印象に残っていた。

<追記>「ワースト」読んだので、こちらで感想書いてます。

 
ところで、
「“全身漫画”家」によると、
江川達也が初めて読んだ漫画は石森章太郎の「仮面ライダー」だそうである。

しかし江川達也はTV版を「今も時折、ビデオで見返すほどのファンである」と絶賛する一方で、
石森章太郎の原作漫画については否定的である。

自分も「TV>原作」なので同感なのだが、
江川氏による原作漫画への論評が鼻につくので以下に引用する。

作者石森章太郎の取って付けたような社会的な味つけが子供心にしっくりせず、他の石森作品と比べてもあきらかに精彩を欠く内容だった。

ぼくが漫画を自分で描きはじめたのも、ライダーが変身する際に回転するライダーベルトの、ある一コマの描き方が他のものに較べ、あきらかに手抜きで雑だったのに腹を立ててのこと。それなら「自分で描く」と不遜にも思ったのがきっかけだ。

なにこの遥かな時空を飛び越えて戻ってきたようなブーメラン。
取って付けたような社会的な味つけ、手抜きで雑。
ぜんぶ没落期の江川達也じゃん。

時々思う。
タイムマシンで若い頃の江川達也に没落期の作品を読ませたらどう思うだろう。
絶望するだろうか。自分のことだから意外と気に入る可能性もあるけども。

そういえば「“全身漫画”家」では、
大ヒットした小林よしのりの「戦争論」のことにも触れている。

最近、ある漫画家の書いた戦争論が話題になったが、なぜ戦争自体を漫画で描こうとしなかったのか、ぼくには不思議だ。それ自体に膨大に学ぶべきものがあるのに…。その作家に、それだけの能力がなかったからもしれないが、漫画家というのは漫画でもって勝負するべきだと思う。

戦争論は漫画だと思うけど、戦記物として描くべきと言いたいのだろうか?
ちなみに「“全身漫画”家」は江川達也が「日露戦争物語」を描き始めて1年が経過した頃に出版されている。
 
日露戦争物語はちゃんと読んだことがない。
これも後半ひどい作画な上に打ち切られたことで知られているが、

えがわしき6.JPG

…画像検索で出てきた日露戦争物語のこの見開きは、
果たして江川達也の言う文脈で「漫画」と言えるのだろうか。
 

ちなみに江川達也が最も尊敬するという水木しげるも、
「カランコロン漂泊記」で小林よしのりの「戦争論」にふれている。
えがわしき9.png

 

新ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論 (幻冬舎単行本)

新ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論 (幻冬舎単行本)

  • 作者: 小林よしのり
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2013/02/01
  • メディア: Kindle版



カランコロン漂泊記 新装版

カランコロン漂泊記 新装版

  • 作者: 水木 しげる
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/04/06
  • メディア: 単行本



nice!(0)  コメント(2) 
共通テーマ:コミック
前の10件 | - あの人は今 ブログトップ