かつて日本を抜いた中国漫画のサドンデス。「世相漫画で知る中国」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]
悪徳政治家を失脚させる影響力をもった中国漫画!
いずれ日本は抜かれるであろう!
…みたいな序文が書かれたのは1984年の「中国漫画史話」。
片寄みつぐ氏の見解だ。過去記事参照のこと。
それから4年して、
どうにも事情が一変してしまったらしい。
1988年に蝸牛社から出版された「世相漫画で知る中国」には、こう書かれている。
>それは'80年代初めまで見られたが、以後、政治的風刺は見られなくなった。(39ページ)
>漫画のなかのソビエトやベトナム風刺も’ 82 年8月を最後に紙面から消える。以後、外国批評のテーマは見られなくなった。(49ページ)
>中国で官僚風刺は自由だが、政治家の風刺は許されていない。(65ページ)
ところどころにさらっと真逆のことが書いてあるので誤読を疑ったが、
ところどころにさらっと書くしかなかったのだろう。
前回紹介した中国の100万部紙、「風刺と幽黙(ユーモア)」が、
中国共産党直属の組織だということも、この本(249ページ)からわかったのである。
政府と結びついて、まともな国家権力批判などお笑い草やが。
この「世相漫画で知る中国」は100万部漫画紙「風刺と幽黙」の傑作選だ。
もちろん全て風刺漫画だが、さらにジャンル別に分類されて再録されているので、
現在規制されているであろう表現を見ることはできるが、
段々と規制が強まっていく気配を本から読み取ることはできない。
「風刺と幽黙」の編集者の二人も解説文を寄稿している。
それによると驚くことに、「中国に専業の漫画家はいない」という。
たった4ページの媒体とはいえ100万部も刷って、利益はどこに行っているんだ?
編集員の二人は来日した時に女性漫画家が多いことに驚き、
帰国後に中国でも女性漫画家を育てようと思いついたものの上手くいかず、
「中国の女性はユーモア感覚がないのでしょうか?研究する価値があります。」と結んでいる。
ロクに儲からず、国から睨まれるのに育つわけねーだろ!…と思う。
何度も書いているが風刺漫画は風化する漫画だ。
激しく時代と寝ているので、リアルタイムで読むか、政情に通じていないといけない。
その点、「世相漫画で知る中国」は全ての漫画に解説がついており読みやすい。
しみじみ思うのは、風刺漫画家は政治批判を描くより、
世俗の人々を描いた方が残るものになったのではないだろうか。
「世相漫画で知る中国」に掲載された漫画も、そういったものの方が断然面白い。
「外国製は良いねえ。信じないの?ほら、英語で書いてあるでしょ。」
いちばん面白かったのは巻末の方に収録された、日中漫画家交流の様子である。
来日した中国人漫画家の、素朴な驚きはわかりやすい。
村上もとか「フイチンさん再見!」最終巻で、日本人漫画家の訪中が描かれているが、
その時に日本人漫画家たちが描いた1コマ漫画が「風刺と幽黙」に掲載され、「世相漫画で知る中国」に再録されている。
右のバカボンと万里の長城が、当時の「風刺と幽黙」に掲載された1コマ漫画。
この蝸牛社「世相漫画」シリーズは、
他に「世相で知る韓国」が発売されている。
韓国版は新聞4コマ的な政治風刺漫画でほとんどページが埋められていた。
比べて読むと中国の方がのんびりした作風が多い印象を受ける。
大韓航空機墜落事故は謎ばかり、という韓国の新聞4コマ。
蝸牛社は他に87年の日本の風刺漫画を上下巻にまとめた「世相漫画年鑑」を刊行しており、
「世相漫画で知る中国」の後書きで
>〈世相漫画〉という言葉を、世に定着させようと頑張っている、
>上海の〈漫画世界〉もペアにして発刊したいのだが、それはすべて、本書の成功にかかっている。
と書かれているが、続刊は叶わなかった可能性が高い。
30年以上経った現在、「風刺と幽黙」はどうなったのだろうか?
2015年に開催されたイベントのニュースによると、「世相漫画で知る中国」の二人とは違う人が編集長を経て名誉編集長を務めているとあった。存続はしていると思われる。
漫画という名称は中国のヒラサギという鳥の名前が由来という説と、
随筆に似た漫筆という言葉から江戸時代に作られた造語という説がある。
これが明治時代に流行った侮蔑的な言葉、「ポンチ絵」を払拭するものとして再使用され、
中国にまで普及したというのが現在の定説だ。
後発だった中国漫画だが、
日本よりも30年も早くの太平洋戦争前から週刊漫画誌が存在したというのだから勢いの程がわかる。
しかしジャンルとしての進化は88年時に、
1コマの風刺漫画の段階でほとんど停滞してしまったように見えるのは不思議である。
他に連環画と呼ばれるストーリー漫画的なものもあるが、ほとんど紙芝居のように見える。
ちなみに88年の日本では「沈黙の艦隊」「夏子の酒」「少年アシベ」「動物のお医者さん」「機動警察パトレイバー」の連載が始まっている。
「世相漫画で知る中国」の解説文よると、中国人は理屈っぽく、
ナンセンス漫画等の洒脱と言われる漫画を理解し難い国民性があるという。
日本人にとって、現在の形に日本の漫画が発展していったのは必然としか思えないのだが、
実際には宇宙に生命が誕生する確率、「廃材置き場の上を竜巻が通過した後で、ボーイング747ジェット機が出来上がっているのと同じような確率。」みたいな偶然の産物なのかもしれない。
大切にしたいですね、表現の自由。
いずれ日本は抜かれるであろう!
…みたいな序文が書かれたのは1984年の「中国漫画史話」。
片寄みつぐ氏の見解だ。過去記事参照のこと。
それから4年して、
どうにも事情が一変してしまったらしい。
1988年に蝸牛社から出版された「世相漫画で知る中国」には、こう書かれている。
>それは'80年代初めまで見られたが、以後、政治的風刺は見られなくなった。(39ページ)
>漫画のなかのソビエトやベトナム風刺も’ 82 年8月を最後に紙面から消える。以後、外国批評のテーマは見られなくなった。(49ページ)
>中国で官僚風刺は自由だが、政治家の風刺は許されていない。(65ページ)
ところどころにさらっと真逆のことが書いてあるので誤読を疑ったが、
ところどころにさらっと書くしかなかったのだろう。
前回紹介した中国の100万部紙、「風刺と幽黙(ユーモア)」が、
中国共産党直属の組織だということも、この本(249ページ)からわかったのである。
政府と結びついて、まともな国家権力批判などお笑い草やが。
この「世相漫画で知る中国」は100万部漫画紙「風刺と幽黙」の傑作選だ。
もちろん全て風刺漫画だが、さらにジャンル別に分類されて再録されているので、
現在規制されているであろう表現を見ることはできるが、
段々と規制が強まっていく気配を本から読み取ることはできない。
「風刺と幽黙」の編集者の二人も解説文を寄稿している。
それによると驚くことに、「中国に専業の漫画家はいない」という。
たった4ページの媒体とはいえ100万部も刷って、利益はどこに行っているんだ?
編集員の二人は来日した時に女性漫画家が多いことに驚き、
帰国後に中国でも女性漫画家を育てようと思いついたものの上手くいかず、
「中国の女性はユーモア感覚がないのでしょうか?研究する価値があります。」と結んでいる。
ロクに儲からず、国から睨まれるのに育つわけねーだろ!…と思う。
何度も書いているが風刺漫画は風化する漫画だ。
激しく時代と寝ているので、リアルタイムで読むか、政情に通じていないといけない。
その点、「世相漫画で知る中国」は全ての漫画に解説がついており読みやすい。
しみじみ思うのは、風刺漫画家は政治批判を描くより、
世俗の人々を描いた方が残るものになったのではないだろうか。
「世相漫画で知る中国」に掲載された漫画も、そういったものの方が断然面白い。
「外国製は良いねえ。信じないの?ほら、英語で書いてあるでしょ。」
いちばん面白かったのは巻末の方に収録された、日中漫画家交流の様子である。
来日した中国人漫画家の、素朴な驚きはわかりやすい。
村上もとか「フイチンさん再見!」最終巻で、日本人漫画家の訪中が描かれているが、
その時に日本人漫画家たちが描いた1コマ漫画が「風刺と幽黙」に掲載され、「世相漫画で知る中国」に再録されている。
右のバカボンと万里の長城が、当時の「風刺と幽黙」に掲載された1コマ漫画。
この蝸牛社「世相漫画」シリーズは、
他に「世相で知る韓国」が発売されている。
韓国版は新聞4コマ的な政治風刺漫画でほとんどページが埋められていた。
比べて読むと中国の方がのんびりした作風が多い印象を受ける。
大韓航空機墜落事故は謎ばかり、という韓国の新聞4コマ。
蝸牛社は他に87年の日本の風刺漫画を上下巻にまとめた「世相漫画年鑑」を刊行しており、
「世相漫画で知る中国」の後書きで
>〈世相漫画〉という言葉を、世に定着させようと頑張っている、
>上海の〈漫画世界〉もペアにして発刊したいのだが、それはすべて、本書の成功にかかっている。
と書かれているが、続刊は叶わなかった可能性が高い。
30年以上経った現在、「風刺と幽黙」はどうなったのだろうか?
2015年に開催されたイベントのニュースによると、「世相漫画で知る中国」の二人とは違う人が編集長を経て名誉編集長を務めているとあった。存続はしていると思われる。
漫画という名称は中国のヒラサギという鳥の名前が由来という説と、
随筆に似た漫筆という言葉から江戸時代に作られた造語という説がある。
これが明治時代に流行った侮蔑的な言葉、「ポンチ絵」を払拭するものとして再使用され、
中国にまで普及したというのが現在の定説だ。
清水勲「漫画の歴史」ちょっと読み。
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) January 9, 2024
漫画は鳥の名前から来ている説があるらしい。
箆鷺(へらさぎ)の漢名が漫畫。
「孟喬和漢雑画」に描かれたへらさぎ。
君たちはどう生きるかに出てくる鷺とは違う。惜しい。 pic.twitter.com/G0LY4nr6OX
後発だった中国漫画だが、
日本よりも30年も早くの太平洋戦争前から週刊漫画誌が存在したというのだから勢いの程がわかる。
しかしジャンルとしての進化は88年時に、
1コマの風刺漫画の段階でほとんど停滞してしまったように見えるのは不思議である。
他に連環画と呼ばれるストーリー漫画的なものもあるが、ほとんど紙芝居のように見える。
ちなみに88年の日本では「沈黙の艦隊」「夏子の酒」「少年アシベ」「動物のお医者さん」「機動警察パトレイバー」の連載が始まっている。
「世相漫画で知る中国」の解説文よると、中国人は理屈っぽく、
ナンセンス漫画等の洒脱と言われる漫画を理解し難い国民性があるという。
日本人にとって、現在の形に日本の漫画が発展していったのは必然としか思えないのだが、
実際には宇宙に生命が誕生する確率、「廃材置き場の上を竜巻が通過した後で、ボーイング747ジェット機が出来上がっているのと同じような確率。」みたいな偶然の産物なのかもしれない。
大切にしたいですね、表現の自由。
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