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風刺漫画家が絶賛した中国漫画の今。「中国漫画史話」と史セツキ「日本の月はまるく見える」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

こないだ中国共産党と戦う漫画家の作品を紹介したけども、
中国の漫画事情って実際どんなもんなんだ?

規制もあるけど、ゲームも映画も勢いがあるという話はよく聞く。
しかしチャイナマネーで漫画がすごくなったという話は聞こえてこない。

とりあえず1984年に筑摩書房から出版された「中国漫画史話」を読んでみた。


中国漫画史話 (1984年)

中国漫画史話 (1984年)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2024/01/03
  • メディア: -

その序文によると、
中国の漫画家は長らく不当な弾圧と戦い続けてきたが、
毛沢東死後の政変により一気に良い流れに。
この本の原書が中国で出版された1982年、中国漫画は大繁栄の時を迎えているという。

その苦難の道のりをまとめたものが、この「中国漫画史話」というわけだ。
結論から言うと、中国近代史に詳しくないとついて行きづらい内容に思えた。
とりあえず初見は全体の流れを把握するに留めた。

 
パンチが効いてるのも片寄みつぐによる序文だ。
片寄氏は日本の漫画家らしいのだが、中国漫画を絶賛する一方で日本の漫画に対して厳しい。

巨大産業化したものの、その内実は衰退としか思えないのに、
とか、

この筆鋒によって(中国の)文部大臣級の高官が失脚したといいますから、どこかの国の政治漫画のように、毎日これでもかこれでもか、といわんばかり描いても、一向に悪徳政治家を葬れない非力な漫画とは大違いです。
とか、

大衆化といえば水割りか低俗な平準化でしかない、日本の大衆路線は改めて考え直されてよいでしょう。
とか、

最近、わが国は”マンガ大国”だ、などという思い上った声もありますが、そんな態度では、この力強い中国の漫画にやがて追い抜かれてしまうでしょう。謙虚に、その苦闘を学びたいものです。
とか、

日本の劇画ブームに対して手厳しいことから、片寄氏は絶対風刺漫画家に違いないと思った。
名前はその辺の偏った思想を暗示したペンネームなのだろうか。

ちなみに序文が描かれた1984年は
「アドルフに告ぐ」「課長島耕作」「北斗の拳」「美味しんぼ」「ドラゴンボール」などが連載開始して間もないあたりである。この年の少年ジャンプ発行部数は390万部。

で、
日本の漫画より素晴らしいと片寄氏が序文で讃える中国の漫画が、以下のような作品。

かたよってる1.png

なんか、まんが道に出てくる読者投稿欄を思い出す。
片寄みつぐ氏は、日本がこういった漫画で溢れかえったら幸せだなと考えているのだから、
権力を持たせたらいけない人である。

ちなみに「中国漫画史話」が邦訳される3年前(原書が執筆された前年)
鉄腕アトムの海賊版が中国で流通している。

かたよってる2.png
(画像は吉本浩二/宮崎克「ブラックジャック創作秘話」3巻

ところで、
この「中国漫画史話」によると、
大昔から歴史的彫像に漫画的表現が見られるものがあり、
それを「漫彫(まんちょう)」と記述している。

検索してもあまり出てこない言葉だ。
似たようなので横山泰三が「漫刻(まんこく)」というのをやってる。

日本に鳥獣戯画があるように、
中国にも漫彫からなる長い漫画の歴史があるということの説明なのだが、
写実的とは言えない像が漫画表現になるなら、日本の土偶だって漫画になると思うのだが。。。

そもそも中国でも「漫画」と呼称するのは、なんか変な気がする。

というか漫画の「漫」って何なんだという根本的な疑問がある。
浪漫(ロマン)の漫か?と思って調べてみたら、
エッセイ的な文章を示す「漫筆」と言う日本の言葉から「漫画」と言う名称は作られたらしい。
これが中国でも使われるようになった、というわけだ。

<訂正>清水勲「漫画の歴史」によると、
「漫筆」は中国の言葉で、そこから日本で「漫画」という言葉が出来た説と、
中国に「漫画」と呼ばれた鳥がいて、その生態から付けられた説があるそうです。


驚くのは、
日本では1959年に誕生した週刊漫画誌が、中国では1928年にすでに誕生している事。
その雑誌「上海漫画」の部数がどのくらいあったか本には言及がないが、100号の表紙が掲載されているので最低でも2年は続いた計算になる。凄まじい勢いである。

本には、
1979年に中国で創刊された「風刺と幽黙(ユーモア)」は隔週刊行で毎回100万部をあっという間に売りさばくとあるのだが、よく見ると「タブロイド版、四頁」と書いてある。タブロイド版とは新聞半分の大きさ。四頁とはひょっとして4ページってことなのか???

…フリーペーパー以下じゃないすか。
その時、中国では本当に漫画が繁栄していたのか?
「風刺と幽黙」をいくらで売っているのか?興味は尽きない。
その雑誌の内容についても、プロパガンダっぽいという感想をネットで見かけた。

 
片寄氏も序文で言及しているのだが、
「中国漫画史話」本文は1980年代の中国漫画の繁栄がどういったものかについては触れていない。

本当のところ中国の漫画事情はどうなんだいと、さらに検索を続けてみると、
現在「モーニング・ツー」で中国人が漫画を描いていることがわかった。

史セツキ「日本の月はまるく見える」だ。
https://comic-days.com/episode/4856001361133077320

かたよってない.png

ボーイズラブ好きの中国人女性漫画家が、日本の出版社からオファーを受け、文化や政治の違いに葛藤しつつ執筆するという内容で、まだ単行本化されるほど連載を重ねておらず、全話無料で読むことができる。大変に面白かった。

史セツキ氏は、中国の一人っ子政策をテーマにした短編も描いている。
https://comic-days.com/episode/3269754496647351420
第80回ちばてつや賞一般部門奨励賞受賞作

さらに史セツキ氏のインタビュー記事も発見。
https://gendai.media/articles/-/113266

それによると、作者が中学生の頃の中国はあまり規制もなく、日本の漫画やアニメも普通に楽しんでおり、ネットでシャーマンキングの女性向け同人誌を見つけ、BL好きになったという。表現規制が強まったのは2014年以降で、キスシーンはボーダーにあり、運営が自主規制することもあるらしい。

現在の中国漫画は紙の書籍化は少なく、人気作品にならないと原稿料も発生しない。
作者によると、「日本の月はまるく見える」は現在の中国では公開できない内容とのこと。
今後どんな圧力があるか分からないので、読めるうちに読んでおこう!
そして自由な漫画表現が許される日本に生まれた幸福を噛みしめよう!

こうにちおうに俺はなる!.png
(辣椒「嘘つき中国共産党」によると、人気抗日ドラマは日本漫画に影響を受けているものもあるという)

東京MXで放送されていた「魔道祖師」というアニメは、
中国のオンライン小説が原作でコミカライズもされている。
神保町の内山書店では中国漫画の取り扱いが増えているというネット記事も発見した。

ダイヤモンドオンライン
日本の若者の間で「中国発」漫画・ゲームの人気が上昇中、次世代の中国観とは
https://diamond.jp/articles/-/311222?page=2

「静かなブーム」的な見出し詐欺なのはご愛嬌。


漫画 魔道祖師 漫畫版 第1巻 台湾版 落地成球 墨香銅臭 赤笛雲琴記 コミック 魏無羨 藍忘機

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  • 出版社/メーカー: 平心出版
  • 発売日: 2021/09/30
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魔道祖師 1 (ダリアコミックスe)

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  • 出版社/メーカー: フロンティアワークス
  • 発売日: 2023/12/22
  • メディア: Kindle版



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