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赤塚不二夫を嫌った巨匠漫画家、横山泰三 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

進化し続けていく漫画に、いつかついていけなくなる日が来る。
そんな当たり前のことに気付けない古い漫画家たち。

そんなドラマが描かれた本「文藝春秋漫画賞の47年」の中に、
赤塚不二夫の受賞が許せない風刺漫画家がいた。
1972年の第18回の、とある風刺漫画家による講評にこうある。

僕にはどうもあの汚ならしい絵ががまんならない。(中略)飯沢氏が「赤塚君は大人漫画も描ける人ですよ』と言うので、『飯沢さんあなた責任持てますか』と、僕はこの先輩に生意気なことを言った。 ※飯沢さん=劇作家の飯沢匡(いいざわただす)

意外。
赤塚不二夫は割と風刺漫画に近いテイストだと思うけども。

「天才バカボン」「おそ松くん」は漫画史に燦然と輝き続ける名作として今も知られている。
推薦する人に「責任持てますか」と食ってかかるこの審査員。
賞の汚点を後世に残したのは彼自身だった。

この漫画家の名前を再び見たのは、
それから少しして別の本、「定本日本マンガ事件史」を読んだ時である。

その本によると、
1969年、日本初の漫画学校「東京デザインカレッジ」が、創立からたった4年で廃校になった。
この学校で、風刺漫画家を育成していくつもりだったらしい。

一流の風刺漫画家5名が理事として名を連ねており、連帯保証人のハンコをついていた。
負債のうち2億5千万円を彼らがひっかぶることになった。
さらに廃校に抵抗する学生たちから、吊し上げにあった理事もいたそうである。

その中に、赤塚不二夫を批判した審査員もいた。
その風刺漫画家の名は横山泰三という。ザマあない。

というか、5名の理事は全て文藝春秋漫画賞の審査員だった。
さらに言うなら、横山泰三が赤塚不二夫の受賞を批判するのは事件から3年後のことなのである。

「定本日本マンガ事件史」には、横山泰三に関するオマケ的な事件についても触れていた。

廃校事件の同年、
戦後を代表する漫画家を13人選んでハードカバーの選集にまとめるという企画、「現代漫画」が筑摩書房から出版された。

13人中の8名は、横山泰三をはじめとする風刺漫画家たちが選ばれた。
ほかに手塚治虫と石森章太郎。
そして水木しげるつげ義春白土三平ら劇画漫画家も選ばれたのである。

高慢ちきな風刺漫画家が、彼らが低俗と蔑んだ劇画漫画家たちとワンセットにさせられてしまった!
これは当時、画期的な出来事だったらしい。

ちなみに「現代漫画」の第二期では、赤塚不二夫も選ばれている。
風刺漫画家たちはどういう思いで現代漫画の人選を見ていたのか。
借金でそれどころじゃなかったかもしれない。

「定本日本マンガ事件史」によると、
その「現代漫画2横山泰三集」の中に、横山泰三の自分史が収録されており、事件をオチとして使ってるという。この現代漫画、たまたま何冊か買ってあったのだが、その中に横山泰三はなかったのでセットで再購入して横山泰三の作品をイチから読んでみた。

…読んでみたが、まあ面白くない。
代表作の「プーサン」も全然ピンとこない。時代もあるのだろうけど。
しかし赤塚不二夫の絵を汚らしいと言う割には、泰三のデフォルメも良いものとは思えない。

文藝春秋漫画賞における横山泰三の講評を見ると、絵の上手い下手にこだわっていることが多い。
漫画の本質を見失う人が陥りがちな危険な兆候だと思う。

まがったことが大嫌い3.png

世界一周のコラム「世界戯評」は面白かったが、文章としての面白さだ。
(それにしても仕事で世界一周とは羽振りがいい)

問題の自分史、「平和の発見 -漫画自叙伝-」も、まあまあ面白い。
ときどきごっちゃになる横山隆一はお兄さんだった。
いろいろ苦労もあったようである。軍隊も経験してるし。

まがったことが大嫌い2.png

衝撃を受ける作品もひとつだけあった。
1950年に描かれた「噂の皇居前広場」だ。
当時、皇居前広場で風紀が乱れていたのを風刺したもの。

まがったことが大嫌い1.png

これぞ風刺!
戦後初のわいせつ画として摘発を受けたらしい。
やったぜ!

警視庁大城保安課長談
画中の男女三組の姿態はあまりにロコツにかかれ見るものに嫌悪の感を抱かせる風刺として行きすぎであると認めたので摘発を指令した

懲りずに摘発されてすぐ、これならいいだろと続編を発表している。

そんな不敬な横山泰三だが、1981年に紫綬褒章。
1988年に勲四等旭日小綬章を授与されている。

代表作のひとつ、「社会戯評」は39年間、1万3561回も朝日新聞で連載された。
そんなに続けていたらクオリティがどういう事になるか想像に難くない。
批判も多かったらしい。

最後に、
1970年の第16回文藝春秋漫画賞における横山泰三のコメントを紹介する。

今はエロ、劇画の全盛で、絵もろくに描けないやからが、最低の漫画ブームをつくっている。

彼の漫画がこの先、読み継がれていくことはあまりないと思う。


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コメント 4

通りすがり

サルでも描けるまんが教室の風刺まんが編は、あからさまな横山泰三批判という説もあると、ウィキペディアにも描かれてますね
by 通りすがり (2023-10-20 22:56) 

hondanamotiaruki

そう、それも読んでみたんですけど、あまりよく分からなかったので記事には盛り込みませんでした。
by hondanamotiaruki (2023-10-21 00:11) 

ネスカフェ

横山泰三は呉智英の「バカにつける薬」という著作で、「そのつまらなさゆえにギネスに値する」とバカにされていた漫画家ですね。「権力者の圧政とそれに不自由する市民」という構図でしか書けない凡才だと。
呉はその後継に「はらたいら」をあてはめていましたが、まだはらの方が上だと思います。

余談ですが、やなせたかしさんの話によると手塚治虫のストーリー漫画の到来で、従来の1コマ、風刺漫画家はほとんどだめになってしまったそうで、岡本一平から起因するハイソでインテリな漫画の世界に生きてきた横山にとっては、ストーリー漫画家でありながら自身の作ってきた風刺漫画のエッセンスをいれこんだ赤塚不二夫は、いいとこどりの腹立たしい存在だったのかも知れませんね。
by ネスカフェ (2023-11-04 23:33) 

hondanamotiaruki

呉智英おもしろいwww

横山泰三はエッセイは面白かったので、そっちをもっと読みたかったですね。生まれた時代が悪かったのか、いや、安易な権力批判を書き続けて需要があり続けたわけだから、生まれた時代は良かったのか?
by hondanamotiaruki (2023-11-05 10:01) 

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