文化大革命を体験した漫画家の自伝、 李昆武「チャイニーズ・ライフ」 [名作紹介]
チャイニーズ・ライフ――激動の中国を生きたある中国人画家の物語【上巻】「父の時代」から「党の時代」へ
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2013/12/21
- メディア: 大型本
日本よりも30年も早く週刊漫画誌が誕生したと言う中国。
そんな中国漫画がなぜ衰退したのかを探っている日々。過去記事参照のこと。
「チャイニーズ・ライフ」なる漫画を購入してみたが、めちゃくちゃ良い。
今年これ以上のものが読めるのかというレベル。
なんと親子二代で中国共産党員の漫画家の自伝だ。
文化大革命などを過ごした描写はもう「デビルマン」に匹敵する。
それでいてどこかユニークなのだ。
これが自己批判ってヤツですか
「チャイニーズ・ライフ」はしっかりした劇画になっていて、違和感なく読み進められるのも驚き。
中国はこんなレベルの漫画が溢れているのだとしたら大いに認識を改める必要がある。
が、「チャイニーズ・ライフ」の後半で、
外国の漫画際に招かれた作者が、世に漫画が氾濫している国があることを知り、
人類が月面を歩いたときレベルで驚いたというから、やはり中国には漫画が少ないのかもしれない。
(情報統制がはかどってるのもわかる)
「チャイニーズ・ライフ」が違和感なく読めるのは、
共同原作者のフィリップ・オティエによるところも大きいのではと思う。
オティエはフランス人で、漫画好きな外交官という異色の経歴の持ち主。
劇中で本作の打ち合わせの様子が描写されているのだが、
そこから察するにオティエが李昆武から話を聞いてネームにし、
どういう絵にするか誘導しているのではないだろうか。
つまりこの漫画は中国漫画というよりは、バンド・デシネなのである。
「チャイニーズ・ライフ」の主人公、李昆武(Li Kunwu)は1955年生まれ。
その父は中国共産党内で、地方のそこそこ偉い立場にいた人物。
自分も、国家も、大衆も、とんでもなく愚かで嘘つきあることを悟り、独り想い悩む。
このコマの父の表情が良い
スズメを駆除すれば豊作だと言って逆に害虫の増殖を招いて大飢饉に。
鉄を増産さえすれば一流国だと鍋カマまで溶かしまくってクズ鉄を量産。
溶鉱炉にくべる薪が必要だとハゲ山も量産し、大洪水を巻き起こす。
過度なノルマを課すから生産報告はウソだらけ。
それを信じてまたさらに過度なノルマを課す悪循環。
(王 欣太/李 學仁「蒼天航路」冒頭の1コマ)
作者は回想する。「ユートピアとはこんなところでしょうか」。
この時の中国は、意識が高いだけのアホがトップダウンをおこなう実験国家だった。
そんな中国共産党を愛した作者の父は、
地主の家系だったというだけで一時は失脚。
矯正施設に追放されるが、それでも党への忠誠心は生涯捨てなかった。
父は言う。
「党が危機に瀕したときは、家族も友人もないんだ。」
この精神は息子にも受け継がれている。
本書を翻訳した野嶋剛も巻末で解説している。
>つまるところ中国にとっては「秩序と安定が経済発展のためには必要」であると結論づけている。
>これらは政府の公式発言でなく、内心から出たものであると李氏は語る。なぜなら、中国は「20世紀を通じてあらゆる苦難と屈辱を味わった」国であり、李氏自身も「文化大革命、批判運動、階級闘争、干ばつ、飢饅、電力不足、極貧」などを経験した末に持った考えであり、「発展と再生のために必要な秩序と安定を求める私たちの深い渇望」を理解してほしいと読者に語りかけている。こうした李氏の思考法は、現代中国人の価値観を理解するうえで、私にとって非常に知的な刺激を感じる部分であった。もちろんその意見には異論のある読者もいるはずだ。しかし、李氏の考え方もまた、中国人社会における否定できない現実的な一面であると私は考えている。
人権よりは秩序と発展が大事。
自由を謳歌しすぎるとこの国はバラバラになって崩壊する。
全2巻を読み通すと、そういう考えに至るのもわかるような気がする。
それを正直に人権大国フランスのメデイアで発表してしまうのもすごい。
さらに訳者の野嶋氏は、
愚かな失敗をした過去を綺麗さっぱり忘れて再出発する「チャイニーズ・ライフ」に描かれたような中国人たちの心理を、戦前・戦後の日本人と重ねて分析しておりわかりみが深い。
庶民はたくましい。七人の侍
ナイーブな青年のように自己嫌悪して歩みを止めることはないのだ。
おどろくことに中国の黒歴史満載の「チャイニーズ・ライフ」は中国でも出版されている。
おそらく改変されることは避けられないだろうが、この内容が出版されてるのは驚きである。
共同原作者のオティエ氏が外交官のキャリアがあり、刊行当時も中国に滞在していたと言うのが大きいのだろうか。
邦訳版刊行時には日本でも権威ある漫画賞を受賞しており、原作者両氏が来日を果たしている。
島本和彦や沙村広明らと並んで写真を撮っているが、どんな会話があったのか興味は尽きない。
そこから俺の手元に本書が届くまで10年かかった。
欲しい人のところに欲しいものを届ける、なんとも大変なことだと思う。
宣伝は大事。そして難しい。
みなさまには届いているだろうか。
傑作すぎるBD、「チャイニーズ・ライフ」の
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) February 16, 2024
李昆武とフィリップ・オティエ、2015年に来日してたのか。
島本和彦、沙村広明らとどんな交流があったのだろう。
うーん、聞いてみたい。https://t.co/g1Z7njnU75 pic.twitter.com/rZ2GSmq6OG
チャイニーズ・ライフ――激動の中国を生きたある中国人画家の物語【下巻】「党の時代」から「金の時代」へ
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2013/12/21
- メディア: 大型本
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