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真空パックされた原発事故の空気。いましろたかし「原発幻魔大戦」 [名作紹介]

2011年の原発事故。
この世の終わりか?
仕事帰りの車の中でニュースを聞きながら、そう思った。

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あの頃の世間の空気を真空パックした漫画、そんな評に惹かれて購入してみた。
いましろたかし「原発幻魔大戦」全3巻。


原発幻魔大戦 コミック 全3巻完結セット (ビームコミックス)

原発幻魔大戦 コミック 全3巻完結セット (ビームコミックス)

  • 作者: いましろたかし
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/エンターブレイン
  • 発売日: 2013/07/25
  • メディア: コミック

タイトルは「平井和正の幻魔大戦から拝借した」と後書きに書かれている。
そこは石ノ森章太郎を含めないんだ????
このところ幻魔大戦マイブームで購入した漫画は、これを含めて22冊になった。
小説まで読む気にはなってない。長そうだし。

「原発幻魔大戦」の主人公は漫画家でなく、普通のサラリーマン。
そこはなぜ作者にしないのだと思ったが、それじゃゴーマニズムか。

原発幻魔大戦は原発だけでなくTPP(環太平洋パートナーシップ協定)もテーマにしており、
その辺はゴーマニズムとも共通している。
比べると見えてくるものがある。


ゴーマニズム宣言SPECIAL 脱原発論

ゴーマニズム宣言SPECIAL 脱原発論

  • 作者: よしのり, 小林
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2012/08/22
  • メディア: 単行本

原発幻魔大戦の主人公は無力である。
清き一票でしかない。蟷螂(とうろう)の斧だ。
ツイッターに書き込んだり、デモに参加するぐらいしかない。
原発よ滅びよとひたすら念じ続けているだけのようにも見える。

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敵はあまりに巨大である。
その辺がエスパー学生vs幻魔大王のような構図で、
まさに幻魔大戦のタイトルを冠するにふさわしいのかもしれない。

漫画「幻魔大戦」の東丈は「みじめったらしい野ねずみ」と蔑まれていたが、
原発幻魔大戦の主人公も世間から蔑まれたりもする。

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総理大臣に対し「狙撃されちまえ」みたいなうかつな発言も飛び出す。
正直、あまりインテリジェンスを感じさせない。

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すし食ったりAV見たりしながらも国政を憂う姿が描かれているのはリアルで、
ギャグとしか思えないのだが巻末対談によると作者はマジのガチである。

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「うん みんな喰ってる」

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「放射能よりタバコやめた方がいいです お大事に」

庶民にできることとしては結局のところ、
与えられた情報のどれを取捨選択していくか
ということしかないっぽい感じがコミカライズされている。

「原発幻魔大戦」の主人公は、日刊ゲンダイへの信頼を表明してせせら笑われてしまう。
大昔コンビニでバイトしていた時、日刊ゲンダイはいつも一部も売れずに返品処理をしていた※ので、俺も爆笑の展開だったのだが、よくよく考えると笑えない。
※スポーツ新聞がほとんどであとは競馬新聞が少し売れるだけでゲンダイだけが売れてないわけではない

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「ネトウヨ」

大手メディアが信用できなくなるのもわかるのだけど、
そうなると堅実でないメディアのデマに躍らされて、
取り返しのつかない暴走をしてしまう未来も垣間見えてしまう。

3巻になると、個々のニュースに対する細やかなリアクションが減り、
ただ情報を書き流すだけに見えてきてほとんどギブアップで流し読みした。
まあその辺も演出と捉えられないこともない。
 
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いましろたかしは鈴木みその漫画などにパロディにされていて以前から興味を持っていた漫画家だ。
「原発幻魔大戦」は素朴な線でわかりやすい。「漫画」が上手い人なんだろうなと思う。
この作品以降はどうしてるのかなとツイッターを見に行ったのだが、
今はあまり積極的に情報発信はしていないようだ。

この漫画は後世に残るような気もする。
コロナ編とかあったら絶対読んでみたい。


驚くのがデモの打ち上げの飲み会に毎回若い女性が参加してるところである。
よく読み返すと、男やジジババばっかりだと寂しい奴らだとバカにされる、みたいな主人公の発想があり、その辺を理解して手配してくれる役割の人がいるようだ。運動の対外的なイメージを考えるというのは、けっこう重要で、やってる人が見落としがちなところだと思う。小林よしのりもその辺に心を砕いていた。

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これが事実かどうかはともかく、ちょっとうらやましいなとも思ってしまう。
ただその女性が宇宙人の陰謀とか言い出すものだから、ああやっぱりなと思わなくもない。
繰り返しになるが、「ギャグなのかとも思ってしまうが、巻末対談を読むと作者はマジのガチ」なのである。田中康夫、孫崎享、金子勝と対談している。

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いろいろ経済的な難しい問題はあるのだろうけども、
「あれをやった以上延長戦はねえっ!!」ここはすごく同感だ。

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いつになるか分からないけど、
いつかどでかい地震が起こると誰もが確信してる日本ではリスクが大きすぎる。
あのとき日本は一度滅んだのだ。いまのこの世界は滅んだ日本人が見る夢の世界なのである。


原発幻魔大戦 (ビームコミックス)

原発幻魔大戦 (ビームコミックス)

  • 作者: いましろ たかし
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2014/03/30
  • メディア: Kindle版



原発幻魔大戦 首相官邸前デモ編 (ビームコミックス)

原発幻魔大戦 首相官邸前デモ編 (ビームコミックス)

  • 作者: いましろ たかし
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2014/03/30
  • メディア: Kindle版



原発幻魔大戦 日本発狂編 (ビームコミックス)

原発幻魔大戦 日本発狂編 (ビームコミックス)

  • 作者: いましろ たかし
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2014/03/30
  • メディア: Kindle版



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石ノ森章太郎最高傑作かもしれない「幻魔大戦」を読み返す [名作紹介]

子供の頃に夢中になって読んだ「幻魔大戦」を再購入。
やはりサンデーコミックス版でしょと思ったが、読んでみると画質がすんげえ悪い!
1巻が昭和49年の24刷。2巻が昭和51年の25刷。昔読んだのもこんなに悪かったのかな。

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ツイッターで情報をいただき、
画質が良く値段も手頃な扶桑社文庫版を再購入してしまった。
ベタのムラまで見えるかもしれない高画質!

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問題のサンデーコミックス、さらに調べてみたら、
もはや画質が悪いというレベルじゃない箇所まで見つかってびっくりしている。

話を漫画に戻す。

いやはや面白い。
予知夢のシーンとか最高じゃないですか!

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ラストの見開きも、
「雪の峠」「男坂」に匹敵する、漫画史に残る見開きと言っていいと思う。

ゆびきりげんまたいせんb2.jpg

またキャラクター造形が深い。

根性あって努力家だけど才能に恵まれず、
勢い余って説教した友人に部活のポジション争いで負けたり、
フィジカルで勝る弟に兄弟喧嘩で負けたりして鬱屈する主人公。

超能力に目覚め、スカウトにきた異国のお姫様に騎士然として振る舞うも、
「みじめったらしい野ねずみ」と軽蔑されてしまう。
すげえ口悪いヒロイン!

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そんなお姫様も、参謀のサイボーグのベガから
「あなただってわがままな小娘にすぎませんよ」言われて、泣いて逃亡。

みじめったらC.jpg

ベガはベガで超合理的精神で、
「これが戦争なのだよ」と、超能力なくしてただの小娘になってしまったお姫様を無慈悲にリストラしようとするので、「人の心とかないんか」と仲間からドン引きされる。

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そんな奴らが団結して世界を救えるのか?
幻魔大戦はそういうお話。
めちゃくちゃ面白い。

「敵勢力に仲間割れさせるのが幻魔大王の最も得意とする戦法ですからな」
トサカ.jpg

しかしお話は単行本2巻で唐突に終了。
諸説あるが、読者の支持が得られなかった説と、編集長とケンカした説があることから、
人気がなくて編集長とケンカになって打ち切りになったのではないかと思われる。

あの「サイボーグ009」ですら当時は不人気打ち切りで、単行本の爆売れで初めて商業的価値を認められたという。
ありそうなことである。

あまり詳しく覚えていないが、
子供の頃に石ノ森作品が山ほど段ボールに入ってうちにやってきたことがある。

その中に「新幻魔大戦」だの「幻魔大戦 神話前夜の章」があって、
あの続きが読めるのだと狂喜したのだが、
どこを探してもその中にはベガも丈もルーナもおらず、相変わらずよくわからんラスト。
なんならその中に入っていた石ノ森漫画もわけわからんものばかり。

私は一週ごとに漫画家たちが生き残りのバトルを続ける少年ジャンプアンケート至上主義の漫画で育っていたので、石ノ森章太郎の巨匠然とした余裕を感じる自由な作風が肌に合わず、どちらかというと嫌いな漫画家に分類するようになった出来事だった。

映画版も思い出深い。最近になるまで本編は見たこと無かったけど。
CMをジャンジャン投入して洗脳してしまうかのような角川商法の最初の洗礼だったのだ。
絵が違うのがたまらなく不思議だった。特に大好きなベガのデザインが違う!

ところでベガのデザインは天野喜孝永井豪
寺田克也から村枝賢一までさまざまなデザインがあるらしい。


幻魔大戦を今読み返すとジョジョっぽいところがある。
世界中から超能力者が集結して戦う漫画だ。そりゃ似ることもあるだろう。
ベガとアブドゥル(顔の模様と参謀的立ち位置)、フロイとイギー(砂を操る犬)、東丈と東方仗助。ジョー東ってキャラクターもいたな。
学生帽の後ろのハネは承太郎っぽい。


調べていたら、
2014年からウェブ漫画として正式な続編が描かれていたことを知る。
単行本全11巻。作画は早瀬マサトと石森プロ、脚本は七月鏡一。
そちらも購入してみたので、そのうち感想を書きたい。

 


幻魔大戦 Rebirth(1) (少年サンデーコミックススペシャル)

幻魔大戦 Rebirth(1) (少年サンデーコミックススペシャル)

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2017/05/02
  • メディア: Kindle版



千値練幻魔大戦ベガ

千値練幻魔大戦ベガ

  • 出版社/メーカー: ノーブランド品
  • メディア:



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文化大革命を体験した漫画家の自伝、 李昆武「チャイニーズ・ライフ」 [名作紹介]




日本よりも30年も早く週刊漫画誌が誕生したと言う中国。
そんな中国漫画がなぜ衰退したのかを探っている日々。過去記事参照のこと。

「チャイニーズ・ライフ」なる漫画を購入してみたが、めちゃくちゃ良い。
今年これ以上のものが読めるのかというレベル。

なんと親子二代で中国共産党員の漫画家の自伝だ。
文化大革命などを過ごした描写はもう「デビルマン」に匹敵する。
それでいてどこかユニークなのだ。

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これが自己批判ってヤツですか

「チャイニーズ・ライフ」はしっかりした劇画になっていて、違和感なく読み進められるのも驚き。
中国はこんなレベルの漫画が溢れているのだとしたら大いに認識を改める必要がある。

が、「チャイニーズ・ライフ」の後半で、
外国の漫画際に招かれた作者が、世に漫画が氾濫している国があることを知り、
人類が月面を歩いたときレベルで驚いたというから、やはり中国には漫画が少ないのかもしれない。
(情報統制がはかどってるのもわかる)

「チャイニーズ・ライフ」が違和感なく読めるのは、
共同原作者のフィリップ・オティエによるところも大きいのではと思う。
オティエはフランス人で、漫画好きな外交官という異色の経歴の持ち主。

劇中で本作の打ち合わせの様子が描写されているのだが、
そこから察するにオティエが李昆武から話を聞いてネームにし、
どういう絵にするか誘導しているのではないだろうか。

つまりこの漫画は中国漫画というよりは、バンド・デシネなのである。

 
「チャイニーズ・ライフ」の主人公、李昆武(Li Kunwu)は1955年生まれ。

その父は中国共産党内で、地方のそこそこ偉い立場にいた人物。
自分も、国家も、大衆も、とんでもなく愚かで嘘つきあることを悟り、独り想い悩む。

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このコマの父の表情が良い

スズメを駆除すれば豊作だと言って逆に害虫の増殖を招いて大飢饉に。
鉄を増産さえすれば一流国だと鍋カマまで溶かしまくってクズ鉄を量産。
溶鉱炉にくべる薪が必要だとハゲ山も量産し、大洪水を巻き起こす。

過度なノルマを課すから生産報告はウソだらけ。
それを信じてまたさらに過度なノルマを課す悪循環。

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(王 欣太/李 學仁「蒼天航路」冒頭の1コマ)

作者は回想する。「ユートピアとはこんなところでしょうか」
この時の中国は、意識が高いだけのアホがトップダウンをおこなう実験国家だった。

そんな中国共産党を愛した作者の父は、
地主の家系だったというだけで一時は失脚。
矯正施設に追放されるが、それでも党への忠誠心は生涯捨てなかった。

父は言う。
「党が危機に瀕したときは、家族も友人もないんだ。」
この精神は息子にも受け継がれている。

本書を翻訳した野嶋剛も巻末で解説している。

つまるところ中国にとっては「秩序と安定が経済発展のためには必要」であると結論づけている。

これらは政府の公式発言でなく、内心から出たものであると李氏は語る。なぜなら、中国は「20世紀を通じてあらゆる苦難と屈辱を味わった」国であり、李氏自身も「文化大革命、批判運動、階級闘争、干ばつ、飢饅、電力不足、極貧」などを経験した末に持った考えであり、「発展と再生のために必要な秩序と安定を求める私たちの深い渇望」を理解してほしいと読者に語りかけている。こうした李氏の思考法は、現代中国人の価値観を理解するうえで、私にとって非常に知的な刺激を感じる部分であった。もちろんその意見には異論のある読者もいるはずだ。しかし、李氏の考え方もまた、中国人社会における否定できない現実的な一面であると私は考えている。

人権よりは秩序と発展が大事。
自由を謳歌しすぎるとこの国はバラバラになって崩壊する。

全2巻を読み通すと、そういう考えに至るのもわかるような気がする。
それを正直に人権大国フランスのメデイアで発表してしまうのもすごい。

さらに訳者の野嶋氏は、
愚かな失敗をした過去を綺麗さっぱり忘れて再出発する「チャイニーズ・ライフ」に描かれたような中国人たちの心理を、戦前・戦後の日本人と重ねて分析しておりわかりみが深い。

庶民はたくましい。七人の侍
ナイーブな青年のように自己嫌悪して歩みを止めることはないのだ。
 

おどろくことに中国の黒歴史満載の「チャイニーズ・ライフ」は中国でも出版されている。
おそらく改変されることは避けられないだろうが、この内容が出版されてるのは驚きである。
共同原作者のオティエ氏が外交官のキャリアがあり、刊行当時も中国に滞在していたと言うのが大きいのだろうか。

邦訳版刊行時には日本でも権威ある漫画賞を受賞しており、原作者両氏が来日を果たしている。
島本和彦や沙村広明らと並んで写真を撮っているが、どんな会話があったのか興味は尽きない。

そこから俺の手元に本書が届くまで10年かかった。
欲しい人のところに欲しいものを届ける、なんとも大変なことだと思う。
宣伝は大事。そして難しい。

みなさまには届いているだろうか。

 






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ディズニー+で映像化。ジーン・ルエン・ヤン「アメリカン・ボーン・チャイニーズ」を読む [名作紹介]

中国人が描いた漫画について色々調べている。

中国系アメリカ人の話というのに興味を惹かれ、
「アメリカン・ボーン・チャイニーズ」という邦訳コミックを購入してみた。

以下ネタバレあり。


アメリカン・ボーン・チャイニーズ:アメリカ生まれの中国人

アメリカン・ボーン・チャイニーズ:アメリカ生まれの中国人

  • 出版社/メーカー: 花伝社
  • 発売日: 2020/02/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


エッセイ的なものを期待してたのだけど読んでみたらフィクションで少しがっかり。
しかし作者の実体験を基にしたのであろう人種差別エピソードがなかなか強烈だった。
強烈すぎて、作中に仕掛けられたドンデン返しが上滑りしていく。

昔から漫画では、
外国人の中の悪いヤツには「イエローモンキー」と言わせるのが定番だ。

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(画像はみなもと太郎「風雲児たち」17巻。アメリカで差別を受けるジョン万次郎の史実。)

ネットでは、目尻を指で押し上げる侮蔑表現が話題になることが多いが、
その辺も「アメリカン・ボーン・チャイニーズ」には登場する。
それらは悪役の行為というよりは、さらっと空気のようにさりげなく挿入される。

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学校での出来事である。
もちろん注意すべき出来事だけども、
大人の目から見ると「まあ人格も未熟な子供だからこういうこともしてしまうのだろうな」と多少割引いた気持ちで見てしまう。いじめが犯罪にならない悪習慣だ。

だから劇中のアジア系の少年少女たちは詰んでいるように思う。
漫画の中で何か劇的な解決がなされるわけでもない。

 
偽白人にはなるな。
自分のルーツに誇りを持て。
友達を大切にしよう。

大雑把にいうと、そんなメッセージがこの漫画のオチだ。

この漫画はその結論に導くために、
西遊記の斉天大聖・孫悟空が三蔵法師の弟子になるまでのエピソードと、
中国人を極度にステレオタイプにしたキャラクター、チンキーを登場させる。

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それがあまり効果的に働いてないように自分は思うのだ。

主人公の親友の台湾人の正体は、斉天大聖孫悟空の息子でである。
悟空は言う。自分が猿であることを認めていたら、人生のトラブルも無かった」(意訳)

黄色人種蔑視をテーマにした漫画にはふさわしくない比喩に感じるのだが、
特にそういうふうに問題視されることなく、この作品はアメリカで高い評価を得ているようだ。
その辺がよく分からない。

そして意図的にコテコテのステレオタイプにした中国人キャラクターのチンキー。
出っ歯で目が細くて弁髪。空気を読まずにはしゃぎまくり、主人公の肩身を狭くさせる。

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「チンキーが面白い」と言う感想が時折寄せられ、作者は困惑したという。

分からんでもない。
チンキーはある意味、小林よしのりの描く異形のキャラクターっぽいのだ。

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これに対して作者は
「チンキーは面白がられることを意図して登場させたのではありません」
チンキーの出る章は不快に感じるはずです。それこそ私が望んでいた反応なんです。」
とコメントしたと巻末解説に書かれており、ちょっと考えさせられる。

「このキャラクターに対してはこう感じるべき」
あまり聞かない種類の著者コメントに感じる。
正しいニュアンスが翻訳されてない可能性もある。

自分に置き換えてみるとどうか。

自分はオタク趣味の持ち主である。
宮崎事件直撃世代で、学生時代が人生で一番辛い時期だった。
社会に出て、脱オタを図った。

ここからは仮定の話。
そんな自分が所属した社会人コミュニティで、バンダナにチェックシャツ&メガネでデブの典型的なキモオタの旧友と再会したとする。向こうは馴れ馴れしくしてくるが、つい他人のフリ。同族嫌悪に陥ってしまう。

そして自分の前にポルコ・ロッソが現れて森山周一郎の声でこう言う。
「飛べない豚はただの豚だ。」

色々考えてみて、「アメリカン・ボーン・チャイニーズ」は、
こういうことなのではないかと思った。
抑圧に負けて自分を出せず、なんの人生なのかと。

しかし正確に言えば、私は飛ぶ場所を選ぶ豚であった。
そのことに特に後悔はない。

「アメリカン・ボーン・チャイニーズ」で否定される偽白人になること、
これって結構手っ取り早い解決策な気がするのだが、あまり読み物でそう言う結論は出しづらい。
もちろん偽白人になることと、脱オタすることは意味がかなり異なる。

言いたいのは、いじめから逃れたいのなら、どんな狡い手でも使うべきだと思うということ。
直接的に他人に迷惑かけない範囲でなら。
こういう結論は「いじめられる側に問題がある」という話に発展しやすいけども。

そういう意味で、アジア人蔑視に苦しむ少年少女は、
「アメリカン・ボーン・チャイニーズ」を読んでなにか救いがあったのだろうかというのは気になる。
しかしこういった漫画は読んだことがないし、これを叩き台にしてまたジャンルとして発展してゆくのかもしれない。
 
 
文化の違いもあるのか、
「アメリカン・ボーン・チャイニーズ」は読んでいて消化不良を起こす部分がある。
リラックスできるタイプの作品ではないので、日本ではあまり読まれないとは思うが一読の価値はある。
目尻を上げるジェスチャーが醜い行為だと認識を改めさせることもあるだろう。

アメリカではミシェル・ヨーが出演したドラマ全8話がディズニープラスで配信されているらしいので、
ネットフリックスの時のように1ヶ月だけ加入して見てみたいと思う。
内容はかなり改変されてるっぽい。



ディズニープラスといえば、
真田広之の「SHOGUN 将軍」も見ておきたいと思っていたところだ。


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巨匠の魂の還る海。横山光輝「闇におどる猫」 [名作紹介]


横山光輝初期作品集 第6集 闇におどる猫 (横山光輝愛蔵版初期作品集 第 6集)

横山光輝初期作品集 第6集 闇におどる猫 (横山光輝愛蔵版初期作品集 第 6集)

  • 作者: 横山 光輝
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/01/23
  • メディア: コミック


横山光輝の「闇におどる猫」を読んで背筋が寒くなった。

鉄人28号が始まった翌年の執筆という、かなり初期の作品。
いい漫画のアイディアが浮かばず弱っていく横山光輝自身が主人公、という珍しい漫画。
内容的には今ひとつピンとこない。猫がおどってない。

タイトルからしてコナンドイル原作の横山作品、
「夜光る犬」みたいな本格ミステリーを連想してしまうせいかもしれない。
実際はホラー漫画。

読んで背筋が寒くなったというのはお話が怖かったからでなく、
現実の横山光輝の死を連想させる内容が次々と展開していくからである。

タバコの火の不始末。(このあと消さずに降車する)
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自宅が火事。
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そして死亡。

 
ところで、
最近あったマンガ原作者死亡のニュースの関連リンクから、
こんな見出しを見つけた。

日本テレビでアニメ化された漫画家 自宅で全身やけどで死去 妹が発見
https://news.yahoo.co.jp/articles/6f58bc80011ab212de91fd712c819c4baa67b4cb

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誰のことかとクリックしてみたら、横山光輝の死亡記事だった。
2004年の記事がまだあるものなのだな。

「鉄人28号」「魔法使いサリー」 横山光輝さん自宅火事で全身やけどで死去
https://www.daily.co.jp/gossip/flash/20130914330.shtml

【2004年4月16日のデイリースポーツ紙面より】
「鉄人28号」「魔法使いサリー」など多数の人気作品を描いた漫画家の横山光輝(本名光照)さんが15日午後10時29分、死去した。69歳。神戸市出身。横山さんはこの日午前6時10分ごろ、東京都豊島区千早2ノ26ノ14の自宅で起きた火事で全身やけどを負い、意識不明のまま都内の病院へ入院していた。葬儀・告別式の日取り、喪主は未定。

横山さんは「鉄人28号」「魔法使いサリー」以外にも忍者ブームを作った「伊賀の影丸」など多数の作品を描き、91年には「三国志」で日本漫画家協会賞優秀賞も受賞した。

火は横山さんの寝ている2階洋間のベット付近で出ており、目白署はベッド脇に灰皿が置いてあったことから、横山さんのたばこの不始末が出火原因の可能性があるとみて調べている。家の中にいた横山さんの妹2人もけがをした。

横山さんは約3年前に足を骨折し、足が不自由で最近は自宅療養中。普段は母、妹と3人暮らしだったが、この日は別の妹が介護のため泊まっており、横山さんの部屋で物音がしたため確認に行き、ベッドが燃えているのを見つけ119番通報した。

 
ちなみに漫画「闇におどる猫」での横山光輝の死因は、
タバコなどの過剰摂取による中毒症状が引き起こしたノイローゼによる自殺。

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横山の友人らが禁煙を決意する教訓がオチ。

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(左の人物は、かつてノンタン原作者の一人だったオオトモヨシヤス

まさかこの時、
横山光輝が禁煙を決意して描いたとは思えないが、
もし禁煙していたら…と思うと残念でならない。

 
ところで「闇におどる猫」の中で、
精神的に追い詰められてボヤ騒ぎを起こし入院までする横山光輝は友人らに勧められ、
ぶらり途中下車の旅に出る。

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ふと横山は神戸の須磨に途中下車する。
須磨海岸の砂浜に寝そべり海を眺めてリフレッシュする横山。
あれ、このシーンなんか見たことあるぞ…と思った。

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横山光輝の自伝漫画、「まんが浪人」に出てきた海岸じゃん!

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(「まんが浪人」は「横山光輝超絶レアコレクション」に収録されている名作。)

こちらに描かれた横山光輝は、イメージ通りの淡々としたキャラクターだが、
「闇におどる猫」の横山と同様に、須磨海岸に腰掛け、海を眺めている姿が印象的だ。

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横山光輝は神戸市須磨区の出身。
市内の公園には実物大の鉄人28号のモニュメントがある。

漫画の中で横山光輝は、
将来のこと、仕事で悩んだ時に須磨海岸にたたずむ。

やみにまぎれて生きる猫1.jpg

もちろん友達と楽しい時間を過ごす場所でもあった。

 
「闇におどる猫」はフィクションだが、
横山光輝が創作に思い悩む姿はどこかリアルな感じがある。

普段ドライなイメージの横山が、思わず漫画に描いてしまった故郷の海。
ここに良い意味で「弱さ」が表れてしまったのではないか。
そう思うとこの「闇におどる猫」は巨匠の本音が垣間見える貴重な作品と思える。

須磨海岸は横山光輝の魂の還る場所なのかもしれない。

そう思うと一度行ってみたくなる。
何ヶ月後になるかは分からないが、そのうち訪れてみたい。

 
<追記>
実際に行ってみた記事はこちら。

 
タグ:横山光輝
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「光る君へ」を見る人に推せる源氏物語漫画を紹介。D・キッサン「神作家紫式部のありえない日々」 [名作紹介]

2024年のNHK大河ドラマ、「光る君へ(ひかるきみへ)が始まった。
エロ小説の元祖とも言われることもある源氏物語の著者、紫式部を吉高由里子が演じる。

「世に残ってる本ってなァみんなエロ本なんだよ」
やらc9.png
(画像は土田世紀「編集王」5巻

エロ作品は残る。
遣唐使もエロ小説を持ち帰る。普遍的な人の営みだからだ。
それでいてタブーでもある。白昼堂々、公衆の面前でディカッションされるものでもない。
エロは物語を通して、こっそり共有するのが最適なのかもしれない。

「男と女のトラブルが文明を進歩させたんだ!」
ありえないざー1.png
(画像は手塚治虫「人間ども集まれ!」

とは言いつつ、俺個人としては源氏物語にあまり興味がない。
むかし学研漫画で読んだけど、少女漫画っぽいタッチで、内容もあまり頭に入ってこなかった。
女性向けの内容なのだろうかと思うことはあるが、それが全てでもないらしい。

むかし女性作家、群ようこの「アメリカ居すわり一人旅」という本を、
教師から無理やり読まされたことがあったが、

旅先で日本文学を研究しているアメリカ人から源氏物語について聞かれて、
読んだことないと答えると納得できないと食い下がられて、
アメリカ人だって全ての人がアメリカの有名文学作品読んでるとは限らないでしょうと反論するやりとりがあって、それを思い出す。

今回の大河もチラッとしか見てない。
「殴り合う貴族たち」を連想させる、ずいぶん殺伐とした展開だった。

そもそも吉高は従来の式部のイメージに当てはまらない役者だ。
どちらかというと吉高は清少納言だろうと思うが、新機軸を打ち出したいのだろう。
清少納言といえば、そちらも出てきてファーストサマーウイカが演じるらしくて、それは見てみたい。



D・キッサン「神作家紫式部のありえない日々」既刊3巻を読んだが面白かった。
紫式部の世界観を腐女子に当てはめて、わかりみ深く表現している。
ちなみに1巻はKindle Unlimited対象作品。新刊も現在予約受付中だ。

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自分の姉も腐女子で、こういう女性を多く見てはいたのでわかりみが深いが、
同担拒否など式部も知らない日本語も数多く紹介されていて、よりわかりみが深まる。

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推しカプ
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ありえんよさみ
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また、普通の女性との感覚のズレをいかに補正していくかの処世術についても多くの項が割かれており、その辺でお悩みの方には一読の価値があるのではないだろうか。

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ところで紫式部がシングルマザーだったというのは知らなかった。
過去に読んだ本にも書いてあるんだけど。

神作家の式部は、ちょっちエバーのミサトさんっぽい。
アニメ化されたら三石琴乃が声を当てるのだろうかと思っていたら、
三石琴乃は「光る君へ」に出演が決まっていた。
これはNHKによる「神作家〜」封じ込め作戦の一環なのであろうか。

 
平安時代の腐女子という表現は「神作家〜」が初めてというわけでもない。
1991年ごろ描かれた羽崎やすみの「更級日記」も腐女子解釈。
原作者であり主人公の菅原孝標女(すがわらの たかすえの むすめ)は源氏物語の大ファン。
長年思い焦がれた王子様を諦め、平凡な男と大人の階段のぼるコマが切ない。超名作だと思う。

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源氏物語コミカライズといえば忘れてはならない野心作がある。
江川達也の「源氏物語」だ。

おそらく元担当編集者だった椛島良介がオールマン編集長に就任した流れで描かれた漫画で、
1コマずつ原文と漫画を対比させるという、超面白い試みがされている。
才能豊かな作家による、ある意味究極決定版と言える。
Kindle Unlimitedで最後まで読むことができる。

ありえないざあああ4.jpg

江川源氏物語の他にもある野心的な試みとして、
顔を見る=セックスであると解釈し、江川達也らしいサービスシーンで溢れている。
が、これが一部に大反発を招いていることを最近知った。

自分も過去に散々江川達也の批判を書いていて、まだ書き足りないぐらいだが、
源氏物語は江川後期の中では傑作の部類に入ると思う。

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ただ、途中から口語訳するのが作業化していき、作者が飽きてしまっているのが残念だ。
 

自分の中でベストな紫式部像は
集英社「少年少女日本の歴史」5巻における、天才・あおむら純の描いた紫式部だ。
後年、人物日本の歴史で紫式部単独の漫画も出ている。

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現在、探偵ナイトスクープの秘書役をやっている増田紗織アナウンサー(ファンです)を見るたび、
あおむら純の紫式部を思い出す。

 

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1941年生まれのアメリカのゴム人間。水木しげる「プラスチックマン」 [名作紹介]

とんでもない予算とリスペクトを投入して、
アメリカで実写映像化された尾田栄一郎「ワンピース」ですが、
ゴム人間という設定はアメリカ発なので、里帰りと言ってもいいのかもしれない。

1961年開始のアメコミ、「ファンタスティックフォー(以下、FF)の主人公はゴム人間で、
アニメ化されて日本で放送された時は「宇宙忍者ゴームズ」というタイトルだった。



ゴム人間がホームズのように謎を解く、 というところから付けられた邦題なのだそうだ。
ちなみにダチョウ倶楽部「ムッシュムラムラ!」もゴームズが元ネタ。

ゴムゴムのしわざ5.png
(画像は20年ぐらい前のもの)

他にもアメリカにはゴム人間漫画がある。
それが今回紹介する「プラスチックマン」だ。

wikiによると、登場は1941年とFFより20年も古く、
FFの出版社マーベルコミックのライバルであるDCコミックが創造したキャラクターである。

ゴムゴムのしわざ6.jpg

FFは1967年にアニメ化されたが、
プラスチックマンのアニメはそれより12年遅れた1979年。
日本でも放送され、これを自分は見ていた。思い出のアニメである。
ワンピースを見た時、プラスチックマンをすぐ連想した。



子供心に、なんでプラスチックなんだろう?と思ったものだが、

「Plastic」とはもともと「可塑性の」という形容詞であり、名の由来は化学物質としてのプラスチックではなく、「Plastic Substance(可塑性物質:粘土や蝋)」である。物質名としての「プラスチック」が一般化したのは1960年代になる。

ということなのだそうだ。(wiki)
ちなみにプラスチックマンの本名は「パトリック・"イール"・オブライアン」。
イールはうなぎのことなので、ニョロニョロしてる感を演出しているのだろう。

そのプラスチックマンを、
ゲゲゲの水木しげるがコミカライズしていたと知った時は目を疑った。

ゴムゴムのしわざ2.png

1958年という、水木の作品の中でも初期の初期。
青林堂から復刻版が出ているので購入して読んでみた。全集にも収録されている。
これを描いている現在、Amazonでは全集以外の取り扱いがない。

ゴムゴムのしわざ4.png

かなりアメコミっぽい絵柄である。
水木しげるの絵のルーツのひとつはアメコミで、
たまにまんま模写してることがあるので油断はできないが、デッサンを頑張っていただけあって上手い。

ゴムゴムのしわざ3.png

男が妊娠してプラスチックマンが生まれるという、
水木らしいとぼけたオリジナルストーリーになっている。

ゴムゴムのしわざ1.png
ロードローラーだっ!

 

貸本漫画集 ロケットマン他 水木しげる漫画大全集

貸本漫画集 ロケットマン他 水木しげる漫画大全集

  • 作者: 水木しげる
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/09/02
  • メディア: Kindle版



DCコミックス プラスチックマン 1/10 アートスケール スタチュー

DCコミックス プラスチックマン 1/10 アートスケール スタチュー

  • 出版社/メーカー: アイアンスタジオ
  • 発売日: 2018/06/27
  • メディア: おもちゃ&ホビー






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畏怖すべき大槻一翔のスタンド能力「欅姉妹の四季」「ピッコリーナ」 [名作紹介]

初見の印象は、
よくわからん漫画というものであった。
「欅(けやき)姉妹の四季」全4巻/大槻一翔

欅姉妹の四季 1巻 (HARTA COMIX)

欅姉妹の四季 1巻 (HARTA COMIX)

  • 作者: 大槻 一翔
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/01/15
  • メディア: Kindle版

どこでその存在を知ったかは忘れたが、
購入動機は、絵がエロウマかったからなのは間違いない。

とにかくめちゃくちゃ上手い。見せ方も分かってる感じだし、
脱いだ衣類などの小物の描写、ロングショットの背景も完璧。
情報量も、細かいけどうるさすぎない。ちょうど良い塩梅だ。

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ただ話がよく分からない。
ただただ、セクシーな絵をどう見せるかということに終始、徹底した日常系という感じか。
それなのに話が時々男のスケベ目線を嫌悪する感じになる。

ところがである。
末妹の幼女がビキニで男友達と水遊びに行くのを説教する話があったかと思えば、
幼女の足をマッサージしたりするギリギリアウトな気もするエピソードがある。
そこがよく分からなかった。

スケベ目線に厳しいのは、
コンプラ的なエクスキューズなのかもしれないとも思った。
もちろんそういう意味がないこともないのだろうが、本質的なことではないのかもしれない。

作品として非常に重要なのは、作者が女性だということだ。
最初は「かずと」なのかと思っていたが、「いちか」と読むらしい。

 
そんな大槻一翔の新作、
「ピッコリーナ」が発売されたと知ったが、購入は迷った。
あらすじを読むと、バニーガールと焼き鳥屋の恋物語だという。
全然そそられないんですけど。…っていうか意味不明。

しかもヒロインのそっくりさんが4人ついてくる。おそ松くんか?


ピッコリーナ 1 (青騎士コミックス)

ピッコリーナ 1 (青騎士コミックス)

  • 作者: 大槻 一翔
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/03/20
  • メディア: Kindle版

で、
ずっと迷ってたんですけど、
いろいろあって先日「ピッコリーナ」の購入に至りました。

そして読んでみて作画に圧倒された。

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これはあれだ、
もちろんスケベを期待する読者に対するサービスでやってるのもあるけども、
女性でも同性に感じる女性の体、仕草の美しさ、
それを追求するのが作者の大槻一翔のまんが道、スタンド能力なんだなって思い至りました。

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(画像は「欅姉妹の四季」)

鍛えられた、磨かれた肉体の美しさ。
それは男でも男に見惚れることがあるので分かる。

自分も昔山本KIDみたいな体に憧れ、鍛えに鍛えたことがある。
最近では実写ワンピースのゾロ役の真剣佑がすごかった。

いちかばちか4.png
(画像は「ピッコリーナ」の焼き鳥調理描写)

磨かれ鍛えられた肉体は純粋に美しいもの。
もちろん異性を見る目にはスケベ心もプリインストールされてるのは逃れられない業だけれども、
それだけじゃない、純粋に美しいと思える部分も必ずあるのだ。

ファッションの基本はその健康的な体の線を出すこと。
ギリシア彫刻だって裸の美しさだ。

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(画像は「欅姉妹の四季」)

それを悪徳だルッキズムだとか批判するバカな考え方がある。
本能が狂っとるよ、と思う。
で、こういうものを描いているのは必ず男性だという固定観点から抜け出せない人もいる。
女性なのに女性が分からない女性が一定数いる。

そんな女性が青木さやかのように、
「なに見てんのよ!」と吠えているのをネットでよく見かけるが、
誰もお前なんか見てねーよ。お呼びじゃないのである。

優れた男性向けエロ漫画を、女性が買うことがあるのを知っている人は少なくない。

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(画像は「欅姉妹の四季」)

そういうスケベ心への嫌悪に対する通過儀礼はあると、
1巻で伏線を貼り、最終巻のとあるエピソードがその説明だったのかもしれない。

大槻一翔「ピッコリーナ」2巻がいつ出るか知らないが、
次回は発売前から予約して購入することにする。

 

欅のまんが棚 (HARTA COMIX)

欅のまんが棚 (HARTA COMIX)

  • 作者: 大槻 一翔
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/11/15
  • メディア: Kindle版



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年またいじゃったけど第五回もう年も変わりますが去年読んだこの漫画がすごい!賞 [名作紹介]

あけましておめでとうございます。

今年はアクセス数が三分の一に激減しましたが、なぜか収益は変わりません。
ソネットがブログサービスを手放したせいか、データが実態に近いものになったのかな?
おかげで運営費が賄えてますし、月の漫画購入費の足しになっています。

ほとんど自己満足のこのブログですが、今年も愛読いただければ幸いです。
いつまで続くかは正直分かりませんが。また動画もやりたいです。

さてコロナ禍もあり、ここ2年ほど開催しなかった
「もう年も変わりますが去年読んだこの漫画がすごい!賞」を今年は発表!

対象となるのは2022年に自分が読んだ漫画作品。
2022年のうちに選ぶと、1年の後半に読んだ漫画の方が印象が強くなるので、
1年寝かして選考しようという、なんて平等なこの企画!

っていうか、去年のうちにやらなきゃダメだったんですな。
久しぶりなんで間違えちゃったよ。
まあいいや。

過去の大賞作品はこちら。
2017年第一回大賞「ばくおん!!」おりもとみまな
2018年第二回大賞「建安マエストロ!」中島三千恒
2019年第三回大賞「王道の狗」安彦良和
2020年第四回大賞「デザイナー 渋井直人の休日」渋谷直角

ちなみに選考の対象となる2022年、Amazonで注文した件数は251件。
その中の栄えある1位は…、

2023年大賞「シートン」谷口ジロー
マスターシートン.png
2017年に亡くなった「孤独のグルメ」の谷口ジローが、2004年から07年にかけて連載した作品。全4巻。氏は20代の頃にも「学習漫画シートン動物記」を手掛けており、過去に「ブランカ」「犬を飼う」なども描いていることから、得意で思い入れのある題材なのだと思われる。

自分は子供の頃に学研の学習漫画でシートン動物記を色々と読んでいてそちらの方も色々思い入れがあるのだが、谷口版「シートン」はそれらのエピソードが全てシートンが体験したものに置き換わって描写されている。

考証的に正しいのかよく分からないが、全4巻が一本筋が通った話になっていて読みやすいと思う。
その筆致は緻密で、淡々としているが中身はゆっくりと燃え上がっており、爆発しそうなのを知性で抑えこむかのようなきわどいテンションがある。人間があまり足を踏み入れていない「自然」という神の領域に踏み込む、人間の冒険を描いている。

紙の本はけっこうなお値段がする。新装版はさらにめちゃ高い。紙の本は値上げする一方だと思われるので、気になる人は早めに押さえておいた方がいい。Kindle Unlimitedで1巻だけ読めるので、電子版もお勧め。
ジョジョの奇妙な冒険第四部で承太郎がシートンの言葉を引用していたが、そこに興味を持った方は絶対に読んで損しないはずである。

 
次点「いつか中華屋でチャーハンを」増田薫
いつか6.png
大胆な人物のデフォルメと、あたたかみのある料理描写。そしてひたすら町の中華屋さんを食べ歩くというアイディア。全てが味わい深い。一部モノクロ化された紙の本を電子化して、さらにフルカラー電子版も購入したが、紙のままでもう一冊手元に置いておきたいぐらい素晴らしい作品だと思う。ただし周囲で共感してくれる人がいない!もちろんレビューは絶賛が多い。皆様はどう思われるか。ということで次点となった。

描いているのが本業漫画家でないせいかミュージシャン、発想が素朴で新鮮。誰が漫画を描いていてもおかしくない、日本の層の厚さを感じさせもする。
過去に記事化している
 

次次点「マンガ獄中面会物語」塚原洋一
めんかい3.png
片岡健のルポルタージュ「平成監獄面会記」のコミカライズ。
死刑囚に実際に会いにいくという説得力はものすごいものがある。
報道は?司法の現場がどうなっているのか?噛み合わない歯車を回す社会の潤滑油の成分がどういったものなのか?その軋む音を聞かずに済んでいる我々の生活とは何なのか考えさせられる。

続編が電子版のみで発売されている。
わかりにくいのでもう少しちゃんとPRしてくれたら、もっと売れるだろうにと思う。
過去に記事化している
 

さらにこの際だから紹介したい作品を挙げていく
「吾妻鏡」竹宮 恵子
あん3.png
大家に歴史漫画を描かせる「マンガ日本の古典」という企画の一編。
「鎌倉殿の13人」副読本としてものすごい重宝した。
作者が畠山重忠にどんどん傾倒していく感じが伝わってきて面白い。

謀反の疑いをかけられたら、いかにして冤罪を訴えるかということをよく考えるのだけど、
考えるだけ無駄なのだという人間の本質がよく分かる歴史素材だ。
過去に記事化している。

 
「この社会主義グルメがすごい!! 」内田 弘樹/河内和泉
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擬人化された社会主義国家が自国の(あまり美味しくなさそうな)料理を紹介する漫画。
読むと口の中に土の味が広がるかのようで、社会主義は不味そうと思えてしまうのは、戦前戦後の風刺漫画家も思いつかなかった、とんでもない風刺表現が今ここに誕生したのだってな気がする。

元は同人誌なのだそうだ。
やはり日本漫画のレヴェルは高い。

 
「パルノグラフィティ」板垣巴留
パルのグラフティ2.png
バキの板垣恵介の娘が家の様子を紹介した貴重な漫画。
範馬勇次郎のような父親像も面白いが、娘も大概なのが面白い。
過去に記事化している。

 
「かくかくしかじか」東村アキコ
かくかく6.png
自伝的内容。絵が上手いとはどういうことか、考えさせられる。
過去に記事化している。

 
「メンズエステ嬢の居場所はこの社会にありますか?」鶴屋なこみん
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風俗嬢によるエッセイ漫画。作画担当は別なのかと思いきや本人が描いているらしいので、やはり日本の漫画の層は分厚いと思わせるクオリティ。
過去に記事化している。

 
「日本人なら知っておきたい日本文学」蛇蔵
キラキラ1.png
天地創造デザイン部の蛇蔵。蛇蔵作品はほとんど買っていて、いずれも傑作である。その才能に見合った名声が得られてない気がする。この際だから推しておきたい。
過去に記事化している。


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ネタバレあり!ゴジラ・マイナスワン。一点減点。 [名作紹介]

ゴジラマイナスワンを見に行ってきました。
4回泣きました。
以下ネタバレあり。



ドラゴンクエストユアストーリーのこともあったし、
あまりゴジラに興味がないしで躊躇していたのだけども、
アメリカで大ヒットとかニュースで報じられてたり、
YouTubeなどに有名評論家のレビューがアップされてそれも見たいなということになり、

水曜日の料金安い日に行くか!…と思ったけど面倒臭くなってやめて、
その翌週の水曜日、今度こそ!…ということで本当に見に行って参りました。
チケット代1300円。駐車料金が1時間無料で400円の1700円の出費。
映画って高いよなー。

平日の1回目ということもあって、お客さんは5組ぐらい。
ちなみにファイナルウォーズ(北村龍平ファンなので)シンゴジラ(庵野秀明ファン)は劇場で見てるので、
邦画のゴジラは公開されるたび19年間欠かさず見ている計算になる。

 
というわけで最新作はどうだったんか。
今回のゴジラは出てくる前兆がある。
戦争から逃げて、黄昏れる神木くんが海を眺めていると、何かたくさんプカプカ浮いてる。
これが前兆。

プカプカしてるものがアップにならないので、なんだろうと頭の中で候補を挙げる。
正解はその中のひとつにあった、内蔵が飛び出ちゃった深海魚。
水圧の高いとこから低いところに一気に移動したために起こる現象。
アップにしないのは、必要以上にグロい映像をお客さんに見せたくないという、山崎監督のエンタメ精神ではなかろうかと思う。

そして出てくるゴジラも、逃げ惑う人をパックリコするのだが、咀嚼しない。
放り投げるだけ。
この辺も、必要以上にグロい映像をお客さんに見せたくないという山崎監督のエンタメ精神なのではなかろうか。

地元に戻ってくる神木くんでしたが、家も近所も焦土。
隣の家のおばさんも、生きて帰ってきて非国民みたいな冷たい態度で神木くんガッカリ。

このおばさん、モブかと思っていたら後でも出てきてドキリとさせられる。
よく見たら安藤サクラじゃないですか。こないだ見たボクシング映画良かったなあ。

ヒロイン登場。
逃走中に神木くんに押し付けた赤ん坊を神木くんがどうするか、遠くからしっかり観察。
害は無さそうだと赤子ともども神木くん宅で居候を始めるしたたかヒロイン。
しかも赤ん坊は拾った戦災孤児で、処女性もキープというキャラデザイン。

さらにその数年後、
ひとつ屋根の下で一緒に暮らすのに、結ばれてないというラブコメ関係!
これも山崎監督のエンタメ精神なのである。
ハリウッドよ、これが日本だ!

マイナスワン1.png
(画像はベンジャミン・ボアズ/青柳ちか「日本のことは、マンガとゲームで学びました」

よく見ると、ヒロイン演じるのはシン・緑川ルリ子こと浜辺美波
令和特撮映画の女王様だ。

そんな処女性キープの令和特撮女王の欠点は、お乳が出ないことにあった。
ミルクを買う金もないし、どうする赤ん坊の食糧問題!
そこに助け舟を出してくれるのが誰であろう、安藤サクラなのであった。
この赤ん坊がらみのベビーターンで私は泣いてしまった。

安藤サクラが提供してくれたお乳で餓死を免れる赤ん坊。
もちろん安藤サクラ自ら出したのはお乳ではなく、ミルクと交換するための食料であった。
っていうか、腹減ったとぐずりもしない情緒の安定した赤ちゃん。
これも山崎監督のエンタメマジックである。

ゴージラ、ゴジラ高収入♪
神木くんは水雷撤去の仕事を見つけ、たっぷり危険手当てをもらって家を新築。バイクにも乗る。
しかし戦争のトラウマでたまに発狂しかける神木くん。
そんな神木くんを、豊かかどうかよく知らないけどとりあえず胸で全力で受け止める浜辺美波なのであった。
ここでゴジ泣き2回目。

そしてゴジラが襲来。
水雷撤去のついでに足止めを依頼された神木くんだったが、
馬鹿でかくなったゴジラによって、応援に駆けつけた戦艦も大破させられてしまう。

こんなの勝てるわけねえ!
神木くん無力な民間人なのに、どうやって倒すんだと思わされる。

ゴジラが銀座に襲来。
今年のゴジラは、背ビレが尻尾の方からガシガシ盛り上がっていき、最後にものすごいレーザーを吐く。
爆炎が成層圏にまで達する勢い。この映像がローアングルで迫力だ。


運悪く、ゴジラの視線の先にあった電車に乗っていた浜辺美波の車両がピンポイントでゴジラに狙われ、浜辺美波が鉄棒運動からの海にダイブ。

ぬれネズミになった浜辺美波が銀座を歩いていると、またゴジラに追われる。
逃げ惑う群衆の中から都合よく浜辺美波を見つける神木くん。
愛の力だなあー、って、そんなワケあるかい!

ゴジラビームに吹っ飛ばされる瞬間、浜辺が体当たりで神木くんを物陰に吹っ飛ばす。
目覚めた神木くん、浜辺美波が吹っ飛ばされた先を確認すると、一面廃墟である。

次のシーンが浜辺美波のお葬式で、残された子供が泣いてるシーンで本日3度目のゴジ泣き。
この子役にどう演技つけてるんだろう。ガチ泣きだ。

しかし浜辺美波が死ぬシーン、ちょっと吹っ飛ばされ方がわざとらしい。
ビームを避けようというより、受け止めに行った余裕がある感じに見える。

「この世界の片隅に」でヒロインが連れていた姪っ子が死ぬシーンみたく、一瞬何が起こったのかわからないみたいな演出の方が良かったのではないか。

民間主導でゴジラ対策本部が作られ、神木くんも参加。
水雷撤去に関わっていた科学者を演じる吉岡秀隆がプランを明かす。

ゴジラに大量のフロンガスを巻き付けて、海底に引きずり込んで水圧で殺す作戦だ。新しい。
念押しで、海底から海面まで急浮上させて潜水病を食らわすオマケ付き。

ゴジラをトラップに誘導する飛行機乗りの役目を神木くんが引き受ける。
作戦が失敗したとき、爆弾抱えて特攻する覚悟である。
かつて神木くんのビビりで仲間を全滅させられた整備士を探し出してメカニックを依頼するのだった。


ハセガワ ゴジラ-1.0 日本海軍 九州 J7W1 局地戦闘機 震電 劇中登場仕様 1/48スケール プラモデル SP579

ハセガワ ゴジラ-1.0 日本海軍 九州 J7W1 局地戦闘機 震電 劇中登場仕様 1/48スケール プラモデル SP579

  • 出版社/メーカー: ハセガワ(Hasegawa)
  • 発売日: 2023/12/27
  • メディア: おもちゃ&ホビー

ここからあまりトラブルなく進む。
ブリーフィングで言ってたことをそのままやってるだけで、若干退屈なシーンであった。

ところで、
ゴジラを深海に引き摺り込まなきゃいけないのに、まだ足のつくとで作戦開始したなと思ったら、ゴジラが海底深く引き摺り込まれていった。…ということは、ゴジラは立ち泳ぎしていたのだろうか?

例によってゴジラの生命力が想定以上(観客的には想定内)で、神木くんの特攻でゴジラを倒す。
しかし整備士の粋な計らいで、神木くんは寸前で脱出できたのであった。

そして浜辺美波も生きていたのだった。
よく分からんが良かった良かった。
ここで4度目のゴジ泣き。嗚咽する勢いである。

 
帰り道、ふと思った。
あれ普通死ぬよな。浜辺美波のことである。
まず結構な距離を吹っ飛ばされて、瓦礫に体を叩きつけられたはずだ。
そこから熱線で、、、死体も見つからずに葬式やったのだなという理解だった。

そこで思い出したのが、病院で再会した浜辺美波の首筋にチラッと映った変なアザである。
そうか!浜辺美波はゴジラ人間になっていたから助かったというオチなのか。
すると次回作「ゴジラ・マイナスツー」ではゴジラ人間になった浜辺美波が熱線を吐くのか!

…そんなわけあるか!

おそらく、取ってつけたように生きてたことにしてもお客さんは不満に思わない、
そういう計算が山崎監督の中にあったのだと思う。
例えあのアザがなかったとしても、俺はこのラストで良かったと思う。

それでも不満なマニア向けのエクスキューズとして、
浜辺美波のゴジラ人間という生存の理屈づけを山崎監督はした、そういうことなのではないかと思う。

 
と、いうわけでゴジラマイナスワン。俺は非常に良かったです。
思い返すと色々ご都合主義というか、ベリースウィートな寓話的なお話なのかもという気もしますが、見ている間はほとんど気になりませんでした。画作りも豪華で、大迫力。

あまり残るものはないのですが、「見ている時ひたすら楽しくて、終わって劇場を出たら全て忘れている」、といったようなエンタメの究極に近い作品なのではと思いました。

 
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