「六三四の剣」感想つづき [名作紹介]
というわけでえ、
前回ファミコン版と比べてみた「六三四の剣」。
今回は漫画の感想を書いてみようと思います。
まず手当たり次第にケンカを売りまくる六三四!
注目していただきたいのが、このとき六三四がまだ3歳だというところ!
野良犬と戦って重傷を負ったりします。
そんな3歳児いるかあ?
かなり無茶苦茶なのですが、いかにも漫画っぽくて勢いがあって嫌いじゃありません。
この調子で進んでいけばどうなるものか?
よほど荒唐無稽な話の展開になっていくのかと思いきや、なんか控え目。
宿敵、修羅との対決も大した障害もなく何度も実現。
もっとB・Bのように!はじめの一歩のように!
ライバル対決が激しく邪魔されるのかと思っていたから拍子抜け林中。
修羅を倒して優勝した直後の六三四に、
修羅に準決勝で負けた少年が勝負を挑んできて、
それで六三四がKO負けしてしまうのは驚いた。
そのあと3年後の話になってしまい、そのことはほぼ忘れられて高校編が始まる。
その高校生編の冒頭で登場する武者潔和は、
漫画読む前からゲームで知ってるぐらいインパクトのあるキャラクターなのだが、
多少読者をビビらすぐらいの役割で、すぐ仲間になってしまう。しかも頼りない。
…村上もとかの考えてることがよく分からない。
少なくともコテコテの少年漫画脳の作家でないことは分かる。
どちらかというとリアル系寄りの世界観になっていると思う。
だからこそこの作品がヒットしたというのもあるのだろう。
ちょうど六三四の剣を読んでいる途中、
中田雅喜(なかたあき)の「空は女の子でいっぱい」を読んだのだが、
六三四の剣の愛読者だったらしく、先の展開をネタバレされていた。
タイミングの悪さにびっくりしたが、
当時の読者の熱狂も確認できて、まあ良かったかなとも思う。
ちなみに六三四の剣の文庫版の帯でも重大なネタバレがされていたりした。
六三四の剣で思い出すのが、
人気が出ないことに苦悩する村上もとかが、
「ハダカを描け!」という新谷かおるのアドバイスを受け、
そして人気爆発するという島本和彦「アオイホノオ」に書かれたエピソード。
実際に六三四の剣を読んでみると、
割と最初っからサービスショットが満載で、
あのアドバイスは実際には六三四の剣以前のものなのではないかと思った。
アオイホノオは分かり易く脚色したものだったのだろう。
ちなみに村上もとかは六三四の剣以前にも「エーイ!剣道」という漫画も描いている。
こちらは全4巻だが、増刊号で2年間連載してるのだから、あまり失敗という感じにも見えない。
驚くのは「クライマー列伝」が六三四の剣以前に描かれていたということだ。
この漫画は子供の頃に読んでかなりインパクトがあったのだが、
それ以外の作品にあまり縁がなく、「JIN-仁-」ですら読んでなかったりする。
六三四の剣といえば、斎藤一のエピソードが読みたくて、
でも何巻に載ってるか分からなくて、当てずっぽうで電書を一冊買ったら見事に外した、ということがありました。ちなみに文庫版では2巻に収録されていた第三十話「猛稽古開始の巻」。
#木村拓哉 さん がラジオ番組にてゲストの #新垣結衣 さん に誕生日プレゼントとして拙作の #六三四の剣 を贈られたそうです。
— 村上もとか (@motoka_murakami) June 5, 2023
四十年近く前に描いた作品を今もこうして人にお薦めしてくれるほど好きでいてくださったなんて、嬉しい事です。
木村さん ありがとうございます。#フロウさん #Flow https://t.co/YMGkckzt6P
マナーに親を殺された女子高生!たむらゲン「遥かなるマナーバトル」 [名作紹介]
初見がどこだったか思い出せないが、
「遥かなるマナーバトル」という漫画があることを知る。
絵も下手そうで、なんだこりゃ?という印象だった。
お試しで読んでみたが、
相手のマナー違反を指摘することでダメージを与え、
どちらかがノックアウトするまで続ける格闘技漫画だった。
安直といえば安直。でもバズりそうと言えばバズりそう。
でもTwitterのタイムラインで流れてくるのを見た事はない。
それはたまたま自分がそうだったのかもしれないけど。
話題になってそうで話題になってない感じ(くどいようだが個人の印象)に特別惹かれて1巻購入。
少しづつ読み進めていて、だんだん愛着が湧いてきたので2巻も購入してしまった。
特に2巻では、
初心者には敷居が高いとされるラーメン二郎をテーマに選んでいて、そこが気になっていたのもある。
ところが3巻は?と思ったら、
3巻は電子のみだというじゃあーりませんか!
きびしい。
売上もたたないのに紙の本を刷り続けていたら会社もなくなるし環境にも良くないことは分かるのだが、この漫画風に言えば「途中で刊行を止めるのはマナー違反ですよ」と言ってみたくもなる。
しかし、本屋の新刊台を見ると、
実にさまざまな、誰が買ってるんだ?いや誰かが買ってるんでしょうが。たくさんの続刊がひしめき合っておりまして、徳弘正也先生や、ど根性ガエルの娘ですらこの武舞台から蹴落とされてるわけですから、他作品を押し退けて居残り続ける新刊たちには地位に見合ったリスペクトを送らねばならんでしょうとも思う。
さて、
マナーバトル漫画といえば岸辺露伴は動かないの「富豪村」が最初に思い浮かぶ。
荒木飛呂彦のもつ神秘性に誤魔化されそうになるけど、よくよく考えてみると人間が作ったマナーに、神レベルの審判があるのはなんか神の権威を貶めているような気もする。とはいえ、やはりこの斬新さは荒木飛呂彦の凄さだとも思う。
遥かなるマナーバトルの初見の印象が悪かったのも、荒木飛呂彦と張り合おうってのかアアン?って感じがするからかもしれない。
もっと過去にマナーバトルがなかったか考えると、
「美味しんぼ」における山岡士郎と海原雄山のマナーバトルもあった。途中から人格者にキャラチェンジして、栗田ゆう子からまるで天皇陛下のように敬われてしまうしまう海原雄山が、山岡にやり込められて「マナー違反だ!」的な狼狽するシーンが忘れられない。明らかにこの時期の海原雄山は小物だった。まあラスボスが小物では面白くないので、後に雄山は箸の濡れ具合を指摘するマナーバトルで山岡にリベンジを果たすのだが。
この「遥かなるマナーバトル」はどうだろう。
「リストラされたCAが創作系マナーを濫造した」という通説のコミカライズに始まり、冠婚葬祭やフランス料理の食べ方、圧迫面接など、役に立つウンチク漫画としても成立している。特に結婚式スピーチのオチの逆転ロジックが素晴らしかった。絵柄的にマジボケ系ギャグ路線一択しか有り得ないところが読者を選んでしまっているのかもしれない。
読みながら、
実写ドラマ、実写映画化したら化けるのかもしれないなと思った。
その際、変におちゃらけた演出にせず、金かけてマジボケのシリアスドラマを貫いてほしい。
それがヒットしたらまた紙の本の刊行は有りえるのだろうか?
今のところ、紙の本が刊行中止になった後、再開されるという話は聞いたことがない。
(別会社から復刻的に復刊というパターンはあるだろうけど)
ところで、
好き勝手な感想を書きまくる自分がマナーを語るのもおこがましいが、
漫画を読んでいるとマナー違反の指摘って「言いがかり」とか「因縁つける」行為に似てるなと思った。
特に名刺の名前の部分を触っちゃいけないとかいう箇所。
福沢諭吉が少年時代にお殿様の名前を書いた紙を踏みつけて兄に叱られた話を思い出した。
(画像は太田じろう「学研まんが人物日本史 福沢諭吉」)
徳川家康の場合、「国家安康」は自分の名前を引き裂く言葉だとして戦争にまでなった。
(画像はあおむら純「少年少女日本の歴史」12巻)
三国志の時代は上司の名前を呼ぶのは不敬なので、字(あざな)があるという話を聞いたことがある。
名前関係は特に揉めやすいのか。
ちなみにこのブログは基本的に敬称略でやらせていただいている。
「遥かなるマナーバトル」単行本は、
カバーを捲るとそこにオマケを載せたりと作者が心を砕いている感じが伝わってくる。
俺的にツボなのが1巻カバー裏のお手紙。
勉強になるね!
性最貧国ニッポンの余裕。後藤羽矢子&玖珂ツニヤ「叡智なビデオは好きですか?」 [名作紹介]
このところ頻発している、海外のクレジット決済会社からの圧力によるものである。
こういう流れは今後も続くと思うので、とりあえず日本の会社のカードを作った。
Amazonでもそういった映像作品を扱っているが、圧力は無いのだろうか?
やはり相手を見ているのだろうか?興味深い。
叡智なビデオは好きですか?(1) (電撃コミックスNEXT)
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2022/11/25
- メディア: Kindle版
以前、朝青龍事件の煽りを受けた、
三国志を題材にしたAVのメイキング漫画を紹介した事がある。
これが定期的にアクセス数が上がる。
そのAVを紹介した漫画があるということを後で知ったのだが、
こないだついに購入して読んでみた。
それが「叡智なビデオは好きですか?」全2巻だ。
ちなみに三国志AVそのものはまだ未見。
「AVであってAVにあらず、Hよりさらに上のステージ、それが叡智ビデオ」
…というコンセプトで一風も二風も変わったビデオを紹介してくれている。
外国の山中で現実に多数の参加者がいる宝探しに行ったり、
世界の名画を再現したり、UFOを呼んでみたり。
紹介している作品の中には全裸女性が出てくるだけで、カラミがないものもある。
原作者はなんと女性、後藤羽矢子。作画は玖珂ツニヤ。
こないだイランの熟女たちが猥談する漫画を読んだが、女もスケベなのは世界共通だ(と思う)。
ツイッターフェミニストは特にその辺の認識が足りない。
この漫画が引用した調査によると、
日本のセックス満足度は世界最下位(18ヶ国中)らしい。
これだけツイフェミがエロ規制しろと言ってるのにこのザマなのだ。
これだけエロが社会に溢れているのにまだ満足できない?
日本人はよほどエロに貪欲なのだろうか?
この漫画によると、
セックスの満足度が高い北極圏の住人に学ぶというAVもある。
満足度が高い=フリーセックスみたいに捉えてしまうが、
フランスやスウェーデンならともかく、北極圏がそのようになってるとは思えない。
北極圏に満足度で負けてしまうのは、
日本人が耳年増になってるせいなのではないかという考え方もできる。
幸福度が高かったブータンが、ニュースになった後に幸福度が激減したみたいに。
ちなみにAVで紹介されてる北極圏の国には、男性器を咥えるという文化は無いようだ。
だから情報を遮断すれば満足度が上がるという愚民政策もスジは通っていることにもなる。
ところで、
この漫画を読んだあとに紹介された叡智ビデオを見たくなるかというと全然そんなことはない。
本職で無い人が作った映像がプロを絶対超えないかといえばそんなことは無いと思うが、AVにおいて絡み以外が面白いと思ったことは正直ないし、一本の映像作品として初めから終わりまで毎回通して鑑賞したい作品など全く思いつかない。
よくあるAVにもちゃんとしたストーリーを!映像作品として評価を!みたいな議論が時々起こるのも知ってる。タイトルが思い出せないが映像作家ベクトルで情熱を燃やす人がいるエピソードを描いた漫画も面白く読んだ。にもかかわらずだ。
やはり餅は餅屋だ。
だがそういうAVがあっても良いと思う。
そういう作品を出せるのは業界の余裕、自由さでもあると思うからだ。
こういった変わったAVを楽しんでいる人たちも、そういう余裕を楽しんでいるのかもしれない。
死んだおばあちゃんを食う!河内和泉/内田 弘樹 「この社会主義グルメがすごい!」 [名作紹介]
グルメ漫画の紹介が続きます。
とある漫画がきっかけなのか、近年とんでもないバリエーションで刊行されまくるグルメ漫画。
2019年の「この社会主義グルメがすごい!」も極まってるなあという作品。
擬人化されたソ連や東ドイツなどが、自国のグルメ普及のために若者の家に居候する内容。
ただし無くなった国のグルメだけあって、とんでもなく不味かったり、ネーミングセンスがひどい。
だから滅びた…。
インパクトがあるのは「死んだおばあちゃん」だ。
見た目が死んだおばあちゃんの様にひどいことから命名されたようだけど、
社会主義のおとしより扱いがどんなだったのか?ちょっと想像してしまう。
タブクリアを連想する人も多い透明なコーラも社会主義の産物だった(異説あり)。
透明にした理由がなかなかしょーもない。
社会主義は悪気があって始めたことじゃないけども、悲惨な結果をあちこちで招いたのは周知の通り。
昔の中国の風刺漫画を読んでいても、結果平等ゆえの労働者同士の足の引っ張り合いネタをよく見かけた。
私腹を肥やすやつも、資本主義よりも社会主義の方がより悪人っぽく、それを追求されないイメージ。
競争が基本ないから、不味いものもあまり工夫されないまま胃のなかに運ばれていく。。。
そりゃあ社会が衰退してきますわな。
もう少しバランスよくマルクス理論をアレンジ出来んのかいと思う。
この漫画、作画も上手くキャラクターも可愛らしい。
同人誌から商業化されたそうで、その辺は第三期グルメ漫画ブームの恩恵っぽい。
シリーズ化を狙っていたようだが、これを書いている現在Amazonを検索しても続刊の情報は無い。
めちゃくちゃ面白くって大爆笑!…ということはないのだが、
妙な専門性に、時々引っ張り出しては読み返している変な漫画である。
面白がり方の伝え方がむずかしい。
ベトナムすげえ!
でも技能実習生とか見かけるから、やっぱりそこそこ貧しいのか?
あの病気は存在しなかった?上出遼平/ 山本真太朗「ハイパーハードボイルドグルメリポート新視覚版」 [名作紹介]
ハイパーハードボイルドグルメリポート新視覚版 1 (少年チャンピオン・コミックス)
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2023/03/08
- メディア: Kindle版
前回考察したグルメ漫画ブーム第三期、新時代のその作品たち。
今回はその中から、「ハイパーハードボイルドグルメリポート新視覚版」を紹介。
この漫画は、テレビ東京で放送されたドキュメンタリー番組のコミカライズという珍しい作品。
基となった番組は、
世界の危険地帯に単身飛び込み、食レポをするというとんでもない内容。
スラムはもちろん、北朝鮮国営のレストランや、新興宗教団体に占領された土地(のちに特殊部隊が突入した)にまで行ったりする内容には大いに興味を惹かれた。
が、
番組を見て今ひとつピンとこない部分もあったので、漫画版があると知った時は購入を躊躇いもしたのだが、読んでみたらこっちの方が面白かった。単身カメラを持って取材をするディレクターが、なんと重度の潔癖症だというのだ。このプロフィールは番組で紹介されてなかった気がする。グッと面白さが増した。クローズみたいな不良漫画系の作画も躊躇する部分だったのが、思いのほか読みやすい。
そんな漫画版で最初に取材する国はアフリカのリベリア。
パフィーの「アジアの純真」で、「北京ベルリンタブリンリベリア♪」と唄われた国だ。
最貧国で、かつてエボラ出血熱が蔓延した土地柄だという。
そこで潔癖症Dの食レポをする。興味惹かれすぎるじゃないですか。
取材に協力してくれた子育てする女性の家は見るからに貧しく、
不衛生そうに描写されているが、食レポ自体は普通にこなせてしまう。
強烈だったのがエボラ出血熱のエピソードだ。
なんと現地では、エボラ出血熱など存在しないという陰謀論が蔓延しているという。
むしろ、
政府が提供する薬を服用すると発症する病気だと、ほとんどの人が信じているというのだ。
コロナみたいだな。
俺と同じように陰謀論などバカバカしいと考えるディレクターは、
エボラにかかって生還したという女性にインタビューをする。
彼女は生還したものの、重度の後遺症に悩まされている。
家族も皆エボラで死んだ。
その彼女から聞いた言葉は、
「私だけ薬を飲まなかったから助かった。家族は薬を飲んだから死んだ」というものだった。
それを聞いたディレクターの信念が、わずかに揺れたという描写が素晴らしい。
ゾクっとした。
そんなハイパーハードボイルドグルメリポート新視覚版の新刊は7月8日。
1巻の刊行から1年以上も経っている労作っぽい。みんなも読もう!
ディレクターの名前は上出遼平。
現在はテレビ東京を辞めてしまったという。
スポンサーの顔色をうかがって、危ない橋を叩きすぎる社風が合わなかったようだ。
ハイパーハードボイルドグルメリポート新視覚版 2 (少年チャンピオン・コミックス)
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2024/07/08
- メディア: Kindle版
実は二度目の対決?令和に再戦する早瀬マサト七月鏡一「8マンVSサイボーグ009」 [名作紹介]
「コミックス」のメディア史 モノとしての戦後マンガとその行方
- 作者: 山森宙史
- 出版社/メーカー: 青弓社
- 発売日: 2022/04/08
- メディア: Kindle版
サイボーグ漫画の金字塔といえば石ノ森章太郎「サイボーグ009」。
その名作が打ち切り漫画だったことはご存じだろうか。
山森宙史「コミックスのメディア史」には、こう書かれている。
>一九六四年七月に少年画報社の「週刊少年キング」で連載が始まった石森章太郎の「サイボーグ009」は、内容が「わかりにくい」という同誌編集長からの指摘を受け、六五年に連載打ち切りになっていた。だが、担当編集者と秋田君夫の意向によって、サンデーコミックス創刊時の収録作品として同作は抜擢されることになる。その結果、コミックス刊行と同時にアニメ化されたことで人気は高まり、石森はマンガ家としての地位を確立した。(81ページ)
ガンダムなど、名作にはしばしばあることだが、
「サイボーグ009」も開始時は出版社の要求する水準に反響が達していなかった。
達しなかった理由のひとつに、サイボーグというテーマの新鮮味が、
今ひとつなかったのではないかというのが今回の話だ。
前回サイボーグ漫画史について色々調べた。
一番乗りはおそらく1960年、水木しげるが貸本で描いた「サイボーグ」。
その翌年、手塚治虫と横山光輝がメジャー雑誌「少年」で争うように作品にサイボーグを登場させた。
サイボーグ009の連載開始は、そのさらに3年後と、だいぶ後発だったのである。
似たような作品が増えるとそれは「ジャンル」になるが、
そうなる前の二番手三番手は「パクリ扱い」されるのが世の常だ。
後発は不利である。
ウィキペディアでサイボーグ漫画について調べると「エイトマン(8マン)」も検出された。
殺された刑事が科学の力で蘇り、エイトマンに変身して悪と戦う漫画で、大ヒット作だ。その連載開始は009の1年前。これが正確にサイボーグ漫画かどうかは詳しく後述する。
エイトマンは
「走るのが早いぐらいしか取り柄がない」みたいなイメージを持っていたが、
去年原作を初めて読んでみたら、強力な飛び道具はあるわ、変身自由自在だわ、
足の速さも時を止める勢いがあり、かなり無敵の能力でなんとかしてくれるのでグレートに驚いたっスよ。
ぜったいスタープラチナの元ネタだと思う。
一人でなんでもやってしまうエイトマンに対し、
9人で不足を互いに補うのがサイボーグ009の武器で、あとは勇気だけだ。
子供は特に強さに敏感だ。
当時の子供にとって、009はエイトマンほど強そうに見えず、憧れの対象にならなかった可能性はある。
子供はパクリ判定も必要以上に厳しい。
009の加速装置を見て、エイトマンを連想しなかった子がどれだけいたか。
おまけにエイトマンには、
ゼロゼロナンバーのキャラクターまで登場するのである。
最初、009が打ち切りだったのも分かりすぎる気がする。
さらに言うと、
009の漫画連載開始が1964年7月19日。
エイトマンの連載開始は1963年の4月ごろで、アニメ化は1963年11月7日!
つまり009の漫画は、エイトマンのアニメ化よりも半年も遅れているのである。
これで戦うのは無理筋である。
探せば探すほどマイナス要素がザックザクだ。
ちなみにエイトマンのアニメと漫画は不祥事により1964年に終了。
009がアニメ化されるのはその2年後で劇場映画だった。
TVアニメになるのはそのさらに2年後になる。
世間の記憶からは、エイトマンの記憶もそこそこ薄れていたことだろう。
エイトマンの不祥事がなかったら、
「サイボーグ009」の名声は、今と少し違うものになっていたのかもしれない。
そういえば、
エイトマンと009が対決する漫画を買ってたじゃないかと思い出した。
8マンVSサイボーグ009 上下巻セット コミック 秋田書店
- 作者: 平井和正/原作 桑田二郎/原作 石ノ森章太郎/原作 七月鏡一/脚本 早瀬マサト/作画 石森プロ/作画
- 出版社/メーカー: ノーブランド品
- 発売日: 2023/07/20
- メディア: コミック
「8マンvsサイボーグ009」全2巻。幻魔大戦リバースの早瀬マサトと七月鏡一コンビの作品。
お値段は一冊1480円とお高めだが、単行本や完全版に収録されてないエイトマンのエピソードもついてくる豪華仕様。
本当は積読になっている009全巻を読破してからVSを読もうと思っていたのだが、
009の基本的なエピソードは以前読んで知っているので、VSを先に読んでみることにした。
リバースの時と同じく、仮面ライダーブラックネタもある。
そんな「8マンvsサイボーグ009」を読んでみてどうだったか?まず絵が良い。
「幻魔大戦リバース」は、アニメで見るほど早瀬マサトの絵がオリジナルに似てないなと思った。
これは幻魔大戦の連載時期が、
早瀬マサトがベースとしている石ノ森タッチの時期と一致してないせいもあったのだろう。
「8マンvsサイボーグ009」はアニメで見たようなそっくり感がある。
フランソワーズがかわいい。
それでいて、エイトマンの作画の桑田二郎のキャラも似ているのである。
石ノ森章太郎独特のドラえもんみたいな鈍重そうな足をした009と、
スマートな足をしたエイトマンが並走して違和感ないのも素晴らしい。
幻魔大戦リバース11巻に対して「VSは」2巻完結。
内容的には2巻にするにはページが少し足りなく、余った部分はエイトマン完全版でも未収録だった話、「決闘」を収録。その決闘のエピソードは本編のテーマとも絡んでおり、話を膨らませていて無駄がない。
悲しすぎるエイトマンのラストの先を、希望を感じさせるように見せてくれて感動的。
これからエイトマンを読むと言う人には、ここまで読んで完結だと勧めたい出来だ。
ところで、
エイトマンはサイボーグと呼べるのかと前述した理由を描く。
「VS」でのギルモア博士は「どちらでもない」と答えている。
サイボーグとは人間を機械化していったものと理解している。
ところがエイトマンは物質的には全て作り物なのであり、機械なのだ。
それじゃあロボットじゃないかという話なのだが、
超科学技術により人間の魂は入っているみたいなニュアンスなのである。
ギルモア博士のネームを読んでも、この辺はよく分からない。
エイトマンの原作者が、
「8マンへの鎮魂歌」として執筆した「サイボーグ・ブルース」という小説もあった。
読んでないが、書いていくうちにエイトマンとは別物になったという。
とりあえずエイトマン自身はサイボーグとはいえないようだ。
エイトマン自身もロボットを自称している。
ただしエイトマン本編には後半サイボーグが登場するので、009よりも1年早かったかは更なる検証の必要があるが、サイボーグが登場する漫画として先に始まっているのは間違いない。また当時の読者も、ロボットとサイボーグを同じようなものだと思っていた可能性もある。
(画像は「8マン完全復刻版」6巻)
エイトマンvsサイボーグ009第一回戦はエイトマンの完勝だった可能性が高い。
アクシデントによる対決中止といった方が正確だろうか?ある種、それも王道的展開だ。
令和に実現した2回戦の結末はどうなるか?
未読の人はぜひ確かめてほしい今すぐに。弾丸よりも早く!
8マンVSサイボーグ009 上 (上) (チャンピオンREDコミックス)
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2023/07/20
- メディア: コミック
X-MENよりも2年早いミュータント漫画、石ノ森章太郎「ミュータント・サブ」 [名作紹介]
幻魔大戦 Rebirth(1) (少年サンデーコミックススペシャル)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2017/05/02
- メディア: Kindle版
石ノ森版の今川ジャイアントロボな「幻魔大戦リバース」。
読んでわからなかった部分を履修中。
「幻魔大戦 神話前夜の章」のアニメを見たが、エロアニメになっていて驚いた。
サービスカットというレベルじゃなく、毎回アンアン言ってるのでさすがに見てられない。
石ノ森漫画も色々購入。
その中の一本、「ミュータント・サブ」を今回紹介する。
リバースでのミュータント・サブは、ベガやソニー(サンボ)を差し置いての大活躍だった。
オリジナルにもちょっとだけ登場する彼だが、漫画は最近まで読んだことがなかった。
読んだことがなかった理由のひとつは、やはりアニメ化されてないというのが大きいと思う。
あと名前がサブってのがどうもカッコ悪い。そっち趣味の専門誌を連想させるので苦手。
「佐武と市捕物控」って漫画もあるぐらい、石ノ森先生はお気に入りなのかもしれないけど。
(画像はメヂマ多田「アニパロスクランブル」/「アニパロコミックス」25号掲載)
ちなみにリバースで、一瞬だけサブがイナズマンのイメージと重なるコマがあった。
全然知らなかったが、ミュータント・サブの本名の風田三郎は、
漫画「イナズマン」の主人公の名前にも流用されているのだそうだ。
ただし実写版は渡五郎。企画段階では「ミュータントZ」だったのだと。(wiki)
で、
「ミュータント・サブ」を読んでみると、めちゃくちゃ面白い。
「神話前夜の章」がアニメ化されて、なぜミュータント・サブがアニメ化されてないのだ!?
エロアニメにアレンジしようがないからなのか?
ミュータント・サブはジェームズボンドのような王道的アクションも素晴らしいが、
見どころは心理的な駆け引きだ。
サブにはテレパシー能力があり、他人の考えてることが全て分かってしまう。
敵に情報を聞き出すときに自白させる必要はなく、問いかけただけで完落ちになってしまう。
心を読む相手は勧善懲悪的な悪人だけでなく、
清濁合わせ呑まなきゃいけない そこそこ善人な会社経営者もいたりするので話に深みが生まれている。
他にも、
同じコマを白黒逆転させて並べて超能力発動中を表現したり、
キャラクターに言動不一致な行動をさせて読者を戸惑わせておいて、
後で同じシーンをベタぬきで描いて解説付きでネタバラシして見せたり
石ノ森好みの実験的表現の導入もそこそこ相性良くいっていると思う。
ところで、
ミュータントとは突然変異体のことである。
ミュータント・サブの元々のお話は、
輸血の提供者が被曝2世だったことからスーパーパワーを身につけるという話だったのだそうだ。
この辺が、アニメ化せずに他作品と比べマイナーな存在になった原因かもしれない。
双葉社文庫版はその辺が修正されたもので、UFOの起こした爆発の影響という事になっていた。
ミュータント漫画といえばアメコミ「X-MEN」の開始は1963年9月。
ミュータント・サブの双葉社文庫版全2巻に収録されている最も古いエピソードは、
少年サンデー1965年正月号掲載。X-MENより1年ちょい遅い。
が、調べてみると、双葉社文庫版にも収録されていない、
「少女」という少女雑誌で連載した「ミュータント・サブ」があり、
そちらは1961年9月号から翌年1月号までの連載!
天下のX-MENより、
石ノ森章太郎の方が2年早くミュータント漫画を描いていたのだ!
アメリカよ、これが日本だ!
その単行本は、サンリオ出版から「少女版ミュータント・サブ」として出版されている。
BS漫画夜話の「サイボーグ009」回では、こんな会話があった。
夏目房之介
「ミュータント・サブが漫画に登場した頃は、まだミュータントなんて言葉を普通はしらなかった。よほどのSFマニアじゃないと。」
いしかわじゅん
「そうそう テレポーテーションとかさあ、サイコキネシスとかね、全部これで知ったもん。」
番組によると、
サイボーグという言葉を世間一般に広く認知させたのも、
石ノ森章太郎の「サイボーグ009」(1964年連載開始)だという。
小学館「現代漫画博物館1945-2005」には、
64年のサイボーグ009のページに、65年ミュータント・サブと67年幻魔大戦が一緒に紹介されている。
この辺が描かれた時期はまさに石ノ森章太郎の黄金期、神がかった時代と呼んで差し支えないのではなかろうか。
さてさて、「少女版ミュータント・サブ」の発見で安心していたら、
さらにそれより5ヶ月も早いミュータント・サブがあったことが分かった。
https://matsuzakiakemi.seesaa.net/article/471625682.html
1961年の「中学生画報」4月創刊号に掲載された「ミュータントX」である。
欄外に注目。主人公の名前がサブだ!
ミュータントXという海外ドラマもあったけども。
エックスのタイトルも石ノ森の方がX-MENより早かったとは、
スタン・リーもびっくりだ!
ややこしいのが、
石ノ森のミュータントXはのちに加筆され「X指令」というタイトルになって、
主人公の名前もケンになり、ミュータント・サブと同時期に別作品として雑誌掲載されたようだ。
購入した双葉社文庫版2巻の巻末に「X指令」が収録されていた。
コダマプレスダイヤモンドコミックスの「ミュータント・サブ」2巻にも「X指令」が収録されているのだが、では、タイトルはなぜか「地球人サブ」に再変更されているらしい。(主人公名もサブに戻っている)。
ダイヤモンドコミックス版はX指令に改題された翌年の刊行だという。
その後、この作品はタイトル「X指令」&主人公ケンに再び戻され、
ミュータント・サブ外伝として現在まで伝わっているらしい。
「少女版ミュータント・サブ」単行本巻末では珍しく石ノ森章太郎が解説を書いているが、
ミュータントXや、その辺のややこしいことには一切触れていない。
忙しすぎて忘れてるのだと思う。
もしミュータント・サブのタイトルがミュータントXのままだったら?
かなり歴史は変わっていたのかもしれない。惜しい。
ところで、
この「X指令」のケン、「地球人サブ」でいうところのサブですが、
なんか幻魔大戦の東丈にそっくりなのである。
並行世界の東丈だった可能性もあるが、
その辺はリバースで拾われていないようだ。
ちなみにX指令での主人公の表紙ポーズは同作者の「赤いトナカイ」とそっくり。
さらに言うと、
サンデーコミックス版幻魔大戦1巻の表紙と「怪人同盟」の表紙もそっくり。
巨匠は忙しい。
ミュータント・サブは掲載誌も多岐に渡っている。
以下にまとめてみた。
中学生画報
少女
週刊少年サンデー
別冊少年サンデー
別冊少年マガジン
月刊ぼくら
別冊冒険王
カスタムコミック
基本が単発掲載の渡鳥的な読み切り漫画なので、
少女版以外は全てのエピソードにオチがあることが保証されている。
そんなところも「ミュータント・サブ」は安心して読むことができるのでオススメだ。
宇宙の果てを見るような超能力バトルの結末、早瀬マサト&七月鏡一「幻魔大戦Rebirth」 [名作紹介]
幻魔大戦が中断されなかったら、
その先どんな展開になっていたのか?
ラスボスの幻魔大王に辿り着くまで超能力はどんどんインフレ、なおかつ宇宙でバトルだ。
おそらく絵にも描けない凄まじさになっていたと思われる。
宇宙の果てを見るようなものだ。
幻魔大戦のラストバトルも既にその兆候が出ている。
だから幻魔大戦は中断したのではないか?という疑念がある。
石ノ森章太郎は崩壊の序曲は楽しそうに描くが、
いざカタストロフィーが始まると詳細すっ飛ばしウヤムヤに終わるという展開が多い気がする。
(画像は桜玉吉「しあわせのかたち」2巻)
「新幻魔大戦」と「幻魔大戦神話前夜の章」をこないだ読み返したが、
どちらもウルトラメガ中途半端に終了している。ひどい。
こういう巨匠の態度には我慢がならん。
そんな漫画の続きがあった!
幻魔大戦 Rebirth(1) (少年サンデーコミックススペシャル)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2017/05/02
- メディア: Kindle版
「幻魔大戦Rebirth(リバース)」全11巻を読んだ。
超能力者の友人がいる早瀬マサトと、石森プロ&七月鏡一による正統な漫画続編だ。
オリジナルの終了が1967年だとすると、47年後の2014年から5年間連載されたらしい。
(画像は石垣ゆうき「MMR」)
おそらく小説版や石ノ森漫画に詳しい人むけに描かれているのだろう。
ちょっとわからない部分も多かったが、
仮面ライダーBLackからの引用だったら見開きの爆発でも分かる。
仮面ライダーBLackの爆発
幻魔大戦リバースの爆発
リバースは割と地球から離れない、土着な展開にこだわっている。
まあ「宇宙の果てを見るような」展開をしても、読者には面白く無いわな、
それでも最後は幻魔大王までの果てしなく長い距離を埋めて、
しっかりスケール感を感じさせつつ決着をつけてくれたので良かった。
しかし「宇宙の果てを見るような」漫画を描いて成功している漫画がある。
ドラゴンボールだ。
これ以上は無いだろうというスーパーサイヤ人から、さらにそのまた上、そのまた上と、
今なお膨張を繰り返している。
作品として成功してるかの判断は人によって違うだろうが、
終了して何十年経つのに現役作品を凌駕する経済効果をもたらしているのだから大成功は疑いようもない。
描かなくても許される巨匠石ノ森と、
強制的に描かされ続けた結果、漫画の新しい可能性を突き詰めたジャンプ漫画家の違いをよく考える。
若者ウケにこだわる晩年の巨匠も、
ああいう評価を得たかったのではないかと思うことがある。
それには宇宙の果てに挑まなければならなかったのだ。
(画像は石ノ森章太郎「草壁署迷宮課 おみやさん」)
ところで、
今川ジャイアントロボみたいに石ノ森キャラが多数登場する「幻魔大戦リバース」だが、
ミュータントサブの登場シーンがなんか車田正美っぽい。
それで思いついたのだが、
車田正美の「風魔の小次郎」の聖剣戦争って、
車田版「幻魔大戦」だったのではなかろうかと思った。
サイキックソルジャー飛鳥武蔵!
なんかトテツもないスケールで始まって、
なんだか分からないまま、分かったような気にさせて終わってしまう聖剣戦争。
結局、カオスってなんだったんだ?という話だが、
飯は食うのか?トイレには行くのか?学生服は着てるが生活感が全くないんだけど。
あいつらは「幻魔」だったんだよ!とすると、全てが理解できた気がしてしまうのだ。
宇宙の果てを見るようなワケのわからない宇宙戦争も、
車田正美にかかれば分かりやすい剣道団体戦になってしまう!
でも決して壮大な宇宙戦争の雰囲気は損なわない!
これが車田正美の凄さだ。
…と考えると、
「リングにかけろ」のオリンポス12神の巨大化したラスボスも、
幻魔大王のイメージだったと考えると全てが繋がる。
幻魔大戦の結末は既に車田正美が描いていたんだよ!
およそ40年前ぐらいに!
みなさまはどう思われるか。
真空パックされた原発事故の空気。いましろたかし「原発幻魔大戦」 [名作紹介]
この世の終わりか?
仕事帰りの車の中でニュースを聞きながら、そう思った。
あの頃の世間の空気を真空パックした漫画、そんな評に惹かれて購入してみた。
いましろたかし「原発幻魔大戦」全3巻。
原発幻魔大戦 コミック 全3巻完結セット (ビームコミックス)
- 作者: いましろたかし
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/エンターブレイン
- 発売日: 2013/07/25
- メディア: コミック
タイトルは「平井和正の幻魔大戦から拝借した」と後書きに書かれている。
そこは石ノ森章太郎を含めないんだ????
このところ幻魔大戦マイブームで購入した漫画は、これを含めて22冊になった。
小説まで読む気にはなってない。長そうだし。
「原発幻魔大戦」の主人公は漫画家でなく、普通のサラリーマン。
そこはなぜ作者にしないのだと思ったが、それじゃゴーマニズムか。
原発幻魔大戦は原発だけでなくTPP(環太平洋パートナーシップ協定)もテーマにしており、
その辺はゴーマニズムとも共通している。
比べると見えてくるものがある。
原発幻魔大戦の主人公は無力である。
清き一票でしかない。蟷螂(とうろう)の斧だ。
ツイッターに書き込んだり、デモに参加するぐらいしかない。
原発よ滅びよとひたすら念じ続けているだけのようにも見える。
敵はあまりに巨大である。
その辺がエスパー学生vs幻魔大王のような構図で、
まさに幻魔大戦のタイトルを冠するにふさわしいのかもしれない。
漫画「幻魔大戦」の東丈は「みじめったらしい野ねずみ」と蔑まれていたが、
原発幻魔大戦の主人公も世間から蔑まれたりもする。
総理大臣に対し「狙撃されちまえ」みたいなうかつな発言も飛び出す。
正直、あまりインテリジェンスを感じさせない。
すし食ったりAV見たりしながらも国政を憂う姿が描かれているのはリアルで、
ギャグとしか思えないのだが巻末対談によると作者はマジのガチである。
「うん みんな喰ってる」
「放射能よりタバコやめた方がいいです お大事に」
庶民にできることとしては結局のところ、
与えられた情報のどれを取捨選択していくか、
ということしかないっぽい感じがコミカライズされている。
「原発幻魔大戦」の主人公は、日刊ゲンダイへの信頼を表明してせせら笑われてしまう。
大昔コンビニでバイトしていた時、日刊ゲンダイはいつも一部も売れずに返品処理をしていた※ので、俺も爆笑の展開だったのだが、よくよく考えると笑えない。
※スポーツ新聞がほとんどであとは競馬新聞が少し売れるだけでゲンダイだけが売れてないわけではない
「ネトウヨ」
大手メディアが信用できなくなるのもわかるのだけど、
そうなると堅実でないメディアのデマに躍らされて、
取り返しのつかない暴走をしてしまう未来も垣間見えてしまう。
3巻になると、個々のニュースに対する細やかなリアクションが減り、
ただ情報を書き流すだけに見えてきてほとんどギブアップで流し読みした。
まあその辺も演出と捉えられないこともない。
いましろたかしは鈴木みその漫画などにパロディにされていて以前から興味を持っていた漫画家だ。
「原発幻魔大戦」は素朴な線でわかりやすい。「漫画」が上手い人なんだろうなと思う。
この作品以降はどうしてるのかなとツイッターを見に行ったのだが、
今はあまり積極的に情報発信はしていないようだ。
この漫画は後世に残るような気もする。
コロナ編とかあったら絶対読んでみたい。
驚くのがデモの打ち上げの飲み会に毎回若い女性が参加してるところである。
よく読み返すと、男やジジババばっかりだと寂しい奴らだとバカにされる、みたいな主人公の発想があり、その辺を理解して手配してくれる役割の人がいるようだ。運動の対外的なイメージを考えるというのは、けっこう重要で、やってる人が見落としがちなところだと思う。小林よしのりもその辺に心を砕いていた。
これが事実かどうかはともかく、ちょっとうらやましいなとも思ってしまう。
ただその女性が宇宙人の陰謀とか言い出すものだから、ああやっぱりなと思わなくもない。
繰り返しになるが、「ギャグなのかとも思ってしまうが、巻末対談を読むと作者はマジのガチ」なのである。田中康夫、孫崎享、金子勝と対談している。
いろいろ経済的な難しい問題はあるのだろうけども、
「あれをやった以上延長戦はねえっ!!」ここはすごく同感だ。
いつになるか分からないけど、
いつかどでかい地震が起こると誰もが確信してる日本ではリスクが大きすぎる。
あのとき日本は一度滅んだのだ。いまのこの世界は滅んだ日本人が見る夢の世界なのである。
石ノ森章太郎最高傑作かもしれない「幻魔大戦」を読み返す [名作紹介]
やはりサンデーコミックス版でしょと思ったが、読んでみると画質がすんげえ悪い!
1巻が昭和49年の24刷。2巻が昭和51年の25刷。昔読んだのもこんなに悪かったのかな。
ツイッターで情報をいただき、
画質が良く値段も手頃な扶桑社文庫版を再購入してしまった。
ベタのムラまで見えるかもしれない高画質!
問題のサンデーコミックス、さらに調べてみたら、
もはや画質が悪いというレベルじゃない箇所まで見つかってびっくりしている。
俺の持ってるサンデーコミックス版の「幻魔大戦」1巻25刷(左)。
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) April 14, 2024
画質が悪いってレベルじゃないんだけどどういうことなの。
右は扶桑社文庫版。 pic.twitter.com/B42CZVtRQv
話を漫画に戻す。
いやはや面白い。
予知夢のシーンとか最高じゃないですか!
ラストの見開きも、
「雪の峠」や「男坂」に匹敵する、漫画史に残る見開きと言っていいと思う。
またキャラクター造形が深い。
根性あって努力家だけど才能に恵まれず、
勢い余って説教した友人に部活のポジション争いで負けたり、
フィジカルで勝る弟に兄弟喧嘩で負けたりして鬱屈する主人公。
超能力に目覚め、スカウトにきた異国のお姫様に騎士然として振る舞うも、
「みじめったらしい野ねずみ」と軽蔑されてしまう。
すげえ口悪いヒロイン!
そんなお姫様も、参謀のサイボーグのベガから
「あなただってわがままな小娘にすぎませんよ」言われて、泣いて逃亡。
ベガはベガで超合理的精神で、
「これが戦争なのだよ」と、超能力なくしてただの小娘になってしまったお姫様を無慈悲にリストラしようとするので、「人の心とかないんか」と仲間からドン引きされる。
そんな奴らが団結して世界を救えるのか?
幻魔大戦はそういうお話。
めちゃくちゃ面白い。
「敵勢力に仲間割れさせるのが幻魔大王の最も得意とする戦法ですからな」
しかしお話は単行本2巻で唐突に終了。
諸説あるが、読者の支持が得られなかった説と、編集長とケンカした説があることから、
人気がなくて編集長とケンカになって打ち切りになったのではないかと思われる。
あの「サイボーグ009」ですら当時は不人気打ち切りで、単行本の爆売れで初めて商業的価値を認められたという。
ありそうなことである。
あまり詳しく覚えていないが、
子供の頃に石ノ森作品が山ほど段ボールに入ってうちにやってきたことがある。
その中に「新幻魔大戦」だの「幻魔大戦 神話前夜の章」があって、
あの続きが読めるのだと狂喜したのだが、
どこを探してもその中にはベガも丈もルーナもおらず、相変わらずよくわからんラスト。
なんならその中に入っていた石ノ森漫画もわけわからんものばかり。
私は一週ごとに漫画家たちが生き残りのバトルを続ける少年ジャンプアンケート至上主義の漫画で育っていたので、石ノ森章太郎の巨匠然とした余裕を感じる自由な作風が肌に合わず、どちらかというと嫌いな漫画家に分類するようになった出来事だった。
幻魔大戦は映画版も思い出深い。最近になるまで本編は見たこと無かったけど。
CMをジャンジャン投入して洗脳してしまうかのような角川商法の最初の洗礼だったのだ。
絵が違うのがたまらなく不思議だった。特に大好きなベガのデザインが違う!
ところでベガのデザインは天野喜孝や永井豪、
寺田克也から村枝賢一までさまざまなデザインがあるらしい。
リバースの不満なところはベガの出番が少ないところ。
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) April 14, 2024
デザインはかっこいいけど最初と最後しか見せ場がない。
調べてみたら、
天野喜孝から村枝賢一まで、いろんな人がデザインしてるのね。https://t.co/82VoWHHxa7
幻魔大戦を今読み返すとジョジョっぽいところがある。
世界中から超能力者が集結して戦う漫画だ。そりゃ似ることもあるだろう。
ベガとアブドゥル(顔の模様と参謀的立ち位置)、フロイとイギー(砂を操る犬)、東丈と東方仗助。ジョー東ってキャラクターもいたな。
学生帽の後ろのハネは承太郎っぽい。
主人公、丈(じょう)の帽子の後ろハネ具合も承太郎っぽい。 pic.twitter.com/EgJ9Pl9szI
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) April 9, 2024
調べていたら、
2014年からウェブ漫画として正式な続編が描かれていたことを知る。
単行本全11巻。作画は早瀬マサトと石森プロ、脚本は七月鏡一。
そちらも購入してみたので、そのうち感想を書きたい。
幻魔大戦 Rebirth(1) (少年サンデーコミックススペシャル)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2017/05/02
- メディア: Kindle版