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描けば描くほど上手くなる伝説のウソ。東村アキコ「かくかくしかじか」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

東村アキコといえば今をときめく人気漫画家。

「ママはテンパリスト」が死ぬほど面白かったが、
それ以外の作品には手を出したことがなかったので、
これではいかんと思い、たまたま視界に入った「かくかくしかじか」を1巻だけ購入。


かくかくしかじか 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)

かくかくしかじか 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)

  • 作者: 東村アキコ
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/04/25
  • メディア: Kindle版

東村アキコ版の「まんが道」とも言える自伝的作品。
美大に行くために地元のデッサン教室に入ったら、
とんでもなく前時代的なパワハラ先生に出会い、
ドン引きしつつも大きな影響を受けていく、というお話だった。

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俺だったら0.01秒で逃げだす。全5巻。

そういえば山本さほもパワハラっぽいデッサン塾に通っていたな。
デッサン教師はパワハラになりがちなのか?
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(画像は山本さほ「岡崎に捧ぐ」3巻)

1巻が面白かったので、
「かくかくしかじか」の残りの4冊もネットで購入。
届いた商品を箱から取り出したら最終巻の裏表紙が目に入ってきた。

そこに思いっきり意外な展開がネタバレされていてショックを受ける。
…もうちょっと考えてほしいわ。
 

面白かったという感想以外に
この漫画を読んで特に印象が残ったことが3つ。

ひとつめ、美大に入るのにものすごく苦労するのに就職先がない
どこに行けば就職浪人に取材できるかとマスコミが考えて真っ先に思い浮かぶのが美大なのだそうだ。

かくかく2.png

東村アキコ(47)がインタビューされた年は史上最大の就職氷河期だったそうだが、
そういえばバキの板垣の娘、板垣巴留(29)も美大卒。
彼女は就活20社も落ちた結果の漫画家選択だったらしい。
やっぱり美大卒は就職に苦労するものなのかもしれない。

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(画像は板垣巴留「パルノグラフィティ」

印象的だったことふたつ目、カネがかかる。
課題を提出するのに10万円。
東村アキコの親が援助した金額は900万円にものぼるという。
そんなに学費かけて医者にでもなるんか。医者はもっとかかるらしい…

かくかく5.png

三つめ、
デッサンを頑張っても漫画絵が上手くなる訳ではないということ。

パワハラ先生にムチ打たれながら入学試験のために死ぬほどデッサンしまくって、
美大の厳しい先生方にオッケーをもらうぐらいになっても、
漫画では編集者から「デッサンとかちゃんとやってる?」と聞かれるぐらいのレベル。

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現在も決して画力で売るタイプの漫画家ではない。

そういえば東村の美大の先輩である山田玲司も、
描いても描いても上手くならない系の漫画家だった。

ところが東村の通ったパワハラデッサン塾の先輩にはなんと
「EATMAN」の吉富昭仁がいる。
ご存知の通り、こちらはめちゃくちゃ上手い。

前述の板垣巴留は東村・山田グループに分類すべき画力だが、
父の板垣恵介は吉富グループの作家だ。
この辺も謎。

一応注意しておくが、
ここで言う「上手さ」とは、もちろん写実的に近いと言う意味の上手さである。

よく「絵は描きまくれば上手くなる」とは言われる。
荒木飛呂彦なんかも魔少年ビーティーとジョジョでは
同じ液体でも何があったんだと思うぐらい全く表現力が違う。

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(画像は1983年の荒木飛呂彦作品「魔少年ビーティー」」)

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(画像は1987年の荒木飛呂彦作品「ジョジョの奇妙な冒険」3巻」)

島本和彦なんかも画力で売るタイプではないが、
描き続けて達者になった漫画家の一人だ。
荒木も島本もたくさん描いたのだろうが、それだけでは説明がつかないことがある。

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(画像左は1982年、右は2017年。島本和彦「アオイホノオ」18巻より)

残念ながら鬼教官から厳しくデッサンを学んでも、
誰もがそのように漫画絵が上手くなれる訳ではないらしい。

合田誠はコミッカーズ1996年夏号の中で以下のように述べている。

ただし予備校で教えるデッサンが必ずしもマンガに役立つものであるかどうかは保証しません。「動かない実物のモデルを見ながら時間をかけて描き、実在感や空間感まで表現する」という訓練を基本にしているからです。同じ写実であってもマンガ特有の技術、例えば戦車を横から撮った写真を見て上から見たところを想像して描くとか、セミでもニワトリでも資料なしに記憶で描くとかの訓練にはほとんどならないと思います。

もちろんデッサンを習って無駄になると言うことはないだろうが、
効率よく漫画絵を上達させたいなら、合わせてクロッキー(短時間で簡潔に描く)をやるとか、さらなる工夫をする必要がありそうである。

むらさわ.jpg
(画像は村澤昌夫「水木先生とぼく」

むかし人から聞いた話だが、
プラモデルや粘土細工をやるのは見たものを頭の中で立体化して紙に描画する訓練になるそうだ。
そういえば鳥山明ってモデラーとしても一流だったりするよね。

 




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  • 出版社/メーカー: ファインモールド(FineMolds)
  • メディア: おもちゃ&ホビー



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智

松本零士のアシスタントをしていたころの新谷かおるが、戦闘機のリアルな描き方を松本に聞いた時、「人間の目は二つあるから写真では見えていない部分まで見えるから、当然写真を写したのとは違う絵になるのだ!」と言われて衝撃を受けた、といったような逸話が何かの本に載っていて、なるほど!と思いつつ、それって突き詰めるとキュビズムみたいになるのではないか…とか、絵に還元する時点でまた単眼の状態に戻るんじゃないの?と疑問が湧いたのを思い出しました。
絵を描く人にはわかる理屈なのかなあ。両氏ともに絵の上手さでは勝負してない漫画家だと思いますが、描かれた兵器は実に魅力的ですよね。
by 智 (2022-11-15 18:38) 

hondanamotiaruki

初期のエリア88の人物画が拙くて苦手なんですけど、メカはしっかり描けてるんですよね。同じ立体物をモチーフにしているのに全く別の理論で描かれているものが紙の上に同居しているのは不思議な気がします。

話は少し変わりますが、
「見たものを見たまま描くのに、モチーフで差が出ることはないのだから、例えば顔は描けるのに体が描けないのだとしたら、それは体と同じぐらい顔も描けてないのだ」という話も思い出しました。
by hondanamotiaruki (2022-11-17 06:03) 

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