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40代※が選ぶマンガ・ベスト47!作田啓一「マンガの主人公」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

マンガの主人公 (1965年) (至誠堂新書)

マンガの主人公 (1965年) (至誠堂新書)

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  • メディア: 新書

「マンガの主人公」という批評本がアツい!
40代の高学歴な漫画好き3人による共著で、
彼らが価値あると思う漫画47タイトルを挙げている。

…と言っても、昭和40年初版の本。

その47本のラインナップがすごい。
君の好きな漫画は入っているかな?

人の一生岡本一平
「ひとり娘のひね子さん」長崎抜天
団子串助漫遊記」宮尾しげを
ズク小僧一代記」厳谷小波/岡本帰一
正チャンの冒険」織田信恒/樺島勝一
ノンキナトウサン」麻生豊

長靴の三銃士」井本水明/牧野大誓
のらくろ」田川水泡
「黄金バット」加太こうじ

スピード・太郎宍戸左行
蛸の八ちゃん」田川水泡
「男やもめの厳さん」下山凹天
「甘辛新家庭」田中比佐良
「運藤一家」柳瀬正夢
「あわてものの熊さん」前川千帆
只野凡児・人生勉強」麻生豊
「無軌道父娘」下山凹天

「荒馬奥さん」前川千帆
冒険ダン吉」島田啓三
赤ノッポ青ノッポ」武井武雄
「半田半介・青春バンザイ」サトウハチロー/田中比左良
タンクタンクロー」坂本牙城
コグマノコロスケ」吉本三平
「ハツメイハッチャン」武井武雄

日の丸旗之助」中島菊夫
「思ひつき夫人」平井房人
「推進親爺」松下井知夫
「ガンガラがん太」帷子進
フクちゃん」横山隆一

サザエさん」長谷川町子
ヤネウラ3ちゃん」南部正太郎
ふしぎな国のプッチャー横井福次郎
デンスケ」横山隆一
「アホダラ兄弟」加藤芳郎

おトラさん」西川辰美
轟先生」秋好馨
「かっぱ川太郎」清水崑
プーサン横山泰三
少年ケニヤ」山川惣治

アッちゃん」岡部冬彦
まっぴら君加藤芳郎
「月光仮面」川内康範/井上球二
ポンコツおやじ富永一朗

ロボット三等兵」前谷惟光
鉄腕アトム」手塚治虫
忍者武芸帳 影丸伝白土三平
クリちゃん」根本進

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そこには「あしたのジョー(※1967年)」も、「鉄人28号」も、
水木しげるも藤子不二雄も赤塚不二夫も石ノ森章太郎もなかった。
最近、漫画史を調べている俺ですら知らないタイトルがチラホラ。
同じ漫画好きなのに話が合わなそう!

…というか、
俺の好きな漫画も、若いやつからはこういう風に見られるのか!
と思うとショックである。

普通の人が理解できるのはサザエさん、鉄腕アトムぐらいだろう。
月光仮面、黄金バット、のらくろ、などは懐かしのTV番組とかで取り上げられる機会が多いので、まだ知ってる人も多そうだ。

手塚治虫の作品が一作しか無いのに対し、
麻生豊、田河水泡、横山隆一、下山凹天、武井武雄、前川千帆、田中比左良が二作取り上げられている。

「鉄腕アトム」の項も純粋に作品批評であり、手塚治虫の作家性については一切言及がない。
やはり手塚治虫は戦後だったからこそ受け入れられた漫画家なのか。

終戦直後の漫画好き少年は思った。「手塚治虫の新宝島は漫画の退化だ」comic新現実Vol.4

 
この本を書いているのは
作田啓一(1922-2016年)94歳没(当時43歳)

多田道太郎(1924-2007年)83歳没(当時41歳)

津金沢聡広(1932-2022年)89歳没(当時33歳)

さくちゃん1.png

全員がウィキペディアに項目があり、全員大学教授になっとる!Σ(°Д°;
ちなみに、選ぶ漫画がなぜ47作なのかというと、
忠臣蔵四十七士からな訳で、まあ年寄りくさい。

さすがインテリなだけあって、漫画論が賢い。
「近頃の漫画はダメになった」みたいな、チンパンジーみたいな老害意見に陥らない。
「誰だって、若い頃に読んだ漫画が一番!」という真理に到達している。

-----------------以下引用-----------------
そこでわかったことは
マンガの読書はそれぞれ幼少期の思い出にかたく結ばれており、
それ以後の「成長」はみられないということだ。

ひとが思い出のマンガをなつかしむのは、
自分の幼いたましいそのものをなつかしむのである。
マンガの主人公のまわりに、ひとは幼いたましいの思い出を粘品させている。

いや世代の思い出さえそこに結晶させているのである。
「冒険ダン吉」を愛した世代、「ロボット三等兵」を愛した世代、そして「鉄腕アトム」を愛する世代。

日本文化は各世代でするどい断層でたちきられている。
そのことを思いしらせるのも、マンガの歴史の一教訓だ。

ひとは、幼年のたましいをなつかしむと同時に、
歴史のながれにたって自分のたましいそのものを客観視することができる。
自分のすきなマンガを先輩後輩の愛するマンガの群のなかにおけば、
昭和史に位置ずけられた自分のたましいを見さだめることができよう。
---------------引用ここまで---------------

この「日本文化は各世代でするどい断層でたちきられている。」という指摘は鋭いと思う。
意外と世代を超えられる名作というのは少ない。
厳密に言えば、存在しないのかもしれない。

 
どうでもいいがこの本、誤植が多い。
「スピード太郎」を「スピード小僧」と書いてたり、
「運一家」を「運一家」と書いてたり、
横井福郎を横井福郎と書いてたり、他にも微妙な間違いが散見される。

編集に関わってる人があまり漫画に興味がない気がする。
主人公を紹介する、というコンセプトも意思疎通ができてないのではないかとも思う。
自分が入手したのは初版だが、一応増刷もかけられたようである。

 
冒険ダン吉は「こち亀」などにも名前が出てくる作品なので、
知ってるけど読んだことがないという人が多いと思う。

さくちゃん4.png

南の島に漂着した少年が、原住民相手に戦争ごっこみたいなことをする漫画らしいのだが、
「マンガの主人公」の解説によると、少年の頃にこの漫画を読んだ読者が大人になって、
実際に南の島に派兵されてリアルダン吉体験をした、
「ある意味予言の書である」みたいな解説を読んで背筋が寒くなった。

さくちゃん3.png
(画像は あおむら純「少年少女日本の歴史」20巻

なので冒険ダン吉を購入して読んでみることにしました。





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「光る君へ」を見る人に推せる源氏物語漫画を紹介。D・キッサン「神作家紫式部のありえない日々」 [名作紹介]

2024年のNHK大河ドラマ、「光る君へ(ひかるきみへ)が始まった。
エロ小説の元祖とも言われることもある源氏物語の著者、紫式部を吉高由里子が演じる。

「世に残ってる本ってなァみんなエロ本なんだよ」
やらc9.png
(画像は土田世紀「編集王」5巻

エロ作品は残る。
遣唐使もエロ小説を持ち帰る。普遍的な人の営みだからだ。
それでいてタブーでもある。白昼堂々、公衆の面前でディカッションされるものでもない。
エロは物語を通して、こっそり共有するのが最適なのかもしれない。

「男と女のトラブルが文明を進歩させたんだ!」
ありえないざー1.png
(画像は手塚治虫「人間ども集まれ!」

とは言いつつ、俺個人としては源氏物語にあまり興味がない。
むかし学研漫画で読んだけど、少女漫画っぽいタッチで、内容もあまり頭に入ってこなかった。
女性向けの内容なのだろうかと思うことはあるが、それが全てでもないらしい。

むかし女性作家、群ようこの「アメリカ居すわり一人旅」という本を、
教師から無理やり読まされたことがあったが、

旅先で日本文学を研究しているアメリカ人から源氏物語について聞かれて、
読んだことないと答えると納得できないと食い下がられて、
アメリカ人だって全ての人がアメリカの有名文学作品読んでるとは限らないでしょうと反論するやりとりがあって、それを思い出す。

今回の大河もチラッとしか見てない。
「殴り合う貴族たち」を連想させる、ずいぶん殺伐とした展開だった。

そもそも吉高は従来の式部のイメージに当てはまらない役者だ。
どちらかというと吉高は清少納言だろうと思うが、新機軸を打ち出したいのだろう。
清少納言といえば、そちらも出てきてファーストサマーウイカが演じるらしくて、それは見てみたい。



D・キッサン「神作家紫式部のありえない日々」既刊3巻を読んだが面白かった。
紫式部の世界観を腐女子に当てはめて、わかりみ深く表現している。
ちなみに1巻はKindle Unlimited対象作品。新刊も現在予約受付中だ。

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自分の姉も腐女子で、こういう女性を多く見てはいたのでわかりみが深いが、
同担拒否など式部も知らない日本語も数多く紹介されていて、よりわかりみが深まる。

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推しカプ
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ありえんよさみ
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また、普通の女性との感覚のズレをいかに補正していくかの処世術についても多くの項が割かれており、その辺でお悩みの方には一読の価値があるのではないだろうか。

ありえないざあ4.jpg

ところで紫式部がシングルマザーだったというのは知らなかった。
過去に読んだ本にも書いてあるんだけど。

神作家の式部は、ちょっちエバーのミサトさんっぽい。
アニメ化されたら三石琴乃が声を当てるのだろうかと思っていたら、
三石琴乃は「光る君へ」に出演が決まっていた。
これはNHKによる「神作家〜」封じ込め作戦の一環なのであろうか。

 
平安時代の腐女子という表現は「神作家〜」が初めてというわけでもない。
1991年ごろ描かれた羽崎やすみの「更級日記」も腐女子解釈。
原作者であり主人公の菅原孝標女(すがわらの たかすえの むすめ)は源氏物語の大ファン。
長年思い焦がれた王子様を諦め、平凡な男と大人の階段のぼるコマが切ない。超名作だと思う。

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源氏物語コミカライズといえば忘れてはならない野心作がある。
江川達也の「源氏物語」だ。

おそらく元担当編集者だった椛島良介がオールマン編集長に就任した流れで描かれた漫画で、
1コマずつ原文と漫画を対比させるという、超面白い試みがされている。
才能豊かな作家による、ある意味究極決定版と言える。
Kindle Unlimitedで最後まで読むことができる。

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江川源氏物語の他にもある野心的な試みとして、
顔を見る=セックスであると解釈し、江川達也らしいサービスシーンで溢れている。
が、これが一部に大反発を招いていることを最近知った。

自分も過去に散々江川達也の批判を書いていて、まだ書き足りないぐらいだが、
源氏物語は江川後期の中では傑作の部類に入ると思う。

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ただ、途中から口語訳するのが作業化していき、作者が飽きてしまっているのが残念だ。
 

自分の中でベストな紫式部像は
集英社「少年少女日本の歴史」5巻における、天才・あおむら純の描いた紫式部だ。
後年、人物日本の歴史で紫式部単独の漫画も出ている。

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現在、探偵ナイトスクープの秘書役をやっている増田紗織アナウンサー(ファンです)を見るたび、
あおむら純の紫式部を思い出す。

 

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かつて日本を抜いた中国漫画のサドンデス。「世相漫画で知る中国」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

悪徳政治家を失脚させる影響力をもった中国漫画!
いずれ日本は抜かれるであろう!

…みたいな序文が書かれたのは1984年の「中国漫画史話」
片寄みつぐ氏の見解だ。過去記事参照のこと。

それから4年して、
どうにも事情が一変してしまったらしい。


世相漫画で知る中国

世相漫画で知る中国

  • 出版社/メーカー: 蝸牛社
  • 発売日: 1988/10/01
  • メディア: 単行本

1988年に蝸牛社から出版された「世相漫画で知る中国」には、こう書かれている。

それは'80年代初めまで見られたが、以後、政治的風刺は見られなくなった。(39ページ)

漫画のなかのソビエトやベトナム風刺も’ 82 年8月を最後に紙面から消える。以後、外国批評のテーマは見られなくなった。(49ページ)

中国で官僚風刺は自由だが、政治家の風刺は許されていない。(65ページ)

ところどころにさらっと真逆のことが書いてあるので誤読を疑ったが、
ところどころにさらっと書くしかなかったのだろう。
前回紹介した中国の100万部紙、「風刺と幽黙(ユーモア)」が、
中国共産党直属の組織だということも、この本(249ページ)からわかったのである。

政府と結びついて、まともな国家権力批判などお笑い草やが。

 
この「世相漫画で知る中国」は100万部漫画紙「風刺と幽黙」の傑作選だ。
もちろん全て風刺漫画だが、さらにジャンル別に分類されて再録されているので、
現在規制されているであろう表現を見ることはできるが、
段々と規制が強まっていく気配を本から読み取ることはできない。

せそうあきら5.jpg

「風刺と幽黙」の編集者の二人も解説文を寄稿している。
それによると驚くことに、「中国に専業の漫画家はいない」という。

たった4ページの媒体とはいえ100万部も刷って、利益はどこに行っているんだ?

編集員の二人は来日した時に女性漫画家が多いことに驚き、
帰国後に中国でも女性漫画家を育てようと思いついたものの上手くいかず、
中国の女性はユーモア感覚がないのでしょうか?研究する価値があります。」と結んでいる。

ロクに儲からず、国から睨まれるのに育つわけねーだろ!…と思う。

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何度も書いているが風刺漫画は風化する漫画だ。
激しく時代と寝ているので、リアルタイムで読むか、政情に通じていないといけない。
その点、「世相漫画で知る中国」は全ての漫画に解説がついており読みやすい。

しみじみ思うのは、風刺漫画家は政治批判を描くより、
世俗の人々を描いた方が残るものになったのではないだろうか。
「世相漫画で知る中国」に掲載された漫画も、そういったものの方が断然面白い。

せそうあきら2.jpg
「外国製は良いねえ。信じないの?ほら、英語で書いてあるでしょ。」

いちばん面白かったのは巻末の方に収録された、日中漫画家交流の様子である。
来日した中国人漫画家の、素朴な驚きはわかりやすい。

せそうあきら3.jpg

村上もとか「フイチンさん再見!」最終巻で、日本人漫画家の訪中が描かれているが、
その時に日本人漫画家たちが描いた1コマ漫画が「風刺と幽黙」に掲載され、「世相漫画で知る中国」に再録されている。

右のバカボンと万里の長城が、当時の「風刺と幽黙」に掲載された1コマ漫画。
せそうでしる1.png

この蝸牛社「世相漫画」シリーズは、
他に「世相で知る韓国」が発売されている。
韓国版は新聞4コマ的な政治風刺漫画でほとんどページが埋められていた。
比べて読むと中国の方がのんびりした作風が多い印象を受ける。

せそうあきら6.jpg
大韓航空機墜落事故は謎ばかり、という韓国の新聞4コマ。

蝸牛社は他に87年の日本の風刺漫画を上下巻にまとめた「世相漫画年鑑」を刊行しており、
「世相漫画で知る中国」の後書きで
>〈世相漫画〉という言葉を、世に定着させようと頑張っている、
上海の〈漫画世界〉もペアにして発刊したいのだが、それはすべて、本書の成功にかかっている。
と書かれているが、続刊は叶わなかった可能性が高い。

30年以上経った現在、「風刺と幽黙」はどうなったのだろうか?
2015年に開催されたイベントのニュースによると、「世相漫画で知る中国」の二人とは違う人が編集長を経て名誉編集長を務めているとあった。存続はしていると思われる。
 
 
漫画という名称は中国のヒラサギという鳥の名前が由来という説と、
随筆に似た漫筆という言葉から江戸時代に作られた造語という説がある。
これが明治時代に流行った侮蔑的な言葉、「ポンチ絵」を払拭するものとして再使用され、
中国にまで普及したというのが現在の定説だ。

後発だった中国漫画だが、
日本よりも30年も早くの太平洋戦争前から週刊漫画誌が存在したというのだから勢いの程がわかる。

しかしジャンルとしての進化は88年時に、
1コマの風刺漫画の段階でほとんど停滞してしまったように見えるのは不思議である。
他に連環画と呼ばれるストーリー漫画的なものもあるが、ほとんど紙芝居のように見える。

ちなみに88年の日本では「沈黙の艦隊」「夏子の酒」「少年アシベ」「動物のお医者さん」「機動警察パトレイバー」の連載が始まっている。

「世相漫画で知る中国」の解説文よると、中国人は理屈っぽく、
ナンセンス漫画等の洒脱と言われる漫画を理解し難い国民性があるという。

日本人にとって、現在の形に日本の漫画が発展していったのは必然としか思えないのだが、
実際には宇宙に生命が誕生する確率、「廃材置き場の上を竜巻が通過した後で、ボーイング747ジェット機が出来上がっているのと同じような確率。」みたいな偶然の産物なのかもしれない。

大切にしたいですね、表現の自由。

 
中国共産党 世界最強の組織 1億党員の入党・教育から活動まで (星海社 e-SHINSHO)

中国共産党 世界最強の組織 1億党員の入党・教育から活動まで (星海社 e-SHINSHO)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/04/26
  • メディア: Kindle版



中国工場の琴音ちゃん 1 (ダンガンコミックス)

中国工場の琴音ちゃん 1 (ダンガンコミックス)

  • 作者: 井上純一
  • 出版社/メーカー: ダンガン
  • 発売日: 2016/06/05
  • メディア: Kindle版



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1941年生まれのアメリカのゴム人間。水木しげる「プラスチックマン」 [名作紹介]

とんでもない予算とリスペクトを投入して、
アメリカで実写映像化された尾田栄一郎「ワンピース」ですが、
ゴム人間という設定はアメリカ発なので、里帰りと言ってもいいのかもしれない。

1961年開始のアメコミ、「ファンタスティックフォー(以下、FF)の主人公はゴム人間で、
アニメ化されて日本で放送された時は「宇宙忍者ゴームズ」というタイトルだった。



ゴム人間がホームズのように謎を解く、 というところから付けられた邦題なのだそうだ。
ちなみにダチョウ倶楽部「ムッシュムラムラ!」もゴームズが元ネタ。

ゴムゴムのしわざ5.png
(画像は20年ぐらい前のもの)

他にもアメリカにはゴム人間漫画がある。
それが今回紹介する「プラスチックマン」だ。

wikiによると、登場は1941年とFFより20年も古く、
FFの出版社マーベルコミックのライバルであるDCコミックが創造したキャラクターである。

ゴムゴムのしわざ6.jpg

FFは1967年にアニメ化されたが、
プラスチックマンのアニメはそれより12年遅れた1979年。
日本でも放送され、これを自分は見ていた。思い出のアニメである。
ワンピースを見た時、プラスチックマンをすぐ連想した。



子供心に、なんでプラスチックなんだろう?と思ったものだが、

「Plastic」とはもともと「可塑性の」という形容詞であり、名の由来は化学物質としてのプラスチックではなく、「Plastic Substance(可塑性物質:粘土や蝋)」である。物質名としての「プラスチック」が一般化したのは1960年代になる。

ということなのだそうだ。(wiki)
ちなみにプラスチックマンの本名は「パトリック・"イール"・オブライアン」。
イールはうなぎのことなので、ニョロニョロしてる感を演出しているのだろう。

そのプラスチックマンを、
ゲゲゲの水木しげるがコミカライズしていたと知った時は目を疑った。

ゴムゴムのしわざ2.png

1958年という、水木の作品の中でも初期の初期。
青林堂から復刻版が出ているので購入して読んでみた。全集にも収録されている。
これを描いている現在、Amazonでは全集以外の取り扱いがない。

ゴムゴムのしわざ4.png

かなりアメコミっぽい絵柄である。
水木しげるの絵のルーツのひとつはアメコミで、
たまにまんま模写してることがあるので油断はできないが、デッサンを頑張っていただけあって上手い。

ゴムゴムのしわざ3.png

男が妊娠してプラスチックマンが生まれるという、
水木らしいとぼけたオリジナルストーリーになっている。

ゴムゴムのしわざ1.png
ロードローラーだっ!

 

貸本漫画集 ロケットマン他 水木しげる漫画大全集

貸本漫画集 ロケットマン他 水木しげる漫画大全集

  • 作者: 水木しげる
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/09/02
  • メディア: Kindle版



DCコミックス プラスチックマン 1/10 アートスケール スタチュー

DCコミックス プラスチックマン 1/10 アートスケール スタチュー

  • 出版社/メーカー: アイアンスタジオ
  • 発売日: 2018/06/27
  • メディア: おもちゃ&ホビー






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伝説のオレよりトーンを使った漫画、悠宇樹「マジカルトワイライト」 [あの人は今]

「探してる漫画があるんですけど…。」

「どんな漫画ですか?」

「読んだことないのでタイトルも内容も分からないんですけど。」

「内容も分からない?」

「はい。ただ、ある漫画家の絵にそっくりらしいんです。
 そして、その人よりもスクリーントーンを使ってるらしいんです。」

「ははあ、アレかな。」

悠宇樹(ゆうき)
「マジカルトワイライト」


マジカルトワイライト

マジカルトワイライト

  • 作者: 悠宇樹
  • 出版社/メーカー: 茜新社
  • 発売日: 1992/07/01
  • メディア: 単行本

伝説のエロ漫画である。
麻宮騎亜が「サイレントメビウス」3巻のオマケ漫画で触れて、知る人ぞ知る作品となった。

ゆうきりんりん3.png

 
当時、中高生に大人気だった麻宮騎亜だが、
悠宇樹の絵はそれにそっくりで、しかもエロ漫画なのである!
中高生はときめくしかない。

どちらが麻宮騎亜で悠宇樹かお分かりだろうか。正解は記事の一番下。
ゆうきりんりん.png

ただし当時はインターネットもない時代。
地方の書店のエロ漫画の流通量などたかが知れている。
作者のペンネームも、タイトルすら分からないのだ。

人に聞くのもはばかる内容だし。
麻宮騎亜そっくりのエロ漫画があるらしいと、半ば伝説と化していた。

本物を見たのは、高校の同級生が学校に持ってきていたのを見た時。
グループが違ったので、チラッとしか見ることができなかった。

ネット全盛の時代になってから、
時々思い出してはちょくちょく調べてはいたのだが、なかなか芯をくった情報に辿り着けず。
(ちなみに冒頭の会話はフィクションです)
最近、ツイッターで情報が流れてきたので検索してみたら、

問題の作品がAmazonで紙の本と電子書籍で販売されていることがわかった。
紙の本も、絶版だがそれほど高騰はしていない。
オンデマンド印刷のペーパーバック版も、エピソード単位から購入できるようだ。

ただ、いくつか単行本がある中で、
どれに問題の漫画が載っているのか分からなかったので、
思い切ってそれらしいのを三冊購入してみた。

「マジカルトワイライト」
「スウィートパーティー」
「トロピカルアイズ」

読んでみた結果、
マジカルトワイライトが正解だったようだ。

奥付を見るとマジカルトワイライトは1ヶ月経たずに3刷になっている。
他二冊も全て重版。いずれも1992年の刊行。超売れっ子だ。

ちなみに悠宇樹原作のビデオアニメ作品に「マジカルトワイライト」があるが、
そのアニメの原作本ではない。

購入した三冊はいずれもエロ漫画の短編集で、
探していたサイレントメビウスそっくりの作品はマジカルトワイライト収録の「待ってよダーリン!」。
犯人を捜索するサイバーポリスの婦警が、逆に手篭めにされてしまうという内容。
それにしても絵がそっくりだ。勿論見比べると画力の差は圧倒的なんだけど。

ゆうきりんりん1.png

麻宮騎亜だけでなく、
電影少女」を大ヒットさせていた桂正和の影響を感じる作品もある。
こちらの再現度はそれほどでもない。

エロ漫画としては、
当時の主要ターゲットをお値段以上満足させるものだったと想像が出来るが、
この年になって読むと陳腐に感じてしまうのはしょうがない。

ゆうきりんりん2.png
(画像は「スウィートパーティー」

中高生の性への憧れがふんだんに描写されていて、読んでいて微笑ましくもある。
作者だって当時の俺たちとあまり年齢が変わらなかったのだろう。

若者が妄想を膨らませて描いたリアリティの無いエロを、
大人はあまりめくじら立てて取り締まらなくてもいいんじゃ無いかと思った。

 
<クイズの答え>左が麻宮騎亜、右が悠宇樹
ゆうきりんりん.png

 
サイレントメビウス(1)

サイレントメビウス(1)

  • 作者: 麻宮騎亜
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/12/24
  • メディア: Kindle版



サイレントメビウスQD(1) (ヤングマガジンコミックス)

サイレントメビウスQD(1) (ヤングマガジンコミックス)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/11/06
  • メディア: Kindle版



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ワンピ、幽白、かしこい消費者が年末年始に見たネットフリックス [実写映画化希望!]

年始にまとめて見たネットフリックスの配信作を紹介するよ。
ひと月契約で790円でこれだけ見られるのは、ビデオレンタルすること考えたら安すぎるね。
広告付きプランだけど、ほとんど広告見てない気がする。

ねとふり.png

見たいの見たら解約。これが賢い利用方法だと思う。

「聖域サンクチュアリ」


CGでも映像化不可能気味な相撲の世界を、
協会への忖度なしにマネーパワーで描き切った連続ドラマ。
空気読まないクソガキが、チミモウリョウうごめく聖域に足を踏み入れる。

「こちらも薄謝でお願いしてる身ですし、役者さんに無茶はさせられませんよ。
それよりみんな無理なく仲良く、程々で行きましょう。」
…ってところが一切感じられない、すごい。4回泣きました。

「ある用務員」で見て、こいつ本当に役者なの?どこから連れてきたの?
…とビビった一ノ瀬ワタルが主演。

記者の女の子は沢尻エリカかと思ったら、ガッキーの後にポッキーのCMやった子だった。
大河の代役もこの子がやれば良かったのに。

寺本莉緒の胸がひたすら揺れていた。ある意味、デッドオアアライブの実写映画版である。
あんなの嘘だと思っていました。お詫び申し上げます。

これ見終わった後、貴闘力のYouTubeチャンネルをひたすら見続けてしまった。

 
「ワンピース」


原作の初期を映画向きになるように再構成してはいるのだが、
アホな映画マンにありがちな、「俺が一般ウケするように手直ししてやんよ」感がない。
あくまで原作が聖典であり、制作者は殉教者。世界観を忠実に、細部まで気合い入れてコントロールして映像化している。外国人にここまでリスペクトされてしまう尾田栄一郎は偉大な漫画家だ。

ゾロ役の真剣佑の肉体がすごい。まるで漫画だ。
コビー役が漫画みたいに細すぎる。調べてみたら性の定義の難しい人だった。
アメリカ版のアニメでは、タバコの代わりにアメを舐めていたサンジだったが、ネトフリ版ではそれすら無くなってしまったのは悲しい。

 
「幽遊白書」


やはり映像は豪華だが、聖域やワンピに比べると濃さがそれほどでもなく、
映画というよりニチアサ豪華版という感じの演出に感じた。

戸愚呂編までを映像化。
原作が映像化向きになるのはこれ以降だと思うので、第二期が楽しみな作りではあった。

売れ線バトル漫画のお約束にのっとったキャラクターデザインをなるべく忠実に映像化。
妖狐化した鞍馬など、少し不思議な感じになっている。
幽助の制服は3年奇面組っぽい。

批判の多いぼたん役だけど、これはこれで怪しくていいと思う。
シナリオを再構成した結果、雪村と雪菜の距離が近くなり、名前が変に被ってることに気づく。

「VIVANT」


日本も韓国に倣って世界進出を狙おう、
というテーマでTBSが作ったスペシャル連続ドラマなのだそうだ。
ネットフリックスでなくても見ることができる。

堺雅人、二階堂ふみ、阿部寛、役所広司、嵐二宮、林原めぐみなどの豪華キャスト。
お話は要するに「24トゥエンティーフォー」で、衣装と撮影地がスターウォーズ。

ドンデン返しと究極の選択のつるべうちで疲れるし、後に残るものは割と無い。
映像も割とライブ感ある荒い感じで、いかにも日本のTVドラマって感じ。

24と違うのは、主人公が人道的にどうかというような行為をした後、
緊急避難で正当防衛だしで押し切って気にもとめないのがトゥエンティーフォーだったが、
VIVANTは丁寧にフォローを入れており、リアリティーないけどこれは日本ドラマ独自のお家芸だと強みになる可能性も感じる。ある種、職人芸だ。

キーワードとなる「別班」という言葉はこのドラマで初めて知りました。
ちと陰謀論好きそうですけど。

「プルートゥ」


ものすごい作画と動き。
しかし浦沢直樹の解像度の高い作風が、
鉄腕アトムの世界のアラを目立たせる相性の悪さは以前ブログに書いた通り。
強烈な不条理を、感動のドラマが素通りしていく。

どうせなら浦沢直樹はロボットと人権についての外伝を描くべきだと思う。
それは読んでみたい。

「ちひろさん」


ショムニの安田弘之の漫画の映画化&ネトフリ独占配信。
原作者の苦手なところ毒消しされていて、いい塩梅に。

元風俗嬢のヒロインを演じるのが有村架純。
濡れ場はあるが、脱ぎはしない!
台本読んで、「風俗嬢役は面白そうだけど、裸は嫌!」って断ったんだろうか。
それはともかく、やっぱりこの人、芸風がキョンキョンに似てる。

二回泣いた。ナカジが焼きそば食って泣くところ。

 
「トークサバイバー」1&2

2のアンジャッシュ渡部が面白かったので1も見た。
ドラマを演じる流れで笑える話をするという、「笑ってはいけない」の亜流みたいな企画。
とんでもない予算をかけて映像を作っているが、そこは蛇足としか思えずほとんど飛ばしてしまった。
勝ち残りとか脱落の基準もよく分からない。
 
 
【まとめ】
「バスタード!」をワンピースぐらいのお金かけて実写映像化してほしい。

 
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畏怖すべき大槻一翔のスタンド能力「欅姉妹の四季」「ピッコリーナ」 [名作紹介]

初見の印象は、
よくわからん漫画というものであった。
「欅(けやき)姉妹の四季」全4巻/大槻一翔

欅姉妹の四季 1巻 (HARTA COMIX)

欅姉妹の四季 1巻 (HARTA COMIX)

  • 作者: 大槻 一翔
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/01/15
  • メディア: Kindle版

どこでその存在を知ったかは忘れたが、
購入動機は、絵がエロウマかったからなのは間違いない。

とにかくめちゃくちゃ上手い。見せ方も分かってる感じだし、
脱いだ衣類などの小物の描写、ロングショットの背景も完璧。
情報量も、細かいけどうるさすぎない。ちょうど良い塩梅だ。

いちかばちか5.png

ただ話がよく分からない。
ただただ、セクシーな絵をどう見せるかということに終始、徹底した日常系という感じか。
それなのに話が時々男のスケベ目線を嫌悪する感じになる。

ところがである。
末妹の幼女がビキニで男友達と水遊びに行くのを説教する話があったかと思えば、
幼女の足をマッサージしたりするギリギリアウトな気もするエピソードがある。
そこがよく分からなかった。

スケベ目線に厳しいのは、
コンプラ的なエクスキューズなのかもしれないとも思った。
もちろんそういう意味がないこともないのだろうが、本質的なことではないのかもしれない。

作品として非常に重要なのは、作者が女性だということだ。
最初は「かずと」なのかと思っていたが、「いちか」と読むらしい。

 
そんな大槻一翔の新作、
「ピッコリーナ」が発売されたと知ったが、購入は迷った。
あらすじを読むと、バニーガールと焼き鳥屋の恋物語だという。
全然そそられないんですけど。…っていうか意味不明。

しかもヒロインのそっくりさんが4人ついてくる。おそ松くんか?


ピッコリーナ 1 (青騎士コミックス)

ピッコリーナ 1 (青騎士コミックス)

  • 作者: 大槻 一翔
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2023/03/20
  • メディア: Kindle版

で、
ずっと迷ってたんですけど、
いろいろあって先日「ピッコリーナ」の購入に至りました。

そして読んでみて作画に圧倒された。

いちかばちか3.png

いちかばちか7.png

これはあれだ、
もちろんスケベを期待する読者に対するサービスでやってるのもあるけども、
女性でも同性に感じる女性の体、仕草の美しさ、
それを追求するのが作者の大槻一翔のまんが道、スタンド能力なんだなって思い至りました。

いちかばちか1.png
(画像は「欅姉妹の四季」)

鍛えられた、磨かれた肉体の美しさ。
それは男でも男に見惚れることがあるので分かる。

自分も昔山本KIDみたいな体に憧れ、鍛えに鍛えたことがある。
最近では実写ワンピースのゾロ役の真剣佑がすごかった。

いちかばちか4.png
(画像は「ピッコリーナ」の焼き鳥調理描写)

磨かれ鍛えられた肉体は純粋に美しいもの。
もちろん異性を見る目にはスケベ心もプリインストールされてるのは逃れられない業だけれども、
それだけじゃない、純粋に美しいと思える部分も必ずあるのだ。

ファッションの基本はその健康的な体の線を出すこと。
ギリシア彫刻だって裸の美しさだ。

いちかばちか2.png
(画像は「欅姉妹の四季」)

それを悪徳だルッキズムだとか批判するバカな考え方がある。
本能が狂っとるよ、と思う。
で、こういうものを描いているのは必ず男性だという固定観点から抜け出せない人もいる。
女性なのに女性が分からない女性が一定数いる。

そんな女性が青木さやかのように、
「なに見てんのよ!」と吠えているのをネットでよく見かけるが、
誰もお前なんか見てねーよ。お呼びじゃないのである。

優れた男性向けエロ漫画を、女性が買うことがあるのを知っている人は少なくない。

いちかばちか6.png
(画像は「欅姉妹の四季」)

そういうスケベ心への嫌悪に対する通過儀礼はあると、
1巻で伏線を貼り、最終巻のとあるエピソードがその説明だったのかもしれない。

大槻一翔「ピッコリーナ」2巻がいつ出るか知らないが、
次回は発売前から予約して購入することにする。

 

欅のまんが棚 (HARTA COMIX)

欅のまんが棚 (HARTA COMIX)

  • 作者: 大槻 一翔
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/11/15
  • メディア: Kindle版



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風刺漫画家が絶賛した中国漫画の今。「中国漫画史話」と史セツキ「日本の月はまるく見える」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

こないだ中国共産党と戦う漫画家の作品を紹介したけども、
中国の漫画事情って実際どんなもんなんだ?

規制もあるけど、ゲームも映画も勢いがあるという話はよく聞く。
しかしチャイナマネーで漫画がすごくなったという話は聞こえてこない。

とりあえず1984年に筑摩書房から出版された「中国漫画史話」を読んでみた。


中国漫画史話 (1984年)

中国漫画史話 (1984年)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2024/01/03
  • メディア: -

その序文によると、
中国の漫画家は長らく不当な弾圧と戦い続けてきたが、
毛沢東死後の政変により一気に良い流れに。
この本の原書が中国で出版された1982年、中国漫画は大繁栄の時を迎えているという。

その苦難の道のりをまとめたものが、この「中国漫画史話」というわけだ。
結論から言うと、中国近代史に詳しくないとついて行きづらい内容に思えた。
とりあえず初見は全体の流れを把握するに留めた。

 
パンチが効いてるのも片寄みつぐによる序文だ。
片寄氏は日本の漫画家らしいのだが、中国漫画を絶賛する一方で日本の漫画に対して厳しい。

巨大産業化したものの、その内実は衰退としか思えないのに、
とか、

この筆鋒によって(中国の)文部大臣級の高官が失脚したといいますから、どこかの国の政治漫画のように、毎日これでもかこれでもか、といわんばかり描いても、一向に悪徳政治家を葬れない非力な漫画とは大違いです。
とか、

大衆化といえば水割りか低俗な平準化でしかない、日本の大衆路線は改めて考え直されてよいでしょう。
とか、

最近、わが国は”マンガ大国”だ、などという思い上った声もありますが、そんな態度では、この力強い中国の漫画にやがて追い抜かれてしまうでしょう。謙虚に、その苦闘を学びたいものです。
とか、

日本の劇画ブームに対して手厳しいことから、片寄氏は絶対風刺漫画家に違いないと思った。
名前はその辺の偏った思想を暗示したペンネームなのだろうか。

ちなみに序文が描かれた1984年は
「アドルフに告ぐ」「課長島耕作」「北斗の拳」「美味しんぼ」「ドラゴンボール」などが連載開始して間もないあたりである。この年の少年ジャンプ発行部数は390万部。

で、
日本の漫画より素晴らしいと片寄氏が序文で讃える中国の漫画が、以下のような作品。

かたよってる1.png

なんか、まんが道に出てくる読者投稿欄を思い出す。
片寄みつぐ氏は、日本がこういった漫画で溢れかえったら幸せだなと考えているのだから、
権力を持たせたらいけない人である。

ちなみに「中国漫画史話」が邦訳される3年前(原書が執筆された前年)
鉄腕アトムの海賊版が中国で流通している。

かたよってる2.png
(画像は吉本浩二/宮崎克「ブラックジャック創作秘話」3巻

ところで、
この「中国漫画史話」によると、
大昔から歴史的彫像に漫画的表現が見られるものがあり、
それを「漫彫(まんちょう)」と記述している。

検索してもあまり出てこない言葉だ。
似たようなので横山泰三が「漫刻(まんこく)」というのをやってる。

日本に鳥獣戯画があるように、
中国にも漫彫からなる長い漫画の歴史があるということの説明なのだが、
写実的とは言えない像が漫画表現になるなら、日本の土偶だって漫画になると思うのだが。。。

そもそも中国でも「漫画」と呼称するのは、なんか変な気がする。

というか漫画の「漫」って何なんだという根本的な疑問がある。
浪漫(ロマン)の漫か?と思って調べてみたら、
エッセイ的な文章を示す「漫筆」と言う日本の言葉から「漫画」と言う名称は作られたらしい。
これが中国でも使われるようになった、というわけだ。

<訂正>清水勲「漫画の歴史」によると、
「漫筆」は中国の言葉で、そこから日本で「漫画」という言葉が出来た説と、
中国に「漫画」と呼ばれた鳥がいて、その生態から付けられた説があるそうです。


驚くのは、
日本では1959年に誕生した週刊漫画誌が、中国では1928年にすでに誕生している事。
その雑誌「上海漫画」の部数がどのくらいあったか本には言及がないが、100号の表紙が掲載されているので最低でも2年は続いた計算になる。凄まじい勢いである。

本には、
1979年に中国で創刊された「風刺と幽黙(ユーモア)」は隔週刊行で毎回100万部をあっという間に売りさばくとあるのだが、よく見ると「タブロイド版、四頁」と書いてある。タブロイド版とは新聞半分の大きさ。四頁とはひょっとして4ページってことなのか???

…フリーペーパー以下じゃないすか。
その時、中国では本当に漫画が繁栄していたのか?
「風刺と幽黙」をいくらで売っているのか?興味は尽きない。
その雑誌の内容についても、プロパガンダっぽいという感想をネットで見かけた。

 
片寄氏も序文で言及しているのだが、
「中国漫画史話」本文は1980年代の中国漫画の繁栄がどういったものかについては触れていない。

本当のところ中国の漫画事情はどうなんだいと、さらに検索を続けてみると、
現在「モーニング・ツー」で中国人が漫画を描いていることがわかった。

史セツキ「日本の月はまるく見える」だ。
https://comic-days.com/episode/4856001361133077320

かたよってない.png

ボーイズラブ好きの中国人女性漫画家が、日本の出版社からオファーを受け、文化や政治の違いに葛藤しつつ執筆するという内容で、まだ単行本化されるほど連載を重ねておらず、全話無料で読むことができる。大変に面白かった。

史セツキ氏は、中国の一人っ子政策をテーマにした短編も描いている。
https://comic-days.com/episode/3269754496647351420
第80回ちばてつや賞一般部門奨励賞受賞作

さらに史セツキ氏のインタビュー記事も発見。
https://gendai.media/articles/-/113266

それによると、作者が中学生の頃の中国はあまり規制もなく、日本の漫画やアニメも普通に楽しんでおり、ネットでシャーマンキングの女性向け同人誌を見つけ、BL好きになったという。表現規制が強まったのは2014年以降で、キスシーンはボーダーにあり、運営が自主規制することもあるらしい。

現在の中国漫画は紙の書籍化は少なく、人気作品にならないと原稿料も発生しない。
作者によると、「日本の月はまるく見える」は現在の中国では公開できない内容とのこと。
今後どんな圧力があるか分からないので、読めるうちに読んでおこう!
そして自由な漫画表現が許される日本に生まれた幸福を噛みしめよう!

こうにちおうに俺はなる!.png
(辣椒「嘘つき中国共産党」によると、人気抗日ドラマは日本漫画に影響を受けているものもあるという)

東京MXで放送されていた「魔道祖師」というアニメは、
中国のオンライン小説が原作でコミカライズもされている。
神保町の内山書店では中国漫画の取り扱いが増えているというネット記事も発見した。

ダイヤモンドオンライン
日本の若者の間で「中国発」漫画・ゲームの人気が上昇中、次世代の中国観とは
https://diamond.jp/articles/-/311222?page=2

「静かなブーム」的な見出し詐欺なのはご愛嬌。


漫画 魔道祖師 漫畫版 第1巻 台湾版 落地成球 墨香銅臭 赤笛雲琴記 コミック 魏無羨 藍忘機

漫画 魔道祖師 漫畫版 第1巻 台湾版 落地成球 墨香銅臭 赤笛雲琴記 コミック 魏無羨 藍忘機

  • 出版社/メーカー: 平心出版
  • 発売日: 2021/09/30
  • メディア: ペーパーバック



魔道祖師 1 (ダリアコミックスe)

魔道祖師 1 (ダリアコミックスe)

  • 出版社/メーカー: フロンティアワークス
  • 発売日: 2023/12/22
  • メディア: Kindle版



魔道祖師 1 (ダリア文庫e)

魔道祖師 1 (ダリア文庫e)

  • 出版社/メーカー: ダリア文庫e
  • 発売日: 2021/08/01
  • メディア: Kindle版



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年またいじゃったけど第五回もう年も変わりますが去年読んだこの漫画がすごい!賞 [名作紹介]

あけましておめでとうございます。

今年はアクセス数が三分の一に激減しましたが、なぜか収益は変わりません。
ソネットがブログサービスを手放したせいか、データが実態に近いものになったのかな?
おかげで運営費が賄えてますし、月の漫画購入費の足しになっています。

ほとんど自己満足のこのブログですが、今年も愛読いただければ幸いです。
いつまで続くかは正直分かりませんが。また動画もやりたいです。

さてコロナ禍もあり、ここ2年ほど開催しなかった
「もう年も変わりますが去年読んだこの漫画がすごい!賞」を今年は発表!

対象となるのは2022年に自分が読んだ漫画作品。
2022年のうちに選ぶと、1年の後半に読んだ漫画の方が印象が強くなるので、
1年寝かして選考しようという、なんて平等なこの企画!

っていうか、去年のうちにやらなきゃダメだったんですな。
久しぶりなんで間違えちゃったよ。
まあいいや。

過去の大賞作品はこちら。
2017年第一回大賞「ばくおん!!」おりもとみまな
2018年第二回大賞「建安マエストロ!」中島三千恒
2019年第三回大賞「王道の狗」安彦良和
2020年第四回大賞「デザイナー 渋井直人の休日」渋谷直角

ちなみに選考の対象となる2022年、Amazonで注文した件数は251件。
その中の栄えある1位は…、

2023年大賞「シートン」谷口ジロー
マスターシートン.png
2017年に亡くなった「孤独のグルメ」の谷口ジローが、2004年から07年にかけて連載した作品。全4巻。氏は20代の頃にも「学習漫画シートン動物記」を手掛けており、過去に「ブランカ」「犬を飼う」なども描いていることから、得意で思い入れのある題材なのだと思われる。

自分は子供の頃に学研の学習漫画でシートン動物記を色々と読んでいてそちらの方も色々思い入れがあるのだが、谷口版「シートン」はそれらのエピソードが全てシートンが体験したものに置き換わって描写されている。

考証的に正しいのかよく分からないが、全4巻が一本筋が通った話になっていて読みやすいと思う。
その筆致は緻密で、淡々としているが中身はゆっくりと燃え上がっており、爆発しそうなのを知性で抑えこむかのようなきわどいテンションがある。人間があまり足を踏み入れていない「自然」という神の領域に踏み込む、人間の冒険を描いている。

紙の本はけっこうなお値段がする。新装版はさらにめちゃ高い。紙の本は値上げする一方だと思われるので、気になる人は早めに押さえておいた方がいい。Kindle Unlimitedで1巻だけ読めるので、電子版もお勧め。
ジョジョの奇妙な冒険第四部で承太郎がシートンの言葉を引用していたが、そこに興味を持った方は絶対に読んで損しないはずである。

 
次点「いつか中華屋でチャーハンを」増田薫
いつか6.png
大胆な人物のデフォルメと、あたたかみのある料理描写。そしてひたすら町の中華屋さんを食べ歩くというアイディア。全てが味わい深い。一部モノクロ化された紙の本を電子化して、さらにフルカラー電子版も購入したが、紙のままでもう一冊手元に置いておきたいぐらい素晴らしい作品だと思う。ただし周囲で共感してくれる人がいない!もちろんレビューは絶賛が多い。皆様はどう思われるか。ということで次点となった。

描いているのが本業漫画家でないせいかミュージシャン、発想が素朴で新鮮。誰が漫画を描いていてもおかしくない、日本の層の厚さを感じさせもする。
過去に記事化している
 

次次点「マンガ獄中面会物語」塚原洋一
めんかい3.png
片岡健のルポルタージュ「平成監獄面会記」のコミカライズ。
死刑囚に実際に会いにいくという説得力はものすごいものがある。
報道は?司法の現場がどうなっているのか?噛み合わない歯車を回す社会の潤滑油の成分がどういったものなのか?その軋む音を聞かずに済んでいる我々の生活とは何なのか考えさせられる。

続編が電子版のみで発売されている。
わかりにくいのでもう少しちゃんとPRしてくれたら、もっと売れるだろうにと思う。
過去に記事化している
 

さらにこの際だから紹介したい作品を挙げていく
「吾妻鏡」竹宮 恵子
あん3.png
大家に歴史漫画を描かせる「マンガ日本の古典」という企画の一編。
「鎌倉殿の13人」副読本としてものすごい重宝した。
作者が畠山重忠にどんどん傾倒していく感じが伝わってきて面白い。

謀反の疑いをかけられたら、いかにして冤罪を訴えるかということをよく考えるのだけど、
考えるだけ無駄なのだという人間の本質がよく分かる歴史素材だ。
過去に記事化している。

 
「この社会主義グルメがすごい!! 」内田 弘樹/河内和泉
死んだおばあちゃん.png
擬人化された社会主義国家が自国の(あまり美味しくなさそうな)料理を紹介する漫画。
読むと口の中に土の味が広がるかのようで、社会主義は不味そうと思えてしまうのは、戦前戦後の風刺漫画家も思いつかなかった、とんでもない風刺表現が今ここに誕生したのだってな気がする。

元は同人誌なのだそうだ。
やはり日本漫画のレヴェルは高い。

 
「パルノグラフィティ」板垣巴留
パルのグラフティ2.png
バキの板垣恵介の娘が家の様子を紹介した貴重な漫画。
範馬勇次郎のような父親像も面白いが、娘も大概なのが面白い。
過去に記事化している。

 
「かくかくしかじか」東村アキコ
かくかく6.png
自伝的内容。絵が上手いとはどういうことか、考えさせられる。
過去に記事化している。

 
「メンズエステ嬢の居場所はこの社会にありますか?」鶴屋なこみん
メンエス3.png
風俗嬢によるエッセイ漫画。作画担当は別なのかと思いきや本人が描いているらしいので、やはり日本の漫画の層は分厚いと思わせるクオリティ。
過去に記事化している。

 
「日本人なら知っておきたい日本文学」蛇蔵
キラキラ1.png
天地創造デザイン部の蛇蔵。蛇蔵作品はほとんど買っていて、いずれも傑作である。その才能に見合った名声が得られてない気がする。この際だから推しておきたい。
過去に記事化している。


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漫画家はどこまで国家権力と戦えるか?「マンガで読む嘘つき中国共産党」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

その昔、漫画とは権力を批判することと同義語だった。
これは「新聞」というメディアの中でしか漫画家が生きられなかった時代のためだ。

黎明期の漫画家は基本的にカット描きなので、
定期的に大量の注文がなければ生活することが出来ない。
なので新聞の嘱託(しょくたく)になることは必須であり、ステイタスだったのだ。

漫画の始祖の一人である北澤楽天は、福沢諭吉に迎えられ「時事新報」で活躍。
のちに総理大臣以上の知名度になる岡本一平は朝日新聞に入社。
その弟子の近藤日出造は、愛人同伴で読売新聞に所属した。

前回紹介した30年前に書かれた水野良太郎の本によると、
海外も同様で、フリーランスの漫画家を名乗ると軽く見られる傾向があったという。

政治を批判してこそ漫画。
多くの風刺漫画家が劇画ブームを軽蔑して理解できないまま滅んでいったのは、
そういった歴史的な強固な刷り込みによるものもあったのである。
 
 
それでは昔の漫画家が、
どれぐらい政道を批判できたのだろうか。

宮武外骨(1867-1955年)は大日本帝国憲法発布をパロディにし、3年8ヶ月投獄された。

ラージャお1.jpg

一方、
近藤日出造は軍部に積極的に協力したとして戦後批判され、戦犯として逮捕されることに怯えた。

「おとうさんとぼく」を描いたドイツの漫画家、
E.O.プラウエンことエーリッヒ・オーザーもナチスからの依頼に妥協を強いられる。
結局、下宿先の夫婦に密談を聞かれて密告され、処刑の執行を待たず自殺した。

なかなか漫画や偉人伝のように、
火炙りにされても意志を貫くという風にカッコよくはいかないものである。

決してb3d.png
(画像は蛇蔵「決してマネしないでください」3巻
 
命懸けで描かれた漫画は多いが、
他人から命を狙われても批判する漫画を描き続けたのは、
自分の知る限りオウム真理教から暗殺されかけた小林よしのりぐらいだと思う。

ふるいち9.png
(画像はゴーマニズム宣言9巻。この後、殺して平気でシラを切ってたと想像すると怖すぎる)

批判するべき権力というのは国家権力だけではない。
小林よしのりもベストセラー作家になれば権力であるから、
そのことに自覚的でいるべきだと知識人らから諭されるコマがあって、印象に残っている。
 
 
批判を許さない不健全な国家には、優れた漫画は存在しない。
実際は不満が顕在化する国ほど良い国で、政治の不満が一切見られない国は悪い国なのだ。
北朝鮮のように。

日本の政治家の多くは、漫画家らにからかわれてナンボという気概を持っている。
森喜朗などは、女性に乱暴する役で漫画に描かれても、宮下あきらの漫画に出演できて喜んでいたというからちょっと許しすぎだし、逆に女性蔑視だと別方向から非難がありそうだ。

モーリン1.png
(画像は宮下あきら「天より高く」21巻。Kindle Unlimited対象作品。)

国家権力を批判する側は相手が殴り返してこないことに甘えすぎで、
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの精神で職業差別の域にまで達して批判しているのはどうかと思う。
褒めるととこは褒める。批判するところは批判する、でやってくれないと白けてしまう。

例えばこんなものは政治批判でも風刺でもなんでもない。
ジャスミンとウメコに逮捕されろ.jpg
怒りに任せて人間性を失った人というだけである。
それを支持している人が何十万といるというのだから、本当に呆れ返るしかない。


 
毎度前置きが長くて申し訳ないが、
今回紹介するのが中国人による風刺漫画、
辣椒(ラージャオ)「マンガで読む嘘つき中国共産党」だ。

マンガで読む 嘘つき中国共産党

マンガで読む 嘘つき中国共産党

  • 作者: 辣椒
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/01/18
  • メディア: Kindle版
辣椒は元々「変態辣椒」(超・辛口という意味)と名乗って、ネットで政治を批判していた。
絵はかなり上手いと思う。
訪日してるところパスポートを取り上げられ帰国できず、現在はアメリカで暮らしているという。

らあじゃお4.png

漫画には、中国で風刺漫画を描くことの困難さ、
政治権力への介入を許さない中国共産党の酷さが描かれている。

辣椒の漫画が面白いと思った人が、勝手に漫画をTシャツにプリントして販売。
そのことで役人がやってきて、色々話を聞かれたことに始まり、
自然災害で起きた人命救助の不備を指摘した記事をRT(拡散)したことにより逮捕される。
R Tで逮捕なのだ。辣椒がインフルエンサー(影響力がある人)だからである。

インフルエンサーになら逮捕に抵抗する対抗手段もある。ネットでSOSを求めるのだ。
「革命が起こったらお礼参りに行く」という脅しには役人も怯えるらしい、というのが面白い。
なろう小説のようにそれで無双はできないにせよ、ある程度の駆け引きが可能なのだ。
まあ、それが通用するのも政治犯としてまだ小物だからなのかもしれないが。

らあじゃお1.png

そんな国にいるものだから、来日した辣椒は日本に感激する。
そのことを親日的だと非難され、帰国することが出来なくなるのだが。

らあじゃお2.png

辣椒は日本の選挙運動をみて、真っ当だと涙を流すほど感激したという。
同時に、そんな日本の政治を、必要以上に非難する人たちに強烈な違和感を受けたとも漫画に描いている。
ですよね!
また、それによって左翼運動家から非難を受けることもあったようだ。

らあじゃお3.png

まあそれも漫画を出版した2017年の話で、
今現在の辣椒が日本に対してどういう感想を持っているかは分からない。
隣の芝生は青く見えるもの。

雁屋哲にとってのオーストラリア、
ひろゆきにとってのフランス、
フェミニストにとってのスウェーデン、

実際に住んでみれば、色々とアラが見えてくるものだ。
問題を抱えてない地上の楽園みたいな国があるとすれば、そんなものは北朝鮮のような国なのだろう。

森が4.png
(画像は小池みき「同居人の美少女がレズビアンだった件。」Kindle Unlimited対象作品)

世界は繋がっている。
他国と比較して、当たり前がどこなのか、
違うとしたらどんな事情があるのか、
変わることでどんな影響が生じるのか、

そこまで加味して風刺する。
そんなことの出来る漫画家がどれぐらいいるか。
見識を持った運動家もどれぐらいいるか。
そして批判によって起こる摩擦にどれぐらい耐えられるのか。
そんなのが、たくさんいるわけは無いのである。

風刺漫画家は、幼稚で浅はかなのが有象無象だと劇画をよく批判していたが、
風刺漫画家にしたって玉石混交だったはずである。

新聞の風刺漫画が、少年ジャンプのようにアンケート競争の完全実力主義だったら、
横山泰三の連載が39年間1万3561回も続いているはずがない、
という事を最近よく考えるのだが、
それで連想するのは成人功「いんちき」の最終回だ。

「うあー なんかこのまま新聞の4コマみたいに1万回くらい続けさせてもらって細々と生きてく人生設計があ〜」
いんちき.png
(ちなみに1996年ごろ「アフタヌーン」で連載されていた。全2巻でプレミアがついている。)

風刺漫画がヌルいというのは、何十年も前から国民的共通認識なのかもしれない。
新聞みたいな安定したところで年金もらうような仕事をしている人が、
国家的な弾圧に逆らって漫画を書くことなどできるわけがないではないか。
 
 
国家の弾圧に耐えた偉人の漫画はいっぱいあるが、
そこに出てくる拷問は、「勇午」大西巷一の漫画にように詳しく描かれていない。

のちに自分の伝記が出版されると分かっていたならまだ拷問に耐えられるかもしれないが、誰も知られず痛い思いをして死んでいくぐらいだったら宗旨替えして相手の靴を舐めた方がマシ、という考えも分かる。

そういうことを踏まえた上で、風刺というものを考えていきたいのである。
とりあえず小林よしのりと、辣椒と井上純一は立派だ。
わたしゃ真似できません。


 

中国嫁日記(一)

中国嫁日記(一)

  • 作者: 井上 純一
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2015/01/31
  • メディア: Kindle版



中国工場の琴音ちゃん 1 (ダンガンコミックス)

中国工場の琴音ちゃん 1 (ダンガンコミックス)

  • 作者: 井上純一
  • 出版社/メーカー: ダンガン
  • 発売日: 2016/06/05
  • メディア: Kindle版



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