島本和彦がマンガの壺に落としたもの。九井諒子「ダンジョン飯」 [この人気漫画が面白くない]
「ダンジョン飯」が苦手だ。
最初の方しか読んでない。あとの方まで読めばハマるのかもしれない。
さいきんアニメになったので少し見たのだが、やはり違和感が拭えず、先に進めない。
あんな不衛生なところで調達した食材が、
どんな工夫したって美味しくなるわけないじゃんって思う。
こないだ獣捕獲漫画の「罠ガール」を全巻購入して読破したのだが、
話の三分の一ぐらいは、獣肉の「くさみ」をとるためのあらゆる工夫を紹介している。
幕末を舞台にした「無限の住人」で、
鼻をつまんで獣肉を食べるエピソードが紹介されてるが、
後処理技術が発達してなかった頃の獣肉は、相当くさかっただろうなとも思う。
で、くさみをとるのも限度というものがある。
たまにナイトスクープなどで有名料理人が工夫を凝らして調理しても、どうにもならないものも多い。
名作見せますスペシャル
— ㋙㋮㋡㋤③ (@komastuna_3) June 11, 2021
「巨大シジミ発見!?」
服部緑地の池に、普通の何十倍もある、巨大シジミ貝がいる。しかもゴロゴロあり、これ1粒あれば大家族でも満足しそうで、食糧危機の心配もなくなると思う。一緒にシジミ貝を採り、そして腹いっぱい食べましょう。#探偵ナイトスクープ #ナイトスクープ pic.twitter.com/rEHsyOANVg
獣にしろ魚にしろ、ふだん何を食べてるか、
どんな水を取り込んでいるかで味は決まってくるのだから、
薄暗くジメジメしたダンジョンで調達する食材を美味しくしましたって言っても説得力が無いのだ。
とはいえ、
漫画は大きなひとつの嘘が大事だし、その嘘が多くの人に受け入れられ、
ダンジョン飯が売れに売れてる大人気漫画であることは理解している。
こないだキンドル読み放題で8年前ぐらいの漫画批評誌を読んだら「ダンジョン飯」が大絶賛されてた。
いしかわじゅんも夏目房之介も褒めちぎっている。
8年も人気がすたれることなくアニメ化されてしまうのだから、
「ダンジョン飯」が名作というのは疑いようもない。
ここ半年で400万部売れて、累計1200万部だそうである。
これが初めて読んだ漫画という人も大勢いると思う。とても漫画文化に貢献してる作品だ。
この漫画の良さが理解できない私の感覚は、あまり一般的なものでは無いのだろう。知ってたけど。
以前にもブログに書いたことがあったが、
モンスターを食べるという漫画は、あることにはあった。
「ダンジョンマスター」というゲームがヒットした時に生まれた、パロディ漫画としてである。
当時ゲーム誌に連載を持っていた鈴木みそや、島本和彦も描いていた。
これをダンジョン飯より先に見ていたというのも、
私が「ダンジョン飯」に新鮮さを感じない理由のひとつなのかもしれない。
(画像は島本和彦「インサイダー・ケン」)
それらは一様に「見た目通り不味い」というギャグに落とし込んでいた。
(画像は鈴木みそ「あんたっちゃぶる」2巻)
美味しくした方が面白い、という発想は二人にはなかったわけで、
この辺の着想の素晴らしさは「ダンジョン飯」作者の九井諒子のまさに才能と言える。
島本和彦は、
モンスターは不味いとした漫画を気に入らず、強引に終了させてしまって、
その直後に「マンガの壺」という読み切りを描く(単行本「インサイダー・ケン」巻末に収録)。
見えざる世界に漫画の壺というものがあり、全ての漫画作品が入っている。
名作をつかみ出すには才能が必要で、島本和彦は掴んだ作品を落としてしまう。
それがモンスターは不味いとしたギャグを描いた「インサイダー・ケン」。
代わりに島本は「ワンダービット」という名作を授かるのだが、、、
この落としてしまった作品が
「ダンジョン飯」になってた可能性もあると思うと、なんとも味わい深いのである。
みなさまはどう思われるか。
「マンガの壺」は名作。
Kindle Unlimitedでも読めるので、みんなもインサイダー・ケンを読もう!
巨匠が描く!燃えよ鬼のツンデレ副長!横山光輝「少年忍者 風よ」 [歴史漫画]
アニメだと思っていたら実写ドラマだったのね。
「三国志」「徳川家康」など、歴史漫画といえば横山光輝。
横山光輝が新選組を描いたらどんな感じだろうというのを度々妄想していたのだが、
実際に存在することがわかった。1978年に少年マガジンで描いた「少年忍者 風よ」だ。
「決して復刻してはならぬ。」と、
横山光輝が生前 言い含めていた四大作品のうちのひとつなのだそうだ。
封印作品か。わからねーはずだ。
それが横山の死から2年後に全2巻で出版されている。
巨匠にゃ悪いがすごいありがたい。
みんなも今のうちに買っておこう!
原作は葉山伸。
「少年忍者 風よ」のあらすじは、
戦国時代に衰退した忍者軍団「鈴鹿衆」が再起をかけ、討幕に動き出すというもの。
鈴鹿衆のエースストライカーになるべく育てられた11歳の少年、風太が主人公。
不意打ちで面白かったのだが、
ヒロインのボクっ子美少女忍者の名前が「知恵(ちえ)」で、いい名前だなーと思っていたら、
その名付け親の鈴鹿衆指導者の名前が「牙波羅(げばら)」だった!
こんなの腹筋崩壊ですわ。
肝心の新選組こと試衛館メンバーは、
牙波羅を師と仰ぎ剣術修行にはげむ田舎の若者として登場する。
その中で、もっとも比重高く描かれるのは土方歳三。
定番の鬼の副長イメージだが、風太に対しては鬼のツンデレ副長になっているのが面白い。
しかし新選組的な描写は、池田屋まで。
その後は鈴鹿衆と、敵対する忍者軍団との最終決戦となり、新選組の出番もないまま終わる。
原作者とうまくいかず、人気もあまりなかったのか途中で無理やり終わらせた感がある。
チグハグな部分も目立つ。だから封印作品なのか。
原作者が当初考えていた結末はどうだったのか。
宿命のライバルとして土方歳三を設定したということは、
おそらく五稜郭までは描くつもりだったはず。
だが、彼の所属する幕軍は滅びゆくジリ貧組織である。
そんなのと主人公を五稜郭まで戦わせたって面白くもなんともない。
戦わせるなら幕府より明治政府側の方だろう。
ちょうど漫画の実際のラストは、
組織の都合で牙波羅にいい様に使われていたことを知った風太が、
納得できずに鈴鹿衆の前から姿を消すところで終わっている。
漫画が続いていたら、風太は鈴鹿衆を敵に回し、
土方と協力して五稜郭まで薩長土と戦ったのではないか?
それで風太は最後、五稜郭で戦死するのかな?と考えたが、
土方がデレて、風太だけ五稜郭から逃した方がしっくりくる気がする。
美少女ボクっ子忍者の知恵ちゃんも風太抹殺のための指揮をとらされるが、非情になりきれないだろう。
そのことを見抜いた牙波羅は「男として育ててきたが、しょせん女か」と、風太ともども知恵を抹殺しようとするにちがいない。
そこに颯爽とあらわれた土方が
鈴鹿衆ら政府軍を蹴散らし、二人を逃したところで討ち死にする。
(画像は、ながやす巧「壬生義士伝」)
戊辰戦争が終わり、祝杯を上げる牙波羅。
かつては復権のために清貧に耐え忍んできた彼も、
悲願を達成して気が緩んだか、権力の欲に取り憑かれ堕落していた。
ある日、謎の男女二人によって牙波羅は暗殺される。そこで物語は終わる。
…とまあ、そんな構想を原作者は考えていたのでは無いかと思った。
そういえば、
実際に土方って五稜郭陥落の前に、若い部下を二人逃してるんだよね。
そのうちの一人は市村鉄之助という。
沖田総司が病死せず、市村に成りすまして土方に従軍する漫画「賊軍土方歳三」という作品もある。
たぶんそういう史実から逆算して、
「少年忍者 風よ」は作劇されたのでないかと思うのだ。
うまくいかなかった作品かもしれないが、
横山光輝が新選組を描いたというとこだけとっても貴重な存在である。
目的のために非情になりすぎる組織の必要悪という裏テーマもある。
おそらく薩長土の影の部分も描くつもりだったのだろう。
みなさまはどう思われるか。
つげ義春が描いた幕末もの、「幕末風雲伝」も最近読んだのだけど、
単純に明治政府=善、幕府=悪の勧善懲悪で描いてなくて良かった。
巻末対談によると、つげはあまり幕末の知識もないまま描いたと述べている。
マジだったら結構すげーと思う。
こちらも「少年忍者 風よ」同様に、当初の結末を迎えられなかったらしい。
主人公が新聞記者となって明治政府と戦う続編を構想していたが、執筆はされなかったようだ。
残念ムネン、アトヲタノム!Σ(°Д°;
つげ義春「幕末風雲伝」読む。
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) April 27, 2024
龍馬漫画好きの俺も唸る、
1958年に描かれたとは思えない斬新な作品だった。
近藤勇をしのぐ無名の浪人たち。
けっきょく誰に殺されたかわからない龍馬。
おそらく黒幕は薩長土という展開。
巻末対談で作者曰く、
ほとんど幕末の知識がなかったという。信じられない! pic.twitter.com/Rk42C53e7K
実は二度目の対決?令和に再戦する早瀬マサト七月鏡一「8マンVSサイボーグ009」 [名作紹介]
「コミックス」のメディア史 モノとしての戦後マンガとその行方
- 作者: 山森宙史
- 出版社/メーカー: 青弓社
- 発売日: 2022/04/08
- メディア: Kindle版
サイボーグ漫画の金字塔といえば石ノ森章太郎「サイボーグ009」。
その名作が打ち切り漫画だったことはご存じだろうか。
山森宙史「コミックスのメディア史」には、こう書かれている。
>一九六四年七月に少年画報社の「週刊少年キング」で連載が始まった石森章太郎の「サイボーグ009」は、内容が「わかりにくい」という同誌編集長からの指摘を受け、六五年に連載打ち切りになっていた。だが、担当編集者と秋田君夫の意向によって、サンデーコミックス創刊時の収録作品として同作は抜擢されることになる。その結果、コミックス刊行と同時にアニメ化されたことで人気は高まり、石森はマンガ家としての地位を確立した。(81ページ)
ガンダムなど、名作にはしばしばあることだが、
「サイボーグ009」も開始時は出版社の要求する水準に反響が達していなかった。
達しなかった理由のひとつに、サイボーグというテーマの新鮮味が、
今ひとつなかったのではないかというのが今回の話だ。
前回サイボーグ漫画史について色々調べた。
一番乗りはおそらく1960年、水木しげるが貸本で描いた「サイボーグ」。
その翌年、手塚治虫と横山光輝がメジャー雑誌「少年」で争うように作品にサイボーグを登場させた。
サイボーグ009の連載開始は、そのさらに3年後と、だいぶ後発だったのである。
似たような作品が増えるとそれは「ジャンル」になるが、
そうなる前の二番手三番手は「パクリ扱い」されるのが世の常だ。
後発は不利である。
ウィキペディアでサイボーグ漫画について調べると「エイトマン(8マン)」も検出された。
殺された刑事が科学の力で蘇り、エイトマンに変身して悪と戦う漫画で、大ヒット作だ。その連載開始は009の1年前。これが正確にサイボーグ漫画かどうかは詳しく後述する。
エイトマンは
「走るのが早いぐらいしか取り柄がない」みたいなイメージを持っていたが、
去年原作を初めて読んでみたら、強力な飛び道具はあるわ、変身自由自在だわ、
足の速さも時を止める勢いがあり、かなり無敵の能力でなんとかしてくれるのでグレートに驚いたっスよ。
ぜったいスタープラチナの元ネタだと思う。
一人でなんでもやってしまうエイトマンに対し、
9人で不足を互いに補うのがサイボーグ009の武器で、あとは勇気だけだ。
子供は特に強さに敏感だ。
当時の子供にとって、009はエイトマンほど強そうに見えず、憧れの対象にならなかった可能性はある。
子供はパクリ判定も必要以上に厳しい。
009の加速装置を見て、エイトマンを連想しなかった子がどれだけいたか。
おまけにエイトマンには、
ゼロゼロナンバーのキャラクターまで登場するのである。
最初、009が打ち切りだったのも分かりすぎる気がする。
さらに言うと、
009の漫画連載開始が1964年7月19日。
エイトマンの連載開始は1963年の4月ごろで、アニメ化は1963年11月7日!
つまり009の漫画は、エイトマンのアニメ化よりも半年も遅れているのである。
これで戦うのは無理筋である。
探せば探すほどマイナス要素がザックザクだ。
ちなみにエイトマンのアニメと漫画は不祥事により1964年に終了。
009がアニメ化されるのはその2年後で劇場映画だった。
TVアニメになるのはそのさらに2年後になる。
世間の記憶からは、エイトマンの記憶もそこそこ薄れていたことだろう。
エイトマンの不祥事がなかったら、
「サイボーグ009」の名声は、今と少し違うものになっていたのかもしれない。
そういえば、
エイトマンと009が対決する漫画を買ってたじゃないかと思い出した。
8マンVSサイボーグ009 上下巻セット コミック 秋田書店
- 作者: 平井和正/原作 桑田二郎/原作 石ノ森章太郎/原作 七月鏡一/脚本 早瀬マサト/作画 石森プロ/作画
- 出版社/メーカー: ノーブランド品
- 発売日: 2023/07/20
- メディア: コミック
「8マンvsサイボーグ009」全2巻。幻魔大戦リバースの早瀬マサトと七月鏡一コンビの作品。
お値段は一冊1480円とお高めだが、単行本や完全版に収録されてないエイトマンのエピソードもついてくる豪華仕様。
本当は積読になっている009全巻を読破してからVSを読もうと思っていたのだが、
009の基本的なエピソードは以前読んで知っているので、VSを先に読んでみることにした。
リバースの時と同じく、仮面ライダーブラックネタもある。
そんな「8マンvsサイボーグ009」を読んでみてどうだったか?まず絵が良い。
「幻魔大戦リバース」は、アニメで見るほど早瀬マサトの絵がオリジナルに似てないなと思った。
これは幻魔大戦の連載時期が、
早瀬マサトがベースとしている石ノ森タッチの時期と一致してないせいもあったのだろう。
「8マンvsサイボーグ009」はアニメで見たようなそっくり感がある。
フランソワーズがかわいい。
それでいて、エイトマンの作画の桑田二郎のキャラも似ているのである。
石ノ森章太郎独特のドラえもんみたいな鈍重そうな足をした009と、
スマートな足をしたエイトマンが並走して違和感ないのも素晴らしい。
幻魔大戦リバース11巻に対して「VSは」2巻完結。
内容的には2巻にするにはページが少し足りなく、余った部分はエイトマン完全版でも未収録だった話、「決闘」を収録。その決闘のエピソードは本編のテーマとも絡んでおり、話を膨らませていて無駄がない。
悲しすぎるエイトマンのラストの先を、希望を感じさせるように見せてくれて感動的。
これからエイトマンを読むと言う人には、ここまで読んで完結だと勧めたい出来だ。
ところで、
エイトマンはサイボーグと呼べるのかと前述した理由を描く。
「VS」でのギルモア博士は「どちらでもない」と答えている。
サイボーグとは人間を機械化していったものと理解している。
ところがエイトマンは物質的には全て作り物なのであり、機械なのだ。
それじゃあロボットじゃないかという話なのだが、
超科学技術により人間の魂は入っているみたいなニュアンスなのである。
ギルモア博士のネームを読んでも、この辺はよく分からない。
エイトマンの原作者が、
「8マンへの鎮魂歌」として執筆した「サイボーグ・ブルース」という小説もあった。
読んでないが、書いていくうちにエイトマンとは別物になったという。
とりあえずエイトマン自身はサイボーグとはいえないようだ。
エイトマン自身もロボットを自称している。
ただしエイトマン本編には後半サイボーグが登場するので、009よりも1年早かったかは更なる検証の必要があるが、サイボーグが登場する漫画として先に始まっているのは間違いない。また当時の読者も、ロボットとサイボーグを同じようなものだと思っていた可能性もある。
(画像は「8マン完全復刻版」6巻)
エイトマンvsサイボーグ009第一回戦はエイトマンの完勝だった可能性が高い。
アクシデントによる対決中止といった方が正確だろうか?ある種、それも王道的展開だ。
令和に実現した2回戦の結末はどうなるか?
未読の人はぜひ確かめてほしい今すぐに。弾丸よりも早く!
8マンVSサイボーグ009 上 (上) (チャンピオンREDコミックス)
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2023/07/20
- メディア: コミック
サイボーグ漫画開発競争?一番乗りは妖怪漫画の第一人者、水木しげる「サイボーグ」 [心に残る1コマ]
インパクトのあるセリフだなと思う。
初出1961年の横山光輝「鉄人28号」での台詞。(画像は原作再現版13巻)
単行本化の際に「サイボーグス」に直されたようだ。
サイボーグのwikiはこうある。
>アメリカ合衆国の医学者、マンフレッド・クラインズとネイザン・S・クラインらが提唱したのが1960年。当初は人類の宇宙進出と結び付け考案された。この提唱よりも前にSF小説でこのアイディアは使用されていた。
サイボーグは最初、宇宙と結びつけて語られるものだったのだ。
惑星開発用に改造された仮面ライダースーパー1は、かなり正統派なサイボーグと言える。
ちなみに、
石ノ森章太郎の「サイボーグ009」開始は、横山よりも3年遅い1964年ではあるが、
サイボーグという言葉を一般に浸透させたのは間違いなくこの漫画なのだろう。
「サイボーグという言葉は石ノ森章太郎が作ったという都市伝説が生まれ、辞書にまで載った」という意味のことを過去にBS漫画夜話で呉智英が語っている。
横山知識でいつも助けていただいているひらさんに鉄人28号の掲載誌である「少年」の1961年2月号のグラビアで、サイボーグ(サイボーグス表記)の紹介記事があったことを教えていただいた。鉄人でのカットはグラビアを参考にしたことは間違いない。
なんとなくチャンピオンシップロードランナーの箱絵を連想するのは私だけだろうか。
リプライもらって気がついたが、
手塚治虫「鉄腕アトム」の犬にサイボーグ手術をする話、
「ホットドッグ兵団」は「少年」1961年3月号掲載。
整理するとこうなる。
「少年」1961年2月号に「サイボーグス」を紹介。
「少年」1961年3月号に手塚治虫「鉄腕アトム」のサイボーグ犬漫画、ホットドッグ兵団。※
「少年」1961年6月号に横山光輝「鉄人28号」の超人間ケリー回でサイボーグの解説
※ただしアトムの内容は単行本サンコミックス版1巻で確かめただけなので、改稿されている可能性もある。エピソードも8ヶ月かけて完結させているので、どこでサイボーグという言葉が出てきたのかも興味深い。手塚治虫による単行本前書きによると、1958年ごろにサイボーグという言葉が使われだしたという。
で、
昨年末に教えてもらって忘れていたのが、
水木しげるが1960年に描いた「サイボーグ」。
コレを書いている現在、日本漫画史上初のサイボーグ漫画っぽい。
そう考えると仮面ライダースーパー1はかなり正統派なサイボーグだったんですな!Σ(°Д°;
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) December 28, 2023
知識だけだと忘れてしまうので、実際に「サイボーグ」を読んでみた。
「水木しげる怪奇貸本名作選不死鳥を飼う男・猫又」に収録されている。
水木しげる 貸本名作選 怪奇 不死鳥を飼う男・猫又 (ホーム社漫画文庫)
- 作者: 水木 しげる
- 出版社/メーカー: ホーム社
- 発売日: 2008/04/18
- メディア: 文庫
どんなデザインのサイボーグが出てくるのかと思いきや、こんなんだった!
ミニオンズに似てるというリプライがあり、衝撃を受けた。確かに。。。
タカラトミーアーツ ミニオンズ2 ぬいぐるみS スチュアート (パイロット) 高さ約24cm
- 出版社/メーカー: タカラトミーアーツ(TAKARATOMY A.R.T.S)
- 発売日: 2021/06/26
- メディア: おもちゃ&ホビー
加藤直之が描いた、バーサーカーに似てるという意見もある。
おおっ、パーカーと晩餐会の元ネタだ!Σ(°Д°;
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) May 5, 2024
加藤直之だったのか。
水木「サイボーグ」には、1970年に描いたリメイク版があるというリプライもいただいた。
妖怪ワンダーランドという文庫版短編集の7巻に収録されており、積ん読だったのですぐ読めた。
タイトルは「ベーレンホイターの女」。
宇宙開発のためにサイボーグに改造され、人間ならざるものになってしまった男の悲哀、
1960年版「サイボーグ」と基本的なスジは同じだ。
このエピソードは水木作品の中では割と人気作であるらしい。フィギュアも発売されている。
http://www.sunguts.com/bealen.html
その部分、赤いんだ?というのが面白い。
水木しげるのサイボーグはフンをすると黒い球になって背中の容器に落ちる。
ベーレンホイターの女も同様である。いかにも水木らしいアイディアだと思った。
漫画家史上最も早くサイボーグ漫画を描いた水木しげるは、
いったいぜんたいどんな海外誌からネタを仕入れたのか?
ちなみに「サイボーグ」にはアメコミをそのまま描き移したカットがあり、他作品にも流用している。
調べてみると、「サイボーグ」について割といろんな人が調べているのだが、決定打と思えるリプライをいただいた。
https://ketola-ka-makhetlo-10000.blogspot.com/2012/04/blog-post_12.html?m=1
この記事によると、
水木がソースとしたのは海外誌ではなく朝日新聞夕刊!1960年10月17日
決定打と思えるのは新聞記事を引用したこの部分。
「排泄物は再利用できないわずかの最終産物だけを背中の小さなカンの中に集める」
「サイボーグ」の描写は水木しげるの想像一辺倒ではなく、ソースにあるていど忠実だったとは驚いた!
(画像は「ベーレンホイターの女」)
1960年の作品なので、10月中旬に見つけて、そこから年内に間に合わせたということになる。
かなりタイトなスケジュールだが、不可能でもない気がする。貸本漫画だし。
ちなみに「サイボーグ」初出は1960年が定説だが、収録の文庫版は1961年とされていた。
1964年に石ノ森章太郎は「サイボーグ009」を始める。
サイボーグの知識は、1961年8月から3ヶ月間の世界旅行中に飛行機内で読んだ「LIFE」。
以下のブログによると、LIFEが初めてサイボーグの記事を載せたのは1960年7月11日号なのだそうだ。
https://ameblo.jp/mangetsuhakase/entry-12630324189.html
1965年、水木しげるは「テレビくん」でついにメジャーデビューを果たすが、
講談社の最初の依頼は「宇宙もの」だったので、水木は一度断ったという。
ひょっとするってえと講談社はサイボーグを読み、水木版サイボーグ009を期待していたのではないか。
それこそミニオンズだ!Σ(°Д°;
それにしてもインターネットの集合知は素晴らしい。
あるのかどうか?水木氏よりも早いサイボーグ漫画の情報もお待ちしています。
新装版 サイボーグクロちゃん(1) (コミッククリエイトコミック)
- 作者: 横内なおき
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2019/06/21
- メディア: Kindle版
CYBORGじいちゃんG 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
- 作者: 小畑健
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2013/04/19
- メディア: Kindle版
つまらない映画は途中退場してFIRE!で炎上、三田紀房「インベスターZ」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]
でもきっと株は向いてない。熱くなるアブドゥルみたいな性格だから。
三田紀房「インベスターZ」をPRするツイートが物議を醸している。
インベスターZは株取引漫画。講談社モーニングで2013年から2017年に連載された。
高校生が部活で株取引をする内容で、最初は集英社少年ジャンプに持ち込まれたという。
【お金を払ったからといって、つまらない映画を最後まで観る必要はない。途中でやめる「損切り力」を身につけようって話。】1/5 pic.twitter.com/5Wv8cDbdH9
— インベスターZ公式 | 全巻半額セール開催中! (@investorz_mita) May 1, 2024
炎上したのは2巻に収録されている「テスト・オブ・ムービー」という話。
部活の先輩からの指示で、自腹でつまらない映画を独り劇場で鑑賞させられた主人公。
始まった映画が腹が立つほどのつまらなかったので途中退席してしまうのだが、
実はそれは株取引に重要な才能である「損切り」のセンスが主人公にどれほどあるのかを判別する、
部活のイニシエーションだったというオチ。
「大抵の人は面白くない映画を観ていても席を立つことはない…なぜか
それはチケットを買ってしまったからだ。
(中略)退屈でなんの楽しみも得られない全て無駄な時間を過ごしているにもかかわらず…
投資もこれに当てはまる。
100万円で買った株が50万円まで下がったとする…
50万損した状態で『終わり』にするのが我慢できず売らずに持ち続けてしまう」
わかる話である。
が、これに反発するのが一部の映画ファン。
「ドンデン返しがある『猿の惑星』を途中離席してレビューを書いて恥を書いた批評家がいるぞ」とか、
「つまらないものは何故つまらないか学ぶ機会を逃している」とか、
「全て見て判断するのが礼儀」とか、まあそんな感じ。
こういう意見も分かるが、
株取引マンガで、「映画は最後まで見ないと分からない」なんて教訓が出てくるわけもない。
プロ作家の中には今回炎上した件に関して「お客さんはシビア。途中で切られるのは当たり前に何度も経験すること。」という意見も見かけた。
株で損切りができない人は、
映画館に通い詰めて途中退場を繰り返せばトレーニングになるのかもしれない。
そういえば自分はインベスターZ全21巻中、13巻で損切りしてたのであった。ギャフン。
興味深かったのは、
「映画は半ば強制的に見させられるのが良さでもあった」という意見。
どういうことか?
思い出すのはコミッカーズで連載していた高寺彰彦の連載だ。
ワンダと巨像の上田文人も読み返したくなる高クオリティな漫画論だが、単行本化はされてない。
名作と言われてる映画を見ても、良さが分からないということがある。
その原因のひとつに視聴環境の違いがあることを高寺は指摘している。
むかし映画は映画館でしか見ることが出来なかった。
いまは家庭でも見ることができる。しかしそこでは邪魔が入る。
誰かが訪ねてきたり、スマホの通知が気になって、映画の大事なセリフや場面を見逃したりする。
そんな時は巻き戻ししたり、一時停止すればいい。
しかし映画館ではそうはいかない。
ほとんど一発勝負。しかも決して安くないお金を払っている。
集中力が違う。
言い換えれば、昔の映画は作り手優位に作られているのだ。
だから少し見逃しただけで、話のスジや演出の意図が分からなくなってしまい、名作映画の良さが分からないことが起こりうるのだと高寺氏は書き記している。
「洗い物しながら見ている人もいるんやで」と松本人志が言っていた。
集中を強いる映画と違い、TV番組はそういうフォーマットで作られている。
本来、映画とTVドラマはそれぐらい演出に違いがあるものなのだ。
悪い言い方をすれば、
映画は不親切で、TVドラマはバカでも分かるように作られていると言える。
わかりやすいに越したことはないが、やり過ぎるとチープになるので難しい。
最近では配信限定で作られるような作品も「映画」とされるようだが、
そういう意味で映画の作り方も、よりテレビドラマに近づいているのだろう。
古典映画の良さを知りたいと思うなら、
見る際に邪魔が入らないように気をつけて視聴しよう。
それでも良さが分かるとは限らないけども。
X-MENよりも2年早いミュータント漫画、石ノ森章太郎「ミュータント・サブ」 [名作紹介]
幻魔大戦 Rebirth(1) (少年サンデーコミックススペシャル)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2017/05/02
- メディア: Kindle版
石ノ森版の今川ジャイアントロボな「幻魔大戦リバース」。
読んでわからなかった部分を履修中。
「幻魔大戦 神話前夜の章」のアニメを見たが、エロアニメになっていて驚いた。
サービスカットというレベルじゃなく、毎回アンアン言ってるのでさすがに見てられない。
石ノ森漫画も色々購入。
その中の一本、「ミュータント・サブ」を今回紹介する。
リバースでのミュータント・サブは、ベガやソニー(サンボ)を差し置いての大活躍だった。
オリジナルにもちょっとだけ登場する彼だが、漫画は最近まで読んだことがなかった。
読んだことがなかった理由のひとつは、やはりアニメ化されてないというのが大きいと思う。
あと名前がサブってのがどうもカッコ悪い。そっち趣味の専門誌を連想させるので苦手。
「佐武と市捕物控」って漫画もあるぐらい、石ノ森先生はお気に入りなのかもしれないけど。
(画像はメヂマ多田「アニパロスクランブル」/「アニパロコミックス」25号掲載)
ちなみにリバースで、一瞬だけサブがイナズマンのイメージと重なるコマがあった。
全然知らなかったが、ミュータント・サブの本名の風田三郎は、
漫画「イナズマン」の主人公の名前にも流用されているのだそうだ。
ただし実写版は渡五郎。企画段階では「ミュータントZ」だったのだと。(wiki)
で、
「ミュータント・サブ」を読んでみると、めちゃくちゃ面白い。
「神話前夜の章」がアニメ化されて、なぜミュータント・サブがアニメ化されてないのだ!?
エロアニメにアレンジしようがないからなのか?
ミュータント・サブはジェームズボンドのような王道的アクションも素晴らしいが、
見どころは心理的な駆け引きだ。
サブにはテレパシー能力があり、他人の考えてることが全て分かってしまう。
敵に情報を聞き出すときに自白させる必要はなく、問いかけただけで完落ちになってしまう。
心を読む相手は勧善懲悪的な悪人だけでなく、
清濁合わせ呑まなきゃいけない そこそこ善人な会社経営者もいたりするので話に深みが生まれている。
他にも、
同じコマを白黒逆転させて並べて超能力発動中を表現したり、
キャラクターに言動不一致な行動をさせて読者を戸惑わせておいて、
後で同じシーンをベタぬきで描いて解説付きでネタバラシして見せたり
石ノ森好みの実験的表現の導入もそこそこ相性良くいっていると思う。
ところで、
ミュータントとは突然変異体のことである。
ミュータント・サブの元々のお話は、
輸血の提供者が被曝2世だったことからスーパーパワーを身につけるという話だったのだそうだ。
この辺が、アニメ化せずに他作品と比べマイナーな存在になった原因かもしれない。
双葉社文庫版はその辺が修正されたもので、UFOの起こした爆発の影響という事になっていた。
ミュータント漫画といえばアメコミ「X-MEN」の開始は1963年9月。
ミュータント・サブの双葉社文庫版全2巻に収録されている最も古いエピソードは、
少年サンデー1965年正月号掲載。X-MENより1年ちょい遅い。
が、調べてみると、双葉社文庫版にも収録されていない、
「少女」という少女雑誌で連載した「ミュータント・サブ」があり、
そちらは1961年9月号から翌年1月号までの連載!
天下のX-MENより、
石ノ森章太郎の方が2年早くミュータント漫画を描いていたのだ!
アメリカよ、これが日本だ!
その単行本は、サンリオ出版から「少女版ミュータント・サブ」として出版されている。
BS漫画夜話の「サイボーグ009」回では、こんな会話があった。
夏目房之介
「ミュータント・サブが漫画に登場した頃は、まだミュータントなんて言葉を普通はしらなかった。よほどのSFマニアじゃないと。」
いしかわじゅん
「そうそう テレポーテーションとかさあ、サイコキネシスとかね、全部これで知ったもん。」
番組によると、
サイボーグという言葉を世間一般に広く認知させたのも、
石ノ森章太郎の「サイボーグ009」(1964年連載開始)だという。
小学館「現代漫画博物館1945-2005」には、
64年のサイボーグ009のページに、65年ミュータント・サブと67年幻魔大戦が一緒に紹介されている。
この辺が描かれた時期はまさに石ノ森章太郎の黄金期、神がかった時代と呼んで差し支えないのではなかろうか。
さてさて、「少女版ミュータント・サブ」の発見で安心していたら、
さらにそれより5ヶ月も早いミュータント・サブがあったことが分かった。
https://matsuzakiakemi.seesaa.net/article/471625682.html
1961年の「中学生画報」4月創刊号に掲載された「ミュータントX」である。
欄外に注目。主人公の名前がサブだ!
ミュータントXという海外ドラマもあったけども。
エックスのタイトルも石ノ森の方がX-MENより早かったとは、
スタン・リーもびっくりだ!
ややこしいのが、
石ノ森のミュータントXはのちに加筆され「X指令」というタイトルになって、
主人公の名前もケンになり、ミュータント・サブと同時期に別作品として雑誌掲載されたようだ。
購入した双葉社文庫版2巻の巻末に「X指令」が収録されていた。
コダマプレスダイヤモンドコミックスの「ミュータント・サブ」2巻にも「X指令」が収録されているのだが、では、タイトルはなぜか「地球人サブ」に再変更されているらしい。(主人公名もサブに戻っている)。
ダイヤモンドコミックス版はX指令に改題された翌年の刊行だという。
その後、この作品はタイトル「X指令」&主人公ケンに再び戻され、
ミュータント・サブ外伝として現在まで伝わっているらしい。
「少女版ミュータント・サブ」単行本巻末では珍しく石ノ森章太郎が解説を書いているが、
ミュータントXや、その辺のややこしいことには一切触れていない。
忙しすぎて忘れてるのだと思う。
もしミュータント・サブのタイトルがミュータントXのままだったら?
かなり歴史は変わっていたのかもしれない。惜しい。
ところで、
この「X指令」のケン、「地球人サブ」でいうところのサブですが、
なんか幻魔大戦の東丈にそっくりなのである。
並行世界の東丈だった可能性もあるが、
その辺はリバースで拾われていないようだ。
ちなみにX指令での主人公の表紙ポーズは同作者の「赤いトナカイ」とそっくり。
さらに言うと、
サンデーコミックス版幻魔大戦1巻の表紙と「怪人同盟」の表紙もそっくり。
巨匠は忙しい。
ミュータント・サブは掲載誌も多岐に渡っている。
以下にまとめてみた。
中学生画報
少女
週刊少年サンデー
別冊少年サンデー
別冊少年マガジン
月刊ぼくら
別冊冒険王
カスタムコミック
基本が単発掲載の渡鳥的な読み切り漫画なので、
少女版以外は全てのエピソードにオチがあることが保証されている。
そんなところも「ミュータント・サブ」は安心して読むことができるのでオススメだ。
宇宙の果てを見るような超能力バトルの結末、早瀬マサト&七月鏡一「幻魔大戦Rebirth」 [名作紹介]
幻魔大戦が中断されなかったら、
その先どんな展開になっていたのか?
ラスボスの幻魔大王に辿り着くまで超能力はどんどんインフレ、なおかつ宇宙でバトルだ。
おそらく絵にも描けない凄まじさになっていたと思われる。
宇宙の果てを見るようなものだ。
幻魔大戦のラストバトルも既にその兆候が出ている。
だから幻魔大戦は中断したのではないか?という疑念がある。
石ノ森章太郎は崩壊の序曲は楽しそうに描くが、
いざカタストロフィーが始まると詳細すっ飛ばしウヤムヤに終わるという展開が多い気がする。
(画像は桜玉吉「しあわせのかたち」2巻)
「新幻魔大戦」と「幻魔大戦神話前夜の章」をこないだ読み返したが、
どちらもウルトラメガ中途半端に終了している。ひどい。
こういう巨匠の態度には我慢がならん。
そんな漫画の続きがあった!
幻魔大戦 Rebirth(1) (少年サンデーコミックススペシャル)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2017/05/02
- メディア: Kindle版
「幻魔大戦Rebirth(リバース)」全11巻を読んだ。
超能力者の友人がいる早瀬マサトと、石森プロ&七月鏡一による正統な漫画続編だ。
オリジナルの終了が1967年だとすると、47年後の2014年から5年間連載されたらしい。
(画像は石垣ゆうき「MMR」)
おそらく小説版や石ノ森漫画に詳しい人むけに描かれているのだろう。
ちょっとわからない部分も多かったが、
仮面ライダーBLackからの引用だったら見開きの爆発でも分かる。
仮面ライダーBLackの爆発
幻魔大戦リバースの爆発
リバースは割と地球から離れない、土着な展開にこだわっている。
まあ「宇宙の果てを見るような」展開をしても、読者には面白く無いわな、
それでも最後は幻魔大王までの果てしなく長い距離を埋めて、
しっかりスケール感を感じさせつつ決着をつけてくれたので良かった。
しかし「宇宙の果てを見るような」漫画を描いて成功している漫画がある。
ドラゴンボールだ。
これ以上は無いだろうというスーパーサイヤ人から、さらにそのまた上、そのまた上と、
今なお膨張を繰り返している。
作品として成功してるかの判断は人によって違うだろうが、
終了して何十年経つのに現役作品を凌駕する経済効果をもたらしているのだから大成功は疑いようもない。
描かなくても許される巨匠石ノ森と、
強制的に描かされ続けた結果、漫画の新しい可能性を突き詰めたジャンプ漫画家の違いをよく考える。
若者ウケにこだわる晩年の巨匠も、
ああいう評価を得たかったのではないかと思うことがある。
それには宇宙の果てに挑まなければならなかったのだ。
(画像は石ノ森章太郎「草壁署迷宮課 おみやさん」)
ところで、
今川ジャイアントロボみたいに石ノ森キャラが多数登場する「幻魔大戦リバース」だが、
ミュータントサブの登場シーンがなんか車田正美っぽい。
それで思いついたのだが、
車田正美の「風魔の小次郎」の聖剣戦争って、
車田版「幻魔大戦」だったのではなかろうかと思った。
サイキックソルジャー飛鳥武蔵!
なんかトテツもないスケールで始まって、
なんだか分からないまま、分かったような気にさせて終わってしまう聖剣戦争。
結局、カオスってなんだったんだ?という話だが、
飯は食うのか?トイレには行くのか?学生服は着てるが生活感が全くないんだけど。
あいつらは「幻魔」だったんだよ!とすると、全てが理解できた気がしてしまうのだ。
宇宙の果てを見るようなワケのわからない宇宙戦争も、
車田正美にかかれば分かりやすい剣道団体戦になってしまう!
でも決して壮大な宇宙戦争の雰囲気は損なわない!
これが車田正美の凄さだ。
…と考えると、
「リングにかけろ」のオリンポス12神の巨大化したラスボスも、
幻魔大王のイメージだったと考えると全てが繋がる。
幻魔大戦の結末は既に車田正美が描いていたんだよ!
およそ40年前ぐらいに!
みなさまはどう思われるか。
真空パックされた原発事故の空気。いましろたかし「原発幻魔大戦」 [名作紹介]
この世の終わりか?
仕事帰りの車の中でニュースを聞きながら、そう思った。
あの頃の世間の空気を真空パックした漫画、そんな評に惹かれて購入してみた。
いましろたかし「原発幻魔大戦」全3巻。
原発幻魔大戦 コミック 全3巻完結セット (ビームコミックス)
- 作者: いましろたかし
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/エンターブレイン
- 発売日: 2013/07/25
- メディア: コミック
タイトルは「平井和正の幻魔大戦から拝借した」と後書きに書かれている。
そこは石ノ森章太郎を含めないんだ????
このところ幻魔大戦マイブームで購入した漫画は、これを含めて22冊になった。
小説まで読む気にはなってない。長そうだし。
「原発幻魔大戦」の主人公は漫画家でなく、普通のサラリーマン。
そこはなぜ作者にしないのだと思ったが、それじゃゴーマニズムか。
原発幻魔大戦は原発だけでなくTPP(環太平洋パートナーシップ協定)もテーマにしており、
その辺はゴーマニズムとも共通している。
比べると見えてくるものがある。
原発幻魔大戦の主人公は無力である。
清き一票でしかない。蟷螂(とうろう)の斧だ。
ツイッターに書き込んだり、デモに参加するぐらいしかない。
原発よ滅びよとひたすら念じ続けているだけのようにも見える。
敵はあまりに巨大である。
その辺がエスパー学生vs幻魔大王のような構図で、
まさに幻魔大戦のタイトルを冠するにふさわしいのかもしれない。
漫画「幻魔大戦」の東丈は「みじめったらしい野ねずみ」と蔑まれていたが、
原発幻魔大戦の主人公も世間から蔑まれたりもする。
総理大臣に対し「狙撃されちまえ」みたいなうかつな発言も飛び出す。
正直、あまりインテリジェンスを感じさせない。
すし食ったりAV見たりしながらも国政を憂う姿が描かれているのはリアルで、
ギャグとしか思えないのだが巻末対談によると作者はマジのガチである。
「うん みんな喰ってる」
「放射能よりタバコやめた方がいいです お大事に」
庶民にできることとしては結局のところ、
与えられた情報のどれを取捨選択していくか、
ということしかないっぽい感じがコミカライズされている。
「原発幻魔大戦」の主人公は、日刊ゲンダイへの信頼を表明してせせら笑われてしまう。
大昔コンビニでバイトしていた時、日刊ゲンダイはいつも一部も売れずに返品処理をしていた※ので、俺も爆笑の展開だったのだが、よくよく考えると笑えない。
※スポーツ新聞がほとんどであとは競馬新聞が少し売れるだけでゲンダイだけが売れてないわけではない
「ネトウヨ」
大手メディアが信用できなくなるのもわかるのだけど、
そうなると堅実でないメディアのデマに躍らされて、
取り返しのつかない暴走をしてしまう未来も垣間見えてしまう。
3巻になると、個々のニュースに対する細やかなリアクションが減り、
ただ情報を書き流すだけに見えてきてほとんどギブアップで流し読みした。
まあその辺も演出と捉えられないこともない。
いましろたかしは鈴木みその漫画などにパロディにされていて以前から興味を持っていた漫画家だ。
「原発幻魔大戦」は素朴な線でわかりやすい。「漫画」が上手い人なんだろうなと思う。
この作品以降はどうしてるのかなとツイッターを見に行ったのだが、
今はあまり積極的に情報発信はしていないようだ。
この漫画は後世に残るような気もする。
コロナ編とかあったら絶対読んでみたい。
驚くのがデモの打ち上げの飲み会に毎回若い女性が参加してるところである。
よく読み返すと、男やジジババばっかりだと寂しい奴らだとバカにされる、みたいな主人公の発想があり、その辺を理解して手配してくれる役割の人がいるようだ。運動の対外的なイメージを考えるというのは、けっこう重要で、やってる人が見落としがちなところだと思う。小林よしのりもその辺に心を砕いていた。
これが事実かどうかはともかく、ちょっとうらやましいなとも思ってしまう。
ただその女性が宇宙人の陰謀とか言い出すものだから、ああやっぱりなと思わなくもない。
繰り返しになるが、「ギャグなのかとも思ってしまうが、巻末対談を読むと作者はマジのガチ」なのである。田中康夫、孫崎享、金子勝と対談している。
いろいろ経済的な難しい問題はあるのだろうけども、
「あれをやった以上延長戦はねえっ!!」ここはすごく同感だ。
いつになるか分からないけど、
いつかどでかい地震が起こると誰もが確信してる日本ではリスクが大きすぎる。
あのとき日本は一度滅んだのだ。いまのこの世界は滅んだ日本人が見る夢の世界なのである。
石ノ森章太郎最高傑作かもしれない「幻魔大戦」を読み返す [名作紹介]
やはりサンデーコミックス版でしょと思ったが、読んでみると画質がすんげえ悪い!
1巻が昭和49年の24刷。2巻が昭和51年の25刷。昔読んだのもこんなに悪かったのかな。
ツイッターで情報をいただき、
画質が良く値段も手頃な扶桑社文庫版を再購入してしまった。
ベタのムラまで見えるかもしれない高画質!
問題のサンデーコミックス、さらに調べてみたら、
もはや画質が悪いというレベルじゃない箇所まで見つかってびっくりしている。
俺の持ってるサンデーコミックス版の「幻魔大戦」1巻25刷(左)。
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) April 14, 2024
画質が悪いってレベルじゃないんだけどどういうことなの。
右は扶桑社文庫版。 pic.twitter.com/B42CZVtRQv
話を漫画に戻す。
いやはや面白い。
予知夢のシーンとか最高じゃないですか!
ラストの見開きも、
「雪の峠」や「男坂」に匹敵する、漫画史に残る見開きと言っていいと思う。
またキャラクター造形が深い。
根性あって努力家だけど才能に恵まれず、
勢い余って説教した友人に部活のポジション争いで負けたり、
フィジカルで勝る弟に兄弟喧嘩で負けたりして鬱屈する主人公。
超能力に目覚め、スカウトにきた異国のお姫様に騎士然として振る舞うも、
「みじめったらしい野ねずみ」と軽蔑されてしまう。
すげえ口悪いヒロイン!
そんなお姫様も、参謀のサイボーグのベガから
「あなただってわがままな小娘にすぎませんよ」言われて、泣いて逃亡。
ベガはベガで超合理的精神で、
「これが戦争なのだよ」と、超能力なくしてただの小娘になってしまったお姫様を無慈悲にリストラしようとするので、「人の心とかないんか」と仲間からドン引きされる。
そんな奴らが団結して世界を救えるのか?
幻魔大戦はそういうお話。
めちゃくちゃ面白い。
「敵勢力に仲間割れさせるのが幻魔大王の最も得意とする戦法ですからな」
しかしお話は単行本2巻で唐突に終了。
諸説あるが、読者の支持が得られなかった説と、編集長とケンカした説があることから、
人気がなくて編集長とケンカになって打ち切りになったのではないかと思われる。
あの「サイボーグ009」ですら当時は不人気打ち切りで、単行本の爆売れで初めて商業的価値を認められたという。
ありそうなことである。
あまり詳しく覚えていないが、
子供の頃に石ノ森作品が山ほど段ボールに入ってうちにやってきたことがある。
その中に「新幻魔大戦」だの「幻魔大戦 神話前夜の章」があって、
あの続きが読めるのだと狂喜したのだが、
どこを探してもその中にはベガも丈もルーナもおらず、相変わらずよくわからんラスト。
なんならその中に入っていた石ノ森漫画もわけわからんものばかり。
私は一週ごとに漫画家たちが生き残りのバトルを続ける少年ジャンプアンケート至上主義の漫画で育っていたので、石ノ森章太郎の巨匠然とした余裕を感じる自由な作風が肌に合わず、どちらかというと嫌いな漫画家に分類するようになった出来事だった。
幻魔大戦は映画版も思い出深い。最近になるまで本編は見たこと無かったけど。
CMをジャンジャン投入して洗脳してしまうかのような角川商法の最初の洗礼だったのだ。
絵が違うのがたまらなく不思議だった。特に大好きなベガのデザインが違う!
ところでベガのデザインは天野喜孝や永井豪、
寺田克也から村枝賢一までさまざまなデザインがあるらしい。
リバースの不満なところはベガの出番が少ないところ。
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) April 14, 2024
デザインはかっこいいけど最初と最後しか見せ場がない。
調べてみたら、
天野喜孝から村枝賢一まで、いろんな人がデザインしてるのね。https://t.co/82VoWHHxa7
幻魔大戦を今読み返すとジョジョっぽいところがある。
世界中から超能力者が集結して戦う漫画だ。そりゃ似ることもあるだろう。
ベガとアブドゥル(顔の模様と参謀的立ち位置)、フロイとイギー(砂を操る犬)、東丈と東方仗助。ジョー東ってキャラクターもいたな。
学生帽の後ろのハネは承太郎っぽい。
主人公、丈(じょう)の帽子の後ろハネ具合も承太郎っぽい。 pic.twitter.com/EgJ9Pl9szI
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) April 9, 2024
調べていたら、
2014年からウェブ漫画として正式な続編が描かれていたことを知る。
単行本全11巻。作画は早瀬マサトと石森プロ、脚本は七月鏡一。
そちらも購入してみたので、そのうち感想を書きたい。
幻魔大戦 Rebirth(1) (少年サンデーコミックススペシャル)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2017/05/02
- メディア: Kindle版
今なお水木しげる完コピを目指す漫画家、村澤昌夫「水木先生とぼく」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]
村澤昌夫「水木先生とぼく」を購入した。
とにかく背景絵の緻密さがすごいのだ。
拡大するとこんな感じ。
「うわーッ」の文字のちょい上あたり。
この漫画は特にヨーロッパに渡ってからの作画が過剰すぎる。
こんなのネットでは伝えきれない。ぜひ紙の本を手に取っていただきたい。
こういう高度に発達しすぎたプロアシの仕事は美術館に飾ってもいいのではないかと思う。
どれぐらいの時間をかけているのだろう。
商業誌ペースなのだから、スピードもあるはずだ。
村澤昌夫「水木先生とぼく」は、
水木プロダクション所属の漫画家による、水木しげる回想録だ。
人物なども水木しげるそっくりに描かれている。
BS漫画夜話の「悪魔くん」回を見ていて、いしかわじゅんが水木しげるについて、
「作者そっくりに描けるアシを何人か抱えてる」みたいなことを言っていた。
その時、いしかわが提示したのが元水木プロの森野達弥の作品。
あれこれ調べても分からなかったが一息つくと、ふと「あ、太公望だから釣り雑誌なんだ!」とひらめいて検索すると詳しい作品一覧がヒット!https://t.co/gYCnY0FZZ8
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) May 6, 2023
正解は「TheWonderOdyssey 太公望幻談」コミック釣り王1998年6〜12月号連載でした! pic.twitter.com/BiZG5FbLlr
なるほど、映像はボヤけているがそっくりだ。
そもそも自分はホラー系が苦手なので、それほど水木作品は読んだことがないのだが、
お気に入りの「カランコロン漂泊記」も水木本人の筆じゃないのかもしれないと思うと、ちょっとショックだったりもするのだった。
しかしですね!
トシとって目をやられて絵が劣化していくのは自然の摂理であるわけで、
師匠そっくりに描ける弟子を育成しておくのは大事なことなんじゃないかなとも最近思うわけです。
そんな感じで、
水木漫画を読んで「オレだったらもうちょっと似せて描ける」と思った人がいた。
それが「水木先生とぼく」を描かれた村澤昌夫なのである。
水木先生曰く、「彼は当たり」。
あんな作画が過剰だから、
水木さんは「浮浪雲」を読んで背景を簡略化することも考えたそう。
それについて村澤氏は反対したという。
そもそもデフォルメされたキャラクターに対し、背景を描き込むことで商業作品として成立させているというのは作者本人や批評家も認める水木スタイルであるらしい。
作中にも登場する京極夏彦の巻末解説によると、
村澤氏は水木タッチを完全再現するための研究に今なお余念がないという。
似てないと言いたいわけではないが、村澤氏のタッチは見覚えがある。
以下の「中古(ちゅうぶる)」、これは村澤氏の作画ではなかろうか。
いしかわじゅんの発言を聞いて以来、若干注意深くなっていたから思ったことである。
「ちゅうぶる」
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) February 21, 2023
中古(ちゅうこ)の古い言い方。
画像は水木しげる「ゲゲゲの家計簿」 pic.twitter.com/OmsJZR7IJD
他にもこの漫画の見どころとして特に推したいシーンが、
つげ義春一家が出てくるところである。
つげ漫画でお馴染みの藤原マキさんがカメラ越しに水木先生に挨拶する。
マキさんの「私の絵日記」を読んで、亡くなられてしまっていたことにショックを受けた。
この本についてもいずれ書きたい。