漫画の神様に怒られた天才がまだいる。佐々木マキ「うみべのまち」 [名作紹介]
手塚治虫に嫉妬された漫画家は、もれなく漫画史に残る天才に認定して、
その上で「巨匠なのに新人に嫉妬できる手塚治虫ってやっぱすごいね。」と、荒ぶるタタリ神よ鎮まりたまえを合唱するのが近年の漫画界の作法ですけれど、そんな手塚治虫から嫉妬された漫画家をまた一人知りました。
その名は佐々木マキ。
全集ブームの頃、青林堂が出版した「現代漫画の発見」全5巻に選ばれた5人の漫画家のうちの一人。
水木しげる、つげ義春、永島慎二、滝田ゆう、そして佐々木マキ。
佐々木マキだけ全く知識がない。
しかも「現代漫画の発見」は佐々木マキの巻だけ高い!
他は1000円で買えても、佐々木マキは2万円ぐらいが相場。
どんな漫画を描く人なんじゃろか。
漫画名鑑的な本、「現代漫画博物館1945-2005」を電子化したのでエラーチェックで読んでいたら、佐々木マキの「ピクルス街異聞」という作品が載っていた。
ガロに描いていたようだ。ちなみに男性。
見るからに変な漫画だ。難解と書いてある。
でもすでに何か面白いではないですか。
たまたまこの箇所だけかもしれないけど。
なんかこれ、とり・みきっぽいなと呟いてみたら、
ご本人様から「もちろん私の方が影響を受けたのです。」とメッセージをいただいて驚いた。
「ダイホンヤ」を死ぬほど読み返したので嬉しい。
失礼ついでに佐々木先生と交流はあったのか聞いてみたが、それは無かったとのこと。
「ピクルス街異聞」で検索すると単行本がヒット。
3000円ぐらいが相場で結構迷う。
2011年に復刻された「うみべのまち」を購入してみた。
これはまだ新品でも買えるし、「ピクルス街異聞」も収録されている。
全422ページで、「現代漫画の発見」よりも多数の作品を収録しているが、現代漫画の方にしか収録されてない作品もある。
読んでみたが、やっぱり難解だ。
難解というか、考えるだけ損なのかもしれない。
要するに「詩」だ。散文だ。
描いたコマからイメージを膨らませて次のコマを描く。
基本はそういうことらしい。
思ったより とり・みきっぽくない。
あの1コマでとり・みきに与えた影響を見抜くとは俺ってすごくない?と思ったりした。
「現代漫画博物館1945-2005」は、どうしてYouはこのコマを?と思ってしまうコマが選ばれていることが多いような気がするのだが、佐々木マキに限ってはベストだったように思う。
後期のGヒコロウっぽいなとも思った。
それにしても絵が良い。
イラストレーター的でオシャレだ。
だから、わけわかんなくても読んでいられる。
時々、同じキャラクターが出てくることがある。
あ、作者はこのキャラクター好きなんだなと思えると楽しい。
のちに絵本作家になって、そのキャラクターのスピンオフを描いていたりする。
村上春樹が惚れ込んで、
デビュー作からして表紙絵を依頼しているというからやはり絵に力があるのだ。
ちなみに「うみべのまち」の推薦帯を村上春樹が書いている。
「うみべのまち」を読むと、杉浦茂に影響を受けていることがわかる。
後書きを読むと、つげ義春の大ファンでもあるらしい。
ガロの長井勝一に見込まれ、原稿料を貰っていたというから驚きだ。
初掲載から10ヶ月して貰えなくなったらしい。
長井氏の推薦で朝日ジャーナルで不定期連載を始めると、例の神の怒りにふれた。
>神様は綜合雑誌に一文を寄せて、私のことを「狂人である」と断じ、「朝日ジャーナルは狂人の作品を載せてはならない、ただちに連載を中止すべきである」と主張したのだった。
と、「うみべのまち」の後書きに書いてあるからおだやかでない。
検索したら、神様の怒りを全文引用しているブログがあった。
愛・蔵太の気になるメモ
「漫画家・佐々木マキに言った手塚治虫(マンガの神様)のひどいこと」
https://lovelovedog.hatenadiary.org/entry/20120419/sasaki
読んでみたら、若干イメージと違う。
ブログ主も「ちょっと盛ってる」と評している。
かなり「おこ」なのは確かであるが。
要するに、「漫画って分かるように描くもんだろ。」「分かんないように描いた漫画をありがたがる風潮なんてスタインベルグの昔からあるんだよ。」「それを岡本太郎とかそうそうたる文化人や漫画界の重鎮に分析とかさせてキイイイイイッ!!!」「ガロなんて所詮同人誌!」、ということを神様は伝えたかったようだから神々しい。
エヴァンゲリオンがヒットした時、やたら思わせぶりなセリフがいっぱいで深読みさせようとする空虚なアニメが氾濫して辟易したのを思い出した。エヴァがファンの深読みを誘ったのも、庵野秀明の神レベルの演出力あってこそである。
そういう意味で佐々木マキの作画には深読みを誘うものはあると思う。神様的にはそうでは無かったようだ。それにしても岡本太郎の佐々木マキ評は読んでみたい。誰か見つけてくれないかなあ。
(画像は藤子不二雄A「まんが道」2巻」)
赤ん坊、精神病のくだりは「新ゴーマニズム宣言」の西部邁を連想した。
「戦後、気の変な人の表現・行動をユニークだとかオリジナリティがあると言ってほめたたえるところがあるが、私は狂人にも一抹の魅力があることを認めるためにも、こちらが正気であらねばならないと思う。戦後異端がすばらしくて正統・オーソドキシィが退屈なものであるという大いなる誤解から始まったが…正気というものは面白く魅力あるダイナミックなものだ。人間ってのは常識も正気も正統も歴史によって支えられるんですね。」
手塚治虫は佐々木マキを精神病患者扱いはしてないと思うのだが、Gヒコロウ後期のかなり病んだ作風を連想したりもしたので、つげ義春や桜玉吉的な文脈で手塚治虫がそう思ったのもありうることかもしれないとは思った。
私個人の感覚では病んだイメージは全く想像できなかった。
死を描いてはいても、絶望を連想させるようなイメージがあまり出てこなかったせいだと思う。
つげ義春的な狂い方ではなく、杉浦茂的な狂い方に私には見えたのである。
その上で「巨匠なのに新人に嫉妬できる手塚治虫ってやっぱすごいね。」と、荒ぶるタタリ神よ鎮まりたまえを合唱するのが近年の漫画界の作法ですけれど、そんな手塚治虫から嫉妬された漫画家をまた一人知りました。
その名は佐々木マキ。
全集ブームの頃、青林堂が出版した「現代漫画の発見」全5巻に選ばれた5人の漫画家のうちの一人。
水木しげる、つげ義春、永島慎二、滝田ゆう、そして佐々木マキ。
佐々木マキだけ全く知識がない。
しかも「現代漫画の発見」は佐々木マキの巻だけ高い!
他は1000円で買えても、佐々木マキは2万円ぐらいが相場。
どんな漫画を描く人なんじゃろか。
漫画名鑑的な本、「現代漫画博物館1945-2005」を電子化したのでエラーチェックで読んでいたら、佐々木マキの「ピクルス街異聞」という作品が載っていた。
ガロに描いていたようだ。ちなみに男性。
見るからに変な漫画だ。難解と書いてある。
でもすでに何か面白いではないですか。
たまたまこの箇所だけかもしれないけど。
なんかこれ、とり・みきっぽいなと呟いてみたら、
ご本人様から「もちろん私の方が影響を受けたのです。」とメッセージをいただいて驚いた。
もちろん私のほうが影響が受けたのです https://t.co/L1yXhJg8R1
— TORI MIKI/とり・みき (@videobird) November 18, 2023
「ダイホンヤ」を死ぬほど読み返したので嬉しい。
失礼ついでに佐々木先生と交流はあったのか聞いてみたが、それは無かったとのこと。
「ピクルス街異聞」で検索すると単行本がヒット。
3000円ぐらいが相場で結構迷う。
2011年に復刻された「うみべのまち」を購入してみた。
これはまだ新品でも買えるし、「ピクルス街異聞」も収録されている。
全422ページで、「現代漫画の発見」よりも多数の作品を収録しているが、現代漫画の方にしか収録されてない作品もある。
読んでみたが、やっぱり難解だ。
難解というか、考えるだけ損なのかもしれない。
要するに「詩」だ。散文だ。
描いたコマからイメージを膨らませて次のコマを描く。
基本はそういうことらしい。
思ったより とり・みきっぽくない。
あの1コマでとり・みきに与えた影響を見抜くとは俺ってすごくない?と思ったりした。
「現代漫画博物館1945-2005」は、どうしてYouはこのコマを?と思ってしまうコマが選ばれていることが多いような気がするのだが、佐々木マキに限ってはベストだったように思う。
後期のGヒコロウっぽいなとも思った。
それにしても絵が良い。
イラストレーター的でオシャレだ。
だから、わけわかんなくても読んでいられる。
時々、同じキャラクターが出てくることがある。
あ、作者はこのキャラクター好きなんだなと思えると楽しい。
のちに絵本作家になって、そのキャラクターのスピンオフを描いていたりする。
村上春樹が惚れ込んで、
デビュー作からして表紙絵を依頼しているというからやはり絵に力があるのだ。
ちなみに「うみべのまち」の推薦帯を村上春樹が書いている。
「うみべのまち」を読むと、杉浦茂に影響を受けていることがわかる。
後書きを読むと、つげ義春の大ファンでもあるらしい。
ガロの長井勝一に見込まれ、原稿料を貰っていたというから驚きだ。
初掲載から10ヶ月して貰えなくなったらしい。
長井氏の推薦で朝日ジャーナルで不定期連載を始めると、例の神の怒りにふれた。
>神様は綜合雑誌に一文を寄せて、私のことを「狂人である」と断じ、「朝日ジャーナルは狂人の作品を載せてはならない、ただちに連載を中止すべきである」と主張したのだった。
と、「うみべのまち」の後書きに書いてあるからおだやかでない。
検索したら、神様の怒りを全文引用しているブログがあった。
愛・蔵太の気になるメモ
「漫画家・佐々木マキに言った手塚治虫(マンガの神様)のひどいこと」
https://lovelovedog.hatenadiary.org/entry/20120419/sasaki
読んでみたら、若干イメージと違う。
ブログ主も「ちょっと盛ってる」と評している。
かなり「おこ」なのは確かであるが。
要するに、「漫画って分かるように描くもんだろ。」「分かんないように描いた漫画をありがたがる風潮なんてスタインベルグの昔からあるんだよ。」「それを岡本太郎とかそうそうたる文化人や漫画界の重鎮に分析とかさせてキイイイイイッ!!!」「ガロなんて所詮同人誌!」、ということを神様は伝えたかったようだから神々しい。
エヴァンゲリオンがヒットした時、やたら思わせぶりなセリフがいっぱいで深読みさせようとする空虚なアニメが氾濫して辟易したのを思い出した。エヴァがファンの深読みを誘ったのも、庵野秀明の神レベルの演出力あってこそである。
そういう意味で佐々木マキの作画には深読みを誘うものはあると思う。神様的にはそうでは無かったようだ。それにしても岡本太郎の佐々木マキ評は読んでみたい。誰か見つけてくれないかなあ。
(画像は藤子不二雄A「まんが道」2巻」)
赤ん坊、精神病のくだりは「新ゴーマニズム宣言」の西部邁を連想した。
「戦後、気の変な人の表現・行動をユニークだとかオリジナリティがあると言ってほめたたえるところがあるが、私は狂人にも一抹の魅力があることを認めるためにも、こちらが正気であらねばならないと思う。戦後異端がすばらしくて正統・オーソドキシィが退屈なものであるという大いなる誤解から始まったが…正気というものは面白く魅力あるダイナミックなものだ。人間ってのは常識も正気も正統も歴史によって支えられるんですね。」
手塚治虫は佐々木マキを精神病患者扱いはしてないと思うのだが、Gヒコロウ後期のかなり病んだ作風を連想したりもしたので、つげ義春や桜玉吉的な文脈で手塚治虫がそう思ったのもありうることかもしれないとは思った。
私個人の感覚では病んだイメージは全く想像できなかった。
死を描いてはいても、絶望を連想させるようなイメージがあまり出てこなかったせいだと思う。
つげ義春的な狂い方ではなく、杉浦茂的な狂い方に私には見えたのである。
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