年またいじゃったけど第五回もう年も変わりますが去年読んだこの漫画がすごい!賞 [名作紹介]
今年はアクセス数が三分の一に激減しましたが、なぜか収益は変わりません。
ソネットがブログサービスを手放したせいか、データが実態に近いものになったのかな?
おかげで運営費が賄えてますし、月の漫画購入費の足しになっています。
ほとんど自己満足のこのブログですが、今年も愛読いただければ幸いです。
いつまで続くかは正直分かりませんが。また動画もやりたいです。
さてコロナ禍もあり、ここ2年ほど開催しなかった
「もう年も変わりますが去年読んだこの漫画がすごい!賞」を今年は発表!
対象となるのは2022年に自分が読んだ漫画作品。
2022年のうちに選ぶと、1年の後半に読んだ漫画の方が印象が強くなるので、
1年寝かして選考しようという、なんて平等なこの企画!
っていうか、去年のうちにやらなきゃダメだったんですな。
久しぶりなんで間違えちゃったよ。
まあいいや。
過去の大賞作品はこちら。
2017年第一回大賞「ばくおん!!」おりもとみまな
2018年第二回大賞「建安マエストロ!」中島三千恒
2019年第三回大賞「王道の狗」安彦良和
2020年第四回大賞「デザイナー 渋井直人の休日」渋谷直角
ちなみに選考の対象となる2022年、Amazonで注文した件数は251件。
その中の栄えある1位は…、
2023年大賞「シートン」谷口ジロー
2017年に亡くなった「孤独のグルメ」の谷口ジローが、2004年から07年にかけて連載した作品。全4巻。氏は20代の頃にも「学習漫画シートン動物記」を手掛けており、過去に「ブランカ」や「犬を飼う」なども描いていることから、得意で思い入れのある題材なのだと思われる。
自分は子供の頃に学研の学習漫画でシートン動物記を色々と読んでいてそちらの方も色々思い入れがあるのだが、谷口版「シートン」はそれらのエピソードが全てシートンが体験したものに置き換わって描写されている。
考証的に正しいのかよく分からないが、全4巻が一本筋が通った話になっていて読みやすいと思う。
その筆致は緻密で、淡々としているが中身はゆっくりと燃え上がっており、爆発しそうなのを知性で抑えこむかのようなきわどいテンションがある。人間があまり足を踏み入れていない「自然」という神の領域に踏み込む、人間の冒険を描いている。
紙の本はけっこうなお値段がする。新装版はさらにめちゃ高い。紙の本は値上げする一方だと思われるので、気になる人は早めに押さえておいた方がいい。Kindle Unlimitedで1巻だけ読めるので、電子版もお勧め。
ジョジョの奇妙な冒険第四部で承太郎がシートンの言葉を引用していたが、そこに興味を持った方は絶対に読んで損しないはずである。
次点「いつか中華屋でチャーハンを」増田薫
大胆な人物のデフォルメと、あたたかみのある料理描写。そしてひたすら町の中華屋さんを食べ歩くというアイディア。全てが味わい深い。一部モノクロ化された紙の本を電子化して、さらにフルカラー電子版も購入したが、紙のままでもう一冊手元に置いておきたいぐらい素晴らしい作品だと思う。ただし周囲で共感してくれる人がいない!もちろんレビューは絶賛が多い。皆様はどう思われるか。ということで次点となった。
描いているのが本業漫画家でないせいか(ミュージシャン)、発想が素朴で新鮮。誰が漫画を描いていてもおかしくない、日本の層の厚さを感じさせもする。
過去に記事化している
次次点「マンガ獄中面会物語」塚原洋一
片岡健のルポルタージュ「平成監獄面会記」のコミカライズ。
死刑囚に実際に会いにいくという説得力はものすごいものがある。
報道は?司法の現場がどうなっているのか?噛み合わない歯車を回す社会の潤滑油の成分がどういったものなのか?その軋む音を聞かずに済んでいる我々の生活とは何なのか考えさせられる。
続編が電子版のみで発売されている。
わかりにくいのでもう少しちゃんとPRしてくれたら、もっと売れるだろうにと思う。
過去に記事化している
さらにこの際だから紹介したい作品を挙げていく
「吾妻鏡」竹宮 恵子
大家に歴史漫画を描かせる「マンガ日本の古典」という企画の一編。
「鎌倉殿の13人」副読本としてものすごい重宝した。
作者が畠山重忠にどんどん傾倒していく感じが伝わってきて面白い。
謀反の疑いをかけられたら、いかにして冤罪を訴えるかということをよく考えるのだけど、
考えるだけ無駄なのだという人間の本質がよく分かる歴史素材だ。
過去に記事化している。
「この社会主義グルメがすごい!! 」内田 弘樹/河内和泉
擬人化された社会主義国家が自国の(あまり美味しくなさそうな)料理を紹介する漫画。
読むと口の中に土の味が広がるかのようで、社会主義は不味そうと思えてしまうのは、戦前戦後の風刺漫画家も思いつかなかった、とんでもない風刺表現が今ここに誕生したのだってな気がする。
元は同人誌なのだそうだ。
やはり日本漫画のレヴェルは高い。
「パルノグラフィティ」板垣巴留
バキの板垣恵介の娘が家の様子を紹介した貴重な漫画。
範馬勇次郎のような父親像も面白いが、娘も大概なのが面白い。
過去に記事化している。
「かくかくしかじか」東村アキコ
自伝的内容。絵が上手いとはどういうことか、考えさせられる。
過去に記事化している。
「メンズエステ嬢の居場所はこの社会にありますか?」鶴屋なこみん
風俗嬢によるエッセイ漫画。作画担当は別なのかと思いきや本人が描いているらしいので、やはり日本の漫画の層は分厚いと思わせるクオリティ。
過去に記事化している。
「日本人なら知っておきたい日本文学」蛇蔵
天地創造デザイン部の蛇蔵。蛇蔵作品はほとんど買っていて、いずれも傑作である。その才能に見合った名声が得られてない気がする。この際だから推しておきたい。
過去に記事化している。
ネタバレあり!ゴジラ・マイナスワン。一点減点。 [名作紹介]
4回泣きました。
以下ネタバレあり。
ドラゴンクエストユアストーリーのこともあったし、
あまりゴジラに興味がないしで躊躇していたのだけども、
アメリカで大ヒットとかニュースで報じられてたり、
YouTubeなどに有名評論家のレビューがアップされてそれも見たいなということになり、
水曜日の料金安い日に行くか!…と思ったけど面倒臭くなってやめて、
その翌週の水曜日、今度こそ!…ということで本当に見に行って参りました。
チケット代1300円。駐車料金が1時間無料で400円の1700円の出費。
映画って高いよなー。
平日の1回目ということもあって、お客さんは5組ぐらい。
ちなみにファイナルウォーズ(北村龍平ファンなので)とシンゴジラ(庵野秀明ファン)は劇場で見てるので、
邦画のゴジラは公開されるたび19年間欠かさず見ている計算になる。
というわけで最新作はどうだったんか。
今回のゴジラは出てくる前兆がある。
戦争から逃げて、黄昏れる神木くんが海を眺めていると、何かたくさんプカプカ浮いてる。
これが前兆。
プカプカしてるものがアップにならないので、なんだろうと頭の中で候補を挙げる。
正解はその中のひとつにあった、内蔵が飛び出ちゃった深海魚。
水圧の高いとこから低いところに一気に移動したために起こる現象。
アップにしないのは、必要以上にグロい映像をお客さんに見せたくないという、山崎監督のエンタメ精神ではなかろうかと思う。
そして出てくるゴジラも、逃げ惑う人をパックリコするのだが、咀嚼しない。
放り投げるだけ。
この辺も、必要以上にグロい映像をお客さんに見せたくないという山崎監督のエンタメ精神なのではなかろうか。
地元に戻ってくる神木くんでしたが、家も近所も焦土。
隣の家のおばさんも、生きて帰ってきて非国民みたいな冷たい態度で神木くんガッカリ。
このおばさん、モブかと思っていたら後でも出てきてドキリとさせられる。
よく見たら安藤サクラじゃないですか。こないだ見たボクシング映画良かったなあ。
ヒロイン登場。
逃走中に神木くんに押し付けた赤ん坊を神木くんがどうするか、遠くからしっかり観察。
害は無さそうだと赤子ともども神木くん宅で居候を始めるしたたかヒロイン。
しかも赤ん坊は拾った戦災孤児で、処女性もキープというキャラデザイン。
さらにその数年後、
ひとつ屋根の下で一緒に暮らすのに、結ばれてないというラブコメ関係!
これも山崎監督のエンタメ精神なのである。
ハリウッドよ、これが日本だ!
(画像はベンジャミン・ボアズ/青柳ちか「日本のことは、マンガとゲームで学びました」)
よく見ると、ヒロイン演じるのはシン・緑川ルリ子こと浜辺美波。
令和特撮映画の女王様だ。
そんな処女性キープの令和特撮女王の欠点は、お乳が出ないことにあった。
ミルクを買う金もないし、どうする赤ん坊の食糧問題!
そこに助け舟を出してくれるのが誰であろう、安藤サクラなのであった。
この赤ん坊がらみのベビーターンで私は泣いてしまった。
安藤サクラが提供してくれたお乳で餓死を免れる赤ん坊。
もちろん安藤サクラ自ら出したのはお乳ではなく、ミルクと交換するための食料であった。
っていうか、腹減ったとぐずりもしない情緒の安定した赤ちゃん。
これも山崎監督のエンタメマジックである。
ゴージラ、ゴジラ高収入♪
神木くんは水雷撤去の仕事を見つけ、たっぷり危険手当てをもらって家を新築。バイクにも乗る。
しかし戦争のトラウマでたまに発狂しかける神木くん。
そんな神木くんを、豊かかどうかよく知らないけどとりあえず胸で全力で受け止める浜辺美波なのであった。
ここでゴジ泣き2回目。
そしてゴジラが襲来。
水雷撤去のついでに足止めを依頼された神木くんだったが、
馬鹿でかくなったゴジラによって、応援に駆けつけた戦艦も大破させられてしまう。
こんなの勝てるわけねえ!
神木くん無力な民間人なのに、どうやって倒すんだと思わされる。
ゴジラが銀座に襲来。
今年のゴジラは、背ビレが尻尾の方からガシガシ盛り上がっていき、最後にものすごいレーザーを吐く。
爆炎が成層圏にまで達する勢い。この映像がローアングルで迫力だ。
怪獣王シリーズ ゴジラ(2023) 熱線放射カラーver. 『ゴジラ-1.0』
- 出版社/メーカー: ゴジラ
- メディア:
運悪く、ゴジラの視線の先にあった電車に乗っていた浜辺美波の車両がピンポイントでゴジラに狙われ、浜辺美波が鉄棒運動からの海にダイブ。
ぬれネズミになった浜辺美波が銀座を歩いていると、またゴジラに追われる。
逃げ惑う群衆の中から都合よく浜辺美波を見つける神木くん。
愛の力だなあー、って、そんなワケあるかい!
ゴジラビームに吹っ飛ばされる瞬間、浜辺が体当たりで神木くんを物陰に吹っ飛ばす。
目覚めた神木くん、浜辺美波が吹っ飛ばされた先を確認すると、一面廃墟である。
次のシーンが浜辺美波のお葬式で、残された子供が泣いてるシーンで本日3度目のゴジ泣き。
この子役にどう演技つけてるんだろう。ガチ泣きだ。
しかし浜辺美波が死ぬシーン、ちょっと吹っ飛ばされ方がわざとらしい。
ビームを避けようというより、受け止めに行った余裕がある感じに見える。
「この世界の片隅に」でヒロインが連れていた姪っ子が死ぬシーンみたく、一瞬何が起こったのかわからないみたいな演出の方が良かったのではないか。
民間主導でゴジラ対策本部が作られ、神木くんも参加。
水雷撤去に関わっていた科学者を演じる吉岡秀隆がプランを明かす。
ゴジラに大量のフロンガスを巻き付けて、海底に引きずり込んで水圧で殺す作戦だ。新しい。
念押しで、海底から海面まで急浮上させて潜水病を食らわすオマケ付き。
ゴジラをトラップに誘導する飛行機乗りの役目を神木くんが引き受ける。
作戦が失敗したとき、爆弾抱えて特攻する覚悟である。
かつて神木くんのビビりで仲間を全滅させられた整備士を探し出してメカニックを依頼するのだった。
ハセガワ ゴジラ-1.0 日本海軍 九州 J7W1 局地戦闘機 震電 劇中登場仕様 1/48スケール プラモデル SP579
- 出版社/メーカー: ハセガワ(Hasegawa)
- 発売日: 2023/12/27
- メディア: おもちゃ&ホビー
ここからあまりトラブルなく進む。
ブリーフィングで言ってたことをそのままやってるだけで、若干退屈なシーンであった。
ところで、
ゴジラを深海に引き摺り込まなきゃいけないのに、まだ足のつくとで作戦開始したなと思ったら、ゴジラが海底深く引き摺り込まれていった。…ということは、ゴジラは立ち泳ぎしていたのだろうか?
例によってゴジラの生命力が想定以上(観客的には想定内)で、神木くんの特攻でゴジラを倒す。
しかし整備士の粋な計らいで、神木くんは寸前で脱出できたのであった。
そして浜辺美波も生きていたのだった。
よく分からんが良かった良かった。
ここで4度目のゴジ泣き。嗚咽する勢いである。
帰り道、ふと思った。
あれ普通死ぬよな。浜辺美波のことである。
まず結構な距離を吹っ飛ばされて、瓦礫に体を叩きつけられたはずだ。
そこから熱線で、、、死体も見つからずに葬式やったのだなという理解だった。
そこで思い出したのが、病院で再会した浜辺美波の首筋にチラッと映った変なアザである。
そうか!浜辺美波はゴジラ人間になっていたから助かったというオチなのか。
すると次回作「ゴジラ・マイナスツー」ではゴジラ人間になった浜辺美波が熱線を吐くのか!
…そんなわけあるか!
おそらく、取ってつけたように生きてたことにしてもお客さんは不満に思わない、
そういう計算が山崎監督の中にあったのだと思う。
例えあのアザがなかったとしても、俺はこのラストで良かったと思う。
それでも不満なマニア向けのエクスキューズとして、
浜辺美波のゴジラ人間という生存の理屈づけを山崎監督はした、そういうことなのではないかと思う。
と、いうわけでゴジラマイナスワン。俺は非常に良かったです。
思い返すと色々ご都合主義というか、ベリースウィートな寓話的なお話なのかもという気もしますが、見ている間はほとんど気になりませんでした。画作りも豪華で、大迫力。
あまり残るものはないのですが、「見ている時ひたすら楽しくて、終わって劇場を出たら全て忘れている」、といったようなエンタメの究極に近い作品なのではと思いました。
漫画の神様に怒られた天才がまだいる。佐々木マキ「うみべのまち」 [名作紹介]
その上で「巨匠なのに新人に嫉妬できる手塚治虫ってやっぱすごいね。」と、荒ぶるタタリ神よ鎮まりたまえを合唱するのが近年の漫画界の作法ですけれど、そんな手塚治虫から嫉妬された漫画家をまた一人知りました。
その名は佐々木マキ。
全集ブームの頃、青林堂が出版した「現代漫画の発見」全5巻に選ばれた5人の漫画家のうちの一人。
水木しげる、つげ義春、永島慎二、滝田ゆう、そして佐々木マキ。
佐々木マキだけ全く知識がない。
しかも「現代漫画の発見」は佐々木マキの巻だけ高い!
他は1000円で買えても、佐々木マキは2万円ぐらいが相場。
どんな漫画を描く人なんじゃろか。
漫画名鑑的な本、「現代漫画博物館1945-2005」を電子化したのでエラーチェックで読んでいたら、佐々木マキの「ピクルス街異聞」という作品が載っていた。
ガロに描いていたようだ。ちなみに男性。
見るからに変な漫画だ。難解と書いてある。
でもすでに何か面白いではないですか。
たまたまこの箇所だけかもしれないけど。
なんかこれ、とり・みきっぽいなと呟いてみたら、
ご本人様から「もちろん私の方が影響を受けたのです。」とメッセージをいただいて驚いた。
もちろん私のほうが影響が受けたのです https://t.co/L1yXhJg8R1
— TORI MIKI/とり・みき (@videobird) November 18, 2023
「ダイホンヤ」を死ぬほど読み返したので嬉しい。
失礼ついでに佐々木先生と交流はあったのか聞いてみたが、それは無かったとのこと。
「ピクルス街異聞」で検索すると単行本がヒット。
3000円ぐらいが相場で結構迷う。
2011年に復刻された「うみべのまち」を購入してみた。
これはまだ新品でも買えるし、「ピクルス街異聞」も収録されている。
全422ページで、「現代漫画の発見」よりも多数の作品を収録しているが、現代漫画の方にしか収録されてない作品もある。
読んでみたが、やっぱり難解だ。
難解というか、考えるだけ損なのかもしれない。
要するに「詩」だ。散文だ。
描いたコマからイメージを膨らませて次のコマを描く。
基本はそういうことらしい。
思ったより とり・みきっぽくない。
あの1コマでとり・みきに与えた影響を見抜くとは俺ってすごくない?と思ったりした。
「現代漫画博物館1945-2005」は、どうしてYouはこのコマを?と思ってしまうコマが選ばれていることが多いような気がするのだが、佐々木マキに限ってはベストだったように思う。
後期のGヒコロウっぽいなとも思った。
それにしても絵が良い。
イラストレーター的でオシャレだ。
だから、わけわかんなくても読んでいられる。
時々、同じキャラクターが出てくることがある。
あ、作者はこのキャラクター好きなんだなと思えると楽しい。
のちに絵本作家になって、そのキャラクターのスピンオフを描いていたりする。
村上春樹が惚れ込んで、
デビュー作からして表紙絵を依頼しているというからやはり絵に力があるのだ。
ちなみに「うみべのまち」の推薦帯を村上春樹が書いている。
「うみべのまち」を読むと、杉浦茂に影響を受けていることがわかる。
後書きを読むと、つげ義春の大ファンでもあるらしい。
ガロの長井勝一に見込まれ、原稿料を貰っていたというから驚きだ。
初掲載から10ヶ月して貰えなくなったらしい。
長井氏の推薦で朝日ジャーナルで不定期連載を始めると、例の神の怒りにふれた。
>神様は綜合雑誌に一文を寄せて、私のことを「狂人である」と断じ、「朝日ジャーナルは狂人の作品を載せてはならない、ただちに連載を中止すべきである」と主張したのだった。
と、「うみべのまち」の後書きに書いてあるからおだやかでない。
検索したら、神様の怒りを全文引用しているブログがあった。
愛・蔵太の気になるメモ
「漫画家・佐々木マキに言った手塚治虫(マンガの神様)のひどいこと」
https://lovelovedog.hatenadiary.org/entry/20120419/sasaki
読んでみたら、若干イメージと違う。
ブログ主も「ちょっと盛ってる」と評している。
かなり「おこ」なのは確かであるが。
要するに、「漫画って分かるように描くもんだろ。」「分かんないように描いた漫画をありがたがる風潮なんてスタインベルグの昔からあるんだよ。」「それを岡本太郎とかそうそうたる文化人や漫画界の重鎮に分析とかさせてキイイイイイッ!!!」「ガロなんて所詮同人誌!」、ということを神様は伝えたかったようだから神々しい。
エヴァンゲリオンがヒットした時、やたら思わせぶりなセリフがいっぱいで深読みさせようとする空虚なアニメが氾濫して辟易したのを思い出した。エヴァがファンの深読みを誘ったのも、庵野秀明の神レベルの演出力あってこそである。
そういう意味で佐々木マキの作画には深読みを誘うものはあると思う。神様的にはそうでは無かったようだ。それにしても岡本太郎の佐々木マキ評は読んでみたい。誰か見つけてくれないかなあ。
(画像は藤子不二雄A「まんが道」2巻」)
赤ん坊、精神病のくだりは「新ゴーマニズム宣言」の西部邁を連想した。
「戦後、気の変な人の表現・行動をユニークだとかオリジナリティがあると言ってほめたたえるところがあるが、私は狂人にも一抹の魅力があることを認めるためにも、こちらが正気であらねばならないと思う。戦後異端がすばらしくて正統・オーソドキシィが退屈なものであるという大いなる誤解から始まったが…正気というものは面白く魅力あるダイナミックなものだ。人間ってのは常識も正気も正統も歴史によって支えられるんですね。」
手塚治虫は佐々木マキを精神病患者扱いはしてないと思うのだが、Gヒコロウ後期のかなり病んだ作風を連想したりもしたので、つげ義春や桜玉吉的な文脈で手塚治虫がそう思ったのもありうることかもしれないとは思った。
私個人の感覚では病んだイメージは全く想像できなかった。
死を描いてはいても、絶望を連想させるようなイメージがあまり出てこなかったせいだと思う。
つげ義春的な狂い方ではなく、杉浦茂的な狂い方に私には見えたのである。
ヨーヨーで戦う女漫画!棚下照生「めくらのお市物語」 [名作紹介]
検索してみたが、現在安価で手に入る漫画ではないようだ。
全集ブームの頃に出版された「現代コミック」シリーズをたまたま買っていたのだが、
その7巻が棚下照生(モンキー・パンチとセット)だったので読んでみる。
まず、目についたあのカットの漫画は収録されていなかった。
黄桜のカッパを描いた小島功みたいな絵だと思う。
棚下照生の収録作品は、
全て「めくらのお市物語」という作品のエピソード。
蒼き狼の群
燃えろ大地
野火
ねじれ花
ちなみに巻末解説は野坂昭如。
綾瀬はるかの映画とは関係ないらしいが、
ボンカレーの松山容子主演で4度も映画化されている。
松山は棚下照生と結婚している!
U-NEXTで配信されていたので少し見てみた。
殺陣は良かったが、衣装が由美かおるの水戸黄門を連想させるような古い時代劇だったので残念。 リメイクしてくれないかな。
話を原作漫画に戻すが、
「めくらのお市物語」は座頭市をベースに、白土三平チックに支配階級による搾取を描いている。
主人公のお市は無限の住人の百琳姉さんみたいなサバサバした感じかと思ったら、ちょっとウェットな重いキャラクターだった。男に襲われて、好きだと言ってくれたら身を任せる、みたいなことを言い出す。
それで事後、好意を確認してダメだと分かると落ち込む。
そして追ってすがる。重い…。
気になったのはヨーヨーを武器にした女キャラクターがいたこと。
名前は「お侠(きょう)」!ビー玉を使いそうな名前だ。
ヨーヨーといえばスケバン刑事だが、あれは1976年連載開始の漫画。
このお侠が出てくる漫画は1967年なので、
ひょっとしたら初のヨーヨー武器の女キャラなのかもしれない。
残念ながら、ヨーヨーを武器にするキャラクター自体はこれが初ではなく、
1961年連載開始の白土三平「サスケ」の敵キャラクター(男)としてすでに描かれているという情報をいただいた。
これ以前にもあるのかもしれない。
棚下照生は長谷邦夫の「伝説 トキワ荘の真実」で主役として登場する。
途中から変な展開になっていく漫画なのだが、つげ義春の影響なのかもしれない。
棚下は孤立していく寺田ヒロオが唯一心を開ける人物だったらしい。
つげ義春。ジョジョ、ドラゴンボール、エバーに影響を与えた生ける伝説。 [名作紹介]
つげ義春、といえば「ねじ式」。
気持ち悪くてワケわからん漫画を描く人というイメージ。
しかし大人気である。あちこちの漫画に引用された。
ゆうきまさみは「究極超人あ〜る」で、
1968年のねじ式と、1979年のつげ作品「必殺するめ固め」を引用している。
鳥山明は「Dr.スランプ」のモブに、ねじ式のキャラクターをよく登場させている。
「ドラゴンボール」にも小道具として登場させている。
つげ義春のかなり初期の作品に、「運地」(うんち)という名前の主人公が登場する。
なんでそんな名前つけるんだと思うが、お気に入りらしくサブキャラクターにも使用が見られる。
この辺の感覚も鳥山明に受け継がれたというのは深読みしすぎだろうか。
こないだ貸本漫画の記事にも書いたが、
あれこれ劇画史を読む流れで、かなり若い頃のつげ漫画、「おばけ煙突」を発見。
あまりの読みやすさに衝撃を受けた。絵も全然違う! 1958年の作品。
(白土三平絶賛だったそうである)
なぜこんなに絵が違うのか。
不器用そうなイメージがあるが、つげはある意味器用な人なのだそうだ。
さまざまな漫画家の表現を研究し、自作に取り入れた。
食っていくために盗作も厭わなかったとまで言っている。
劇画史に少し詳しくなると、意味不明だったつげ作品に意味を感じる。
水木しげる、辰巳ヨシヒロ、白土三平、永島慎二ら漫画家の影響があることがわかる。
つげに影響を受けた漫画家。
つげが影響を受けた漫画家。
それを意識して読みだすと、つげ作品を次から次へと読みたくなった。
19年前に購入したコンビニコミック「つげ義春傑作選其ノ弐 無能の人」と、
さいきん抱き合わせで購入した選集の中にあった「現代漫画12つげ義春集」。
この二冊だけではもの足りなくなった。
ちくま文庫「つげ義春コレクション」全9巻。
講談社「つげ義春初期傑作短編集」全4巻。
講談社「つげ義春初期傑作長編集」全4巻を購入。
現在精読中である。
数万円する全22巻の全集もあるそうだが、さすがに手が出ない。
さて、
つげ義春に影響を受けた側の作品をもう少し紹介しておきたい。
現代漫画12つげ義春集で読んだ「長八の宿」。
読んだ瞬間、
「これ桜玉吉がしあわせのかたちに描いてたやつだ!」と気づき感激する。
つげが1968年に描いた長八の宿を、玉吉が1992年に漫画で紹介し、2023年に俺が読んだ。
ここまで55年かかってるわけである。
長八の宿はつげ作品の中でもかなり分かりやすい作品でとても良いと思う。
いつかモデルとなった温泉宿、山光荘にも行ってみたい。
「実はまだ二階にいるのです」というフレーズが有名なつげ作品「李さん一家」。
みなもと太郎が「風雲児たち」の中でパロディにしていた。
つげを見出した長井勝一の本「ガロ編集長」も表紙が李さん一家だ(水木しげるも混じってる)。
古典漫画&特撮のパロディ漫画、唐沢なおき「電脳なをさん」。
つげパロディも多い。
「電脳なをさん」3巻。Vol.175で「もっきり屋の少女」。
「新電脳なをさん」1巻。Vol.348で「チーコ」をパロディに。
「電脳なをさんVer1」では、
Vol.550「峠の犬」、
Vol.575「散歩の日々」
Vol.580&581「ゲンセンカン主人」
Vol.637「石を売る」
Vol.653「やなぎ屋主人」…といった塩梅だ。
つげの「ゲンセンカン主人」は まるで、、、、、
荒木飛呂彦「ジョジョの奇妙な冒険」第三部のDIOではありませんか。
なんでずっと顔を隠しているのか疑問だった。
でもそれはさすがにこじつけかなと思ったが、
つげの「やもり」にジョジョ四部のジャンケン小僧とそっくりな描写を見つけた。
やはりキサマ見ているなッ!と思った。
ちなみに「やもり」の頃のつげのタッチは初期の吉田戦車そっくりである。
「総特集吉田戦車大増補新版」収録のインタビューに「やっぱりつげ義春さんは別格」と書かれている。
というわけで、
読まず嫌い王決定戦にもよく挙げられるであろう現在激ハマり中の、つげ義春ワールドの一端を自分なりに紹介してみたがいかがだったろうが。
一応長編もあるようだが、ほぼ短編のみで巨匠になってしまった漫画家は他に例がない気がする。
気になってはいるが読んだことない人の背中をちょっと押せれば幸いである。
最後に「エヴァンゲリヲン」の綾波レイの有名なポーズは「ねじ式」という説があるそうだ。
それはこじつけだろうと思うのだが、
つげ義春「無能の人」の中に宮村優子の声で脳内再生される台詞があった。
「あんたのバカァ」
おあとがよろしいようで。
筑摩書房「現代漫画12つげ義春集」で「長八の宿」読む。
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) September 18, 2023
桜玉吉「しあわせのかたち」に出てたやつだ!感動!
漫画も面白い。
つげさんはこういう漫画を描く人だったのかー。
いつか行ってみたいなあ長八の宿こと山光荘。 pic.twitter.com/tsmNjNAcCN
大仏強奪!盗まれた奈良の大仏と鎌倉の大仏が戦う高野よしてる「赤ん坊帝国」 [名作紹介]
盗まれた奈良の大仏と、鎌倉の大仏を戦わせるという、
ガンダム0083の元ネタにもなったウソ 高野よしてる「赤ん坊帝国」。
1952年の漫画だ。
その「赤ん坊帝国」全編が収録されているという少年なつ漫王28号(2000年発行)を入手した。
その存在を知ったのは5年くらい前。
先日ふと思い出して検索したら、まんだらけで1200円くらいの安価で難なく入手。
あまりにもあっさりゲットできたので、近年は結構出回ってるのかなと思ったが、改めて調べてみるとそうではなかった。
運が良かったらしい。
動く大仏という発想は1934年の実写映画『大仏廻国・中京編』(だいぶつかいこくちゅうきょうへん)など昔からあるが、それを戦わせようとした作品は「赤ん坊帝国」が初めてだろう。(たぶん)
いろいろ江戸の黄表紙みてきたけども、これは驚愕…
— ミサンザイ 同人誌 「天皇を旅する本」「天皇を旅する地図」ほか BOOTHはじめました (@katsunomisanzai) January 16, 2023
大仏さまがふと思い立って旅に出るという話で、天界でおおいに歓待され腹いっぱいになった大仏、しかし大仏が入れるような大きな雪隠はないのでしかたなく天の川の川っぱたでいたしました、という絵…
当時の仏教界からクレームこなかったのか… pic.twitter.com/JML7D1APIT
リモコン争奪戦も鉄人28号よりも4年早く描いている。
「赤ん坊帝国」のラストは、投下された原子爆弾を抱えた大仏が宇宙に飛び去って散る、というこれまたいつの時代からあるんだという王道展開。
そんな斬新な漫画を描く高野よしてるだが、後年は鉄人28号をパクったような「13号発進せよ」という漫画を描いている。あまりその辺には頓着ない性格らしい。ちなみに13号発進せよは少年マガジン創刊号の目玉として掲載された漫画である。一時は手塚治虫に並ぶ人気と言われていた売れっ子だった。
それなのに今はマニアしか知らない漫画家なのだから、つくづく漫画は残らないと言える。
1964年に泉ゆき雄という漫画家がリメイク版を描いていて、2001年に全4巻で復刻版が出ている。「編集部から電話で許諾を求められただけで泉氏と面識はない」と少年なつ漫王掲載の高野よしてるインタビューで語られている。
すがやみつる「ゲームセンターあらし」55話は「赤ん坊帝国」のオマージュ。
水曜日は『ゲームセンターあらし』の日! 「赤ん坊帝国」といったら、その昔、『黒帯くん』とか『13号発進せよ!』なんてマンガを描かれた高野よしてる先生の作品ですが、私が愛読したのは前の東京五輪の頃に「少年画報」に連載された泉ゆき雄先生版。大仏が空を飛ぶの発想にしびれました! https://t.co/3twKWxychz
— すがやみつる (@msugaya) May 18, 2021
少年なつ漫王28号収録の高野よしてる作品は他に以下の作品を収録
地獄をのぞいた人たち(1957年)
ターザンのさんぽ(1951年)
泳げ少年(1955年)
地球をころがす少年(1954年)
レフト君とライト君(1952年)
この中の「地獄をのぞいた人たち」という短編が良かった。
噴火寸前の阿蘇山の火口に不時着した飛行機の尾翼を溶岩で溶接するなど、高野よしてるらしいシュールな話で笑えるのだが、油断してると唐突に主人公の少年に誰が優先して生き残るべきか決めさせるというハードな展開になり焦る。守銭奴な経営者の叔父を、社員が路頭に迷うからという理由で脱出させ、自らは選ぶ立場なので死地に残るという決断をするのがすごい。
手塚治虫、赤塚不二夫、杉浦茂、横山光輝など、漫画界のレジェンドたちのアシスタントを務めた斉藤あきらの「仕事人参上!」(超名作!紙の本でも欲しい)で、高野よしてるのエピソードも読める。自腹で自宅まで電柱を立てるなど、かなりの売れっ子だったことがわかる。1巻と3巻4巻に登場。
盗まれた奈良の大仏と鎌倉の大仏を戦わせる、ガンダム0083の元ネタでもあるウソ 高野よしてる「赤ん坊帝国」ついに読むことができた。
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) August 14, 2023
初出は1952年。動く大仏映画はこれ以前にもあったが、戦わせたのは初めてだろう。鉄人28号よりも4年早く、リモコンの争奪戦も行っている。収録は少年なつ漫王28号。 pic.twitter.com/UfzhW6TSJd
機動戦士ガンダム Gフレーム EX02 ガンダム試作2号機 (1個入) 食玩・ガム (機動戦士ガンダムシリーズ)
- 出版社/メーカー: バンダイ(BANDAI)
- 発売日: 2021/01/25
- メディア: おもちゃ&ホビー
ターミネーターの元ネタ?永井豪流の白土忍法が炸裂!「黒の獅士」 [名作紹介]
黒の獅士 (文庫版) [マーケットプレイス コミックセット]
- 作者: 永井 豪
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- メディア: コミック
永井豪の「黒の獅士」を取り寄せてみた。
あちこちでターミネーターの元ネタだと言われている漫画だ。
そんな漫画があるんだ、と最近知った。
購入した文庫版の帯には、スターウォーズの元ネタになったとも書いてある。
通巻表記をローマ数字にしているのはスターウォーズを連想させるようにしてるのだろうか。
だが調べても大抵ターミネーターのことしか書かれていない。
なぜスターウォーズの方はミュートされがちなんだろうと疑問に思って調べてみた。
なんと連載が始まったのはスターウォーズ公開の翌年!そりゃミュートされるわ。
文庫版解説によると、作中で主人公の腕が切断されて義手になるのが後年のスターウォーズの続編「帝国の逆襲」と共通した展開ということが主に言いたいらしい。
「黒の獅士」の話の冒頭は王道忍者漫画として始まる。
文庫版解説で作者自身が明かしているが、白土三平や山田風太郎の影響が見られる。
話の冒頭から、横山光輝「伊賀の影丸」を超えてやんよ!という意気込みを感じる。
そんな大人気忍者もあっさり倒す、銅磨陣内(どうまじんない)というキャラが元祖ターミネーターらしい。
正体はサイボーグで、妨害をもろともせずに主人公を追いかけてくるのは言われてみればターミネーター的だ。
だが、怖さでは明かにシュワちゃん演じるターミネーターの方が怖い。
それは黒の獅士が王道忍者漫画として描かれているからだと思う。
登場人物が現実離れした身体能力を持つ超人忍者たちなので、読者に死を感じさせるようなリアリティがハリウッドの実写映画に比べて圧倒的に足りないのだ。
(鳥山明「ドラゴンボール」5巻に登場するメタリック軍曹はターミネーターのパロディ)
さらにターミネーターは、自分と同じ名前の人間が次々と殺されているというニュースを見たヒロインが、次は私なのではと恐怖するプロットが秀逸で、それがターミネーターの追いかけてくる感を増幅させている。
(画像は片山まさゆき「ぎゅわんぶらあ自己中心派」6巻収録「ヤーメネーター」)
そもそも不死身キャラというのは難しいと思う。
不死身アピールのために何度も致命傷を負わなければならないため、必然的に弱く見えてしまうからだ。
山田風太郎「甲賀忍法帖」の薬師寺天膳も、伊賀の影丸の阿魔野邪鬼も、忍者じゃないけど無限の住人の卍もそう。
(画像は魔夜峰央「パタリロ!」34巻)
黒の獅士の銅磨陣内も、塚原卜伝という実在の老剣士に頭を叩き割られ、それでも死なないことに相手がびっくりしたのに気を良くしてか、反撃しないままその場を立ち去る、なんてシーンが冒頭にあってあまり強そうに見えない。
さらに言うと、そのシーンから、
どこまで先の展開を考えて描いているんだろうという疑問が湧いてしょうがない。
この先、銅磨陣内は実はサイボーグだったという展開になり、ターミネーターのように顔半分をスケルトンヘッド状態にして大暴れするのだが、
あれっと思ってページを戻すと、
塚原卜伝に頭を割られた時は生身っぽい。
実はサイボーグ、そんな構想がある様には見えないのだ。
しかも頭が痛いことに、
この「黒の獅士」は永井豪がデビュー前に描いた80ページの大作のリメイク。
探したら一部だけ見ることができたのだが、「実はサイボーグ」というのは変わらないコンセプトのようだ。。。
最初に全身サイボーグという構想があるのなら、何も不死身アピールで頭を叩き割らせる必要はない。
心臓を貫かれても生きてる、とかやればいい。
合理的に考えれば、描いてる途中でデビュー前のリメイクにすることを思いついたのだろうという結論になるのだが、永井豪の考えることは規格外だから正直よくわからない。
お話も二転三転して行き当たりばったり感がある。
惚れた女と一緒に逃げるために、家族でも殺す!という展開で始まったのに、
追手の計略にハマってその女をあやまって殺してしまい、捕まって復讐の機会を窺うという暗い展開になるのだが、その後の主人公はそんな暗い情念はまるで見られず、個人的な復讐は忘れて大義と組織のために頑張る、みたいな展開になる。ただし宇宙的スケールで。時空も飛び越え、その辺もターミネーター的ではある。
繰り返すようだがハッタリ効きまくりのいかにも永井豪らしい漫画だと思う。
永井豪が描いた張飛翼徳が見れたのは収穫だった。
ターミネーターの続編、
「ターミネーター2」は社会現象にもなり、当時大流行していたビデオレンタルでは貸出中が相次いだ。
「T2」という略し方がさらにプレミア感を高めた。
(画像は冨樫義博「幽遊白書」6巻)
ムービー・マスターピース DX ターミネーター2 1/6スケールフィギュア T-800 (バトルダメージ版)
- 出版社/メーカー: ホットトイズ(Hot Toys)
- 発売日: 2013/11/30
- メディア: おもちゃ&ホビー
プーチンの口に舌を入れろ!佐藤優「憂国のラスプーチン」は帰ってきたマスターキートンか? [名作紹介]
俺が森喜朗漫画コレクターということで、
「憂国のラスプーチン」という漫画を勧められた。ありがたい。
まず佐藤優原作、長崎尚志脚本、というのに興味を惹かれる。
どちらもキライな人物だったからだ。
佐藤と長崎がなぜキライなのか?
原作者の佐藤は「ゴーマニズム宣言NEO」で小林よしのりの論敵として出てきて、自分の印象では唯一小林よしのりに勝った人物。これによって小林は作品をひとつ(わしズム)失った。佐藤の元外務省って肩書きは、編集者に圧力をかける政治力がそんなあるもんなのかって思った。
画像は「ゴーマニズム宣言NEO」2巻。ちなみにこの事件は2008年。
掲載誌のSAPIOは2012年から刊行ペースを落とし、2019年に実質休刊となった。
脚本担当の長崎は浦沢直樹のブレーンとして知られる辣腕編集者。
大好きなマスターキートンの実質のシナリオ担当者だという。
しかしこの名前が表に出てきたのと自分が浦沢直樹の漫画がつまらないと思うようになった時期が一致する。
ついでに作画の伊藤潤二も好きか嫌いかで聞かれたら、嫌いな漫画家だ。
これは単に自分がホラーが苦手だからである。
そんな嫌いな作家三人が寄り集まって何を描いたか。
国際情勢スパイ探偵モノ、つまりマスターキートン的な漫画だという。
これは惹かれる。
念入りにサンプルやレビューをチェックして中身を吟味。
購入に至って読んだが、めちゃくちゃ面白かった。
伊藤潤二の作画は、いたずらに怖がらせようという箇所もあって、その辺はいただけないとは思う。
でもまあサービス精神というか名刺がわりの範疇か。
丁寧で美麗な作画で、いい漫画家なんだなと思った。
「憂国のラスプーチン」は全6巻。
ムネオハウス関連で逮捕された佐藤優(さとうまさる)の法廷闘争を描いた漫画だ。
これは国がけじめをつけるために強引に犯罪者を作り上げる国策捜査であり、そういった国家の罠に対して無罪をかけて戦うというのが大まかなあらすじ。北方領土を取り返すためにロシアで活動していた中で、どこに落とし穴があったのかを検証する内容だ。
特徴的なのは、敵が体制側の検察であるにも関わらず、必要以上に悪く描いてないことだ。
これは佐藤が元外務省職員という体制側にいた人間だということもあるのだが、とにかく新鮮だ。
↓以下が従来の漫画に登場する検察のイメージ
(画像は本宮ひろ志「新サラリーマン金太郎」3巻)
↓ところが憂国のラスプーチンでの検察の描かれ方はこうだ。
この「ライバルキャラ」である検事の高村がいいのだ。
高橋留美子が帯に似顔絵を描くぐらい良いキャラクターだ。
さぞかし暴力的な尋問を仕掛けてくるのだろうと思っていたが、高村は徹底的に理詰めだ。
佐藤のために涙を流したりもする。
読者的にも気を許しそうになる展開ではあるが、
「検察官が味方に見えてきたら危険な兆候」というセリフで緊張感を失わせていない。
もちろん高村は、佐藤を完落ちさせるために最も効率が良いと考えて理詰めを選択している。
検察がステレオタイプな高圧的尋問を行うことは高村も否定しない。
この漫画で衝撃的なのは、オッサン同志のベロチューシーン。
みなもと太郎「風雲児たち」でも江戸時代のロシア漂流編で描かれる風習だ。
現在も存在して実際にロシア外交には必須のテクニックだというからすごい話だ。
小渕恵三がモデルのキャラクターが生真面目に練習しようとするシーンが面白い。
面白すぎる漫画なのだが、単純に面白がっていいのだろうかという疑念も付きまとう。
この漫画を読むと、佐藤優も鈴木宗男もアントニオ猪木も素晴らしい政治家だったのかと思ってしまう。なかなかそこのハードルは飛び越え難いので、慎重に行かせてもらいたい。
そしてこの漫画には明らかな嘘がある。
著者の佐藤優は非常に濃い顔をしたオッサンなのだが、この漫画の中では童顔な若者になっている。
(時々アップのコマで佐藤本来の濃さを表現しようとしているのが面白い)
そして漫画に登場する弁護士は若くて綺麗な女の子だ。
これがこの漫画にとって必要な「ウソ」であることは理解している。
オッサンたちによる基本密室の会話劇を、そのまんま描いたんじゃあまりにも読者を限定してしまう。
状況を整理するのに出てくる美人弁護士は、この漫画のオアシスだ。
でもそこで我に返るのだ。
この美人弁護士は現実には50歳ぐらいの油ぎったオッサンなのでは???と。
そう思ってしまうと何が現実で何が嘘なのか。見極めておかないと不安になってくる。
コミカライズにあたってどこまで脚色したのか確かめておきたいと思い、原作本「国家の罠」を読んでみた。読み始めたのが2023年の2月。500ページあって、漫画の冒頭に辿り着くまでに250ページぐらいで骨が折れた。5月末あたりにようやく読み終えた。
驚いたのは、割とそのまんま。
検察とのやりとりを載せるのは、高村(原作では西村)さん的に不利益になるのではと心配になって、その辺どうなってるのかなというのも興味のひとつだったが、特に高村氏の出世に響くこともなく、組織的にも評価される仕事ぶりだったのだそうだ。この事について、佐藤が検察という組織を評価している。
女性の弁護士も実在した。
が、漫画にあった「素敵です」のセリフは原作本には無かった。
原作執筆時に書かなかっただけなのかもしれないが。
高村たちモデルになった人物を検索してみると、やはり容姿や年齢が漫画と違うのでガッカリする。
まあこれは主観的な問題である。
MASTERキートン Reマスター 豪華版 デジタルVer.(1) (ビッグコミックススペシャル)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2022/05/30
- メディア: Kindle版
日露戦争で捕虜になったロシア兵が友好を示そうとキスして日本兵にぶん殴られたエピソード。
— サムハラ 9月17日 吉野会 (@meizi_samuhara) September 10, 2023
映画、ドラマの二百三高地でもラストの旅順降伏シーンでキスしてたな。 pic.twitter.com/195xsivS4e
弾丸よりも早く動き、時を止める「エイトマン」はスタープラチナの元ネタか? [名作紹介]
8(エイト)マン 秋田書店版 コミックセット (Sunday comics) [マーケットプレイスセット]
- 作者: 次郎, 桑田
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 1992/07/01
- メディア: コミック
「エイトマン」(正確には「8マン」)サンデーコミックス版全5巻を取り寄せて読んでみた。
連載開始は1963年。能力的にコンパチなサイボーグ009より1年早い。
原作平井和正、作画はコンペから桑田次郎(二郎)が選ばれた。
松本零士も候補だったという。
購入したのは、
「ジョジョの奇妙な冒険」のスタープラチナの元ネタなのではと思ったからだ。
特に目の下の線。
ジョジョのスタンドは超能力なのにメカ系のデザインが多いのが特徴。
好きだけど今どき横山光輝から影響を受けてる感じが荒木飛呂彦って変わってるなと思わせる部分だったのだが、スタープラチナだけは元ネタが違う感じがして気になっていた。アシュラマンかなと思ったこともあった。
エイトマンは弾丸よりも早く動き、エネルギー補給のためにタバコを吸うのが特徴。
ポパイのほうれん草みたいなもので、燃費が悪いのか作中でしょっちゅうヤニ切れになる。
荒木飛呂彦は第三部構想にあたって、
エイトマンから連想して主役を喫煙者、そして素早く動ける能力者ということにしたのではなかろうか。
確認のためエイトマンを読んでみると、
スピードを最大限に上げると時が止まったように見えるという、スタープラチナ・ザ・ワールド的な描写もあった。
他にもエイトマンには既視感があるコマがあった。
婦人同伴の時に敵に遭遇し、ドキドキしながらすれ違い、結局戦闘にならないというシーンがある。
この既視感、なんだっけかなと必死で思い出す。
小山ゆう「お〜い!竜馬」18巻で、竜馬が沖田総司とすれ違うシーンだ!
竜馬メイキング本でも言及のあったシーンだが、その本には単にカッコイイシーンを描きたかったとしか書かれていない。
にわのまこと「ザ・モモタロウ」に出てきたオイトマンの宿敵、台風男爵は出てこなかった。元ネタじゃないのかよ!
エイトマンは人気絶頂の1965年作画の桑田二郎が拳銃の所持で逮捕。
漫画もアニメも打ち切りになったという。
そのせいかサンデーコミックス版では最終回が掲載されていない。
…と思ったら、1巻の初版が1968年。連載開始は1963年。
この時代は単行本化という商法自体に出版社が及び腰だったので時差があるのはわかるのだが、逮捕から3年後というのも微妙な話だな。
平井和正/桑田次郎「エイトマン」を読み出す。
— ムゲンホンダナ(本棚持ち歩き隊) (@hondanamotiaru) May 25, 2023
1巻はもう半世紀以上前の1968年初版。
購入したのは1977年15刷。
思ったよりほのぼのしたマンガだ。
ギャグを細かく入れてきて面白い。
ヒットするのも分かる。 pic.twitter.com/GJMxyjDPwV
その忍法は悪魔超人が受け継いだ?堀江卓の「忍法十番勝負」 [名作紹介]
「伊賀の影丸」について調べてく流れで気になった「忍法十番勝負」という作品。
著者名は横山光輝となっているが、よく見ると漫画家10名によるリレー漫画なのだ。
こんな順番になっている。
堀江卓(ほりえたく)1925-2007
藤子不二雄(ふじこふじお)1934-2022
松本あきら(まつもとあきら)1938-2023
古城武司(こしろたけし)1938-2006
桑田次郎(くわたじろう)1935-2020
一峰大二(かずみねだいじ)1935-2020
白土三平(しらとさんぺい)1932-2021
小沢さとる(おざわさとる)1936-
石森章太郎(いしもりしょうたろう)1938-1998
横山光輝(よこやまみつてる)1934-2004
名前は全て当時のもの。松本あきらは松本零士だ。
なんと「青の6号」の小沢さとる以外は全て故人になってしまった。
ちなみにこの漫画の小沢さとるの絵は伊賀の影丸時の横山光輝そっくり。伊賀丸というキャラクターが出てくる。
単行本の初版は1966年。購入したのは1979年の42刷。めちゃくちゃ売れてた。
よくよく調べたらAmazonで新品も購入できる。
まだ刷ってるのかよ!
いま何刷なんだ?置いてくれる本屋あるのか?
(2010年50刷が存在する書き込みがTwitterにある)
当然中古しかないだろうと思い込んで中古で購入したのだが、かえって高くついたのだった。
秋田書店は「サイボーグ009」や「がきデカ」などもいまだに刷り続けているらしい。
そういえば4年前に「マカロニほうれん荘」を新品で大人買いしたな。1巻62刷だった。
10人の中で最も印象に残ったのはトップバッターの堀江卓「一番勝負」。
やけにノリの軽い忍者がかっこいい。モンキー・パンチみたい。
最後は忍法ペストにやられて唐突に死んでしまう。
その技は危険すぎるだろ!
ゲームブックで選択に失敗したみたいなオチだった。
ゆでたまご「キン肉マン」のザ・ニンジャが使う「忍法顔うつし」という技があるが、
その元ネタと思われるコマも堀江卓の一番勝負の中に発見。
一峰大二の「六番勝負」に出てくる技、「忍法かすみ龍」はどういう理屈の技かよく分からないが、カメハメ波的な肉体飛び道具の元祖なのかもしれない。煙のような龍が出てきて相手の武器を絡めとる忍術だ。ゆでたまごの「闘将!!ラーメンマン」の猛虎百歩拳に似てないこともない。
自分にとって堀江卓は学研まんが伝記or名作シリーズでよく見ていた漫画家。
「聖徳太子」「水戸黄門」「狼王ロボ」「銀ギツネ物語」など。
複数人作家による連作、「学研まんが日本の歴史」でも数巻描いている。
基本的に絵が達者な人だと思うのだが、学研まんがの頃の作風は少しデフォルメがキツイ。
アメリカンカートゥーン的だ。
ガンガン絵柄が変わっていくタイプの漫画家らしく、この先はもっとリアル系になっていったようだ。かなりやり過ぎな気がするが。。。自分的に忍法十番勝負の絵柄がちょうどよく感じる。
銀ギツネ物語は子供の頃、何度も読み返した。
下の画像は堀江卓による中表紙で、本表紙は石ノ森章太郎が描いている。
埋まってしまった子供たちを助けるために、血を滲ませながら前足で土砂を掻き出す描写が痛々しく切ない。
堀江卓の作品は、現在Kindle Unlimitedで多くの作品が読むことができる。
忍法十番勝負はトゥギャザッターに掲載順や細かいバージョン違いの話などが綴られていた。深すぎる。