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コスパよく貸本漫画が読める!文藝春秋「幻の貸本マンガ大全集」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

最近、古い漫画のアンソロジー(選集)が楽しい。

これまで、光文社の「少年傑作集」
文藝春秋の「漫画讀本傑作選」を紹介してきた。
名前は知ってるけど、ちゃんと読んだことはないエンシェント漫画家の作品が一挙に読める。

前回、劇画史についての資料をあれこれ読んでいると書いたが、
たとえ一作でも作品を読んだことあるないでだいぶ理解が違うと思う。

今回は、「幻の貸本マンガ大全集」を紹介。
その辺の劇画史に出てくる漫画家の作品が一挙に読めてコスパがいい!

幻の貸本マンガ大全集 (文春文庫―ビジュアル版)

幻の貸本マンガ大全集 (文春文庫―ビジュアル版)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1987/03/01
  • メディア: 文庫

 
では収録作品を紹介。

辰巳ヨシヒロ「死人の手紙」1957年
言わずと知れた劇画の立役者。関西のまんが道「劇画漂流」の主人公の作品は推理漫画。劇画漂流や短編集「TATSUMI」の暗くて陰鬱なイメージと全然違い、丸っこい絵柄でオシャレですらあるのは意外だ。漫画に映画的手法を取り入れることに躍起になっていた時期の作品だが、すでにかなり極まってる感がある。遊びが感じられなくて、少し窮屈かもしれない。

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松本正彦「隣室の男」1956年
「劇画バカたち!!」を描いた松本の推理漫画。そんなことを知らずに最初に読んだ時は、なんて下手な漫画なんだと衝撃を受けた。明らかに画力が無いのにパースの効いた凝ったアングルが多い。しかし松本は後のアングレーム漫画賞ノミネート作家である。「隣室の男」は劇画漂流の中で辰巳ヨシヒロが衝撃を受け、2009年に同タイトルで復刻された際には宮崎駿ら大物が寄稿、帯の推薦文はリリー・フランキーだからもう権威に平伏してしまうわけである。手塚治虫を含めた漫画家の人気投票で7位だったこともあるそうだ。

でも、近いところにいた佐藤まさあきも「私にはよく松本の魅力が分からない。私と感覚が合わなかったのであろう。」(劇画の星をめざして)と語っているのだ。息子さんも「父は売れない漫画家だった」と証言している。

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さいとうたかを「砂を咬む男」1964年
説明不要の「ゴルゴ13」の作者の作品。イメージ通りのドンパチもの。もう週刊漫画雑誌戦争たけなわの頃の作品なので、スタイルも完成してるようであまり新鮮味がない。

佐藤まさあき「みなごろしの歌」1963年
男は皆殺し、女はやりまくりという無茶苦茶なイメージのある佐藤。辰巳とさいとうと一緒に手塚治虫に認められた劇画三人衆の一人で超売れっ子だったそうだが、あまり作品は読み継がれていない気がする。貴重な劇画史の語り部であり、一人で月産600ページを描いた時期もあったという筆の早かった彼が、漫画で劇画史を語らなかったというのがなんとも惜しい気がする。収録作品の内容も、いつもの、という感じ。Kindle Unlimitedにも全盛期の作品がいっぱいある。

水木しげる「ろくでなし」1965年
説明不要の「ゲゲゲの鬼太郎」の作者。転機となる講談社に原稿を依頼された年に描かれた短編で、イメージ通りの作品である。主人公は水木漫画によく出てくるキャラクターで、辰巳ヨシヒロの兄で自身も漫画を描いていた桜井昌一がモデル。桜井も貸本出版社を経営、水木の「悪魔くん」を売り出すが、結果は芳しくなかったようだ。文庫巻末で桜井がガロの長井勝一と対談している。長く売れなかった水木だが、マガジンから声がかかるあたり、やはり見ている人は見ているものである。佐藤まさあきも貸本漫画出版社の社長として水木にたびたび原稿を依頼していた。「劇画の星をめざして」に水木の変人ぶりと、当時の苦境が描かれている。

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つげ義春「おばけ煙突」1958年
わたしら世代だと「こち亀」で知った千住火力発電所の、煙突掃除職人の悲哀を描いている。おどろくのは絵柄の違いである。デフォルメされた丸っこい絵柄でイメージと全然違う!あとで知ったが、つげ義春ほど人真似して絵柄を変えてしまう漫画家もいないそうだ。それを自作の中で「盗作した」とまで言い切っている。自分が確認したところでは、手塚治虫、白土三平、永島慎二、辰巳ヨシヒロ、水木しげるの影響が感じられる。芸術性が高く敷居が高い気がする漫画家だが、「おばけ煙突」は読みやすい。こういう漫画から入っていくのもアリだと思う。実際、ここから私はつげ義春にハマってしまうのである。

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白土三平「変身」1960年
言わずと知れた貸本漫画界のトップランナー。辰巳が一枚何百円で描いていた時代、つげの証言によると「小学館と白土の契約で億というカネが動く」だったのだそうだ(劇画暮らし)。水木しげるは数人の貸本漫画家にスパゲッティを奢れる経済力がすごいと漫画に描いていた(水木しげる伝3巻)忍者武芸帳が始まった翌年の作品で、容姿が蛍火そっくりで、名前が影丸の妹と同じ「あけみ」という女忍者が主人公。ちょっとどうかと思う。

平田弘史「帰参」1963年
濃い時代劇漫画家なので、あまりちゃんと作品は読んだことはないが、「帰参」を読むとやはり上手いなあと思う。貸本漫画家だった知人と偶然会ったことをきっかけに、配管工からジョブチェンジ。佐藤まさあきと同居していた時期があり、「劇画の星をめざして」でも出番が多い。初対面の印象は悪かったそうだが、作品を読んだら佐藤もすぐにファンになってしまったとこと。

平田は描いたセリフを必ず大声で音読してチェックしていたそうだ。
女性のセリフも声色を使っており、聞いた佐藤まさあきは平田が乱心したと思ったという。
以下のネームもやはり音読していたのだろう。

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楳図かずお「くも妄想狂」1963年
言わずと知れた「まことちゃん」「漂流教室」の漫画家。これもイメージ通り。佐藤まさあきが同居していた時代のことを「劇画の星をめざして」に詳しく描いている。性格が子供っぽく、今の時代だったら迷惑YouTuberとかになっていたのではないだろうか。佐藤の兄にマネージメントを任せていた時期がある。

巴里夫「ひとみが四つ」初出年不明
少女漫画なのだが、そういうジャンルも貸本漫画にあったのかと感心する。いそじましげじ名義で、早くから上京した貸本漫画家としてよく劇画史本に出てくる。

K・元美津「殺人時間割」1959年
氷を作れる最新型の冷蔵庫が登場する推理漫画。のちにさいとうプロに所属して「ゴルゴ13」の脚本などを手がけた漫画家だという。擬音にアメコミの影響が見られる。

以上、読んだ劇画史で出番の多い漫画家を中心に紹介させていただいた。
「幻の貸本マンガ傑作選」には他に以下の漫画作品が掲載されている。

滝田ゆう「只今禁煙中(カックン親父)1962年
ありかわ栄一(園田光慶)「ある乗客」1963年
小島剛夕「湯島妻恋坂」1964年
山本まさはる「カチン!ときたね」1963年
永島慎二「びんぼうな、マルタン(漫画家残酷物語)1964年
いばら美喜「人花火」1964年
矢代まさこ「カラス猫が鳴く」1962年
石川フミヤス「青い海」1966年
影丸譲也「電話が鳴る時…」1964年



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