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劇河大介とはなんだったのか。関西のトキワ荘、辰巳ヨシヒロ「劇画漂流」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

不朽の名作「まんが道」
その中に、派手に登場するけれど、あまり大した出番のないキャラクターがいます。
劇河大介とはなんだったのか?

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描かれるはずだったけど描かれなかった彼の活躍。
その結果、漫画の歴史は「トキワ荘史観」という閉じられた世界観で一度まとめられてしまう。
多くの漫画好きが抱く漫画史は、三国志正史に対する、三国志演義みたいな誤解がある。

入口に演義があっていいと思う。
しかしまんが道を読んで、自分はそろそろ四半世紀ぐらい経って色んな本も出ている。
そろそろ漫画史をアップデートするべきだろう。

その辺を履修すべく、「劇画史」の本を色々と読んでみましたので、なるべく簡単にまとめます。
漫画では辰巳ヨシヒロ「劇画漂流」全2巻、松本正彦「劇画バカたち!!」
文字の本では辰巳ヨシヒロ「劇画暮らし」、佐藤まさあき「劇画の星をめざして」あたりが良かった。

 
まず貸本漫画というレンタルコミックの文化が当時はあり、そこでしか流通しない漫画があった。
一般流通漫画に比べれば貸本漫画はデビューも容易。表現規制も緩やかだったことから、数々の新しい漫画技法が生まれる。あまり真っ当な漫画表現とは見做されず、漫画界のヒエラルキーではセミプロみたいな扱いだったようだ。

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(貸本漫画出版社に持ち込みをするちばてつやの画像は「ひねもすのたり日記」2巻

この辺は「まんが道」ではほぼ黙殺(というか省略)されている。
みなもと太郎が「挑戦者たち」の中で、その文化の一端を紹介している。

げきがだいすけはなこ2.png

大阪の「日の丸文庫」という貸本漫画の出版社から刊行された短編集「影」が大ヒット。
辰巳ヨシヒロら若い世代が中心となって、新しい漫画表現が次々と生み出される。

げきがだいすけはなこ5.png
(画像は辰巳ヨシヒロ「劇画漂流」上巻

が、暴力的で好ましくないというバッシングも巻き起こる。

上京した辰巳ヨシヒロは、さいとう・たかをらとグループを結成。
我々の漫画は「劇画」であると関係各所に檄文を送り付け、手塚治虫も衝撃を受ける。
ちなみに辰巳は中学時代に手塚に才能を認められた天才漫画少年。
もちろん劇画仲間たちも皆、手塚の影響を受けていた。

「少年マガジン」「少年サンデー」など週刊漫画雑誌が創刊されると、貸本文化は急速に衰退していく。多くの出版社が倒産。多くの貸本漫画家が廃業、淘汰される。
水木しげるは辰巳の兄の桜井昌一と組んで入魂の「悪魔くん」を世に送り出すが全く売れず極貧で廃業寸前。

覇権を狙う少年サンデーは、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫といったトキワ荘メンバーをおさえ、さらに手塚治虫をマガジンから引き抜く。その対抗策としてマガジンが打ち出したのが貸本漫画家の抜擢。
これが大当たり。

水木しげる、ちばてつや、白土三平の他に、
日の丸文庫系の貸本漫画家としては さいとう・たかを、川崎のぼる、佐藤まさあきたちを登用して大ヒットさせる。

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(画像は水木しげる「ゲゲゲの家計簿」2巻

劇画ブームを巻き起こし、手塚治虫の漫画はもう古いという流れが生まれる。

手塚治虫自伝「ぼくはマンガ家」にこうある。
劇画が貸本屋に溢れだし、ぼくの家の助手たちまでもが二十冊も三十冊も劇画を借りてくるようになったとあっては、ぼくも心中おだやかでない。ついにぼくはノイローゼの域に達し、ある日、二階から階段を転げ落ちた。マンネリだ、マンネリだと読者の手紙が殺到し、何を描いても評判が悪く、しかも助手は劇画に熱中する。もう世の中はおしまいだと思って。千葉医大の精神科に精神鑑定をしてもらいに出かけた。

そして重症だから仕事をやめろと手塚にドクターストップがかかるのである。

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(画像は「鉄腕アトムプロローグ集成」。手塚は劇画キャラクターを悪役にしてアトムに出演させた。)

勢いに乗るマガジンは、辰巳ヨシヒロにも声をかける。

いま流行っている劇画は自分の思い描いている劇画とは違うと感じていた辰巳は、
「俺なんかが描いたら部数が落ちますよ」とことわりを入れる。

「今のマガジンの部数を減らせるぐらい影響力のある作品は大歓迎ですよハッハッハ!」とイケイケの編集長。

それで辰巳が老人介護につかれた青年の漫画なんかを描いたものだから見事に部数は落ち、編集長は更迭。以後、辰巳は少年マガジンのブラックリストに入ったという。

日の丸文庫系で他にも出世したのは少女漫画家の大家となった高橋真琴

日の丸文庫で事務仕事をしながら作品を描いた水島新司はのちに野球漫画の金字塔、「ドカベン」を描く。

日の丸文庫の短編集でデビューした池上遼一は劇画のカリスマに。
現在も「トリリオンゲーム」などを描き、今なお進化を続けている。

日の丸文庫の東京支社で採用された本宮ひろ志は少年ジャンプに見出され、劇画ブームの次の漫画革命、ジャンプ黄金時代の始祖の一人となった。その代表作は「サラリーマン金太郎」

 
劇画ブームで終わった漫画家と囁かれた手塚治虫は「ブラックジャック」で復権。
「ブッダ」で文藝春秋漫画賞を獲得した手塚は、授賞式にトキワ荘メンバーらを招かず、
辰巳ヨシヒロ、さいとう・たかを、佐藤まさあきの三人だけを招待して激励した。
これは辰巳ヨシヒロの自伝的作品「劇画暮らし」のひとつのクライマックスだ。

漫画家として多忙な時期を終えつつあった辰巳ヨシヒロの劇画は、徐々に海外で評判となり数々の賞を受賞。手塚治虫と一緒にヨーロッパを訪れることもあった。

2011年、シンガポールのエリック・クー監督により、長編アニメーション映画『TATSUMI』が作られる。



以上、まんが道がどこまで描くつもりだったのかは分からないが、あの劇河大介というキャラクターには、それぐらいの情報が詰まっていたはずなのである。それが漫画読みにとっての常識になるはずだったが、そうはならなかった。

今現在、巷に溢れる漫画は、当時の概念でいえばほとんどが劇画と言えないこともない。

終わり。

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(画像は「ジョジョの奇妙な冒険」40巻)



劇画漂流 [文庫版] コミック 全2巻 完結セット

劇画漂流 [文庫版] コミック 全2巻 完結セット

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: コミック



劇画暮らし (角川文庫)

劇画暮らし (角川文庫)

  • 作者: 辰巳 ヨシヒロ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/10/25
  • メディア: 文庫



劇画バカたち!!

劇画バカたち!!

  • 作者: 松本 正彦
  • 出版社/メーカー: 青林工藝舎
  • 発売日: 2009/04/21
  • メディア: コミック



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野口文雄「手塚治虫の奇妙な資料」と杉浦茂「少年西遊記」の奇妙な資料 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

修正の鬼と呼ばれる手塚治虫を検証した「手塚治虫の奇妙な資料」を購入して裁断して電子化して読む。
購入動機は作者の野口文雄が気になったから。詳しくは後述。

なかなかいい本である。スーパー太平記とか、こじき姫ルンペネラとか読みたくなった。

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一冊に収めないといけないから泣く泣くページをカットしてるんだとのたまう手塚センセイだが、同時代に出ていた鉄人28号はエピソードの途中で次巻に続く連続物の構成になっているので矛盾する。単行本修正は、やはり手塚一流の性癖によるものと分析していて(意訳)良いツッコミだ。

「奇妙な資料」で知ったアトムの改変の中で、もっとも驚かされたのは「マッドマシーン」での修正。
なんと斜め視点で大迫力のマッドマシーンを、わざわざ平易なアングルで劣化させて描き直しているのだ。

初出
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単行本
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だが手塚は、人物や装置、背景までも軽くしてしまう。その方が単行本としては見やすく、可笑しく、楽しいと考えて…。

と、野口文雄は分析しているが、これが的を得ているかはよく分からない。

全て掲載できるわけもないが、
この本に描かれていないアトムの修正をひとつ披露しよう。
「アトム今昔物語」についての修正だ。

「アトム今昔物語」は雑誌休刊で、一度アトムの連載が終わった後にサンケイ新聞で連載された漫画。
サンコミック版では6〜8巻と、単行本3冊分にわたって収録された大長編である。

科学の未発達な連載当時の昭和の日本にタイムワープしてしまったアトムが、エネルギー切れを気にして時には悪人の言いなりになったり、ベトナム戦争で戦ったりしながら、ついに命運尽きて動けなくなり、野ざらしになって朽ち果てていきつつ、トドメとばかりに爆破されると言うショッキングな話だ。

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だいぶ改変が加えられているというので、初出状態で読みたいと思い、復刻版を収録した「鉄腕アトムコンプリートブック」を購入してみた。

完全保存版 鉄腕アトムコンプリートブック

完全保存版 鉄腕アトムコンプリートブック

  • 出版社/メーカー: メディアファクトリー
  • 発売日: 2003/03/28
  • メディア: 単行本

そこで初めて読んだエピソードの中に「ドロッピーのトム」というエピソードがある。
混血の不良少年のトムが、アトムによって更生させられるという、なんてことのない話だ。
そのトムが後に、実はアトムの生みの親、天馬博士の若き日の姿だったという展開。

そりゃないよ手塚先生!…と思う。
トムにはなんら天馬博士の面影がない。

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普通なら、鼻の形が似てるとか、科学に興味を持ってるとか伏線を張っておくだろう。
トムは髪も金髪、名前も天馬博士の本名の午太郎(うまたろう)と似てるところがまるでない。
単なる思いつき以外の何者でもない。そのせいか単行本化でまるまるカットされてしまった。

ちなみに復刻された「アトム今昔物語」は、描かれた当時のままの原稿がもちろん存在していないので、掲載されたサンケイ新聞からスキャン&補正を行っている。

それで思い出したのだが、杉浦茂「少年西遊記」という漫画がある。

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杉浦茂は明治生まれで、全盛期の作品の原稿がほぼ残ってないパターンの漫画家。
掲載誌からスキャンするにも、作者や出版社にも全ては残っておらず、買い集めるにしても高価。
そんなだから単行本もダイジェストだったり、新規に描き直されたものが多い。

2000年に亡くなった杉浦茂の葬儀の帰り、子供の頃に読んだ「少年西遊記」をまた読みたいと思ったのがみなもと太郎。叶わぬ願いと愚痴混じりに、連れの嶌津義治に相談する。

嶌津「でも四十年以上も昔の「おもしろブック』を一年以上ですよ、別冊フロク付きで全部揃えてる人なんて、いないでしょう

みなもと「ワセダのマンガ図書館にも、ほとんどないってさ。国会図書館にも、版元の集英社にも、ほとんど揃ってない。特に別冊フロクはゼロに等しいし、たとえあっても貸し出し厳禁だもんな

嶌津「仮に、揃えてるマニアがどこかにいたとしてもですよ。それを印刷して本にするには、ホチキスをはずして、全ページばらさなきゃいけないんですよ。そんな事を許すマニアがいると思いますか」

みなもと「いるわけないよな。……俺、この間『まんだらけ』で一少年西遊記』の別冊フロク、一冊だけ売ってるのを見たよ」

嶌津「いくら付けてました」

みなもと「一万円。…よっぽど買おうかと思ったけど、あの薄さじゃなァ。もちろん単行本に出来るんなら、今からでも買うよ」

嶌津「それ一冊じゃ、どうにもなりませんね」

みなもと「だろ」

嶌津「万々が一、雑誌とフロクが揃ったとしてですよ。出版できるアテはあるんですか」

みなもと「……ない」

嶌津「もし出せたら、奇跡ですね」

みなもと「……奇跡だな」

3年後、河出文庫から「少年西遊記」全3巻が出版される。
嶌津さんが奔走し、貴重な蔵書を解体して提供してくれる人を見つけたのだ。
このエピソードは「少年西遊記」3巻の後書きに、みなもと太郎が書いていたもの。
今から20年も前の話だ。

その人に迷惑がかかるからと、貴重な蔵書を提供してくれた人の名前はをそこではNさんとだけしているが、奥付にはきちんとクレジットが入っている。その人こそ「手塚治虫の奇妙な資料」の野口文雄さんだったのである。


少年西遊記 コミック 1-3巻セット (河出文庫)

少年西遊記 コミック 1-3巻セット (河出文庫)

  • 作者: 茂, 杉浦
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2003/05/01
  • メディア: 文庫



手塚治虫の奇妙な資料

手塚治虫の奇妙な資料

  • 作者: 野口 文雄
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2023/09/18
  • メディア: 単行本



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風刺漫画家はなぜ老害化したのか?文藝春秋「漫画讀本傑作選」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

実写版は青島幸男が演じた長谷川町子の漫画「いじわるばあさん」の元ネタは、
ボブ・バトルの「意地悪爺さん」(原題:エゴイスト)

今回は風刺漫画の話。
おとなマンガ、ナンセンス漫画という表現もあるけども、ここでは風刺漫画に統一させていただく。
風刺とは何か。
歴史の教科書にも登場するジョルジュ・ビゴーの作品を連想する。

ぶんしゅん2.jpg

そもそも風刺とは、
人物や社会の欠点を直接批判せずに嘲笑的に表現すること。
あてこすりや嫌味をそれとなくおこなうこと。なのだそうだ。

簡潔に、主に権力に対して行う、行使すると付け加えられると思う。
漫画表現の歴史を考えると、風刺漫画はかなり一番最初に来てしまうジャンルだ。
言い換えると漫画表現としては「古い」ということである。

「漫画讀本傑作選」という風刺漫画の短編集を購入、裁断、電子化して読んでみた。
「讀」の字は「読」の古いバージョン。「まんがとくほん」と読む。
漫画讀本は1954年に創刊された風刺漫画雑誌。


ワクワクしながら読んでみたのだが率直な感想を言うと、ぜんぜん面白くない。

いや、もちろんなかには面白いものもあるのだけれど打率が低すぎる。
それにしたって現在の漫画がたくさんページ数を使って、あらゆる手段で「感動」を誘ってくるのに対して、1コマで表現したいのが「冷笑」という風刺漫画は娯楽として伸び代がほとんどないと言って間違いない。やはり風刺漫画は漫画の過渡期な表現だと思う。ジャンルとして完成されてはいるので誤魔化されそうになるが。

大塚英志との対談本、「まんが学特講」でのみなもと太郎の漫画讀本分析によると、
海外の風刺漫画を載せてるうちは良かったが、独自路線を歩むようになるとレベルが低下したという。

どうしても「インテリじゃないと分からない」というベクトルに進まざるを得ないジャンルだ。つまり作者も読者も、この漫画の良さが分からないのはバカだから、という悪循環で独りよがりな解釈に陥り易い。新人がデビューするのも難しく、既得権益化しやすかったのだろうと想像する。

ゴッホの「ひまわり」みたいな一点物なら消費者が大金を積むので、誰にでも経済的価値が分かるが、大量に安価で印刷物として頒布される風刺漫画が市場的価値を見出されるか?もちろん漫画表現が進化・発展していくと、風刺漫画は徐々に商業的に通用しなくなっていく。

漫画讀本は1970年に廃刊。休刊かもしれないがこの際置いておく。
1982年に文庫化された漫画讀本傑作選の表紙にはこうコピーライティングされている。
劇画よ、さらば!帰ってきた60年代の爆笑」

ぶんしゅん1.jpg

つまりこう言いたいのだ。
「我々は一度劇画に滅ぼされた!しかし今や劇画も滅んだ!風刺漫画はこれから復活するのだ!」
この風刺漫画サイドの、劇画を敵視する態度を一度覚えていただきたい。

劇画とはなにか。
そろそろ分からない人も多いのではないだろうか。
劇画とは1950年代後半に辰巳ヨシヒロらが起こした新たな漫画表現の潮流である。

子供向けと風刺漫画で二極化していた当時の漫画表現の、中間層を狙ったものだ。
今やほとんど死語だが、当時の感覚で言えば現在の漫画作品のほとんどが劇画だと言えないこともない。

劇画を定義するのは難しいと言えば難しい。
劇画創立メンバーの漫画家らの間でも微妙な捉え方の違いがあるし、いわゆる劇画ブームの時代に世間からそう言われた作品も、辰巳ヨシヒロに言わせると劇画とは言えないものが多かったようだ。

世間的に共通するイメージといえば「セックス&バイオレンス」も描くというところだろうか。
つまり「悪書」であると糾弾されやすい。

話を風刺漫画に戻すが、
俺たちの良さが分からないのは読者が悪いという思考に陥り易い風刺漫画家の一部は、そういう劇画のわかりやすい弱点にすがって、ますます孤立していったのだった。

劇画誕生に関わった漫画家のひとり、佐藤まさあきは当時の人気雑誌「アサヒ芸能」依頼されてに劇画を描いたところ、風刺漫画家らのボイコット運動が起こり、続きは断念せざるを得なかったと著書「劇画の星をめざして」に書いている。

辰巳ヨシヒロは昭和39年の漫画家協会創設パーティーにて、風刺漫画の大家の近藤日出造から、「なぜ劇画の連中がいるんだ。劇画なんて漫画じゃないんだ。君たちは別に漫画家協会を作ればいいんだ」と公衆の面前で罵倒されたと自伝「劇画暮らし」に書いている。

近藤日出造は藤子不二雄A「まんが道」にも登場する。

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ちなみにその19年後、辰巳に作品を依頼してきた週刊読売の編集長は近藤日出造の息子だったという。その時すでに日出造は他界していた。その息子が父と辰巳の確執を知っていたかどうかは分からない。風刺漫画家でありながら権力に擦り寄って原発のPR漫画の仕事を続け、批判にさらされている近藤日出造の晩年をどう見ていたのか。「栄光なき天才たち」っぽくて非常に興味深い。

ちなみに佐藤まさあきの「劇画の星をめざして」でも近藤日出造の態度が批判されている。

漫画賞の審査会を行うから来てくれと、北沢楽天の自宅の上に建てられた大宮の漫画会館に佐藤が行くと、そこで見たのは審査会で酔っ払ってロクな審査をする気もなさそうな先輩先生たちの姿だった。劇画と児童漫画の選考を任された佐藤は、候補作品の中に盟友の辰巳ヨシヒロの作品を発見。推薦する。すると近藤は原稿をパラパラとめくり、「この辰巳ヒロヨシは人気があるんか?」と名前を間違える。「人気はあまりないけれど、一生懸命努力をしています」と佐藤が答えると、「そんなら努力賞やな」と受賞が決まったといういい加減なものだった。

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漫画賞といえば、漫画讀本は文藝春秋から刊行されており漫画賞も開催していた。
文藝春秋漫画賞の初期は風刺漫画を対象に選考していたようだが、風刺漫画が衰退すると選考対象を広げざるを得なくなり、審査する風刺漫画家たちの漫画音痴っぷりが世間にさらされ批判された。

いしかわじゅんは、著書「漫画の時間」の中で文春漫画賞審査員だった加藤芳郎を批判している。
「私は最近、漫画を読んでおりません」と授賞式の講評で加藤が堂々と言い放ったというのだ。作品知識もあやふやで、すでに十数年のキャリアを持っていた江口寿史「大型新人」と表現。

ふうしぎのうみのナディア2.png

文春漫画賞の迷走は以下のページが面白い。
https://naokiaward.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-4333.html

その中で、やはり加藤芳郎のコメントにイラっとする。
「加藤(引用者注:加藤芳郎) 今度の文春漫画賞に吉田戦車をぼくらが選んだということに関しては、今まであれを密かに楽しんでいた批評家とかそういう連中が、嫌な顔してるのね。ということは、ぼくは分かるんだ。ぼくらは芝居っていうとマリオンに行ったり、帝劇に行ったり、博品館に行ったり、紀伊國屋に行ったりしてんだよ。ところがあれはテントの芝居なんですよ。(引用者中略)そこへおれたち帝劇派がたまたまテントに行って、おもしれえなんて言ったもんだから、「こっちが先だッ」というのがあるんだね、あれは(笑)。」

いしかわじゅんは加藤芳郎への批判を、こうまとめている。
加藤は、かつて天才だった。しかし、才能は滅びるものだ。今の彼は、本人も気づかず老害を振り撒いているだけなのだろう。これは、実は文春だけの問題ではない。どこの出版社の漫画賞も、いかに形だけの選考委員が多いことか。漫画賞の審査員は、せめて漫画を今も愛していて、ちゃんと読んでいる人にやってもらいたい、とぼくは心から思うのだ。

文春漫画賞は2002年に終了する。
ゴーマニズム宣言が受賞してないあたり、審査員の度量と風刺精神の狭さも察する。
 
ちなみに私が購入した「漫画讀本傑作選」は1989年の新装版。
非常にコスパが良い本だと思うので、興味ある人は購入を勧めたい。

寄稿しているのは以下の作家(読み物も収録している)

横山隆一長谷川町子加藤芳郎手塚治虫和田誠園山俊二小島功砂川しげひさ那須良輔横山泰三馬場のぼる井上洋介水野良太郎牧野圭一梅田英俊水木しげる富永一朗/チャールズ・アダムス/ペイネ/コービン/トポール/サンペ/シャバル/ハーグリーヴス/ジョヴァネッティ/石ノ森章太郎二階堂正宏しとうきねお/灘本唯人/福地泡介サトウサンペイ秋竜山/長尾みのる/ヒサクニヒコ/佐藤六朗/永美ハルオ/東海林さだお久里洋二クロイワ・カズ長新太滝田ゆう
/森吉正照/鈴木義司/ヴァジル・パーチ/ウンゲラー/ロリオ/フランソワ/シネ/ボスク/ココ/イロニムス/モーリスーアンリ/E ・ホルツ/アルチバーシェフ/山口瞳/植草甚一/永六輔/青島幸男/殿山泰司/加太こうじ/團伊玖磨/大伴昌司/高木健夫/山本嘉次郎/戸川幸夫筒井康隆赤塚不二夫
/安藤鶴夫/きみえだ・ひろし/吉行淳之介清水崑杉浦幸雄/秋好書/西川辰美/松下井知夫/南部正太郎/岡部冬彦/荻原貴次/塩田英二郎/佃公彦/改田昌直/服部みちを/おおば比呂司/小川哲男/金親堅太郎/工藤恒美/出光永/近藤日出造

数学者と東海林さだおが対談する「岡潔センセイと議論する」が面白かった。




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アトム、鉄人、009。古典漫画を買う際に選択肢多すぎて君はどこに落ちたい問題 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

前回「鉄腕アトム」サンコミックス版全22巻を読破したわけですが、
驚いたのは掲載順がてんでバラバラなところ。

連載12年目のエピソードが3巻で出てくるありさま。
浦沢直樹「PLUTO」の元ネタ「地上最大のロボット」のことなんですけども。
怪物になるかもしれないと苦悩しつつ、ついに100万馬力を手に入れる話をこんな序盤に持ってきている!
ちなみに1巻は連載9年目の話から掲載。

手塚治虫といえば修正の鬼。
中国で無許可出版された海賊版ですら、無償で原稿を直して送りつけてしまう狂気の男である。

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(画像は宮崎克/吉本浩二「ブラックジャック創作秘話」3巻

さぞかし気合い入れて単行本版のアトムを再構成してるのかと思いきや、100万になったアトムの馬力が後の方の巻では10万馬力に戻っていたり、また100万になったり、天馬博士がいきなり改心して出てきたり、アトム家族がいきなり登場したり、ほぼスジがつながっていないのだ。

これはあれだ。
つながっているようで話が微妙に前後してる古畑任三郎を見る感覚に近いのかもしれない。
救いなのは、毎度初出が明示されていることである。

このアトムの掲載の順番は作者のお気に入りを優先している気がする。
漫画の文法が確立していなくて読むのがしんどい初期のエピソードほど、後ろの巻に掲載されている。
ちなみに鉄腕アトムの前身となった「アトム大使」は15巻に収録されていた。

話に連続性をもたせない、時系列をバラバラにしていることで、アトムを時間の流れない、完結の無い作品にしているようにも感じる。ちなみに中盤ぐらいにあるアトム今昔物語というロングエピソードで、孤立したアトムはエネルギーの残量を気にしながら、最後には命運尽きて完全にガラクタとなる最後を迎えている。もちろんここからも話は続く。

繰り返しになるがこれはあくまでサンコミックス版(版元は朝日ソノラマ)の話。
他にも数えきれないぐらいの版があり、ざっと調べたところでは秋田書店のサンデーコミックス版が定番なのだそうだ。掲載順がどうなってるのかはよく分からない。サンコミ版より1巻多い全23巻なのがちょっと気になる。やっぱり読むからには全話収録がいいよねえ。

『鉄腕アトム』全21巻+別巻2巻セット(化粧箱入り)SUNDAY COMICS

『鉄腕アトム』全21巻+別巻2巻セット(化粧箱入り)SUNDAY COMICS

  • 作者: 手塚治虫
  • 出版社/メーカー: 秋田書店
  • 発売日: 2000/04/06
  • メディア: コミック


鉄腕アトムコンプリートブックによると、サンコミックス版に足りない1巻分は学童誌版アトムらしい。さらに豪華愛蔵版鉄腕アトム全15巻は発表順に掲載されていると紹介されている。

でえ、
自分が生まれる前の漫画の古典を、最近いろいろと買いあつめては電子化して読んでいるわけですが、アトムのように名作ほど様々なところから出版されており、それが必ずしも全話収録、発表順の収録でないのが悩みどころ。

ブラックジャックは秋田文庫版で買ったけど、掲載順はバラバラだし全話収録されていない。
調べてみると自主規制などで全話収録された版は無いという。

驚くのがアトムの「地上最大のロボット」にも影響を与えた横山光輝「伊賀の影丸」

伊賀の影丸 全15巻完結 [マーケットプレイス コミックセット]

伊賀の影丸 全15巻完結 [マーケットプレイス コミックセット]

  • 作者: 横山 光輝
  • 出版社/メーカー: 秋田書店
  • メディア: コミック

サンデーコミックス版、秋田文庫版はそれぞれ手に入れやすい、目につきやすい商品であるにもかかわらず、その実態は掲載順が入れ替わっていて無茶苦茶なことになっている(ように素人目に見える)。自分は秋田コミックセレクトを購入。これは発表した順に正しく収録されているようである。

興味ある人はtogetter「横山光輝「伊賀の影丸」の単行本ってどれを選べば良いの?」を参考にされるのが良いと思う。

石ノ森章太郎の名作、「サイボーグ009」も悩まされた。
定番なのはサンデーコミックス。
自分も最初に読んだのがコレで装丁に思い入れがあるのだが、全15巻で全話収録されていないのはあきらか。

サイボーグ009 1 (サンデー・コミックス)

サイボーグ009 1 (サンデー・コミックス)

  • 作者: 石ノ森 章太郎
  • 出版社/メーカー: 秋田書店
  • 発売日: 1995/09/01
  • メディア: コミック

豪華版009が安かったので買おうと思ったら、これも発表順ではないというから理解に苦しむ。拉致されて、改造された009がチームと出会い島を脱出する話を収録したのが5巻!秋田文庫版もそうなっているらしい。誰がためにそんなことを?

豪華版 サイボーグ 009 全23巻

豪華版 サイボーグ 009 全23巻

  • 作者: 石ノ森 章太郎
  • 出版社/メーカー: 秋田書店
  • 発売日: 2023/09/09
  • メディア: 大型本

結局、サイボーグ009はどれを買えばいいのか。
調べてみると、ShotaroWorld版全28巻というのが良いらしい。ただしお高くて中古相場は2から3万円。廉価版のMFコミックス版はその半額ぐらいで全36巻。002と一緒に成層圏から飛び降りる気持ちでShotaroWorld版全28巻を購入したのだが、廉価版より8巻も少ないのがちょっと引っかかっている。まだ未読である。

Shotaro World サイボーグ009 コミックセット (Shotaro world) [マーケットプレイスセット]

Shotaro World サイボーグ009 コミックセット (Shotaro world) [マーケットプレイスセット]

  • 作者: 章太郎, 石ノ森
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
  • 発売日: 1998/07/01
  • メディア: 単行本

横山光輝「鉄人28号」は、
迷い出したらキリがないので、あまり深く考えずに巻数から言って全部収録されてそうな光文社文庫版の全12巻と、「続鉄人28号」全13巻を購入。

鉄人28号 全12巻完結(文庫版) [マーケットプレイス コミックセット]

鉄人28号 全12巻完結(文庫版) [マーケットプレイス コミックセット]

  • 作者: 横山 光輝
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • メディア: コミック

続 鉄人28号 1~最新巻(文庫版)(光文社文庫COMIC SERIES) [マーケットプレイス コミックセット]

続 鉄人28号 1~最新巻(文庫版)(光文社文庫COMIC SERIES) [マーケットプレイス コミックセット]

  • 作者: 横山 光輝
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • メディア: コミック


定番的な評価であるサンデーコミックス版は全10巻はもちろん全話未収録ではあるが、読みやすいと評判で、むしろこれを最初に読んでいたからこそ鉄人が好きになれたとまで言っている人もいる。


【コミック】鉄人28号(全10巻)

【コミック】鉄人28号(全10巻)

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: コミック

実は以前鉄人が文庫化された際に徐々に買い集めていたのだが、いかんせん古い漫画なので読みにくく、4巻ぐらいで購読を打ち切ってしまった過去があるので戦慄している。

…というわけでアトムを読み終わったので次は鉄人に挑戦しようと思っています。

…あ、復刻版の「アトム今昔物語」もまだ未読だった。

 
009を買う際に穴が開くほど見返して参考にしたツイート。

<追記>
ぎゃああああああ!!!!


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いまさら鉄腕アトムを読破して驚くドラゴンボールに与えた影響 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

『鉄腕アトム』全21巻+別巻2巻セット(化粧箱入り)SUNDAY COMICS

『鉄腕アトム』全21巻+別巻2巻セット(化粧箱入り)SUNDAY COMICS

  • 作者: 手塚治虫
  • 出版社/メーカー: 秋田書店
  • 発売日: 2000/04/06
  • メディア: コミック

ついに手塚治虫「鉄腕アトム」全22巻(サンコミックス版)を読み終えた!
そんな基本中の基本が未読だったのかよーって話ではあるが。

不思議とアトムの単行本を、本屋で見かけた記憶が無いのであった。
ブラックジャック手塚治虫全集はよく見かけていたけども、アトムは無い。
当時巻き起こっていた黒人差別問題のせいかもしれない。

手塚治虫漫画を初めてちゃんと読んだのは「ブッダ」
こりゃすごい漫画だと思うのと同時に、ひょうたんつぎとか、お迎えでゴンスなどのお約束ギャグが理解できなくて戸惑った記憶がある。漫画原作者の大塚英志も同じようなことを本に書いている。

現在所有している作品もブラックジャック以降のものがほとんど。
それ以前のものは子供むけ。読まなくてもいいぐらいに思っていたのかもしれない。
だがしかし実際にアトムを読んでみたら、これはスゲエ漫画だと思い知らされたのである。

驚いたのは、
今ある少年漫画のヒット作のあれこれを、すでに鉄腕アトムでやっているということだ。
浦沢直樹「PLUTO」の元ネタ、「地上最大のロボット」を読みながら思った。

空を縦横無尽に飛び回って戦う、
これってドラゴンボールじゃん!

主題歌の歌詞にも出てくる10万馬力。
アトムの前に立ち塞がる敵ロボットは、30万馬力、50万馬力、100万馬力とインフレしていく。
戦闘力じゃん!

100万馬力の強敵、プルートウのデザインはフリーザの第二形態に似てる!
ちなみにドラゴンボールは戦闘力5から始まってジワジワ上がっていき、
戦闘力100万越えするのはフリーザ第二形態!
これは狙ってやってたのだろうか。

アトムボーイ2.jpeg

そして、プルートウと戦うために、
自らも改造され100万馬力になったアトムがこれである。

アトムボーイ3.jpeg
スーパーサイヤ人じゃん!

調べてみると、やはり鳥山明は手塚治虫の影響を強く受けていた。
アラレちゃんがロボットなのもアトムが好きだったからこその着想だと本人が分析している。

アトムボーイ4.png

「Dr.スランプ」11巻80ページで「アトムのロボットを毎日マネしとった」と書いている。

アトムの真似から2.png

アトムには「ロボッティング」という格闘技大会の描写がたびたびあり、それをアトムの妹のウランちゃんが勝ち抜いていくエピソードは天下一武道会のように手に汗握る。この辺をもう少し推していたら…と思う。現在のバトル漫画に比べると、やや抑えた感じなのが惜しい。描きたかったのはSFなのだろうし、アトムは暴力反対のクレームを受けることが多かったから控えめにしたのかもしれない。

他にも「エジプト陰謀団の秘密」(1959年)では、
エジプトの石像ロボたちが合体!飛行形態に。
六神合体ゴッドマーズ(1981年)じゃないですか!

アトムボーイ8.jpeg

他にもたくさんのロボットが合体して、ひとつの巨大ロボになるということもやっている。
ディズニーとか、藤子不二雄とか、タツノコとか庵野秀明「シン・シリーズ」とか、の無理やり合体ロボみたいじゃないですか。

アトムボーイ6.jpeg


「白熱人間」(1961年)に登場するブロンXの飛行形態はガメラ(1965年)のようだ。
島本和彦「炎のニンジャマン」(1991年)に登場する忍術、カラダ手裏剣にも似ている。

アトムボーイ13.jpeg

「地球最後の日」(1964年)に登場するベムは女の子。
「デビルマン」のシレーヌに似ている。
永井豪は熱烈な手塚ファンである。

アトムボーイ11.jpeg

いきなり敵のキャラクターデザインが変わる「ロボイド」(1965年)
「キン肉マン」のオーバーボディ的なこともやっている。

アトムボーイ10.jpeg

キン肉マンはドラゴンボールの戦闘力よりも先に「超人強度」という概念を作っている。
担当編集者だった松井栄元がBIGFIGHT01で語ったところによると、これはやはりアトムの「地上最大のロボット」からきているとのこと。

アトムの真似から.png

「アトム対ガロン」(1962年)では、強敵を宇宙に吹っ飛ばす。
ジョジョの奇妙な冒険第二部のクライマックス、カーズ戦のようだ。

アトムボーイ9.png

知ってる人が少ないかもしれないが昔「ぐわんばる殿下」(1982年)というコロコロコミック連載の漫画があって、曲がったことが大嫌いという親のポリシーを誤解して、ひたすら真っ直ぐ突き進むというギャグ漫画があった。
アトムでは「気体人間」(1952年)でやっている。鳥山明も「Dr.スランプ」で似たような話を描いていた。

アトムボーイ14.jpeg

ストリートファイター2のラスボス帝都大戦や、猿渡哲也の漫画が元ネタというのはよく言われることだが、名前は鉄腕アトム「ロボット宇宙艇」(1963年)に登場する女性軍人ベガからとったのではないか?わざわざ女性の名前をつけ、海外では他の問題もあって改名している。

アトムボーイ15.jpeg

「ゾロモンの宝石」(1967年)で、水の中から出現するゾロモンのシルエットが、
「バビル2世」(1971年)ポセイドンそっくり。
作者の横山光輝は手塚のアシスタント経験者。

アトムボーイ12.jpeg

ちなみに「地上最大のロボット」は横山光輝「伊賀の影丸」の影響を受けたエピソードなのだそうだ。
「鉄腕アトムプロローグ集成」という本に書かれていた。やはり横山光輝もスゴいのだ。

 
というわけでブラックジャック以降を読んでおけば手塚治虫は間違いないという認識を恥じたのであった。手塚治虫すげーなー。鉄腕アトムを読んどけば間違いない!

アトムボーイ16.jpg

ちなみに評論家の斎藤次郎は「少年ジャンプの時代」の中で、鳥山明は手塚治虫に最も遠い作家と分析してたりします。




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アトム、鉄人が掲載された覇権少年漫画誌。光文社「少年」傑作集 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

ちょっと前のことである。
「最も偉大な漫画家3人って誰だと思う?この問いに、手塚治虫と藤子Fをあげないやつは3人目を語る資格がない という漫画読みの問いかけがあったんだけど、」というツイートが話題になっていた。

語る資格がないとまで言い切るその漫画読みが誰なのか探してみたけど分からなかった。 典型的なトキワ荘史観な漫画の捉え方だと思う。しかも排外的。俺は語る資格がある、ないやつもいるというわけだ。俺はNO MANGA NO LIFEですけど、たかが漫画だぜ?よろしかぁない。(だいたいこの人選の流れだと三人目に自分世代の好きな作家を入れる余地なんかないぞ?)

なぜ漫画読みはイキってしまうのかという疑問がある。
ほとんどの人は自分世代の漫画しか読まない。ほぼ全員が食わず嫌いというジャンルである。
それでも結構な量があるから、あたかも漫画作品全部を把握したような気になるのではないか?

趣味の入り口としてハードルがとても低いし、人と競ったり協力し合いながら楽しむものでもない。
なので、ある種の錯覚を起こしながら世間に出品されてしまう人が現れてしまうのは仕方ないことなのかもしれない。

 
古い漫画を読むと、自分世代の漫画家たちが影響を受けた痕跡を発見することが多い。
例の「伊賀の影丸」は驚きまくった。この年になっても漫画は知らないことばかりだ。
その古い漫画家たちにも、憧れて真似した作品があったはずなのだ。

むかしはよくある表現だったものが、その中から後世に1作品しか残らなかったためにいらんとこまでオリジナルだと誤解されるケースもある。「快球Xあらわる!!」と「丸出だめ夫」が消えて、「ドラえもん」しか残らなかったように。

元ネタを全てを追跡するのは不可能。
そのことがわかった上で考えてほしいものである。
君たちはどうイキるのかを。

 
そんなわけで、
後学のためになんとなく古い漫画の傑作集みたいなものの詰め合わせをオークションで落としてみた。
その中にあった光文社の「少年傑作集」が面白かったので、全5巻+別冊1巻のセットで再購入してみた。

少年傑作集 コミックセット (光文社文庫) [マーケットプレイスセット]

少年傑作集 コミックセット (光文社文庫) [マーケットプレイスセット]

  • 作者: 光文社文庫
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 1989/08/01
  • メディア: 文庫

光文社の月刊漫画誌「少年」は、「鉄腕アトム」「鉄人28号」が連載されていた雑誌なのだそうだ。
まあ覇権だよな。そんな覇権漫画誌も、週刊漫画雑誌のブームに贖えず滅んでいったらしい。
少年ジャンプを読んで育ったが、それ以前の覇権誌など知らずに漫画を語ってきた私です。

傑作集1巻に収録された「鉄腕アトム」は、前身となる「アトム大使」の予告から数話掲載されている。
予告では「てづかはるむし」表記だったり、「鉄人アトム」だったり面白い。

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広告もそのまま掲載されていて素晴らしい。ガム会社の広告がなぜか多い。
ロッテ、明治、キング・トリス製菓とガムだけで複数に渡っている。

長い宇宙旅行の末にたどり着いた、ロボット文明が栄えたもう一つの地球。
アトム(アトム大使)ってこんな設定だったのかと驚く。
これがあまり人気がなかったものの、「アトムを主人公にして仕切り直せば売れる」というテコ入れで、漫画やアニメ史に残る傑作が誕生した、という流れなのだそうだ。

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(画像は「鉄腕アトムプロローグ集成」

ちなみに自分はこれまで漫画版アトムに触れた経験がなく、この少年傑作集収録のものが初めての漫画アトム体験となった。これきっかけでサンコミックス版の単行本を購入してみたが、かなり改変が加えられていて驚いた。いい順番で読めたなあとも思ったのである。

鉄腕アトムがメガヒットになった手塚の元には原稿依頼が殺到。少年編集部も手塚に気軽に原稿依頼できなくなった。もっとロボットものが欲しいと思った少年編集部は、手塚のアシスタント経験がある横山光輝の「鋼鉄人間28号」を改題して売り出す。これがアトムに匹敵するメガヒット漫画、「鉄人28号」である。編集者が有能すぎる。

しょうねんよたびだつのなら5.png
(画像は「横山光輝超絶レアコレクション」収録「まんが浪人」より)
 
少年傑作集の1巻はアトム、2巻は鉄人がメイン。
3巻は関谷ひさしの「ストップ!にいちゃん」がメインだった。
全く知らない漫画だったが、読んでみるととても面白く、復刻完全版の全巻BOXを購入してしまった。


江口寿史の「ストップ!ひばりくん」は、この作品にあやかっているという。
アトムと鉄人に匹敵する人気だったそうだが、これまで聞いたことがなかった。
そういう情報が断絶されてしまった作品は、アニメ化されてないものが多いと思う。

関谷ひさしは自作のアニメ化を断り続けた漫画家だという。
アニメ化は良し悪しあるだろうが、漫画の宣材としてはとても優秀だと思う。
視聴率1%でも漫画の読者数を凌駕するし、映像作品を見るのは漫画と違って特別なスキルがいらない。
海外で日本以上のメガヒットになるケースも多い。
50年後に誰にも語られなくなることを考えれば、アニメ化しておいた方が無難だと思う。

残りません.png
(画像は「漫画家誕生。」収録の石ノ森章太郎「風のように…」)

少年傑作集4巻は堀江卓の「矢車剣之助」がメイン。
世代ではないが、学研の偉人伝漫画で堀江卓の漫画はよく読んでいた。
少年傑作集のメンツをみると、学研は第一線でやってた人に仕事を依頼していたのがわかる。クオリティが高いわけだ。

偉人伝漫画は現在もいろんな出版社が出しているが、大抵は表紙詐欺である。漫画っぽいものが描ければ人選は問わないぐらいのノリでやっているところも多いのではと思う。もっと学研を見習ってほしい。まあ、時代も違うのでかけられる予算も違うのかもしれないが。

5巻は藤子不二雄Aの「忍者ハットリくん」。
まんが道の続編「愛…しりそめし頃に…」でシルバークロスが打ち切られた話が出てくるが、その後にハットリくんを描いていたようだ。シルバークロスは少年傑作集1巻にも収録されている。「愛…しりそめし頃に…」は脚色なのが事実誤認なのか、漫画に書かれていたことは事実そのままでは無いようだ。

しょうねんよたびだつのなら3.jpeg
(画像はビッグコミックスペシャル版「愛…しりそめし頃に…」6巻)

少年傑作集に収録された作品は、基本的に「良い子のまんが」という作風の作品が多いのだが、スリの世界を描いた永島慎二「地下鉄サム物語」なんて漫画もある。調べてみたら少年休刊の年の掲載。劇画ブームに押されていた故の足掻きだったのだろう。そういう漫画に激怒しそうな寺田ヒロオの作品も少年傑作集には収録されている。以下がそのリストである。

1巻
がんばりガンちゃん/福井英一
ナガシマくん/わちさんぺい
シルバークロス/藤子不二雄
ミスターロボット/杉浦茂
どんぐり天狗/うしおそうじ

青銅の魔人/江戸川乱歩 山川惣治
密林の大怪船/南洋一郎 梁川剛一

ダルマくん/田中正雄
高荷義之戦争イラスト名作集

2巻
鉄人28号/横山光輝
がんばれガン太/太田じろう
テキサスヒットの助/倉金章介
海底人8823/久里一平(原作:黒沼健)
<絵物語>第二の地球/小松崎茂
まかせて張太/赤塚不二夫
地下鉄サム物語/永島慎二
ポテト大将/坂井れんたろう
<絵物語>ジャングル巨人/山川惣治
幽霊船/石森章太郎

3巻
ストップ!にいちゃんふたたび/関谷ひさし
ストップ!にいちゃん/関谷ひさし
航空母艦/画:伊藤展安 文:北川幸引古
ロボット一家/前谷惟光
ザ・シャドウマン/さいとうたかを
山彦小太郎/武内つなよし
もうれつ先生/寺田ヒロオ

グランプリ野郎/横山光輝
発明ソン太/浅野りじ
ガン・キング/堀江卓
鉄腕アトム/手塚治虫

付録全リスト

4巻
矢車剣之助・堀江卓
口絵傑作集/小松崎茂 伊藤展安 中西立太
電人アロー/一峰大二
愛犬クマ/関谷ひさし
動物百科/浅野りじ
名探偵正ちゃん/小野寺秋風
光速エスパー/浅野りじ
絵でみる西部劇事典/高荷義之
竜車の剣/横山光輝
テスターZ/久里一平
プロペラブンちゃん/わちさんぺい
Z/石森章太郎
鉄腕アトム/手塚治虫

5巻
忍者ハットリくん/藤子不二雄A
戦車/平野光一 北川幸比古
少年テンスケくん/横山隆一
黒い風/石森章太郎
忍者/藤尾毅 北川幸比古
大城塞/影丸譲也
かみなりゴロスケ/そのやましゅんじ
とびだせ鉄平/高野よしてる
幽霊牧場/山川惣治
ハンマーキット/堀江卓
電光少年/桑田次郎
地獄くん/ムロタニツネ象
鉄人28号/横山光輝

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終戦直後の漫画好き少年は思った。「手塚治虫の新宝島は漫画の退化だ」comic新現実Vol.4 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

手塚治虫名作集 (21) どついたれ (集英社文庫(コミック版))

手塚治虫名作集 (21) どついたれ (集英社文庫(コミック版))

  • 作者: 手塚 治虫
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1995/03/08
  • メディア: 文庫

手塚治虫「どついたれ」を読んだ。
若き日の手塚自身が、高塚という名前で出てくる漫画だ。
巻末の解説文を書いている実業家の葛西健造も、同じく作中に登場する人物のモデルとなった人。

どついたれ3.png

解説によると、葛西はかつてアトムのキャラグッズで事業を成功させたことを恩義に感じ、虫プロが倒産した時に手を尽くして債権をまとめて版権の散逸を防いだという。

虫プロの倒産エピソードはこれまで読んだ関連書籍のイメージだと、「借金もなんのそのであっさり復活!さすがは手塚治虫!」…という印象だったのだが、やはり当時はそれなりに大変だったのだろうなと思わされた。掌を返すひとが現れる一方、私財を投げ打って助けてくれる人も出てくる。手塚の人生観も多少なりとも変化があったことだろう。

ところで、
漫画「どついたれ」漫画の中で若き日の手塚が、当時の大漫画家である横井福次郎に自著を見てもらい、子供だましだと言われ落ち込むシーンがある。

どついたれ2.png
横井福次郎の孫は爆笑問題のマネージャーなんだと。

思い出すのは過去に何度かこのブログで取り上げてきたエピソードだ。
島田啓三による新宝島評「こりゃ邪道だよ。こんな漫画が流行ったら一大事だ!!」

手塚3.png
(画像は矢口高雄「ボクの手塚治虫」

当時の子供達に熱狂的に受け入れられ、のちの漫画家たちに多大な影響を与え、「揺れたり震えたりした線で丁寧に描くと決めていたよ♪」というサカナクションの歌も大ヒットした手塚治虫の「新宝島」。一説には四十万部も売れたという。しかし玄人筋による執筆直後の手塚の評価は、関西の無名漫画家に過ぎなかった。



師匠であり共同原作者の酒井七馬にとって手塚は、まだ保護し続けなくてはいけない未熟な作家だった。新宝島は酒井の手によって手塚の初期の構想からは程遠いものに改変されてしまい、それは二人の決別につながる。

東京に行けば実力が認められると思った手塚だったが、講談社など出版社からも島田啓三や新関建之助ら有名漫画家からも評価はクソミソ。邪道だの絵の勉強をもっとしろだの散々だった。

しまけい1.jpeg
(画像は手塚治虫「ぼくはマンガ家」

天才を理解できない老害たち。
そういう理解でいたエピソードだ。
だが若い世代が必ずしも手塚を絶賛した訳でもなかったというのが今回の話だ。
 

前回書いた「comic新現実」、その4号。
みなもと太郎と弟子の大塚英志のトークでまたとんでもない手塚評を見つけた。

見出しが
「手塚治虫の新寶島は日本漫画の退化だった?だ。

たいかのかいしん.png

みなもとが聞いたところによると、
のちに評論家になる三木宮彦(手塚の5歳下)は、お小遣いを貯めては漫画を買い漁る少年時代を過ごしていた。しかし空襲でコレクションが全て灰になり、終戦直後の漫画が全くない時代が1、2年続く。

娯楽に飢え、やっとこさ出てきた新宝島を三木少年は読んだ。
その感想は、「日本の漫画はなんと情けないものになってしまったんだろう」というものだったのだそうだ。

みなもと太郎は解説する。
それはおそらくカラーや装丁も全部含めてのことだろうと思うけど、戦前の華やかな漫画文化をしっかり吸収してる人間にとっては『新宝島』は革命でもなんでもない

当時、小学生くらいの時に、こういう新関(健之助)の漫画なんかを必死で読んだ子どもの貴重な証言。この一言はすげー重いな、と思ってね。

戦前の人たちはちゃんとデッサンもやって、きちんとした日本画なり洋画なりを勉強した人達が漫画を描いてたわけだわね。それに対して手塚少年は、アマチュアから出てきた漫画家だから、その差はやっぱり歴然と三木宮彦少年にはわかった。確かに幼い絵だったんでしょう。新しいけど。要するに、いまのコミケのアマチュアの若いのがデビューしたようにしか見えなかったんでしょう。漫画を知っていた世代にはね。

この件についてネットで検索してみると、夏目房之介が記事にしていた。
みなもとの記事から、宮坂栄一(手塚の3歳上)にリアルタイムで読んだ新宝島の感想を尋ねているが、こちらも衝撃的である。
https://blogs.itmedia.co.jp/natsume/2017/05/post_4224.html

「私も、似た経験をしてます。[略]いやあ、『ひどいなあ・・・・」と思いましたね」[略]「手塚治虫の絵がひどいんです」[略〕「あの画力で、本になるなんて、戦前では絶対、ありえないコトです。」

そう酷評した絵に惹きつけられたとも宮坂は続けている。

「小林よしのりショック」という現象に似ている。
サンデーやマガジンだったら絶対デビューできなかったという漫画家が、新興誌のジャンプで次々とデビューし、そしてメガヒットを生み出していった。小林よしのりもデビュー当時は「あれは絵じゃない、インクの染みだ」と画力を揶揄されたらしい。しかし作品東大一直線は売れまくった。

しまけい2.png
(画像は小林よしのり「よしりん辻説法」1巻

「トキワ荘史観」という言葉がある。
藤子不二雄「まんが道」以外に漫画の歴史を学べるような強力な作品がなかったため、多くの人は手塚治虫以前に漫画はなかったぐらいの認識でいると思う。それを表した言葉だ。

手塚以前に漫画家がいたことをなんとなく知っている人でも、「しかし大した漫画家はいなかった」とボンヤリと思っている人が多いと思う。正直なところ、自分も大差ない。読めない、読みにくいからだ。

濃い漫画読みが、それまで無批判に賞賛していたヒット漫画の良さが、ある時期から分からなくなるという現象がある。原因のひとつは、新しい作品を読むたびに、比べるものが増えるからだ。当然見る目は厳しくなる。やがてこの世にオリジナルな作品などなく、全てはブレンドの妙だと気づく。「シェイクスピアですら模倣だ」と、マーク・トゥエインも言っている。

マーク.jpg
(「漫画 人間とは何か?」はKindle Unlimited対象作品)

これは成熟していないジャンルには起こり得ない現象だ。
つまり、多くの人が「大した漫画家はいなかった」と思っている戦前の漫画も、「手塚治虫の絵がひどい」と言える人たちが読者にいたほどに層があつく、成熟していたことが分かる。老害だと思っていた島田啓三らの酷評も、手塚に対する酒井七馬の態度も、ある程度まっとうなものだったのだ。
 

話をcomic新現実4号の三木の証言の分析に戻す。

大塚は「漫画の退化」と言った三木の発言を指して言う

三木さんは自分の発言がどれだけインパクトがあるか気づいておられないんですね、その意味で『新宝島』をまんが関係者がどう受け止めたかはもっと証言を取らなきゃいけない。

みなもとは答える。
そうなんです。今まで出てきてない。トキワ荘世代の衝撃しかわれわれは聞いてないんです。前回出したリストの人たちは『新宝島』をどう見たか

そのリストがコレである。comic新現実3号掲載

てづかねんぴょう.png

手塚治虫の新宝島とはなんだったのか。
それを深く理解するには、最低でもこの辺の作家に熟知していなければいけないと思った次第。

みなさまはどう思われるか。

 



Comic 新現実(4) (単行本コミックス)

Comic 新現実(4) (単行本コミックス)

  • 作者: 大塚 英志
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/04/26
  • メディア: コミック



ロケット・ルーン号の宇宙探険: 新関健之助作品集①

ロケット・ルーン号の宇宙探険: 新関健之助作品集①

  • 出版社/メーカー: TAPIRUS
  • 発売日: 2017/03/13
  • メディア: Kindle版



ふしぎな国のプッチャー

ふしぎな国のプッチャー

  • 出版社/メーカー: TAPIRUS
  • 発売日: 2017/06/17
  • メディア: Kindle版



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ワンダと巨像も読み返したくなる、高寺彰彦のコミッカーズ連載 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

四半世紀前、コミッカーズという雑誌に高寺彰彦のマンガの書き方コーナーがあった。
高寺彰彦、いまだにちゃんと作品を読んだことがないマイナーな漫画家である。
大友克洋のアシスタントをしていて、緻密な背景作画を評価されていた人らしい。
現在だったら確実に炎上しているような物言いを時々していたことで強い印象を残している。

同誌から出た菅野博之山本貴嗣などのHowTo本は単行本化され版を重ねたが、
高寺彰彦のコーナーは単行本化されないまま。2019年に著者も亡くなった。

時折思い返して猛烈に読み返したいという人もいるのではないだろうか?
「ワンダと巨像」上田文人も単行本化してほしいと切望していた。


この度、掲載誌全収集&電子化完了しましたので、
さらにコーナーだけ抽出して一冊の電子書籍にしてみました。
もちろん個人で楽しむためのものです。

連載期間はコミッカーズの前身となる「マンガテクニック」から1994〜1997年の3年間。
「スーパードローテクニック」、「<映と漫>画塾」、「栗8通信」と3回改題している。
 
自分も集めたい、
あるいは振り返ってみたいという人のために、一覧を作ってみました。

注:amazonで見つけたものに関してはリンクを貼りましたが、
先方に参考画像がないものもあるのでリンクが間違っている場合もあるかもしれません。
責任は取れないのであらかじめご了承ください。

マンガテクニック(表紙「メドゥーサ」かわぐちかいじ)9ページ
高寺彰彦のスーパー・ドローテクニック1自然のなかの人物
<解説>記念すべき第一回。
背景を描くために書き割りのようなラフスケッチを描いているのが衝撃的。

くりはち1.png

マンガテクニック02(表紙 吉田まゆみ)10ページ
高寺彰彦のスーパー・ドローテクニック2 演出効果を高める構図
<解説>写実的に描くことと、その絵から伝えたいことを誤解なく読者に伝える技術、
構図の演出方法について語っている。

マンガテクニック03号(表紙 江口寿史)8ページ
高寺彰彦のスーパー・ドローテクニック3 構図とアングル
<解説>前回の続き。氏の特徴である映画から引用しての説明が増える。同誌の広告ページ(レトラセットジャパン)にも氏が登場。

マンガテクニック04号(表紙 麻宮騎亜)6ページ
高寺彰彦のスーパー・ドローテクニック4 「暗示」「隠喩」「象徴」
<解説>いよいよ映画の演出方法の解説が増え、
この辺から連載が「らしく」なってきたと思える回。

くりはち.png

コミッカーズ1995年夏号(表紙 唯登詩樹)6ページ
高寺彰彦のスーパー・ドローテクニック5添削スペシャル
<解説>読者の投稿作品を添削。リライトして効果的な演出方法を解説している。
連載とは別に専門学校の見開き広告にも登場。黒澤明の映画について語っている。

コミッカーズ1995年秋号(表紙 士郎政宗)6ページ
高寺彰彦のスーパー・ドローテクニック6最終回
見開きの使い方と背景の意味
<解説>前回の添削から発展させて、
マンガならではのページめくりを利用した演出について語っている。

コミッカーズ1996年冬号(表紙 いのまたむつみ)5ページ
高寺彰彦のストーリー・テクニック講座
<映と漫>画塾 第1回モノの見かた
<解説>ついに名作映画の見方についての解説が始まる。
のちに論争を巻き起こす「顔の描き方」についてもこの回から始まる。

くりはち2.png

コミッカーズ1996年春号(表紙「マリンカラー」SUEZEN)6ページ
高寺彰彦のストーリー・テクニック講座
<映と漫>画塾 第2回ストーリーの基本
<解説>引き続き名作映画の見方について解説。

コミッカーズ1996年夏号(表紙 鈴木雅久)6ページ
高寺彰彦のストーリー・テクニック講座
<映と漫>画塾 第3回ストーリーのパターン
<解説>引き続き名作映画を使って、話の展開のさせ方のパターンについて解説。
さらに流行りの横顔の描き方について、
「モンモウ病」(手塚治虫「きりひと讃歌」に登場する架空の病気)のようだと批判。

くりはち3.png

コミッカーズ1996年秋号(表紙 山田章博)4ページ
高寺彰彦のストーリー・テクニック講座
<映と漫>画塾 第4回シナリオ添削特集
<解説>読者投稿作品をよりよくするための解説(文章のみ)

コミッカーズ1996年12月号(表紙「覚悟のススメ」山口貴由)3ページ
栗8通信その1 マンガの考え方
<解説>デフォルメされた絵と「いびつな絵」はどこが違うのか?について説明。
この辺の回がコーナーのイメージを象徴しているのではないだろうか。
藤子F不二雄先生が亡くなり、近年の漫画の評価のあり方についても批判。超辛辣である。

コミッカーズ1997年2月号(表紙「遊撃宇宙戦艦ナデシコ」麻宮騎亜)3ページ
栗8通信その2 ファンタジーの考え方
<解説>TVゲームから流行した実在感のないファンタジーコミックについて批判。

コミッカーズ1997年4月号(表紙「Happy! モンスター」浦沢直樹)3ページ
栗8通信その3 頭部の描き方
<解説>デフォルメの意図を理解しないまま模倣することで起こるコピーの劣化現象を、見開きを使って漫画で解説。

コミッカーズ1997年6月号(表紙「レイラ&レイ」衣谷遊)3ページ
栗8通信その4 理論と感覚について
<解説>読者から批判的な反応が巻き起こったようで、改めて解説の意図を説明している。

コミッカーズ1997年8月号(表紙「少女革命ウテナ」さいとうちほ)3ページ
栗8通信その5 続・頭部の描き方
<解説>さらに批判的な反応について3ページ全てを使い漫画で解説。

くりはち5.png

コミッカーズ1997年10月号(表紙 上條淳士)3ページ
栗8通信その6 リアリティーについて
<解説>氏はよく名作映画から演出方法を学べと書いているが、漫画における成功の実例紹介が無いのが弱いところではないかとワタシ的には思う。しかしこの回の「もーれつア太郎」の引用はわかりやすくて良かった。映画とはあまり関係ないけど。

くりはち6.png

コミッカーズ1997年12月号(表紙「エンジェルノート」こやま基夫)4ページ
栗8通信最終回 品位について
<解説>賛否を巻き起こしたが連載だが、プロからの批判が手元までこなかったことを残念がっている。

 
 

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描けば描くほど上手くなる伝説のウソ。東村アキコ「かくかくしかじか」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

東村アキコといえば今をときめく人気漫画家。

「ママはテンパリスト」が死ぬほど面白かったが、
それ以外の作品には手を出したことがなかったので、
これではいかんと思い、たまたま視界に入った「かくかくしかじか」を1巻だけ購入。


かくかくしかじか 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)

かくかくしかじか 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)

  • 作者: 東村アキコ
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/04/25
  • メディア: Kindle版

東村アキコ版の「まんが道」とも言える自伝的作品。
美大に行くために地元のデッサン教室に入ったら、
とんでもなく前時代的なパワハラ先生に出会い、
ドン引きしつつも大きな影響を受けていく、というお話だった。

かくかくしかじか9.png
俺だったら0.01秒で逃げだす。全5巻。

そういえば山本さほもパワハラっぽいデッサン塾に通っていたな。
デッサン教師はパワハラになりがちなのか?
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(画像は山本さほ「岡崎に捧ぐ」3巻)

1巻が面白かったので、
「かくかくしかじか」の残りの4冊もネットで購入。
届いた商品を箱から取り出したら最終巻の裏表紙が目に入ってきた。

そこに思いっきり意外な展開がネタバレされていてショックを受ける。
…もうちょっと考えてほしいわ。
 

面白かったという感想以外に
この漫画を読んで特に印象が残ったことが3つ。

ひとつめ、美大に入るのにものすごく苦労するのに就職先がない
どこに行けば就職浪人に取材できるかとマスコミが考えて真っ先に思い浮かぶのが美大なのだそうだ。

かくかく2.png

東村アキコ(47)がインタビューされた年は史上最大の就職氷河期だったそうだが、
そういえばバキの板垣の娘、板垣巴留(29)も美大卒。
彼女は就活20社も落ちた結果の漫画家選択だったらしい。
やっぱり美大卒は就職に苦労するものなのかもしれない。

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(画像は板垣巴留「パルノグラフィティ」

印象的だったことふたつ目、カネがかかる。
課題を提出するのに10万円。
東村アキコの親が援助した金額は900万円にものぼるという。
そんなに学費かけて医者にでもなるんか。医者はもっとかかるらしい…

かくかく5.png

三つめ、
デッサンを頑張っても漫画絵が上手くなる訳ではないということ。

パワハラ先生にムチ打たれながら入学試験のために死ぬほどデッサンしまくって、
美大の厳しい先生方にオッケーをもらうぐらいになっても、
漫画では編集者から「デッサンとかちゃんとやってる?」と聞かれるぐらいのレベル。

かくかく6.png

現在も決して画力で売るタイプの漫画家ではない。

そういえば東村の美大の先輩である山田玲司も、
描いても描いても上手くならない系の漫画家だった。

ところが東村の通ったパワハラデッサン塾の先輩にはなんと
「EATMAN」の吉富昭仁がいる。
ご存知の通り、こちらはめちゃくちゃ上手い。

前述の板垣巴留は東村・山田グループに分類すべき画力だが、
父の板垣恵介は吉富グループの作家だ。
この辺も謎。

一応注意しておくが、
ここで言う「上手さ」とは、もちろん写実的に近いと言う意味の上手さである。

よく「絵は描きまくれば上手くなる」とは言われる。
荒木飛呂彦なんかも魔少年ビーティーとジョジョでは
同じ液体でも何があったんだと思うぐらい全く表現力が違う。

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(画像は1983年の荒木飛呂彦作品「魔少年ビーティー」」)

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(画像は1987年の荒木飛呂彦作品「ジョジョの奇妙な冒険」3巻」)

島本和彦なんかも画力で売るタイプではないが、
描き続けて達者になった漫画家の一人だ。
荒木も島本もたくさん描いたのだろうが、それだけでは説明がつかないことがある。

かくかくしかじか10.png
(画像左は1982年、右は2017年。島本和彦「アオイホノオ」18巻より)

残念ながら鬼教官から厳しくデッサンを学んでも、
誰もがそのように漫画絵が上手くなれる訳ではないらしい。

合田誠はコミッカーズ1996年夏号の中で以下のように述べている。

ただし予備校で教えるデッサンが必ずしもマンガに役立つものであるかどうかは保証しません。「動かない実物のモデルを見ながら時間をかけて描き、実在感や空間感まで表現する」という訓練を基本にしているからです。同じ写実であってもマンガ特有の技術、例えば戦車を横から撮った写真を見て上から見たところを想像して描くとか、セミでもニワトリでも資料なしに記憶で描くとかの訓練にはほとんどならないと思います。

もちろんデッサンを習って無駄になると言うことはないだろうが、
効率よく漫画絵を上達させたいなら、合わせてクロッキー(短時間で簡潔に描く)をやるとか、さらなる工夫をする必要がありそうである。

むらさわ.jpg
(画像は村澤昌夫「水木先生とぼく」

むかし人から聞いた話だが、
プラモデルや粘土細工をやるのは見たものを頭の中で立体化して紙に描画する訓練になるそうだ。
そういえば鳥山明ってモデラーとしても一流だったりするよね。

 




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  • 出版社/メーカー: ファインモールド(FineMolds)
  • メディア: おもちゃ&ホビー



無限軌道の会 リーザ プラモデル 鳥山明デザイン

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  • 出版社/メーカー: ノーブランド品
  • メディア:



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何が本当で嘘なのか?少年ジャンプ読売巨人軍独占使用契約 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

サンデーとマガジン~創刊と死闘の15年~ (光文社新書)

サンデーとマガジン~創刊と死闘の15年~ (光文社新書)

  • 作者: 大野 茂
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/09/12
  • メディア: Kindle版


Kindle Unlimitedで大野茂「サンデーとマガジン~創刊と死闘の15年~」を読んだ。
その中の「巨人軍お墨付き獲得競争」というページが気になった。

 
少年マガジン編集長の内田勝が「マガジンの佐藤紅緑になってください」を殺し文句に、
梶原一騎に漫画原作を依頼する。そうして梶原は「巨人の星」の構想をぶち上げる。

しかし巨人の星の連載開始には大きな障壁があった。
当時は集英社「少年ブック」に巨人軍の独占使用契約があったのである。
困った内田は巨人の球団事務所に乗り込み、広報責任者の坂本幸夫に直談判。

子供客が少ない当時の巨人の観客動員現状と、
内田の熱意にほだされた坂本は集英社に契約破棄の申し入れをする。

「破棄が受け入れられないなら、今後一切取材禁止」と、
猛反発する集英社を坂本はウルトラ高圧的に承諾させる。
しかも「巨人の星」に対しては使用権料一切無料という高待遇。

こうしてメガヒットした「巨人の星」は誕生したのである。
…ということが「サンデーとマガジン~創刊と死闘の15年~」には書かれていた。
(内田勝の著書「奇の発想-みんな『少年マガジン』が教えてくれた」が元ネタだと思われる。)

 
以前、西村繁男の「さらば我が青春の少年ジャンプ」を読んだとき、
読売巨人と集英社の独占契約についてはアレコレ書かれていたが、
そんな風に破棄されたことは一言も書かれていなかった。

と、いうか破棄されたなんて書かれてないどころか、
変なことに少年ジャンプが契約を引き継ぎ、ずっと有効だった!…と書かれているのである。

男どアホウ甲子園1.png
(画像は土田世紀「編集王」13巻

まず、独占契約が始まったのはいつか。
西村繁男は「ちかいの魔球」をヒットさせたちばてつやに心酔しており、
なんとかして彼にジャイアンツ漫画を描かせたいと熱望していた。
ちかいの魔球(福本和也/ちばてつや)1961-1962講談社

貝塚ひろしの「九番打者」は独占契約の影響で改題されたと一部で言われている。
九番打者→ミラクルエース(貝塚ひろし)1964-1965-1966小学館

ついに西村の念願叶い、
集英社の「少年ブック」でちばてつやの巨人軍漫画が始まるが、
期待したほどの人気は出ずに終わる。
少年ジャイアンツ(ちばてつや)1964-1966

1968年に「少年ジャンプ」が創刊。やがて「少年ブック」は休刊に。
独占契約はジャンプに受け継がれたと西村繁男は述べている。
しかしプロ野球を扱う漫画は創刊の2年後の「アニマル球場」から。
巨人軍漫画が登場するのはその翌年の「侍ジャイアンツ」からになる。

アニマル球場(眉月はるな)1970-1970
侍ジャイアンツ(梶原一騎/井上コオ)1971-1974
炎の巨人(三枝四郎/竜崎遼児)1974-1975
あくたれ巨人(高橋よしひろ)1976-1980
どぐされ球団(竜崎遼児)1976-1982
BIG1(鈴木正俊)1977-1977
スーパー巨人(田中つかさ/蕪木一生)1980-1980

1977年から小学館の児童誌で「リトル巨人くん」が始まっているので、
この辺で契約が切れていると推測することが出来る。

ただし小学館は集英社の親会社でもあるので忖度の可能性はある。
「BIG1」も「スーパー巨人」も短期で終わっているようなので、
この辺で集英社が巨人軍漫画を諦めてる可能性もある。
 
以上のことから、
集英社と巨人軍の独占使用契約期間は1964年から1977年と推測できていた。

しかしこれについて強力な矛盾を生じさせていたのが、
1966年スタートの少年マガジン「巨人の星」である。

どういうことやねんと疑問だったのが、
「巨人の星」連載開始のために独占契約は破棄されたと、
繰り返しになるが「サンデーとマガジン~創刊と死闘の15年~」に書かれていたのである。

契約破棄が事実だとすると、 
なぜ西村繁男は、あったものとして本に書いたのだろうか?

西村は不義理した作家の報復に独占契約を使ったとも本に書いている。
水島新司がサンデーに連載していた「男どアホウ甲子園」にクレームをつけ、
主人公の巨人軍入団を阪神に変えさせたのだそうだ。
「男どアホウ甲子園」は未読だが、連載期間は1970年から1975年。
これまた契約破棄の話と矛盾する。

さらに西村は著書でそんな武勇伝を書いたすぐ後に、
三月から『巨人の星』の連載が始まり、出だしから好評だった。
と、書いているのである。よく考えると不自然すぎる文章だ。

どあほう.png

「マガジンで」を付けると分かりやすい。
つまりこういう文章になっている。
-----------------
ジャンプの巨人独占契約によりサンデーの連載を邪魔してやった。
そして三月からマガジンで『巨人の星』の連載が始まり、出だしから好評だった。
-----------------

一体どういうことやねんと思い調べてみると、
wikiの「侍ジャイアンツ」の注釈に、
西村繁男『さらばわが青春の「少年ジャンプ」』(1994年、飛鳥新社)によると、講談社の『週刊少年マガジン』に掲載された『巨人の星』はこの独占契約に反するものであったが、当時の長野規編集長が漫画界のためにあえて黙認したという。

…という文章が見つかった。

どあほう2.png

そんなのあったっけ?と思い手持ちの幻冬社版を読み返すが見つからない。
飛鳥新社版も取り寄せて読んでみたが見つからない。
奥付を見たら四刷り。初版にはあった記述なのかもしれない。
<追記:初版を入手したが、該当する記述は今のところ見つかっていない。>
 
マガジンは契約破棄させたと証言し、
ジャンプは黙認しただけで契約は続行だったと証言していたとして、
どちらが本当だったのか?

「ジャンプによる巨人軍独占契約」の期間中に
巨人軍漫画の絶対的アイコンとも言える「巨人の星」が少年マガジンに君臨していた。
これで独占契約が少年ジャンプにあったと力説できる西村氏の心理状態がよく分からない。
普通は屈辱的で、触れたくない黒歴史になってしまうのではなかろうか?

一度破棄された契約が、1971年の「巨人の星」終了によって復活したのかもしれない。
そうすると1971年からのリレー形式のようなジャンプの巨人推しも腑に落ちる。

しかし復活したならしたで、なぜ西村氏はそう書かなかったのか?
さらに言えば強引に集英社を切り捨てた巨人軍が、なぜ再び集英社と手を組んだのか?
 
他にも色々疑問が残る。

その1
講談社からの連載企画の持ち込みがきっかけで、
集英社との契約を一方的に解除する巨人軍広報部。
そんなことが有り得るだろうか?ちょっと都合良すぎるエピソードだ。

その2
西村繁男は「男どアホウ甲子園」の主人公の巨人入りを阻止したとあるが、
この漫画の主人公の名前は藤村甲子園。
甲子園と名前のついた主人公が巨人に入るだろうか?

未読なので読んでみないことには急な改変だったのかどうかは分からないが、
いろんなとこであらすじを読むと、最初から阪神入りを目指している漫画に思える。
それとも連載開始前からクレームを入れたということなのだろうか。

その3
前述の「九番打者」は「ミラクルエース」に改題して、独占契約からのお目こぼしをされたという説がある。九番打者は巨人を連想させるワードでもないし、主人公が巨人軍のユニフォームを着て試合する漫画なのは変わらないので、この説はやや苦しい気がする。

思うに、貝塚ひろしも梶原一騎&川崎のぼるコンビもジャンプがアテにしていた重要作家であった。だからお目こぼしがあったと考えるのが一番筋が通ると思う。
 
色々怪しいところのある巨人軍独占使用契約問題。
何が本当なのかよく分からない。
まあ今更どうでもいいことかもしれないけど。

 


さらば、わが青春の『少年ジャンプ』 (幻冬舎文庫)

さらば、わが青春の『少年ジャンプ』 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 西村 繁男
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2022/08/31
  • メディア: 文庫



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