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何が本当で嘘なのか?少年ジャンプ読売巨人軍独占使用契約 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

サンデーとマガジン~創刊と死闘の15年~ (光文社新書)

サンデーとマガジン~創刊と死闘の15年~ (光文社新書)

  • 作者: 大野 茂
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/09/12
  • メディア: Kindle版


Kindle Unlimitedで大野茂「サンデーとマガジン~創刊と死闘の15年~」を読んだ。
その中の「巨人軍お墨付き獲得競争」というページが気になった。

 
少年マガジン編集長の内田勝が「マガジンの佐藤紅緑になってください」を殺し文句に、
梶原一騎に漫画原作を依頼する。そうして梶原は「巨人の星」の構想をぶち上げる。

しかし巨人の星の連載開始には大きな障壁があった。
当時は集英社「少年ブック」に巨人軍の独占使用契約があったのである。
困った内田は巨人の球団事務所に乗り込み、広報責任者の坂本幸夫に直談判。

子供客が少ない当時の巨人の観客動員現状と、
内田の熱意にほだされた坂本は集英社に契約破棄の申し入れをする。

「破棄が受け入れられないなら、今後一切取材禁止」と、
猛反発する集英社を坂本はウルトラ高圧的に承諾させる。
しかも「巨人の星」に対しては使用権料一切無料という高待遇。

こうしてメガヒットした「巨人の星」は誕生したのである。
…ということが「サンデーとマガジン~創刊と死闘の15年~」には書かれていた。
(内田勝の著書「奇の発想-みんな『少年マガジン』が教えてくれた」が元ネタだと思われる。)

 
以前、西村繁男の「さらば我が青春の少年ジャンプ」を読んだとき、
読売巨人と集英社の独占契約についてはアレコレ書かれていたが、
そんな風に破棄されたことは一言も書かれていなかった。

と、いうか破棄されたなんて書かれてないどころか、
変なことに少年ジャンプが契約を引き継ぎ、ずっと有効だった!…と書かれているのである。

男どアホウ甲子園1.png
(画像は土田世紀「編集王」13巻

まず、独占契約が始まったのはいつか。
西村繁男は「ちかいの魔球」をヒットさせたちばてつやに心酔しており、
なんとかして彼にジャイアンツ漫画を描かせたいと熱望していた。
ちかいの魔球(福本和也/ちばてつや)1961-1962講談社

貝塚ひろしの「九番打者」は独占契約の影響で改題されたと一部で言われている。
九番打者→ミラクルエース(貝塚ひろし)1964-1965-1966小学館

ついに西村の念願叶い、
集英社の「少年ブック」でちばてつやの巨人軍漫画が始まるが、
期待したほどの人気は出ずに終わる。
少年ジャイアンツ(ちばてつや)1964-1966

1968年に「少年ジャンプ」が創刊。やがて「少年ブック」は休刊に。
独占契約はジャンプに受け継がれたと西村繁男は述べている。
しかしプロ野球を扱う漫画は創刊の2年後の「アニマル球場」から。
巨人軍漫画が登場するのはその翌年の「侍ジャイアンツ」からになる。

アニマル球場(眉月はるな)1970-1970
侍ジャイアンツ(梶原一騎/井上コオ)1971-1974
炎の巨人(三枝四郎/竜崎遼児)1974-1975
あくたれ巨人(高橋よしひろ)1976-1980
どぐされ球団(竜崎遼児)1976-1982
BIG1(鈴木正俊)1977-1977
スーパー巨人(田中つかさ/蕪木一生)1980-1980

1977年から小学館の児童誌で「リトル巨人くん」が始まっているので、
この辺で契約が切れていると推測することが出来る。

ただし小学館は集英社の親会社でもあるので忖度の可能性はある。
「BIG1」も「スーパー巨人」も短期で終わっているようなので、
この辺で集英社が巨人軍漫画を諦めてる可能性もある。
 
以上のことから、
集英社と巨人軍の独占使用契約期間は1964年から1977年と推測できていた。

しかしこれについて強力な矛盾を生じさせていたのが、
1966年スタートの少年マガジン「巨人の星」である。

どういうことやねんと疑問だったのが、
「巨人の星」連載開始のために独占契約は破棄されたと、
繰り返しになるが「サンデーとマガジン~創刊と死闘の15年~」に書かれていたのである。

契約破棄が事実だとすると、 
なぜ西村繁男は、あったものとして本に書いたのだろうか?

西村は不義理した作家の報復に独占契約を使ったとも本に書いている。
水島新司がサンデーに連載していた「男どアホウ甲子園」にクレームをつけ、
主人公の巨人軍入団を阪神に変えさせたのだそうだ。
「男どアホウ甲子園」は未読だが、連載期間は1970年から1975年。
これまた契約破棄の話と矛盾する。

さらに西村は著書でそんな武勇伝を書いたすぐ後に、
三月から『巨人の星』の連載が始まり、出だしから好評だった。
と、書いているのである。よく考えると不自然すぎる文章だ。

どあほう.png

「マガジンで」を付けると分かりやすい。
つまりこういう文章になっている。
-----------------
ジャンプの巨人独占契約によりサンデーの連載を邪魔してやった。
そして三月からマガジンで『巨人の星』の連載が始まり、出だしから好評だった。
-----------------

一体どういうことやねんと思い調べてみると、
wikiの「侍ジャイアンツ」の注釈に、
西村繁男『さらばわが青春の「少年ジャンプ」』(1994年、飛鳥新社)によると、講談社の『週刊少年マガジン』に掲載された『巨人の星』はこの独占契約に反するものであったが、当時の長野規編集長が漫画界のためにあえて黙認したという。

…という文章が見つかった。

どあほう2.png

そんなのあったっけ?と思い手持ちの幻冬社版を読み返すが見つからない。
飛鳥新社版も取り寄せて読んでみたが見つからない。
奥付を見たら四刷り。初版にはあった記述なのかもしれない。
<追記:初版を入手したが、該当する記述は今のところ見つかっていない。>
 
マガジンは契約破棄させたと証言し、
ジャンプは黙認しただけで契約は続行だったと証言していたとして、
どちらが本当だったのか?

「ジャンプによる巨人軍独占契約」の期間中に
巨人軍漫画の絶対的アイコンとも言える「巨人の星」が少年マガジンに君臨していた。
これで独占契約が少年ジャンプにあったと力説できる西村氏の心理状態がよく分からない。
普通は屈辱的で、触れたくない黒歴史になってしまうのではなかろうか?

一度破棄された契約が、1971年の「巨人の星」終了によって復活したのかもしれない。
そうすると1971年からのリレー形式のようなジャンプの巨人推しも腑に落ちる。

しかし復活したならしたで、なぜ西村氏はそう書かなかったのか?
さらに言えば強引に集英社を切り捨てた巨人軍が、なぜ再び集英社と手を組んだのか?
 
他にも色々疑問が残る。

その1
講談社からの連載企画の持ち込みがきっかけで、
集英社との契約を一方的に解除する巨人軍広報部。
そんなことが有り得るだろうか?ちょっと都合良すぎるエピソードだ。

その2
西村繁男は「男どアホウ甲子園」の主人公の巨人入りを阻止したとあるが、
この漫画の主人公の名前は藤村甲子園。
甲子園と名前のついた主人公が巨人に入るだろうか?

未読なので読んでみないことには急な改変だったのかどうかは分からないが、
いろんなとこであらすじを読むと、最初から阪神入りを目指している漫画に思える。
それとも連載開始前からクレームを入れたということなのだろうか。

その3
前述の「九番打者」は「ミラクルエース」に改題して、独占契約からのお目こぼしをされたという説がある。九番打者は巨人を連想させるワードでもないし、主人公が巨人軍のユニフォームを着て試合する漫画なのは変わらないので、この説はやや苦しい気がする。

思うに、貝塚ひろしも梶原一騎&川崎のぼるコンビもジャンプがアテにしていた重要作家であった。だからお目こぼしがあったと考えるのが一番筋が通ると思う。
 
色々怪しいところのある巨人軍独占使用契約問題。
何が本当なのかよく分からない。
まあ今更どうでもいいことかもしれないけど。

 


さらば、わが青春の『少年ジャンプ』 (幻冬舎文庫)

さらば、わが青春の『少年ジャンプ』 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 西村 繁男
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2022/08/31
  • メディア: 文庫



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智

興味深く読ませていただきました。男どアホウは好きなのですが、南波高校→巨人指名拒否→東大入学→ドラフト外で阪神と契約という話の流れは不自然さを感じていたんですよ。
ただ、その割には東大入学後の大学リーグは結構長く描いていましたし、水島先生は元々大阪暮らしが長くセリーグでは阪神ファンだったこともあり、巨人に入団させるとは思えないんですよね・・・。
全くの憶測ですが、男どアホウは水島先生にしては珍しい原作付きなので、原作者か編集の意向で巨人→阪神といったルートの予定だったのが、横やりが入って東大→阪神になったのかもしれません。
by 智 (2022-09-11 18:03) 

hondanamotiaruki

情報提供ありがとうございます。
なるほど、読者的にも不自然な流れっだったんですね。
ちょっと一度自分でも読んでみたいなあ。

この件に関してはまた別角度からまとめてみたいと思っています。
by hondanamotiaruki (2022-09-13 06:21) 

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