実は二度目の対決?令和に再戦する早瀬マサト七月鏡一「8マンVSサイボーグ009」 [名作紹介]
「コミックス」のメディア史 モノとしての戦後マンガとその行方
- 作者: 山森宙史
- 出版社/メーカー: 青弓社
- 発売日: 2022/04/08
- メディア: Kindle版
サイボーグ漫画の金字塔といえば石ノ森章太郎「サイボーグ009」。
その名作が打ち切り漫画だったことはご存じだろうか。
山森宙史「コミックスのメディア史」には、こう書かれている。
>一九六四年七月に少年画報社の「週刊少年キング」で連載が始まった石森章太郎の「サイボーグ009」は、内容が「わかりにくい」という同誌編集長からの指摘を受け、六五年に連載打ち切りになっていた。だが、担当編集者と秋田君夫の意向によって、サンデーコミックス創刊時の収録作品として同作は抜擢されることになる。その結果、コミックス刊行と同時にアニメ化されたことで人気は高まり、石森はマンガ家としての地位を確立した。(81ページ)
ガンダムなど、名作にはしばしばあることだが、
「サイボーグ009」も開始時は出版社の要求する水準に反響が達していなかった。
達しなかった理由のひとつに、サイボーグというテーマの新鮮味が、
今ひとつなかったのではないかというのが今回の話だ。
前回サイボーグ漫画史について色々調べた。
一番乗りはおそらく1960年、水木しげるが貸本で描いた「サイボーグ」。
その翌年、手塚治虫と横山光輝がメジャー雑誌「少年」で争うように作品にサイボーグを登場させた。
サイボーグ009の連載開始は、そのさらに3年後と、だいぶ後発だったのである。
似たような作品が増えるとそれは「ジャンル」になるが、
そうなる前の二番手三番手は「パクリ扱い」されるのが世の常だ。
後発は不利である。
ウィキペディアでサイボーグ漫画について調べると「エイトマン(8マン)」も検出された。
殺された刑事が科学の力で蘇り、エイトマンに変身して悪と戦う漫画で、大ヒット作だ。その連載開始は009の1年前。これが正確にサイボーグ漫画かどうかは詳しく後述する。
エイトマンは
「走るのが早いぐらいしか取り柄がない」みたいなイメージを持っていたが、
去年原作を初めて読んでみたら、強力な飛び道具はあるわ、変身自由自在だわ、
足の速さも時を止める勢いがあり、かなり無敵の能力でなんとかしてくれるのでグレートに驚いたっスよ。
ぜったいスタープラチナの元ネタだと思う。
一人でなんでもやってしまうエイトマンに対し、
9人で不足を互いに補うのがサイボーグ009の武器で、あとは勇気だけだ。
子供は特に強さに敏感だ。
当時の子供にとって、009はエイトマンほど強そうに見えず、憧れの対象にならなかった可能性はある。
子供はパクリ判定も必要以上に厳しい。
009の加速装置を見て、エイトマンを連想しなかった子がどれだけいたか。
おまけにエイトマンには、
ゼロゼロナンバーのキャラクターまで登場するのである。
最初、009が打ち切りだったのも分かりすぎる気がする。
さらに言うと、
009の漫画連載開始が1964年7月19日。
エイトマンの連載開始は1963年の4月ごろで、アニメ化は1963年11月7日!
つまり009の漫画は、エイトマンのアニメ化よりも半年も遅れているのである。
これで戦うのは無理筋である。
探せば探すほどマイナス要素がザックザクだ。
ちなみにエイトマンのアニメと漫画は不祥事により1964年に終了。
009がアニメ化されるのはその2年後で劇場映画だった。
TVアニメになるのはそのさらに2年後になる。
世間の記憶からは、エイトマンの記憶もそこそこ薄れていたことだろう。
エイトマンの不祥事がなかったら、
「サイボーグ009」の名声は、今と少し違うものになっていたのかもしれない。
そういえば、
エイトマンと009が対決する漫画を買ってたじゃないかと思い出した。
8マンVSサイボーグ009 上下巻セット コミック 秋田書店
- 作者: 平井和正/原作 桑田二郎/原作 石ノ森章太郎/原作 七月鏡一/脚本 早瀬マサト/作画 石森プロ/作画
- 出版社/メーカー: ノーブランド品
- 発売日: 2023/07/20
- メディア: コミック
「8マンvsサイボーグ009」全2巻。幻魔大戦リバースの早瀬マサトと七月鏡一コンビの作品。
お値段は一冊1480円とお高めだが、単行本や完全版に収録されてないエイトマンのエピソードもついてくる豪華仕様。
本当は積読になっている009全巻を読破してからVSを読もうと思っていたのだが、
009の基本的なエピソードは以前読んで知っているので、VSを先に読んでみることにした。
リバースの時と同じく、仮面ライダーブラックネタもある。
そんな「8マンvsサイボーグ009」を読んでみてどうだったか?まず絵が良い。
「幻魔大戦リバース」は、アニメで見るほど早瀬マサトの絵がオリジナルに似てないなと思った。
これは幻魔大戦の連載時期が、
早瀬マサトがベースとしている石ノ森タッチの時期と一致してないせいもあったのだろう。
「8マンvsサイボーグ009」はアニメで見たようなそっくり感がある。
フランソワーズがかわいい。
それでいて、エイトマンの作画の桑田二郎のキャラも似ているのである。
石ノ森章太郎独特のドラえもんみたいな鈍重そうな足をした009と、
スマートな足をしたエイトマンが並走して違和感ないのも素晴らしい。
幻魔大戦リバース11巻に対して「VSは」2巻完結。
内容的には2巻にするにはページが少し足りなく、余った部分はエイトマン完全版でも未収録だった話、「決闘」を収録。その決闘のエピソードは本編のテーマとも絡んでおり、話を膨らませていて無駄がない。
悲しすぎるエイトマンのラストの先を、希望を感じさせるように見せてくれて感動的。
これからエイトマンを読むと言う人には、ここまで読んで完結だと勧めたい出来だ。
ところで、
エイトマンはサイボーグと呼べるのかと前述した理由を描く。
「VS」でのギルモア博士は「どちらでもない」と答えている。
サイボーグとは人間を機械化していったものと理解している。
ところがエイトマンは物質的には全て作り物なのであり、機械なのだ。
それじゃあロボットじゃないかという話なのだが、
超科学技術により人間の魂は入っているみたいなニュアンスなのである。
ギルモア博士のネームを読んでも、この辺はよく分からない。
エイトマンの原作者が、
「8マンへの鎮魂歌」として執筆した「サイボーグ・ブルース」という小説もあった。
読んでないが、書いていくうちにエイトマンとは別物になったという。
とりあえずエイトマン自身はサイボーグとはいえないようだ。
エイトマン自身もロボットを自称している。
ただしエイトマン本編には後半サイボーグが登場するので、009よりも1年早かったかは更なる検証の必要があるが、サイボーグが登場する漫画として先に始まっているのは間違いない。また当時の読者も、ロボットとサイボーグを同じようなものだと思っていた可能性もある。
(画像は「8マン完全復刻版」6巻)
エイトマンvsサイボーグ009第一回戦はエイトマンの完勝だった可能性が高い。
アクシデントによる対決中止といった方が正確だろうか?ある種、それも王道的展開だ。
令和に実現した2回戦の結末はどうなるか?
未読の人はぜひ確かめてほしい今すぐに。弾丸よりも早く!
8マンVSサイボーグ009 上 (上) (チャンピオンREDコミックス)
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2023/07/20
- メディア: コミック
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