項羽と劉邦、あと巨乳。若年層アレンジが楽しい大山タクミ「バウンダー 最強の少年 項羽と」池野雅博「レッドドラゴン」 [歴史漫画]
「横山光輝で読む項羽と劉邦」を読んだ。
出版社が単行本化の際に「若き獅子たち」から「項羽と劉邦」に改題を持ちかけ、渋る横山光輝に
「司馬遼太郎の前に長与善郎の項羽と劉邦(大正5年刊行)があります!」
と言って説得したという話が面白かった。
そんな感じで、横山光輝がどんな資料をもとに、どんなアレンジを加えたのか検証をしている。
「バウンダー 最強の少年 項羽」という漫画の存在を知り、購入してみた。
作者は大山タクミ。アニメ攻殻機動隊のコミカライズを手がけてきた人らしい。
連載は月刊マガジン。2巻で打ち切りだったようで、殷通を殺したところで終わっている。
少女や老婆など弱者をいかに惨たらしく殺すかに卓越した作画技術を注ぎ込んでおり、打ち切られるのもわからないでもない(しかもそういう殺戮を行うキャラクターが主人公の仲間になったりする)。
しかし、楚漢戦争を若年層に向けてダイナミックに脚色するという試みは一見の価値があると思う。
例えば項羽軍の猛将、龍且(りゅうしょ)。
横山光輝は以下のように描写している。
バウンダーでの龍且は、エレザールの鎌みたいな武器を使いこなす巨乳の少女として登場する。
史実では龍且を倒した韓信も仲間として登場。
とっさに名前を龍且と偽るが、本名は田姫(でんひ)。
この先、どういう展開を構想していたのか興味深い。
ちなみにこの漫画には劉邦が登場しないまま終了。始皇帝の行列も見ない。
少年向け楚漢戦争漫画といえば、
「レッドドラゴン」の感想を書いたつもりが書いてなかった。
これもなかなか素晴らしい惜しい漫画で、その年読んだ中ではかなり上位のインパクトだった。
レッドドラゴンは劉邦の舎弟、盧綰(ろわん)を主人公にした漫画。
作者はゴブリンスレイヤーのスピンオフを描いている池野雅博。
ちなみに本宮ひろ志が赤龍王で描く盧綰はこんな感じだ。
こちらは劉邦軍のマイナー将、奚涓(けいけん)を巨乳美少女化。
さりげなく2コマ出てくる戚夫人も巨乳。
しかし呂雉はちっぱいであり、のちの悲劇を暗示しているところが面白い。
残念ながら劉邦が咸陽を陥落させたあたりの5巻で終了。
最後は駆け足で亡命する盧綰をどう処理するつもりだったのか明かしているが、非常に面白い。
白登山の戦いまでの構想があったようだ。これが読めなかったとは残念でならない。
それにしても、この時期の、楚漢戦争のコミカライズの集中具合はどうだ。
2015年 池野雅博「レッドドラゴン」月刊少年エース:全5巻
2016年 川原正敏「龍帥の翼 史記・留侯世家異伝」 月刊少年マガジン:全25巻
2017年 高橋のぼる「劉邦」ビッグコミック:全15巻
2017年 大山タクミ「バウンダー最強の少年項羽」別冊少年マガジン:全2巻
キングダム効果で企画が通りやすかったのだろうか。
しかし少年向けは揃って打ち切り。
オッサン向けは読んで無いけど多分どちらも完結まで行っていて、明暗がくっきりだ。
高い作画技術で巨乳美少女を出せば売れるというものでもないから少年漫画は難しい。
本宮ひろ志も人生初の打ち切り宣告されたのは楚漢戦争ものだったという。
「項羽と劉邦、あと田中」って漫画もあったな。
ウェブで現在も連載中。現在7巻まで。
三国志は演義と正史の揺らぎみたいなものがあって、決定版といえる作品は未だ無い(おそらく今後も現れない?)と思ってるんですが、楚漢戦争モノの最高峰は自分の中では結局、小説なら司馬遼太郎の、そして漫画なら横山光輝の「項羽と劉邦」に落ち着きます。やっぱり司馬御大は大陸で戦車を走らせてただけあって中華大陸の広さを想像させる筆致が見事。
あと、以前紹介されていた「カンニングスタンツ」、こちらのブログきっかけで読んでかなりハマりました。騎馬戦の見せ方とか、小ネタの扱い方が好き。
by 智 (2023-07-22 01:00)
横山光輝「史記」が一番!…と思ってた時期が僕にもありました。「項羽と劉邦」改めて読み返すとしみじみ良いですな。
「カンニングスタンツ」を読んでくれたとは嬉しいですね。荒い作品ですけど、あの斬新な解釈はすごい才能だなあと思います。完結まで描いて欲しかったなあ。
by hondanamotiaruki (2023-07-25 13:49)