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なぜ本宮ひろ志「天地を喰らう」は打ち切りを喰らったことになったのか。 [心に残る1コマ]

本宮ひろ志の「天地を喰らう」という漫画がある。
1983〜84年の少年ジャンプで連載。
単行本全7巻。

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人気がなくて、ジャンプのアンケート至上主義のために打ち切られた作品と一般には思われている。
が、実はそうではないかもしれないと言う話。

 
「天地を喰らう」は中国の三国志時代を元にした話。
三国志はいろんな作家が描いているけれども、だいたいは劉備玄徳を主人公にするのがパターンで、「天地を喰らう」もそれを踏襲している。

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三国志の物語の流れは分かりやすくすると、5から6章に分けられる。

1:宗教団体黄巾賊討伐に劉備旗揚げ
2:中華のダース・ベイダー、董卓(とうたく)vs各国のヒーローが集結
3:天下分け目の官渡戦い、曹操vs袁紹
4:消化試合かと思ってたら曹操が呉国に負けた赤壁の戦い
5:劉備が建国して三国時代に
6:諸葛亮孔明の孤独な戦い

ちなみに6までを丹念に追った横山光輝三国志全60巻。
一応、歴史的には三国時代の勝者と言える曹操を主人公にした「蒼天航路」は5までを描いて全36巻。

で、「天地を喰らう」は2の段階で終わっている。単行本7巻。
ここだけで打ち切りだと誰もが思っただろう。
そしてその最終回の打ち切り感がさらに凄まじい。

2の董卓が死んで、それぞれが戦国時代の覇者にならんと抗争を始めたところ、
突然、「山に登って盛り土をした人が勝ち!それが中国の由緒正しいルールだから!」という話になる。そして救世主を求めて中国全土から民衆が集まって見守る中で、主人公の劉備玄徳が登場して盛り土のために登山を試みる。

ライバルは劉備の盛り土を邪魔しようと集結して襲いかかる。が、天の怒りに触れて竜巻や落雷、地割れなどが起こってみんな根こそぎやっつけられてしまう。
打ち切り喰らう2.png
めでたしめでたし、という三国志コミカライズ史上類を見ない斬新で豪快な無理やり最終回となっており、もう逃げも隠れもしない打ち切られ漫画っぷりである。

本宮ひろ志はあとがきで最初にこう説明している。
この天地を喰らうは、少年ジャンプにおける人気は、すこぶる悪かった。毎回、最下位といってもいい。

あとがきの締めはこうだ。
残念ながら、人気が出なかった。でも、愛着のある作品のひとつとして、また次なる方向への踏み台として大事にしたいと思っている。

と、人気がなかったことを強調して、読み手に打ち切りであることを匂わせている。

 
ところがである。
最近、「天地を喰らう」のウィキペディアを見たら、「実は人気はあったが、作者の本宮が飽きたので終わらせた」みたいなことが書かれていた。

コミックゴン!という5号で終わったサブカル誌が、その1号で黄金期のジャンプの掲載順を全て調べてデータ化しており、それによると天地を喰らうの掲載順位は決して低くなかったというのである。気になって本を取り寄せてみた。

それによる天地を喰らうの掲載順位は以下のようだったそうだ。
1-3-7-6-11-10-12-14-14-13-3-4-1-1-4-4-4-4-3-3-4-5-3-4-4-4-4-4-4-5-6-4-6-4-6-5-4-6-5-6-3-6-6-5-15
打ち切り喰らう4.png

もちろん掲載順位=人気とは必ずしも言えない。
この調べが正しいのかも少し疑問があるが、今回は置いておく。

「天地を喰らう」のウィキでは本宮ひろ志の自伝、「天然まんが家」でも終了の顛末が書かれているとある。既読だったが、そう言う文脈で読んでいなかったので印象に残ってなかった。読み返してみると、次のように描かれていた。

打ち切り喰らう1.png
同じように真剣に描いた作品に「天地を喰らう」というのがある。中国の「三国志」に題材を取ったのは、自分がまだやったことのないジャンルに挑戦してみたかったからだろう。(中略)この「天地を喰らう」では、導入部は自分でもすごく面白く描けたと思う。ストーリだけではなく、巨大な虎や竜が出てきて絵柄も大きく描いていて楽しかった。

ところが本編の「三国志」に入った時点で、どうも「三国志」の世界に縛られてしまい、自由に描くことができなくなった。今から悔やんでもしかたないが、そうした資料を一切読むべきではなかった。しかも「三国志」という物語は、とにかく長い。延々と続くのだから、マンガにしても「三国志」が終わるまでは完結しない。そのまま続けたら、おそらく十年くらいかかるだろう。

それを想像しただけで、もう嫌になった。ただでさえ資料に縛られて自由にならないのに、それが十年も続いたらきっと死んでしまうだろう。

ちなみに3巻の著者コメントにはこんなことを描いてるのである。
この作品の最大の目標は、十年以上、続けられるかどうかであった。このようなジャンルの漫画が、よく十年も続いたものだ、という評価を得られれば、大成功である。しかし、最もむずかしい目標かもしれない。
打ち切り喰らう3.png

この時期のジャンプコミックスには巻末に読者のお便りコーナーがある。
「天地を喰らう」の巻末にも、小中高の男女が熱いメッセージを寄せている。

著者コメントでは十年続けるのが目標だとブチ上げ、
それから一年経たないうちに、十年続いたら死んじゃうという心境の変化。
そんなこと、ファンの小中高生に言えるわけがない。

だから打ち切られたということにした。

まあ最低である。
おまけに数年後、また中国の戦記物「赤龍王」を始めてしまうのだ。「天地を喰らう」の人気があったからこそ、企画が通ったのだろう。しかし「赤龍王」はガチの不人気だったらしい。本宮ひろ志が自伝「天然まんが家」で書いているが、これが生まれて初めての打ち切りだったという。

68年に「男一匹ガキ大将」でデビューし、それを含め8作ぐらい連載を立ち上げ、編集部からやめてくれと言われたのは87年に終了した赤龍王が初めてだったという。本宮ひろ志がいかに巨匠だったのかわかる。

面子を潰されたと思ったのだろう。
本宮ひろ志は「二度と少年ジャンプに描かない」と啖呵を切り、実際それ以降少年ジャンプに連載はしていない。その後も巨匠として漫画業界に存在感を示し、ヤングジャンプにて「サラリーマン金太郎」でウルトラメガヒットを飛ばしたのは誰もが知るところである。

 
次回は天地を喰らうの面白さについて語っていきたい。

 
 

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