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釣りキチ三平の由来でもある白土三平、その代表作「忍者武芸帖影丸伝」を読む [名作紹介]


忍者武芸帳 影丸伝 文庫版 コミック 全8巻完結セット (小学館文庫)

忍者武芸帳 影丸伝 文庫版 コミック 全8巻完結セット (小学館文庫)

  • 作者: 三平, 白土
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1997/09/01
  • メディア: 文庫


こないだ「伊賀の影丸」が車田正美に与えた影響について調べてみたが、
車田正美は白土三平の作品からも引用が見られると見聞きしていたので、
その作品である「忍者武芸帳影丸伝」の小学館文庫全8巻も読んでみた。

車田正美が白土三平から引用したと言われているのは以下の2箇所。

忍者武芸帳小学館文庫版5巻、
岩魚(イワナ)という忍者の少年時代、海中に没した母に会いにいくというシーン。

ぶげいちょう2.png

同世代には説明不要だろう。
聖闘士星矢でキグナス氷河がマーマに会いにいくシーンの元ネタだ。
NAVSEGDA=ロシア語で「永遠に」

ぶげいちょう3.png

さらに忍者武芸帳には、
蔵六(ぞうろく)という、亀のように首を引っ込めることができる忍者が登場する。
蔵六とは4本の足と頭と尾の六つを甲の内に隠すところから亀の異称。

ぶげいちょう1.png

これは聖闘士星矢の黄金聖闘士のアルデバランが、
ポセイドン編で披露していた首引っ込めシーンの元ネタになるのか。
この後、敵のソレントから「牡牛というより亀のようだな」と笑われてしまう。

ぶげいちょう4.png

以上はTwitter等で見聞きしていたネタだけども、それ以上のものは見つけることができなかった。

 
というか、
白土三平の忍者武芸帳も「影丸」なんだ?という素朴な疑問が湧く。

白土三平の忍者武芸帳影丸伝は1959年から1962年の作品。
横山光輝の伊賀の影丸は1961年から1966年の作品。
どちらも影丸。
テイストはかなり異なるが、白土が横山に与えた影響は間違いなくあるはずで、指摘されてないわけでもない。

「伊賀の影丸」は山田風太郎「甲賀忍法帖」あっての作品だと強めに指摘する意見は度々見かけるが、忍者武芸帳からの影響を強めに指摘する意見はあまり見ない気がする。白土三平が漫画史においてなくてはならないカリスマ的な漫画家であるにも関わらずである。この辺がよく分からない。

横山は白土への敬意を込めてあえて主人公の名前を影丸にしたのだろうか。
影丸が終わった1966年に横山が代表として出版された「忍法十番勝負」には白土三平も作品を描いているので、二人の仲は悪く無いものと思われる。ちなみに年齢は白土が上だが、2歳しか違わない。

 
白土三平は多くの作家に影響を与えた漫画家だ。
矢口高雄の「釣りキチ三平」は白土三平から付けられているし、

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(画像は矢口高雄「釣りキチ三平誕生前夜 9で割れ!!」4巻)

水木しげるの「悪魔くん」も白土の「忍者武芸帳」に感銘を受けての作品だという。

てんくうせんき.png
(画像は「水木しげる伝 下巻」

空手バカ一代の後半を描いた影丸穣也という漫画家がいた。
本名は久保本稔。ペンネームが影丸伝の影響なのかはよく分からない。
(「怪竜湖の謎」という作品からのペンネームらしいが制作年不明。最初のヒット作「拳銃エース」は1961年)

他、思いつくとこでは
1996年の小川雅史「速攻生徒会」に白土三平のパロディが見られる。
文末は崩しているが、ナレーション部分も白土三平独特のものを再現している。

てんくうせんきb1.png

2005年の吉崎観音「ケロロ軍曹」にも同じように白土ナレーションの引用がある。

てんくうせんきb2.png

多くの漫画家に影響を与える白土三平作品の良さが、自分にはよく分からない。
子供の頃、アニメのカムイ外伝が好きだったので出会いは悪くないと思うのだが、二十歳前後の頃に勧められて読んでみた「カムイ伝」以来、白土作品はほとんど読んでいない。

まずカムイ外伝的なものを期待してカムイ伝を読んで、なんか違うと思いつつも、まあ悪くはないぐらいの温度で読んでいたのだが、第二部的な話になってから夢屋というキャラクターの性格がまるで別人みたいな小悪党になってしまったのがトラウマになってしまった。

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(画像は安野モヨコ「監督不行届」

今回、忍者武芸帳を読んで、その時のトラウマ感覚が蘇ってきた。
話の導入部は仇討ちもので、亡国の若殿が剣の修行をしながらカタキを探す、凄腕忍者の影丸がそれをサポートする、みたいな分かりやすい話なのだが、若殿が勝負に敗れて片腕を失ってから物語の焦点が分散していくように思えた。

あと死んだと思わせて生きてました、実は偽物でした覆面でしたというパターンを使い過ぎだと思う。
それもまあ少年漫画の王道的展開だと思うのだが、忍者武芸帳は「良い側」のキャラクターが時々とんでもないぐらい悪い不気味な表情をする。それに加えて「実は変装でした」を繰り返すぎると、中身がとんでもなく不気味な正体不明のものに見えてくるのだ。

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これは山根青鬼「名探偵カゲマン」を全話読み終えた時に抱いた感覚に似てる。「実は覆面、偽物でした」をあまりにも繰り返しすぎると全てのキャラクターの実態に常に疑念を持つようになり、怖くなってくるのだ。かげまるとカゲマン、一字違いですネ。

作画は良い。特に忍者武芸帳における前半部分が良い。
その点では後発の横山光輝「伊賀の影丸」をかなり圧倒している。
デッサンの巧さもあるが、硬いペンでかなり高い筆圧で描いたようなダイナミックな線が好み。

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女の子はひたすら目が大きく、なんだか萌え絵みたいだ。
長く苦しい若殿の仇討ち旅。その旅の束の間の休息のように、若殿と影丸の妹が結ばれる。もう仇討ちなんて止めにして、二人仲良く幸せに暮らせばいいのにネ、と思ってしまう。

…と思ったすぐ後のコマ。若殿が寝てる間に抜け出した影丸の妹が、簡単にカタキの居城に侵入して、カタキを簀巻きにして担いで持ってきてしまうのだった。これは度肝を抜かれる展開だった。
これが当時の漫画の文法なのか?

 
好きな人ほどハマれないが、漫画の歴史の重要なピースのひとつ白土三平作品。
いつになるかは分からないが、あと2から3作品読まなければ結論は下せないなとも思う。

 
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