恥ずかしくて素顔をさらせない時代に読む、横山光輝「仮面の忍者赤影」 [名作紹介]
伊賀の影丸に続いて、横山光輝「仮面の忍者赤影」を読んだ。
購入した文庫版は全2巻。
新品で一冊8000円以上するオリジナル完全版全2巻という版もある。
いろんな赤影があるけども、自分にとっては1987年代のアニメ版のイメージ。
世間にもっともヒットした赤影は、1967年のTVドラマ版なのだと思う。
横山光輝の漫画版も、このTVドラマ版の企画を成立させるために始まったのだそうだ。
わざわざ大ヒット作の「伊賀の影丸」を終了させて、
わずか5週間後に赤影の連載を始めたというからよく分からん話だ。
当初のタイトルは「飛騨の赤影」。
「仮面の忍者」というコンセプトは
横山光輝と東映、どちらの発案なのだろうか興味深い。
普通、忍者というものは目元以外を隠すものだけど、赤影は目元だけ隠す。斬新忍者だ。
TVドラマ版はマスカレードな仮面で、ひたい部分に電撃を発する宝石が埋め込まれている。
漫画版は普通の布。帯に目穴を開けただけのもので怪傑ゾロスタイルだ。
布の赤色は、モノクロ原稿ではベタで表現している。
1972年のアニメ「ど根性ガエル」で、
なぜか赤影みたいな扮装をしている五郎というキャラクターがいる。
あれは原作漫画で帽子の影としてベタ処理していた部分を、アニメーターがつい赤く塗ってしまったら、誰も違和感を覚えずそのまま定着してしまったということらしい。赤影の刷り込みは、それぐらい強烈だったということなのではないだろうか。
赤影はなんのためにそんな仮面をつけているのか。
とりあえず最初の原作者版漫画では一切理由が語られていない。
戦闘用の道具として使うこともある。
仮面を外す際に「最後の手段」と発言したり、
仲間の青影を見かけて、声をかける前に外した仮面を装着したりと、
仲間にすら素顔を晒すことを警戒している風でもある。
傷ついた民家で介抱される時はさすがに仮面を外しているのだが、
よく見ると色々工夫を凝らして顔を隠そうとしている。
読者にすら素顔を見られるのが嫌なようで、なんか萌えてしまう。
これが聖闘士星矢における、
女聖闘士が素顔を見られたくない設定の元ネタなのだろうか。
…それは違うと思うけども。
こないだ調べた車田正美に与えた「伊賀の影丸」の影響は、赤影にも存在した。
それは「風魔の小次郎」2巻、
「落ちたら助からない崖」に
「本当に助からないのか落ちて確かめてみる」という変なシーンだ。魔女裁判かよ。
結局どちらの崖も、落ちても誰も死なない。
「聖闘士に一度見せた技は二度通用しない」は、
バトル漫画にとんでもない制約を課した聖闘士星矢の謎設定。
「無茶だけどこれは心意気であり、聖闘士のプライドなのだ」という解説をどこかで読んで、感心したおぼえがある。空手家で時々「ちゃんと練習していれば金的は食らわない」と言い出す選手がいるが、それと似てる気もする。
赤影にも「おなじ術を二度使うのは死を意味するぞ」というセリフが存在する。
しかしこれは聖闘士星矢とは若干ニュアンスが異なる。
そもそも聖闘士星矢の「二度通用しない」の設定登場(一輝vs氷河)前に、
「一度見ただけで技の弱点を見抜くとは!」みたいなセリフ(星矢vs紫龍)があり、
矛盾していることからこの設定は車田正美即興の思いつき設定という見方もできる。
肝心の「仮面の忍者赤影」の内容の感想だが、あまり伊賀の影丸と大差ない。
話の冒頭から中盤は、赤影と青影の個人戦の比重が高いけども、
後半は仲間の忍者が活躍し出して伊賀の影丸っぽい団体戦なっている。
文庫版1巻の敵忍者、霞谷七人衆は状況判断で度々ミスを起こしていて弱いイメージがあるが、
文庫版2巻に登場する「うつぼ忍者」は怖い。特に宇宙人みたいな顔した首領が不気味だ。
うつぼ忍者たちに仕事を依頼するため、紹介状を持って里を訪ねてきた3名様の武士団を、
一人いれば用件が分かるからと他2人は殺してしまい、残った一人も依頼内容が分かったら毒殺してしまう。ちょっとえげつなさすぎで、何か出典があるのかもしれない。
そんなうつぼ忍者首領の最後はあっけない。
形成不利と見て逃走した先で、罠にかかって声を上げる。
背後から首領の悲鳴を聞く赤影の脱力した表情が味わい深い。
首領はそこから逃れようとしてまた罠に引っかかり死ぬ。
うつぼ忍者への紹介状を書いた狂馬という存在も謎のままで、ちょっと打ち切り感がある。
「仮面の忍者赤影」文庫版1巻の解説は、
映画「レッドシャドー赤影」の脚本を手がけた斉藤ひろし。
そもそも映画公開に合わせて文庫化がされたようだ。
2巻解説は「飛騨忍者・秀長」という著作がある若桜木虔(わかさきけん)。
映画版のコンセプトは仮面なし、基本的に人を殺さない忍者という、
とてもじゃないが多くのファンにとって許されざる脚色が加えられている。
文庫版にはその辺の事情も解説文に書いている。
一応仮面は試作したが、良いものが出来なかったらしい。
結果的に、レッドシャドーは評価も興行成績も芳しくなかったが、ウィキペディアで斉藤氏のフィルモグラフィーを確認すると、さらに後年に実写映画「鉄人28号」の脚本も手がけていた。光プロダクションとの関係は悪くならなかったようである。もっとも実写映画「鉄人28号」の評価も散々だったが。。。
ちなみに私はレッドシャドーと鉄人、両作品とも劇場に観に行きました。
斉藤ひろし脚本の「SFサムライフィクション」が大好きで、DVDを二枚買うぐらいだったので、レッドシャドー赤影はそこそこ好きな部分もある。当時、旧態依然としていた東映時代劇村のルールと戦うという裏コンセプトがあったのだ。が、やはりなぜ仮面をつけないのだという不満は払拭されなかった。鉄人は内容を全然覚えていない。
この後、続いて「新・仮面の忍者赤影」も読んだ。
これがまた意外な面白さがあったのである。
続く。
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