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新選組知識をアップデートする?相川司「新選組隊士録」 [歴史漫画]

るろうに剣心北海道編7巻に初登場の新選組隊士、
服部武雄、阿部十郎、加納鷲尾、前野五郎、藤堂平助が登場。

藤堂平助以外の4名は知らなかったので、
手持ちの新選組名鑑、「新選組隊士録」を引っ張り出して調べる。
(文字の本である。念のため)

新選組隊士録

新選組隊士録

  • 作者: 相川 司
  • 出版社/メーカー: 新紀元社
  • 発売日: 2011/12/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

3年前に購入したものの、去年の今頃に安藤早太郎という隊士について調べるために読んだぐらいでほっぽり出してあった本である。

2011年初版、著者は相川司。
520名の隊士を入隊した年代に分けて紹介している。
今回読んでみて初めて気がついたのだが、この本、ベタな豆知識カタログではなく、けっこう攻めた尖った本というふうに印象が変わって面白かったので紹介したい。

 
まず軽いジャブ。

この本は新見錦を「しんみにしき」としている。
「にいみにしき」と読むのが一般的だ。
山南敬助は「さんなんけいすけ」表記だ。
こちらも「やまなみ」で知られている。

誤植でも間違えてるわけでもなく、何かしら著者に根拠があってその表記にしている。
一応、索引には「にいみにしき」も用意してくれている。親切。

河合耆三郎の死んだタイミングや、
谷三十郎の性格についても、広く知られる通説に異議を唱えている。
早い話、「新選組隊士録」は通説に異議唱えまくり本なのだ。

油小路事件に関しては特に熱心だ。

通説は
・表には出さないが、ピリつく関係の新選組と御陵衛士!
・スパイ斎藤一が暴いた近藤勇暗殺計画!
・新選組の罠と分かっても油小路に飛び込む御陵衛士!

と、なっているのだが、「新選組隊士録」は以下のように否定する。

1・新選組と御陵衛士は仲が良かった!
2・斎藤一は伊東の金50両をチョロまかし逃亡していた!
3・新選組の罠と気づかず油小路にお出かけした御陵衛士!

 
その根拠になるのは篠原泰之進本人、あるいは関係者が残した資料を元に書かれた新選組始末記。
油小路事件の際、原本から始末記に採用されなかった御陵衛士・鈴木三樹三郎のセリフがあり、
それを意訳すれば「※新選組が見張っているのだから安全だろう」になるという。
(※=「新撰組より番するに於いては、暗殺形に顕れ図ず」/秦林親日記)

通説では、新選組に襲われることを知りつつ、御陵衛士は油小路に向かったことになっている。
しかし、実際には「新選組がいるのだから安全だ」と言ったニュアンスの会話がなされているという。

たいのしん6.png
(画像は黒鉄ヒロシ「新選組」

そしてとにかく急いで駆けつけたかったのか、面倒くさかったのか、ビビってると思われたくないと見栄を張ったのか、服部武雄の提案を無視し、油小路にたどり着いた一行はそこで初めて新選組の裏切りを知った。皮肉にも用心を怠らず武装した服部武雄と、新選組幹部が逃がしたかった藤堂平助と他1名が討ち取られ、篠原ら4名は命からがら逃げ延びた。しかし醜態である。

なので生き延びた篠原は、のちに話を盛った。
たいのしん5.png
(画像は森秀樹「新選組血風録」3巻 ちなみにこの漫画の服部武雄は二刀流ではない)

「俺は知っていてわざと無防備のまま死地に飛び込んだんだ!」と。

…と、いうのが書籍「新選組隊士録」が推測する、油小路事件の真実である。


ちなみにこのすぐ直後に篠原らが起こした近藤勇暗殺未遂事件。
篠原は自分の功績を盛って周囲に吹聴したとして御陵衛士の仲間だった阿部十郎に絶交され、悲しむ書簡を仲間に送っているそうなので、篠原嘘つき説には真実味がある。

さらに本によると阿部十郎は斎藤一の横領も証言している。
御陵衛士に入った斎藤一は女に入れ上げ、伊東甲子太郎の金・五十両を盗んだため、御陵衛士に行き場がなくなり新選組に戻ったのだと。
たいのしん2.png
「るろうに剣心北海道編」7巻にて再会する阿部十郎と斎藤一。るろ剣では阿部十郎も油小路にいたという脚色がされている)

そうなると斎藤一の入手した近藤暗殺計画は、新選組に戻るための方便とも取れる。前からスパイ斎藤一の御陵衛士離脱のタイミングは変だと思っていた。道理で考えれば、斎藤の抜けるタイミングは伊東が死んだ直後か、それ以降でなければ相手を警戒させてしまう。暗殺計画が事実であれば、伊東甲子太郎が一人で近藤勇に会いに行くこともなかったろう。

この話に関しては、斎藤は怪しまれず離脱できる理由を作るために金を盗んだのだとする解釈もあるようだ。鉄の掟のある新選組の幹部だった男が組織の金を盗むかなと言う疑問もあるので、そうなると策士であるといえる。ただ、斎藤ほどの男が女のために金を盗むなどという汚名を甘んじて受けることができるのかとも思う。ちなみに壬生義士伝では斎藤一がスパイ行為に協力した愛人に金を渡すシーンがある。
たいのしん3.png

 
「新選組隊士録」は2011年初版の方だが、油小路事件で検索してみると書かれてある説はまだ一般的には新説といえるように思う。私のような半可通が引用するのは火傷が伴う本なのかもしれない。他から出版されている隊士録と読み比べてみても面白いと思った。

新選組と御陵衛士の仲が良好だったとしてもどこかのタイミングで決裂したわけで、その辺が興味深い。

伊東甲子太郎は坂本龍馬暗殺の三日前に中岡慎太郎を通じて、新選組が狙ってるから気をつけろと龍馬に忠告を与えたらしい。

三日後、坂本龍馬暗殺の現場に残された犯人の遺留品を見て新選組のものであると証言している。
さらにその三日後、新選組によって伊東甲子太郎は暗殺され、死骸は油小路にさらされた。

龍馬は幕府にとって都合の良い人物だから殺さないようにという通達が出ており、近藤勇もそれをよく理解していたという。伊東甲子太郎の行動は執拗に新選組を陥れようとしているようで、近藤らの逆鱗に触れたと考えるのが自然のように思う。

が、それだと伊東が近藤宅に一人で訪れるのもあまりにも間抜けだ。遺留品を見て新選組の持ち物だと証言したのは阿部十郎という説もあるので、それを聞いて近藤らが過剰反応し、悪気のない伊東が被害に遭ったということなのかもしれない。

考えるとキリがないのでこの辺で。
今回、読み返してみると「壬生義士伝」はよく出来てるなと感心することが多かった。
何かしら細かい史実を反映してる形跡がある。

「壬生義士伝」では坂本龍馬暗殺は伊東甲子太郎の仕業で、斎藤一が実行犯ということになっている。これもよく出来ている。ただ、そうなると中岡慎太郎という生き証人が「犯人は斎藤」と言い残したはずで矛盾が残る。その辺どうなのか、いつか小説版も読んでみたい。
 
 

壬生義士伝 上下巻 セット

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  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • メディア: セット買い



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