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『君たちはどう生きるか』を君たちはどう見るか [日記]

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見ようかどうか迷ってた『君たちはどう生きるか』。
宮崎駿の最新、そして今度こそ最後かもしれない映画。
今回は全く宣伝しないし内容も漏らさないというアプローチ。

正直、あまり見る気はしなかった。
千と千尋以降の宮崎作品はちゃんと見ていないし、
元ネタになったという吉野源三郎の小説性に合わないことは以前ブログに書いた。

ツイッターの評判も賛否分かれてる。
得意技を詰め込んだ「わけわからん映画」ってのが多勢な意見のようだ。

が、ちょうど公開日翌日に予定が空いてしまったので、せっかくだから行ってきた。
レイトショー1500円はずいぶん得した気になる。駐車場代でチャラだけど。
例によってネタバレありで語る。嫌な人はブラウザバックを。

結論から言うと、途中から見ていて苦痛だった。
エピソードをひとつずつ「ここまでは問題なし」と噛み締めるように鑑賞していたのだが、中盤あたりの門を開けたのどうのと女性キャラが出てくるシーンあたりから睡魔との戦いになった。

予想はしていたが、ジャンル的に言えば「夢の世界の出来事」なのである。
世界観にあらかじめ提示された約束事がなく、即興のように後付けでルールが出来上がっていく。なんでもありなので緊張感がない。結局のところ辻褄を合わせることも放棄しているようにも見える。

こういった夢映画というジャンルの欠点は、宮崎駿自身も過去にリトルニモに参加した時にレポートを書いていたはず。

見終わると、どの辺が「君たちはどう生きるか」なのかと思ったが、
完全に夢の世界に入るまでは、そこそこ「君たちはどう生きるか」っぽい部分があった。

主人公は戦中でも他人が羨む暮らしをする家のボンボン。
東京から田舎の学校に転校するが、妬まれて喧嘩になる。
独りボロボロになって歩く帰り道。
大きな石を拾った主人公は、その石を自分の側頭部にガーン!
いくらなんでもそんなに血は出ないだろっていうぐらいの出血をする。
(この辺から夢の世界に入っていっているのかなと、その時は思った)

親には転んだだけと嘘をつく主人公。
とんでもないイジメがあるに違いない、喧嘩の相手を探し出して火炙りじゃと、親が行動するように仕向ける。親の部屋からタバコを盗むし、とんでもない主人公だと思った。すばらしい!

この卑怯さは、原作小説の主人公のコペルくんの小物っぷりから来たものなのだろうか。
そういう少年が夢の中で、凛々しい弓使いエルフになった気分に浸る話だったら傑作だっただろう。

が、全然ちゃうかった。
タバコは工作の教えを請うための賄賂。
自分の頭を割ったのは、単に学校に行きたくなかっただけかもしれない。

宮崎駿が自分の矮小な部分に向き合った作品だと分析する評も見たが、あんな凛々しくてヒーロー然とした主人公のその後の展開を見ると、だとしたらとんでもないナルシスト野郎だ。ちょっとだけ向き合ったけど、そんなキャラクターだとうまく動かないのでその後はキレイさっぱり設定忘れた、というところかもしれない。

 
総括すると、
食糧難の時代にあっても食いっぱぐれない裕福な家の子供が、貧乏金持ち問わずに食らう空襲によって訪れた母の死を、空想の世界に浸ることで受け入れる。そんな風にもとれる話だ。

どうしても「火垂るの墓」がチラつく。

キミたちは3.png
(画像は土田世紀「編集王」7巻

キミたちは2.png
(画像は手塚治虫「どついたれ」

リトルニモの時は夢物語というジャンルを否定しつつも、宮崎監督はこの手の話が好きっぽいように思える。作品全体を俯瞰して見れば、戦時中を舞台するのと、裕福な家の少年を主人公に据えるのは、どちらかを避けるというのが一般的な物語の作り方だと思う。そういう作り方をあえて避けて、宮崎駿は破綻を目指したようにも感じる。整合性を考えず、初期衝動のあるがままを描くことで作品の勢いが削がれることを避けたかったのではないだろうか。

しかしよく考えれば、現在ウクライナで生きるか死ぬかやってる人たちが、平和な日常を過ごす我々の悩みに共感することはないみたいな話だ。どこまで行ってもそういうことだ。金持ちに生まれようと貧乏人に生まれようと、自分は空想の世界でやり過ごすことで多分生きていくことができたのだ。ではキミたちはどう生きるか?そういうことなのかもしれない。
 

<良かったところ>
雑踏の中を駆け抜けるファーストアクションシーンが特に良かった。
喫煙シーンをちゃんと描いてるのも良い。
戦前は喫煙する小学生も多かったというから、そこもやってくれれば良かったのに。無理かな。

鳥のフンの爆撃はヒロイン(?)もしっかりくらう。


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コメント 3

智

私は余計な情報を入れたくなかったんで初日に足を運んだんですが、概ね同様の感想でした。
ただ、完全に個人的な意見ですが、宮崎駿って「千と千尋の神隠し」までが全部傑作、「ハウル」以降が全部凡作と思っていて、その凡作群の中では一番面白かったかな、と。
基本的に今世に出る作品って決まりきった話の流れを踏襲する作品がほとんどなんで、これだけ先がわからないストーリーに予算をかけて公開されること自体が貴重なんじゃないでしょうか。

by 智 (2023-08-13 22:10) 

hondanamotiaruki

要するにある時期から宮崎駿は拗らせたみたいですね。

周りの美しい女性たちがホフマン作「クルミわりとネズミの王さま」を読んで絶賛してるけど、自分を含む醜い男たちは理解ができない。第一話の辻褄があってないじゃないかと。しかし宮崎駿は諦めずに読み込むことで、「つじつまというやつは本当に愚劣な行為なんだな」と思い込めるようになった。自分も美しい存在になれたと感じた。

ということが3万円もする本のなかに書かれているそうです。
ま、正直ですよね。
by hondanamotiaruki (2023-08-16 03:38) 

智

なるほど!その話は知りませんでした。「クルミわりとネズミの王さま」、ググったら自分で展示企画するほどこだわってしまったのか。
よく晩節を汚すみたいな話はありますが、晩節になってまでマスに作品を発表する機会があるからこそ"巨匠"なのかも。
老人になって「マッドマックス 怒りのデス・ロード」みたいな作品を作れる方が異常事態ですね。
by 智 (2023-08-22 00:07) 

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