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三国志、水滸伝の原点、横山光輝「片目猿」を見つめる目 [歴史漫画]

片目猿 (講談社漫画文庫)

片目猿 (講談社漫画文庫)

  • 作者: 横山 光輝
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/01/11
  • メディア: 文庫

横山光輝「片目猿」がすごく良かった。

斎藤道三の出世を助けた忍者という基本フィクションなのだが、のちの水滸伝三国志などの歴史漫画につながる、横山作品の中では重要度の高い作品だと感じる。その割に知名度が無い作品だ。これまでまるで評判を聞くことがなかった。

片目猿は「伊賀の影丸」の週刊連載中期頃に描かれた作品。片目猿は月刊連載なせいか、作画が影丸より丁寧で密度が高く感じる。描かなくていいようなところまでビッチリと書き込んでいる。

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片目の猿は武士を助ける片目の忍者だが、
のちの横山作品「隻眼の竜」は片目の武士を助ける忍者という逆転現象になっているのが面白い。

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よくよく考えると、片目猿は白土三平「忍者武芸帳影丸伝」の翻案なのかもしれない。

忍者武芸帳も、武士を助ける忍者漫画として始まっている。そこが段々グダグダになっていくところが武芸帳の苦手なところだった。武芸帳ファンに言わせると片目猿はシンプル過ぎるストーリーなのだろうが、自分にとっては「こういうのが読みたかったんだよ!」と思わせられた。

片目猿と影丸、服装も似てるし、片目猿の眼帯も影丸の片目を隠す長髪のイメージなのではなかろうか。
名前も、かためざる→かたざる→かげまる(深読みしすぎ)

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片目猿は斎藤次郎が解説を書いた版が存在する。
斎藤次郎はアオイホノオで、デビューした島本和彦を一番褒めた人物だ。

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その斎藤氏による片目猿論評が的確すぎて戦慄すら覚える。
歴史にむかって、肩肘いからせることもなく、そこから、遠大な思想をみちびき出そうともせず、ひたすらに、エンターティンメントの素材として、史実をつきはなす、横山光輝の目は、人間ドラマの極限にある、凍るようなさみしさを、見すえているのかも知れない。

現在、歴史漫画の大家となった横山の資質としてほぼ定説となっているドライな作家像を、その歴史漫画一作目で既に看過している。恐るべし斎藤次郎。あなたは一体誰なんだ???
(ぐうぜん本を一冊だけ2年前に購入していました。

 
購入した講談社文庫版「片目猿」には欄外の煽りもそのまま掲載されていて楽しい。
掲載位置まで全くそのままでもないようだが。

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(初出では横山光輝の住所が掲載されていた!)

その欄外煽りに、次回作「蛟竜(こうりょう)」の予告があったので、続いて読んでみた。

蛟竜とは天に昇る前の竜のこと。
豊臣秀吉の軍師として知られる黒田如水の若き日を描いた漫画だ。

こちらは忍者成分が薄まり、どこまで史実かどうか知らないのだが、片目猿とは打って変わって本格的な歴史漫画になっているように感じる。大国の狭間で、バランス取りを間違えると一気にゲームオーバーになってしまう弱小武家が主人公だ。武装した主人公のデザインが、蛟竜の一年後に始まる仮面の忍者赤影に似ているのが興味深い。

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片目猿に比べると、蛟竜はびっくりするぐらい印刷が汚く感じる。
1960年代に一般的だった、読み順を示すために貼り付けられていたコマノンブルが、片目猿では撤廃されているのに、次回作である蛟竜では貼ってあったり無かったり。
同じ講談社漫画文庫だ。

紛失原稿が多いのがその原因のようだ。
200ページを超える蛟竜の原稿、著者の元に返還されたのは100ページそこらだったらしい。
ちなみに掲載誌は小学館のボーイズライフ。

小学館ですら、当時すでに大人気作家だった横山光輝の原稿の扱いがこんなものだから驚く。
ちなみにこのあと、秋田書店の横山光輝「サンダー大王」を読んだのだが、これも第一話から原稿紛失してるっぽい。。。1971年の作品。

 
コマノンブルの終焉時期について調べた貴重なツイートがある。
この時期、漫画の読み方は一般教養となったわけだ!



蛟竜―風雲児黒田如水伝 (講談社漫画文庫―横山光輝時代傑作選)

蛟竜―風雲児黒田如水伝 (講談社漫画文庫―横山光輝時代傑作選)

  • 作者: 横山 光輝
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/06/10
  • メディア: 文庫


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