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ホームズを最初に支持した読者層とは?小林たつよし「まんがシャーロック・ホームズ全集」 [この人気漫画が面白くない]

誰もが知ってる。
でも意外と読んだことない人も多いんじゃないか、シャーロック・ホームズ。

ホームズ関連作品を読む機会が最近増え、そろそろ原作に触れなければと思いました。
でもそこは活字嫌いの私、漫画で読みたい。
しかしこんなに有名な作品なのに、パッと浮かぶコミカライズ作品がない。
パブリックドメインになったのは今年からだそうです。

検索して出てきた中で、
一番面白そうだったのが小学館「まんがシャーロック・ホームズ全集」全6巻。

まんが版 シャーロック・ホームズ全集1 緋色の研究

まんが版 シャーロック・ホームズ全集1 緋色の研究

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2013/02/08
  • メディア: Kindle版

子供向け学習まんがの類っぽい。
作画は「ドラゴン拳」の小林たつよし。
聖典と呼ばれるホームズの作品数は60。そのうち19のエピソードをコミカライズしている。
3分の1の量で全集と銘打った理由がよくわからない。

ワクワクしながら読んでみたんですが…正直ピンとこなかった。
事件のどこに注目すべきか頭に入ってこないし、依頼者たちもあまり印象に残らない。
ちなみに私の好きな探偵漫画は弘兼憲史「ハロー張りネズミ」とかわぐちかいじ/狩撫麻礼「ハード&ルーズ」
それというのも、ツッコミ役であるべきワトソンがあまり機能していない気がするのだ。

一巻220ページぐらいで2から4のエピソードを収録しているので、詰め込みすぎなのかもしれない。
池田邦彦「シャーロッキアン!」で紹介されていたデティールのいくつかは、この全集で確認することができない。

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以上はコミカライズする側に起因する問題だが、
ピンとこなかったのは原因は原作にもあると思う。
ミステリーのグレードが低いというと怒られそうだが、ちょっと子供向けな気がするのだ。

ホームズの記念すべき第一話、「緋色の研究」でロンドン警視庁は毒殺された死体を凶器によるものだと思い込む。しかし当然外傷がないので混乱して、ホームズに助けを求める。ホームズは死体の口臭をかいで死因は毒殺とアッサリ見抜いてさすが名探偵!となるのだが、ずいぶん間抜けな話ではないだろうか。

知人に黒澤明の「用心棒」を勧めてみたところ、「敵が間抜け過ぎない?」という感想が返ってきて目からウロコが落ちたのを思い出した。

他にも印象に残った変な事件として、
義理の父親が娘の遺産を奪うために変装して、娘と交際する「花むこの娘」なんて話もある。
娘が近視なのを利用したんだと。いくらなんでも無理筋だろうと思う。

ぜんしゅう4.png

当時の俗説なのか、
忘れ物の帽子のサイズが大きいことから、持ち主は頭がいいなんて推理もホームズはする。
ちなみにこの迷推理が登場するのが以前ブログでもふれた「青いルビー」。※この全集では「青いガーネット」表記

ぜんしゅう1.png

全集の巻末に毎回掲載される解説にて、こういった矛盾点に対する容赦ないツッコミが加えられており(もちろん帽子の件も含む)、漫画部分よりもそっちの方が読んでいて手に汗握ったりする。編集者にホームズ愛がないわけではなく、全集に掲載された作者のコナン・ドイルの肖像と解説文は6巻全て違うものにしているなど、かなりのこだわりが伝わってくる。

前回紹介した女ホームズ小説「ビブリア古書堂〜」のスピンオフ、
書評バトル漫画「こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌」
その中でシャーロック・ホームズを初めて読んだ学生のセリフは「正直そこまですごい名探偵だろうかって思ったんだ」というものだった。少々ニュアンスは違うが、自分の恐れ多い感想もあながち間違いではないらしい。

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ホームズを最初に支持した読者はどのような層だったのだろう。
ひょっとしたら少年少女たちではなかったのだろうか。
その辺を検索して調べてみたのだが、そういった言及は見つけることができなかった。

ホームズの第一話「緋色の研究」は1884年の作品。
ブレイクしたのが7年後の1891年にストランド・マガジンに掲載されてからだという。
このストランド・マガジンはファミリー層を狙った雑誌なのだそうだ。
7年というと、藤子・F・不二雄がいう「読者が一周している」ぐらいの期間だ。

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(画像は小林よしのり「ゴーマニズム宣言」4巻

一周した読者が卒業しないまま大人の一員になる。
最初はジャリ向けと歯牙にもかけなかったのがほとんどだった大人の中に、
年を追うごとにホームズを支持する人の割合が増え、社会的影響力が増していく。

少年漫画が社会的地位を得ていく過程と同じ道をホームズも辿ったのではなかろうか。
これは私の妄想である。

前述した書評バトル漫画「こぐちさん〜」では
有名な作品には固定化されたイメージが付き物ですが…イメージが実際の内容と異なることも多いんです。でも…そのギャップを味わえるのも名作の楽しみ方の一つだと思います」とまとめている。

ホームズが宿敵モリアーティ教授と滝壺に落下していく最初の最終回は、実に少年漫画的だと思っていた。「実は生きていた」のも含めて。「シャーロッキアン!」を読んで最初に知って衝撃を受けたのだが、あれはワトソンの目の前で起こったのではなく、現場に残された物証からワトソンが推理して想像した光景だった。落下していくホームズを目の当たりにしながらワトソンが泣き叫ぶ劇的なイメージだったが、一気に微妙に!

ホームズの性格も、読む前に想像してたよりはずっと気難しい人物で、ワトソンとの関係はそれこそ岸辺露伴と康一くん(ビーティーと公一くん)のようである。「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦はことあるごとにホームズファンであることを公言している。そういうホームズスピリットを知らないままステルス摂取し過ぎた人間では、いまさらホームズを読んでもピンとこないというのもあるかもしれない。

ぜんしゅう7.png
(画像は「このミステリーがすごい!2023年版」

シャーロック・ホームズの小説はそのうち挑戦します。
が、読まないといけない活字の本がいっぱいで…。

 
<追記>
こぐちさん以外にもシャーロック・ホームズを読んだけどピンとこない人を描く漫画があった。
黒咲練導「制服date 」3巻。こちらもそのうち読んでみたい。

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サンフランシスコ人

「でも意外と読んだことない人も多いんじゃないか、シャーロック・ホームズ....」

米国では人気ではありません...


by サンフランシスコ人 (2023-04-20 01:41) 

hondanamotiaruki

シャーロッキアンという言葉が生まれた国はアメリカだそうですが、世代が若くなるごとにファンは先細っていくものなのでしょうね。
ガンダムみたいに新作を作らないと!
by hondanamotiaruki (2023-04-21 07:12) 

サンフランシスコ人

「米国では人気ではありません.......」

1週間近く考えました....シャーロック・ホームズについて話している人は誰もいませんよ.....

「世代が若くなるごとにファンは先細っていくものなのでしょうね....」

日露戦争の頃に生まれた人達も話していませんでした......
by サンフランシスコ人 (2023-04-27 07:16) 

hondanamotiaruki

そこまで極端ですか?Σ(°Д°;

ロバート・ダウニージュニアのハリウッド映画もあるし、
CBSで放送されたエレメンタリーは7年間も放送されているじゃないですか。

ホームズがゾンビと戦うアメコミは邦訳版も出ていますよ。
by hondanamotiaruki (2023-04-27 09:57) 

サンフランシスコ人

"シャーロック・ホームズ"と"kenji mizoguchi"の(英・仏・伊・西で)検索エンジンの結果.....2023年春、mizoguchiの勝利みたいです..

ところで、溝口健二の『雨月物語』....5/24 サンフランシスコの映画館で上映...

http://www.balboamovies.com/calendar-of-events/ugetsu-730pm

Ugetsu ~ 7:30PM

Wednesday, May 24, 2023
7:30 PM 9:00 PM

Balboa Theater 3630 Balboa Street San Francisco, CA, 94121

シャーロック・ホームズ"の映画は見つかりません...

by サンフランシスコ人 (2023-05-02 04:27) 

hondanamotiaruki

日米のAmazonでシャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)について検索した結果、日本は9000件、アメリカは8000件でした。日本より少ないですが、それほど極端な差は感じられません。

日米のグーグルでシャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)について検索した結果、アメリカは約72,600,000件 、日本は約 4,330,000 件。

またkenji mizoguchiは約 651,000 件、
溝口健二は約 417,000 件 でした。
by hondanamotiaruki (2023-05-02 07:07) 

サンフランシスコ人

ビル・クリントン等有名人が登場する(サンフランシスコの)本屋に行って来ました....シャーロック・ホームズについて話している人は誰もいませんでした.....シャーロック・ホームズの本はありませんでした...
by サンフランシスコ人 (2023-05-04 04:12) 

hondanamotiaruki

アメリカの科学捜査の祖と言われるEdward O. Heinrichは"America's Sherlock Holmes"と呼ばれたそうですね。
彼について書かれた本も邦訳されています。

書店員が誰もホームズを知らない本屋があったとしたら、ちょっとすごい話だなと思います。


by hondanamotiaruki (2023-05-04 08:44) 

サンフランシスコ人

「ビル・クリントン等有名人が登場する(サンフランシスコの)本屋に行って来ました.......」

5/9 サンフランシスコの別の本屋に行って来ました.....シャーロック・ホームズの本はありませんでした...

「"シャーロック・ホームズ"と"kenji mizoguchi"の(英・仏・伊・西で)検索エンジンの結果.....2023年春、mizoguchiの勝利みたいです......」

過去の(私の)検索で、mizoguchiとozuとkurosawaが極端に多かったですが....
by サンフランシスコ人 (2023-05-11 07:42) 

hondanamotiaruki

こんど書店員の方にホームズの本は売れているか聞いてみてください。

オーストラリアの話ですが、アメコミの邦訳の多くを手掛けられた小野耕世さんが2006年にシドニーで講演を行った際に、「名探偵コナン」に出てくる仲間の小学生たちのことを、ホームズのBSIに例えて説明したところ、ちゃんと通じて笑いが起きたという話が「長編マンガの先駆者たち」という本に書かれているのを最近読みました。
by hondanamotiaruki (2023-05-11 10:06) 

サンフランシスコ人

「こんど書店員の方にホームズの本は売れているか聞いてみてください......」

本屋にシャーロック・ホームズの本はありませんので、聞いてみても無駄です....

世界の文化が変わりました....

"国際協力機構(JICA)が、ブラジルで日本のポップカルチャーを普及する海外協力隊員3人を募集している。派遣時期は2024年7月以降で、期間は2年間。隊員はサンパウロ市を中心に、コスプレ衣装と漫画制作の指導を行う.."

http://www.brasilnippou.com/2023/230519-23colonia.html

ブラジルの話...
by サンフランシスコ人 (2023-05-20 07:10) 

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