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毒ガスの世界新記録でノーベル賞かと思いきや、人類の救世主と評価されたフリッツ・ハーバーの真実。 [歴史漫画]

経済について語った夫婦漫才漫画、
井上純一「キミのお金はどこに消えるのか」の中で一番ツボだったかもしれない、マルサスとハーバーのくだり。

こないだはマルサスについて書いたので、今回はハーバーの方について。
ハーバーの生涯は「栄光なき天才たち」という作品で漫画化されています。

この「栄光なき天才たち」という漫画、
傑作で文庫本版、コンビニ版、電子書籍版などが発売されてますが、原作者と作画担当者の仲が悪いのか、後発のものは未収録エピソードもあり、収録順もバラバラ。オリジナル版は絶版で入手しにくいのが問題です。非常に勿体無いと思う。ぜひオリジナルのバージョンを復活させ、多くの人の目に止まればなと思ってやみません。

 
フリッツ・ハーバーの漫画は「栄光なき天才たち」初期単行本の2巻に収録されている。
空気からアンモニアを作ることに成功したドイツ在住のユダヤ人科学者。
ハーバー1.png
第一次大戦、イギリスはドイツに火薬の原料となるチリ硝石を輸入させないようにしましたが、ハーバーの前述の発明はそれを補うものでした。「空気から火薬を!」を合言葉にドイツ人は熱狂。

やがてハーバーは国のため、毒ガスまで作るようになります。
奥さんのエヴァは拳銃を自分に突きつけて、ハーバーに研究所に行かないよう懇願する。
ハーバー2.png
ハーバーは「女に何がわかる」とそれを冷たく無視。
結果、奥さんは睡眠薬自殺してしまい、泣き崩れるハーバー。。。

残念ながらドイツは敗戦。
ハーバーは毒ガスの製造で戦争犯罪人として裁かれると思いきや、ノーベル賞受賞。
ハーバーの発明で、肥料の製造技術が飛躍的にアップし、食糧不足が解消されたことが評価されたのだった。
ハーバー3.png

ところがナチスが政権をとって、ユダヤ人だったハーバーは大好きだったドイツから、国外へポイされてしまう。失意の末に外国で客死。
ハーバー4.png
この展開こそが「栄光なき天才たち」というタイトルの由来である。

 
「キミのお金はどこに消えるのか」では、超天才マルサスの「食糧生産スピードは人口爆発のスピードに絶対追いつかず、やがて食糧難になる」という「人口論」を陳腐化させてしまった男として紹介されるフリッツ・ハーバー。
ハーバー5.png
そのハーバーを奈落の底に叩き落としたのもマルサスの人口論だったのです。
人口論はナチスの優生学を生み、強烈な人種差別社会となり、ユダヤ人だったハーバーは追放される。なんとも皮肉な関係だとは思いませんか。
ハーバー6.png
 
で、この記事を書くにあたってウィキペディアを見たんですけど、「栄光なき天才たち」に描かれているように、ハーバーがナチスの将校に両肩掴まれて連行されたなんてことは書かれてないですね。

ドイツへのハーバーの献身は評価されていたものの、研究員におけるユダヤ人の割合を減らすように圧力が高まったため、それに抗議する意味で職を辞し、健康状態も悪かったため息子の暮らす外国で暮らすようになったとあります。

まあウィキが絶対正しいとは思いません。そもそも歴史ってのは日々新しい事実が見つかって更新・修正されて行くものです。「栄光なき天才たち」は30年以上前の漫画ですし、週刊という非常にハードな制作期間で、少ないページにまとめなければいけません。それは高い技術であり、リスペクトすべきものです。この辺も、この漫画が正しく再販されない理由になってそうでちょっと怖いです。

あとハーバーの奥さんですが、写真で見ると細くて可愛いです。
ハーバー7.png
しかも化学の分野で女性初の博士号を取るほどの科学者だったそうです。
漫画ではポッチャリで、全然インテリには見えません。

漫画ではハーバーの毒ガス製造に抗議して自殺したことになっています。
世間一般でもそう信じられ、この行為が彼女の名前を一躍有名にしたそうなんですけども、
遺書が残ってないため、その理由については定かではないそうです。
運動家が運動のために彼女を無理やりシンボル化したなんて批判もあるそうです。

結婚前はハーバーを白馬の王子さまだと両親への手紙に書いていた奥さんですが、結婚後も望んでいた研究を取り上げられて家に押し込められ、その上でハーバーも家庭を家庭を顧みない生活を送っていたそうです。そりゃあおかしくもなりますわな。

さらに奥さんの妹も息子も自殺で亡くなっており、遺伝的な原因で自殺に思い至りやすい体質だったのではないかという話もあります。

きわめつけは死の直前のパーティーで、奥さんがハーバーの浮気を疑い口論。
ちなみにその浮気疑惑の女性とハーバーはのちに結婚しています。。。
わあ最悪!

「栄光なき天才たち」でのラストシーン、ナチス将校に連れ去られるのは前述の通りなかったのですけども、もう2つなかったのでは?ということを発見しました。
ハーバー4.png
「エヴァ」と叫んでますけど、奥さんの実際の名前はクララ・イマーヴァール。
どうにか略すとエヴァになるのかな?
綴りは「Clara Immerwahr」ですけど。

ちなみに後妻の名前はシャルロッテ。
子供の名前がエヴァだったりします。

もう一つ、このシチュエーションが実際あったとして、再婚しているのに奥さんの名前を叫ぶかなという疑問です。

漫画では再婚については描かれていません。
ハーバーがドイツを出たのが1933年。
後妻との結婚が1917年、離婚が1929年!

どこまでもウィキによりますが、
ハーバーは遺言として、死んだらクララと一緒に埋葬してほしいと言い残していたそうです。
つまり、あそこで奥さんの名前を叫んだ!というのは合ってたかもしれないなと思うと、ちょっとホッとします。
名前はエヴァじゃないですけどね。。。

 

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