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海洋堂にダメ出しされまくるアーティスト、村上隆「芸術起業論」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

20年ぐらい前、
村上隆という芸術家が作りしアニメ風の立像が、
海外のアート界で評価されて何千万という価格で落札されたことがあった。

日本の有名原型師が海外のアート界で認められたという話なら良かったのだが、
その立像のお顔は極めて安っぽく、しかもそれが精子や母乳を大量に飛ばしているオゲヒンさだったのである。(参考画像を貼ったらTwitterからセンシティブだと初警告受けたので削除)
 

下手くその悪ふざけが海外で日本のアートとして評価されちゃったみたいな感じだった。

賛否を巻き起こした。
大塚英志は「潰していく」と発言したというし、
細野不二彦は「ギャラリーフェイク」22巻(文庫16)の中でパクリ屋だと批判的に取り上げた。

むらかみひろあきです2.png

一方、逆輸入的に村上隆は持て囃されもした。
作品がTV局のイメージキャラクターみたいなことになったり、
タレントとしてあちこちの番組に出演したり、
ルイヴィトンとのコラボグッズを持ち歩く人をよく見かけた。

最近は落ち着いたのか昔ほど活動が聞こえてこないのだが、
ジョジョリオンのスタンドにそれっぽいのが出てきたのが最も偉大な爪痕だと私は思う。

むらかみひろあきです3.png

山田五郎のYouTubeチャンネルを見ていたら、
村上隆は、ちゃんと作戦を立てて海外で成功してるから著書は読んでみたほうがいい」みたいなことを言っていて興味が湧いたので「芸術起業論」という本を読んでみた。そしたら面白かった。作品に対する批判的な印象は変わらないのだけど。

芸術起業論 (幻冬舎文庫)

芸術起業論 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 村上隆
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2018/12/06
  • メディア: Kindle版

「芸術起業論」を意訳すると、

例えばジャンプ漫画に掲載されて人気を得るためには、集英社や読者がどういう作品が望んでいるのか、流行り廃りを調べて考えないといけない。アートの現実も全く同じ。天啓に従って好き勝手に表現したものが認められる可能性は低い。

…ということ。
海外で認められるには、海外のアート市場を知らないといけないと。
まあ当たり前の話だ。

ゼニカネ絡めて語ってくれているので、
そういう発想がなかった芸術オンチの私には非常にわかりやすい。

発想がなかったとは言っても、
よくよく考えると「開運!!なんでも鑑定団」をゼニカネ視点で楽しんでる人は大勢いるわけで、箱書きとか、市場とか、逸話とか、出回った数とか、作者の人間性とか、そういうところまでセルフプロデュースしないといけないというのは、まあ分かる話である。

で、「ギャラリーフェイク」「村上隆」で検索したら出てきた、ギャラリーフェイクに対する反論。
https://cerealyogurt.hatenablog.com/entry/20100916/1284591652

それに反論するレスも長々と付けられていて興味深く読んだ。
ギャラリーフェイクの村上隆批判も、それなりの文脈があるということが分かる。

これは漫画でいうところの、
スマホの縦読み漫画&ネーム横書き漫画にしないと日本は置いてかれる論争みたいなことだ。
やりたい人は縦読みやればいいけど、俺は今の漫画スタイルが好き。
今回の話もそこに落ち着くのだろう。

日本からは何だかんだ言われても、アメコミは基本アメコミのままでいるように思う。
バンド・デシネも同様だ。

コミックのスタイルは統一されるものではなく、国によって違って当たり前なのかもしれない。
言語が違って当たり前で統一される日が来ないように。
スマホスタイルも覇権ではなく、ウェブ世代の1スタイルとして落ち着くのかもしれない。

話が逸れた。
ということで、村上隆は芸術家志望者の選択肢を増やしたと言える。
メジャーリーグに挑戦して成功した野茂英雄であったのだろう。
本を読むまで全然知らなかったのだが、代理人みたいなこともやって、若手のアーティストを世に送り出すみたいなこともやっていたらしい。

本を読むと、ウォーホルバンクシーがなぜ評価されているのか、分かったような気になる。

 
他に芸術起業論で一番面白かったのが、海洋堂の宮脇修一にダメ出しされまくるところ。

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(画像は鈴木みそ「オールナイトライブ」6巻

世界初の等身大フィギュアを作りたいと岡田斗司夫に相談したら海洋堂を紹介してもらえたのだが、もう読んでいて爆笑だ。

「岡田先生、コイツはダメですよ。まったくわかっていない。

「うちに来ないでまずボークスに行くこと自体が超ド素人ですな。まちがっとる!

「ムラカミさん、とにかくボーメは、あんたの企画をやりたくないと言っている。

「あんたのような他所者に魂を売り渡したくない。

「そもそも、あんたはオタクというものが何か、まったくわかっていない

ですよねー!
と思うしかない。それでも、

「あのスピーチは岡田先生のプレゼンの中でも最高のものだ。なぜ、あんたなんかのために、あそこまで言ってくれるのか。そこまで岡田先生がやりたいと言うなら脈ありなのだろうし、これはやっぱり海洋堂としてやるべき事業なのだろう。と言わせてしまうあたり、さすがトシちゃんの審美眼はすごいと思う。

ちなみにその後も色々あって、
結局半分見放されるような感じで等身大フィギュアの調整をボランティア学生たちとやっていると、海洋堂の当時の社長の目に留まり、

「こんな滅茶苦茶くだらないことに、若い衆が十五人も集まってきている…おもしろい!
 ちょっと、銭湯に行きませんか?」

となったことから再び海洋堂のバックアップを受ける。
「ふしぎの海のナディア」みたいだ!

アニメ「ふしぎの海のナディア」に登場する潜水艦には銭湯があり、ヒロインのナディアに副船長のエレクトラが「それじゃあお風呂に行きましょうか」(CV:井上喜久子/当時17歳オイオイ)と言ってお互い裸で話し合いをすると言うシーンがある。これは当時のガイナックスの兄弟会社の社長が、揉め事が起こった時によく使う技が元ネタだったという。名著「ふしぎの海のナディアロマンアルバム」で庵野秀明が解説している。

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今回、ブログを書くにあたって色々調べていて知ったのだが、
そもそも村上隆のアニメ風の立像も、中原浩大というアーティストがガレージキットを美術館に展示した「ナディア」に影響を受けたものだったというから驚きだ。というか、ますます細野不二彦が批判するところのパクリ感が増したような気もする。

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(画像は雑誌「太陽 1993年11月号 特集 現代美術入門講座」)

つまりナディアすげえ、ガイナックスすげえ、トシちゃんすげえ。
そういう結論になる。


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智

私は細野不二彦大好きマンかつ村上隆生理的に受け付けないマンなので公平な批評は全くできない訳ですけれど…
ギャラリーフェイクって構造自体はブラックジャックの(スピリッツ的に近しい所で言えば美味しんぼの)模倣というかオマージュですよね。
ただそれが批判されないのはそんなのは世界中にありまくるし、物語構造を真似ること自体はシェイクスピアの昔から当たり前だからだと思います。
一方、村上に対する批判の大本はフジタ氏がご指摘の通り、ある一時期の主に日本で流行ったアニメ的な表現自体を模倣して、そこに値札を付けたってことでしょう。

私は村上作品自体が気持ち悪いなーと思ってるんですけど、ギャラリーフェイクのこの話自体は読んだ当時モヤっとした部分もあって。
フジタはストーリー的にはやり込める訳ですが、それでもその不気味なモノに高価な値札付いてたら、それオタクのギャラリーでもそれ相応に取り扱わんといかんのじゃないの?という点。
要するに細野先生の本音の部分と、村上が戦略的に打ち出した表現手段が生み出した価値が全く噛み合わないので、本当はお話としては破綻してるんだと思います。
(ギャラリーフェイクで同じことを感じた話がもう一つあって、フジタがジッポーライターはアートなんかじゃない‼と言い出す話。こちらは村上ほどの怨念が無かったからか、最終的にフジタが少し妥協します(笑))

こんな時にはZERO先生に依頼して、村上隆の真作を大量生産してその価値を落とすしかありませんぜ!フジタの旦那!
by 智 (2023-11-20 22:49) 

hondanamotiaruki

読み返してみて初めて認識したような気がするんですけど、フジタって漫画読まないんですね。それで引っ越ししてきたメカニックデザイナーの良し悪しにピンとくるものなのかなあという疑問がまずひとつ。

だから藤田のキャラクターというより、作者の本音からの言葉を言わせてる感じがしますね。

で、村上隆を批判するために、その背後にある現代アートまでついでにぶった斬って良かったのだろうかという疑問がもうひとつ。ギャラリーフェイクも読み込んでるとは言えないので、現代アートについては他でもやってるのかもしれませんが。

美術史に組み込まれてしまったものについては誰しもが一定の価値を認めざるを得ないのでそこを目指す、というのが村上隆の戦略ですが、そういう戦略に対するアンサーはこれまでにギャラリーフェイクにあったのか?今度読み返すときに確認してみようと思います。
by hondanamotiaruki (2023-11-23 11:03) 

ネスカフェ

こんにちは。

細野不二彦さんの創作に関する姿勢は「アドリブシネ倶楽部」の「静かなる男」というエピソードが分かりやすいと思います。映画製作の過程で特撮を依頼されたプラモ好きな男の子が、同じサークルで同じく依頼を受けていた八方美人の軽薄な男に反論するくだりや、プロデューサーがその男に物申す場面などは「創作者はどうあるべきか」という点について明確に語られていますね。

細野さんについては「1978年のマンガ虫」とという自伝的な作品を出されているので、読まれてみるのも一件です。ただ、主人公は凡才扱いですが、実際は高千穂先生によると「メカデザインでは河森を超えるぐらいのセンスの持ち主」と評されるぐらいですから、多少の脚色はあるんでしょうね。
by ネスカフェ (2023-12-02 12:48) 

智

ギャラリーフェイクではカンディンスキーやキリコは好意的に扱っていたと思う(うろ覚え)のですが、ウォーホル以降の同時代的な現代アートについての言及はあまりなかったんじゃないかと。
主人公フジタの特殊技能も絵画や壺の修復能力なので、あまり前衛的な作品だとその力を発揮できない問題もあります。
ブリキのトイや機械式時計みたいな職人芸も評価していましたね。

>ネスカフェさん
「静かなる男」いいですよね!私も大好きなエピソードです。
あの話ではパロディズムについてのルールについても述べられてると思います。
プロがリスペクトを込めて表現するからパロディがエンタメとして成立するんだよ…という。
また、次の話ではあれだけ苦労して作った特撮シーンを、作品全体のためにカットしていくくだりがあって、それもまたすごく印象に残っています。
細野先生はアニメ版・ダーティペアのあのコスチュームデザインを生み出したしたという一点だけで、仮に漫画家として大成しなかったとしても充分、天下の奇才だと思ってます。
by 智 (2023-12-02 23:29) 

hondanamotiaruki

「アドリブシネ倶楽部」読んでみます。
「1978年のマンガ虫」は評判いいですね。続きが読みたいです。
by hondanamotiaruki (2023-12-03 13:47) 

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