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パクリを指摘するための高いハードルとは [心に残る1コマ]

久しぶりに渋谷直角の
「デザイナー渋井直人の休日」全2巻を読み返したがしみじみ面白かった。

特にツボだったのが
主人公のデザイナーの作品がパクリだとTwitterで炎上する話。
パクった1.png
主人公はスタッフにパクリだったと認めるものの、
それは依頼者の「アメリカンポップカルチャーへのリスペクトをストレートにオマージュしてほしい」みたいな強いこだわりによるものだったと事情を説明する。
パクった2.png
主人公の説明に納得したスタッフは依頼者を非難するが、
主人公は「デザイナーはアーティストより上じゃない!カンチガイしちゃダメだよ!」という名言を吐き出す。
渋井直人1.png

依頼者は若手アーティストでしかもノーギャラの仕事。
怒って当然だが主人公はそうしない。
主人公、渋井直人のキャラクターがよくわかる話ですやね。

この後はよくあるネット炎上の流れがリアルに描かれる。
理解するファンもいるがTwitterでボコボコにされてアカウントを消してしまう。
パクった3.png

こういう人間の悪意を描かせたら作者の渋谷直角の右に出るものはいないのだが、この漫画はその辺がややマイルドで読み易い。オススメの作品だ。

 
さて、なんか似たような話を聞いたなと思った。
BSアニメ夜話というTV番組でで1988年ごろのビデオアニメ、
「トップをねらえ!」の内幕が語られた時の話だ。

アニメで使う曲をミュージシャンに依頼するのだが、
既成の曲を挙げてイメージを伝えると、
見事にそれに似た、少し違った曲が出来上がってくるという。

今回の渋井直人の話と似てないだろうか。
音楽もパクリ騒動が色々あるけども、こういうパターンも少なくないと思う。
まあ所詮パクリはパクリとぶった斬ることも出来る。
しかし「二番煎じはパクリ、三番煎じからはジャンル」なんてことも昔から言われているのだ。

パクった5.png
(画像は山田玲司「絶望に効くクスリ」より、絵本作家五味太郎インタビュー回のもの)

そもそもパクリというからには指摘するネタ元がオリジナルだという確証はあるのか。
オリジナルでなければそれはパクリではなく、ジャンルだったということだ。
そしてオリジナルと言い切れるからにはネタ元の誕生前の半世紀にわたる過去の作品を熟知していないといけないと思う。

 
今回は無知ゆえから来るパクリの指摘が結構気になるという話だ。
このブログでも1980年代の作品の記事に、近年のメガヒット作品のパクリだとコメントがついたことがあった。下手な冗談と思いたいが。

パクった4.png
(画像はカトリーヌあやこ「カトリーヌが行く!」)
 
以前他所で荒木飛呂彦「魔少年ビーティー」の「そばかすの少年事件」を紹介したら、藤子不二雄A「魔太郎がくる!!」の「ヤドカリ一家」にそっくりだという指摘が相次いだことがあった。

「ヤドカリ一家」はイギリスの小説家、
ヒュー・ウォルポールの「銀の仮面」に影響を受けた作品というのは結構指摘されているようなのだが。

荒木飛呂彦も「魔太郎」をリスペクトしての「魔少年」なのだと思うが、「銀の仮面」もおそらく読んでいる。著書「荒木飛呂彦の漫画術」の冒頭でヘミングウェイの「殺人者」を紹介しているのだが、1961年に発売された「世界短編傑作集〈第4〉」という短編集には「殺人者」と「銀の仮面」が同時収録されているのだ。そして銀の仮面はジョジョの石仮面の元ネタになったとも考えられる。

話を戻し繰り返すが、
藤子A&荒木がネタ元にしたと思われる「銀の仮面」が完全無欠のオリジナルかどうかは、作者のヒュー・ウォルポールの生誕の前後50年の作品に詳しくなければ判断できない。

半世紀もするとほとんどの作家、作品は人々に認識されなくなる。
トキワ荘以前の漫画家は手塚治虫しかいなかったみたいに綺麗さっぱり。
手塚治虫が憧れた岡本一平。手塚の師匠である酒井七馬。手塚のライバルと呼ばれた福井英一。
俺だってよく知らない。

例えばの話だが、今から50年後は尾田栄一郎だけ名前が残って、
久保帯人や岸本斉史を知るのは余程のマニアなんてことになるのかもしれない。

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(手塚治虫が亡くなった時に石ノ森章太郎が描いた短編「風のように…」より)

 
パクリだと指摘する時、指摘する側も試されている。
「銀の仮面」の件で指摘された方々は結構齢を重ねた漫画読みだと思うのだが、こういう間違いを犯すのは慢心というほかない。自分も陥り易い罠だと自戒に努めたい。
 

そういえばこないだKindle Unlimitedで読んだマーク・トゥエインの「人間とは何か?」の漫画版が面白かったな。「王子とこじき」「トムソーヤの冒険」で知られるトゥエインが「人間と機械は大差ない」と匿名で書いたというこの本。

「シェイクスピアの作品は創造ではなく模造。彼はなーんも作っちゃいない」「在り物を使って最高水準のタペストリーを編み上げたに過ぎない」ってすごいことを言っていた。
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