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キックの鬼!戦績のほぼ全てがウソな沢村忠がリスペクトされ続けるワケ [あの人は今]

沢村忠に真空を飛ばせた男―昭和のプロモーター・野口修 評伝―

沢村忠に真空を飛ばせた男―昭和のプロモーター・野口修 評伝―

  • 作者: 細田昌志
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/10/29
  • メディア: Kindle版


キックの鬼と呼ばれた1970年ごろのキックボクサー、
沢村忠(さわむらただし)についての本を読み終えた。

キックボクシングを作ったプロモーター、野口修について調べたノンフィクション。
550ページ近くあり、値段も3千円以上してお安くない。
本題に入るまで300ページぐらいかかり、それまで読んでいて苦痛だった。
(10年もかけた超大作なので全部のせな内容になるのは理解できる)

キックの鬼.PNG
電子版「キックの鬼」梶原一騎/中城けんたろう はAmazon読み放題対象商品
 
ところで黄金期のキックの映像をYouTubeで見たことがある。
今に勝るとも劣らない迫力の映像だった。
思い返せば物心つくかつかないかの頃、ギリでTV放送してたような気がする。

年取ってから格闘技好きになり、これまで色んな過去のキックボクシング記事を読んできた。その中でずっと釈然としなかったことがある。キックの鬼、真空跳び膝蹴りの沢村忠の名前はリアルタイムでない自分でも知っていた。だが大人になって専門誌を読むと、キックの始祖として取り上げられるのは必ず藤原敏男で、沢村忠についてはほぼ語られないのだ。

結局のところ、沢村忠の試合の「9割以上がやらせ」だということらしい。
10年で250戦してるらしいので、1年に25試合。
リアルファイトだったら年間3試合が順当。多い選手でも5試合ぐらいだ。
こんなハードスケジュールで232勝もしているのだからありえない。
こんな選手が実在したら生き神様と祀られていい。

 
著者の聞き取りに対し沢村忠をプロモートした野口修の口は堅く、最後までやらせを認めようとしなかったという。それならばと著者は当時負け役にされたタイ人に話を聞きに海を渡る。
しかしそのタイ人も40年の月日が経っているにも関わらず沢村を守ろうとするのである。
単純に沢村忠をインチキ野郎と断罪できる話では無いらしい。話の深みに畏怖した。

感じるのは沢村忠が人格者だったということ。
そして才能があり、努力家でもあったと。
リアルファイトを追求した藤原敏男ですら現在も沢村忠をリスペクトしている。

わかる話だ。
例えばプロレスは言ってみれば劇。スタントショーであり、その勝負ごとは偽物ではあるが、人を制圧する技術をプロの域にまで高めているからこそ出来る職業である。そして偽斗であるからといって危険でないわけでもない。1年平均25試合。常人にはできない仕事である。体へのダメージは相当な物だっただろう。

本を読んで、様々な人がいまだに沢村忠の名誉を守っていることを知り、それが沢村忠の人となりを想像させるのである。

 
改めてYouTubeで沢村忠の映像をいくつか見てみた。
一時期は年間300試合以上も見ていた自分である。
ある程度不自然な点は分かると思う。

身体能力の高さは感じる。が、必殺技の真空跳び膝蹴り。
コンタクトの一瞬前に対戦相手の首が跳ね上がったり、
不自然に相手がガードを下げて飛び膝蹴りを当たりやすくしている。

ビデオデッキの普及していない時代の話とはいえ、これでバレないのか。
梶原一騎すら騙され、一時期は沢村を贔屓にしていたという。

それでも現在まで沢村忠にクリーンなイメージがあり続けているのがすごい。
業績のほとんどがウソだったのにも関わらずだ。
まあアントニオ猪木もジャイアント馬場も同じか。
批判してた人がいなかったわけではないが。
本にも書かれているが石原慎太郎が遠回しに批判していたことは過去に専門誌を読んで知っていた。

 
まあ視聴者もリアルファイトがどうかにあまり関心がなかったのかもしれない。
そういう概念すらなかったのかもしれない。
漫画で言うキャラクターデザインとストーリーを縦糸と横糸の関係に例えるのに似てる。
人々は最強かどうかというストーリーではなく、沢村忠というキャラクターに熱狂したのだ。

当時キックボクシング番組が乱立し、リアルファイトを標榜する団体もあった。
しかし水戸黄門が印籠のように、ここぞというところで真空跳び膝蹴りを繰り出して終わるワンパターンな沢村忠の試合のほうが求心力が高かったそうだ。沢村はホームラン王と呼ばれた王貞治を差し置いて、日本プロスポーツ大賞を受賞してるというから恐ろしい人気だ。しかし格闘技を普及させるためとはいえ八百長が許されるということはあってはならないと思う。
 
そんな沢村忠は突如行方をくらます。
身体的なダメージの蓄積が理由のひとつにあるのは間違いない。
世間を欺き続けたことへの自責の念がどれぐらいあったのかは興味深い。
様々な憶測記事が誌面を賑わせたことが本には書かれているが、やらせが暴露される方向に行かなかったのは興味深い。

引退後も沢村忠は慎ましい生活をし、クリーンなイメージのまま生涯を終えた。
歌手デビューした娘のためにTVに戻ったこともあったが、
そこでもやらせにツッコミを入れられることもなく、苦悩の天才最強キックボクサーのイメージで伝記番組が作られた。

利害関係などもないであろう後年に至っても関係者が口をつぐみ、打たれない出た釘であり続けた沢村忠の存在は異質過ぎるものがある。

 
この本のメインの取材源である野口修の口は所々堅く、そのほとんどは自らの醜態を隠そうとする自意識の高さからきている感じだ。なんとか聞き出そうとする著者との心理戦も読み応えがあった。他の関係者も含め、わからないまま終わってしまっていることも多い。書店に並んだこの本を手に取って、彼らが今なにを思うのであろうか興味深い。おそらく数年後に出るだろう増補改訂版も楽しみに待ちたい。
 

近年、沢村忠が登場する漫画に、雑誌少年チャンピオン創刊からの歴史を描いた「チャンピオンズ週刊少年チャンピオンを創った男たちの物語」がある。そのまま単行本の表紙になっている創刊号表紙に沢村忠を採用したエピソードが語られている。
沢村忠.png
 

キックのお姉さん(1)

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  • 作者: 稲井雄人
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2021/03/05
  • メディア: Kindle版



沢村忠に真空を飛ばせた男: 昭和のプロモーター・野口修 評伝

沢村忠に真空を飛ばせた男: 昭和のプロモーター・野口修 評伝

  • 作者: 細田 昌志
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/10/29
  • メディア: 単行本



真空飛び膝蹴りの真実―“キックの鬼”沢村忠伝説

真空飛び膝蹴りの真実―“キックの鬼”沢村忠伝説

  • 作者: 加部 究
  • 出版社/メーカー: 文春ネスコ
  • 発売日: 2001/09/01
  • メディア: 単行本



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