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映画「ONODA一万夜を越えて」見てきた [あの人は今]

小野田少尉の暴露本が伝えるイメージは、なぜあまり浸透しなかったのか。
あれこれ検索していたら面白い本を見つけた。

小野田寛郎は29年間、ルバング島で何をしていたのか

小野田寛郎は29年間、ルバング島で何をしていたのか

  • 作者: 斎藤 充功
  • 出版社/メーカー: 学研プラス
  • 発売日: 2017/04/14
  • メディア: Kindle版

「小野田寛郎は29年間、ルバング島で何をしていたのか」
冒頭の部分を試し読みしてシビれたので思わず電子版で購入してしまった。

2008年。著者は小野田少尉に出会ってから4年越しに取材のアポを取る。
「なんでも聞いてくれ」「実は今まで誰にも話していないことがあるんだ。」と話す小野田少尉だったが、いきなり小野田少尉の奥さんの町枝さんが乱入。

「小野田の晩節を汚す記事を書いたらただじゃおかない」
強制的に取材を終了させてしまったというのだ。

どうだろうこの警戒心。小野田少尉も頭が上がらないらしい。
「私は戦友になれたかしら」
読んだことはないが、そんなタイトルの本を書いていた奥さんだ。
パワフルな人なのだろうなと想像していたが、間違っていなかった。

小野田少尉の悪いイメージが浸透していない理由の1つが、なんとなく理解できた。
そして、「晩節を汚す記事」を書こうとする人が決して少なくなかったことも、町枝さんの態度から読み取れる。

 
この本の著者は結局それ以後取材することはできず、「今まで誰にも話していないこと」が何かはわからないまま、小野田少尉はこの世を去った。で、この後も著者は独自の取材を続け、あれこれと面白い記事が続くのだけど、

本は途中から日本軍が隠した埋蔵金の謎を追う、みたいな話になってガッカリ。
あとがきを読んだら途中から著者も迷走したと自覚しており、無理くり一冊にまとめたみたいに書いていた。

いろいろ根拠を提示してるけど、埋蔵金はねーわ。
ほんとに途中まで面白かっただけにガッカリ。
 
 
それでついに映画「ONODA一万夜を越えて」を見てきました。
以下ネタバレあり

  
 
ちなみに小野田少尉をモチーフにした映画が一番最初に作られたのは1959年の「とどけ母の叫び」なんだそうだ。帰国する15年も前に作られているのだから、壮大な事件である。
とどけ.png
 
さて映画「ONODA」の感想。
上映時間三時間の巨篇で、途中で眠くなるかなとみる前から不安でしたが最後まで全く飽きることなく鑑賞に没頭しました。役者が全て良かった。青年期の小野田少尉を演じた遠藤雄弥が全体の九割ぐらいがんばって、最後に中年期を演じた津田寛治が全部持ってく感じの内容。
 

2005年のTVドラマ版と比べてどうか?
TVドラマ版は小野田少尉らによる現地住民への略奪行為を映像化していていたが、映画版はそれよりさらに一歩タブーに踏み込み、現地住民の殺害シーンも描いていた。

ただその中のワンシーンがどう考えても脚色しすぎで、
捕縛した女性を撃ち殺すというものだった。

小野田少尉が「女子供は殺さなかった」というのは結構重要な部分で、これがあったから帰国も許されたというのがあちこちで見た記述である。この映画を町枝さんがどう見たかわからないが多分見たのだろう。小野田記念財団はホームページで映画のPRに協力しており、公認の表現ということになる。

 
映画では、島を去る小野田少尉が何を考えたのかということは直接的には語られていない。
あなたはどう思いますか、ということなのだろうが、判断材料として与えられた情報が脚色しすぎでどうもねと思わざるを得ない。

というか、小野田少尉の内面は暴露本である程度はっきりしており、そこまで含めてこの最後の日本兵事件は語られるべきだと思うのだが、映画ではその辺は一切無視されている。

そう考えるとイッセー尾形の怪演は見事なのだが、なんら史実に則してなくてコミカルすぎる。作り手にとって都合の良い嘘くさいキャラクター造形になってると感じる。他にも小野田少尉の部下が脱落していく過程にも、かなり大胆に手が加えられている。それがドラマを効果的に盛り上げているのかといえばそうでもない。小塚一等兵が死ぬシーンなどは特にヘンテコリンな仕掛けだった。ありゃなんだ?

事件にあまり関心がない人が見ればドキュメンタリー成分が高く見えるだろう。
実際いい出来だとは思うのだが、肝心要の部分で越えちゃいけないラインを越えていて台無しになっている。

 
ちょっと面白かったのが、映画冒頭で制作に朝日新聞が大きく関わっていることが紹介される。
小野田少尉の帰国当時、朝日新聞は手記の独占権を獲得するために八千万円を提示したというが、わずか二千万円の提示だった講談社に敗れている。

小野田少尉が朝日新聞の4倍オファーを蹴ったのは、ジャングルで拾った新聞を読んでいる頃から偏向しすぎな新聞と思われていたからだという。捜索隊が残していった情報を小野田少尉が敵の謀略だと信じ込んだのも、朝日新聞の筆力のせいが何%かはあるのだ。さすがだ!

 
ちなみに映画を観た後もあれこれ調べていて、1996年に小野田少尉が再びルバング島を訪れた映像を見た。被害にあったエリアの住民は立ち入りを拒絶したが、その中の一人、父親を殺されたと言う男性はそれから約20年後の取材で小野田少尉を許すとコメントしていた。人間ってすごい。

 

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