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デンプシーロールは実在したのか? [心に残る1コマ]



デンプシーロールのジャック・デンプシーのゆっくり動画を作ってみた。
参考にしたのはジャック・デンプシーの自伝。
「拳聖デンプシーの生涯」。1984年の本。

いろいろ試行錯誤した。
まず見る人にとって興味があるのは、
デンプシーロールがいつ、どのようにして編み出されたかという事に尽きると思う。

だが、自伝にはデンプシーロールという単語は一切出てこない。
そもそもデンプシーロールと呼ばれたボクシング技術は実在するのかという疑問がある。

漫画に初めてデンプシーロールの名前が登場したのは安紀宏紀の「ナックルNo.1」だという。
ところが同時期に連載していた車田正美の「リングにかけろ」でジャック・デンプシーの名前を引用した時、「新・栄光なき天才たち」や「拳児」に引用された時、いずれもデンプシーロールという名称は出てこない。おかしくないだろうか。それほどの名ボクサーの代名詞的な技が出てこないというのは。拳児に至っては、デンプシーといえば「ショベルフック」という事になっている。さらにナックルNo.1ではガラガラヘビの動きを見てデンプシーが考案した技という事になっているそうで、いかにも嘘くさい。というかそれは嘘だ。

★(2021.4.15追記)
「新装増補版 謎の拳法を求めて: 武の人・松田隆智の足跡を辿る」によると、「拳児」原作者の松田氏がショベルフックを知ったのは1957年の19歳の時。ジャック・デンプシー著「私のボクシング」(1953年出版)を読んでのことなのだそう。
 
 
子供時代のデンプシーが憧れたというジョンLサリバンは、いわゆるアウトボクシングに敗れたのだという。それまでのボクシングは重心を後ろにかけパンチを交換するという、愚地独歩vsリチャード・フィルススタイルに近いもので、サリバンから王座を奪取したボクサーを卑怯者と非難する者もあったという。

ヒット&アウェーやアウトボクシングを技とは言わない。
とりあえず漫画で「出たー!ヒット&アウェーが炸裂!」みたいには言わない。

前傾して頭を振り、左右からパンチを繰り出すというデンプシーロールは、当時のインパクトはあったのだろうが、今の時代では当たり前すぎて、「技」というよりも、「スタイル」と言ったほうが正しいニュアンスなのかもしれない。

前傾姿勢で頭をふるボクシングスタイルを、当時デンプシー以外に使っているボクサーがいておかしくない。自伝に書かれている感じでは、それほど特異なスタイルに見られているようには思えないからだ。想像するに、当時若手の間で流行のボクシングスタイルであったのが、王者ジェス・ウィラードをKOしたインパクトをもって、広く一般大衆に認知されたのではないか。そんなことを考えた。

決して2.png
 
それを10数分で語って視聴者にカタルシスを与えるのはちと難しい。
なので、自伝の中から、一番それっぽい箇所をデンプシーロール誕生の瞬間とした。

自伝の中では3箇所ぐらい、デンプシーを開眼させるかのようなトレーナーが出てくる。その中の一人、マーティン・ファレルというボクサーがいる。彼はドクことジャック・カーンの、デンプシーの前のパートナーだったが八百長試合をやってキャリアを終える事になったらしい。動画の中で「博打うちの〜」としているが、これはそこからのイメージによる勝手なキャラ付けである。

ドクの実家でデンプシー再生が始まった時、彼がデンプシーの腕を縛りつけてトレーニングを指導したことは伝説になっているらしい。しかし腕を縛りつけた事についてはデンプシーが自ら否定していた。
ロールは存在1.png
(用法は違うが、はじめの一歩に似たようなトレーニング風景がある)

が、高速のウィービング等のデンプシーロール的なムーブを強化指導したのは史実らしく、それらに尾ひれがついて伝説にまでなっているのなら、ここがデンプシーロール誕生の瞬間とするのが一番正しい可能性が高いと思った。

ちなみにマーティン・ファレルはデンプシーと戦ったこともあるボクサーのようだが、調べてみても該当するようなボクサーが出てこず、容姿についても全くの想像で次元大介をイメージして描いた。あとで新聞社のシーンで似たようなキャラを書いている事に気づいて、失敗したと思っている。。。

ロールは実在.jpeg
(自伝の裏取りをしていて、辻褄がよくわからない箇所も多い)
(さらに言うと、同じページで同じ人物の呼び名が名前だったり姓だったりアダ名だったりコロコロ変わって読みにくい。たぶん原文そのままで、ニュアンスの違いを表現しているのだろうけども。)
 
結末に関して。
王者ジェス・ウィラードを倒して、ひとまずめでたしめでたしという内容を目指した。
なのでのちにドクと喧嘩別れした後の相棒で、
ウィラード戦を盛り上げた興行師のテックス・リカードについては構成の都合上、御退場願った。
ロールは存在2.png
(画像は「新・栄光なき天才たち」だが、漫画の中でのリカードが変装してデンプシーに会いにくるシーンは自伝にも書かれていた!)

で、主人公に負けて視聴者にカタルシスを与えてくれる敵役、ウィラードなんだけども、調べるほどになんか弱そうなことがわかってしまった。なんと彼は試合から3年も遠かった挙句、試合前日に深酒をしていたという。木村政彦か!年齢も38歳ぐらいだったような。

そもそも主人公が最後に勝つことが分かってるのに、そんなデータを引用したら緊張感のカケラもないラストバトルになってしまう。なのでその辺は語らず、ジョン・ザ・バーバーの嫌がらせで心身ともに疲弊するデンプシーという筋書きにさせていただいた。

ジョン・ザ・バーバーが色々嫌がらせしてきたことは自伝にも書かれており、動画にもある通りドクが金策してお引き取り願っているのは史実である。トレドの惨劇以前から、デンプシーバッシングが起こっており、デンプシーが勢いに乗り名をあげるごとに彼の存在が邪魔だと考えるボクシングマネージャーは増えていったようだ。やはりこの辺を解決する政治力、バイタリティを持った「軍師」の存在は必要不可欠で、どちらかというとデンプシーロールというよりはドクロールの偉大さを知る動画になってしまった。

ちなみにそれでも世間的にはジェス・ウィラードが勝つと思われていたようで、やり手のテックス・リカードも王座防衛する算段で、今後の興業の打ち合わせをウィラードと行っていたらしい。

ウィラードは黒人の手から白人の手に王座を取り戻した男として抜群の知名度があり、その試合も45ラウンド制で、20ラウンドぐらいまで戦って勝ったというのだから、全盛期は強かったのだろう。ちなみに晩年は金に困って実業家として成功したデンプシーの元を訪ね、デンプシーの名を関したお酒のCMに出演するなんてことをやっていたんだそうだ。。。

 
このデンプシー自伝、拳児に書かれていた「戴冠後の新聞代オマケしてもらったエピソード」もそのまま書かれていてちょっと感動。
ロールは存在3.png

最後にキャラ造形に関して。

デンプシー、ウィラード、ドク以外は資料がなく、想像に頼った。
実際のドクはそれほど身長は小さくはないが、語り手なので可愛くデフォルメした。

デンプシーは残っている写真からしてけっこうイケメンだと思うのだが、拳児や栄光なき〜ではブサメンに描かれていて謎。だが自伝によると本人は鼻が上に向いていることをコンプレックスに感じており、鼻をお直ししたりなんかもしたらしい。。。
 
 

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