尊敬する偉人に当然ある影。本田宗一郎の実像とは?中村良夫「ひとりぼっちの風雲児」をキタ、ミタ、カッタ! [名作紹介]
ゴルゴ13みたいな「本田宗一郎物語」についてこのあいだ書いた。
子供の頃から繰り返し読んでいて、いま読んでも名作だと思う。
再購入のキッカケになったのは、
ホンダが公式に推している本田宗一郎漫画が、 全然違う作家(ひきの真二)の描いた漫画だったから。ありえん!と憤った。
でもゴルゴ本田は古い漫画(1巻の初版が1988年)だし、
コンプライアンス的に今時マズい描写もあるだろうから仕方がないのかなとも思う。
で、その辺をどうマイルドにしてるのかなと気になって、
ホンダが現在推している本田宗一郎漫画を、これかなと思って購入してみた。
「小学館版 学習まんが人物館 本田宗一郎」
読んでみたら、マズそうなエピソードもしっかり描写していた。
絵柄的に多少マイルドにはなっているけど。
この漫画の初版は1996年。
購入したのは2018年の第17版。ロングセラー!
ちなみに、小学館版はF-1に参戦したホンダの監督になる中村良夫の描写が多い。
中村良夫は元航空機エンジンの設計をしていた知識を生かし、標高が高く空気が薄いメキシコグランプリでホンダに初勝利をもたらす。さらに「キタ・ミタ・カッタ」とユリウス・ジーザーに倣った電報を打ったというからシャレている。
ちょっと気になって調べてみたのだが、中村良夫はかなり本田宗一郎とは仲が悪かったようだ。
「結局、本田社長はもっとも基本的な熱力学の物理法則を理解していないので、いくらいっても論争がかみ合わないのです」「人間としては尊敬できるが技術者としては尊敬できない」などと、かなり辛辣な言葉を残しているそうだ。それは小学館版には描かれていない。
(ゴルゴ本田漫画こと「本田宗一郎物語」に登場する中村良夫)
「世間に流布された『本田宗一郎』とは藤沢武夫が世の中に受けるように脚色した虚像であって真実ではない」というコンセプトで本を出しているというので買ってみた。
タイトルは「ひとりぼっちの風雲児―私が敬愛した本田宗一郎との35年」。1994年初版。
絶版になっているらしく、中古で購入したが五千円もした。
この本の中で中村は、本田宗一郎の暴力についても色々とコメントを残している。
本田宗一郎は、殴り返してこない人間は、怒っているときにそばにいたというだけで何も悪くないのに殴られたりすることがあったそう。
中村は殴られない側の人間だったが、
その光景を「見ていて嫌でしょうがなかった。オヤジさんがブン殴るべき、何の正当な根拠もなかったからである。」と書いている。
ゴルゴ本田漫画でも印象的だった、いい歳して学生になるエピソードについても裏を語っている。
>後、東海精機を設立され、鋳鉄ピストン・リングを生産されるようになり、どうしても的確な鋳鉄ができないことから治金額の必要を痛感され、当時の浜松高等工業学校の聴講生となっていらっしゃる。
ピストンリング作りが上手くいかず、方々に相談に行ったが大学に行ってみたら簡単に謎が解けてしまったことから学問の大切さを知り、30歳を目前にして学校に通い始めてしまったという本田宗一郎の思考の柔軟性を褒め称える話なのだが、ゴルゴ本田漫画では怒られて退学になったという結末が後の方になって明かされている。これが読んでいていまひとつ理解できなかったのだが、中村氏の本を読んで初めて理解した気になった。
>ただし学校側としては、金相学や治金額を学ぶためには、例えばどうしても基礎数学の習得は必要であり数学も物理、化学も学ぶべし!ということになり「俺は卒業証書(免状と本田さんはおっしゃっていた)が欲しくて学校に来てるのじゃねえや」といって退学されてしまっている。
>学校では、ズバリ、良質のピストン・リングを鋳鉄治金法を教えてもらえるものだと勘違いされていたようである。そんな便利な(?)学問なんか世の中に存在するわけはなく、だからどうしても基礎学問が必要になるのだ、ということはとうとう正当に理解していらっしゃらなかったように思われる。
本田宗一郎自身が冗談めかして「目に見えるものは強いけど、目に見えないものはサッパリだ」と言っていたそうである。
>鋳鉄もまた湯(融解鉄)を見るだけでは何もわからない。試片をとり、分析や検鏡をやって、はじめて何がどうなるかがわかるのである。(中略)見えないものにも理論で取り組むことができるエンジニアでもなかったのである。
本田技研が成長し、上のステージに行くごとにこのズレが激しくなり、最後の空冷水冷論争で本田宗一郎は部下たちからついにNOを突きつけられるのである。
で、YouTubeを見ていたら、ホンダ公式チャンネルが本田宗一郎の漫画をアップしていたのを見つけた。前回、ツイッターで見たと書いたが、こっちだったのかもしれない。
何か妙な違和感を感じながら、なんとなく動画をクリック。
そして驚いた。
作画は同じひきの真二なのに、内容が全然違う!
ボートは2つあった!
本田公式が推していた漫画は小学館版ではなく、
「本田宗一郎本伝 飛行機よりも速いクルマを作りたかった男」という、
全く同じスタッフ(シナリオ:毛利甚八、作画:ひきの真二)に同じ題材について描かせた、全然別の本だったのだ!
続く。
子供の頃から繰り返し読んでいて、いま読んでも名作だと思う。
再購入のキッカケになったのは、
ホンダが公式に推している本田宗一郎漫画が、 全然違う作家(ひきの真二)の描いた漫画だったから。ありえん!と憤った。
でもゴルゴ本田は古い漫画(1巻の初版が1988年)だし、
コンプライアンス的に今時マズい描写もあるだろうから仕方がないのかなとも思う。
で、その辺をどうマイルドにしてるのかなと気になって、
ホンダが現在推している本田宗一郎漫画を、これかなと思って購入してみた。
「小学館版 学習まんが人物館 本田宗一郎」
小学館版 学習まんが人物館 本田宗一郎 (小学館版学習まんが人物館)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1996/06/14
- メディア: 単行本
読んでみたら、マズそうなエピソードもしっかり描写していた。
絵柄的に多少マイルドにはなっているけど。
この漫画の初版は1996年。
購入したのは2018年の第17版。ロングセラー!
ちなみに、小学館版はF-1に参戦したホンダの監督になる中村良夫の描写が多い。
中村良夫は元航空機エンジンの設計をしていた知識を生かし、標高が高く空気が薄いメキシコグランプリでホンダに初勝利をもたらす。さらに「キタ・ミタ・カッタ」とユリウス・ジーザーに倣った電報を打ったというからシャレている。
ちょっと気になって調べてみたのだが、中村良夫はかなり本田宗一郎とは仲が悪かったようだ。
「結局、本田社長はもっとも基本的な熱力学の物理法則を理解していないので、いくらいっても論争がかみ合わないのです」「人間としては尊敬できるが技術者としては尊敬できない」などと、かなり辛辣な言葉を残しているそうだ。それは小学館版には描かれていない。
(ゴルゴ本田漫画こと「本田宗一郎物語」に登場する中村良夫)
「世間に流布された『本田宗一郎』とは藤沢武夫が世の中に受けるように脚色した虚像であって真実ではない」というコンセプトで本を出しているというので買ってみた。
タイトルは「ひとりぼっちの風雲児―私が敬愛した本田宗一郎との35年」。1994年初版。
ひとりぼっちの風雲児―私が敬愛した本田宗一郎との35年 (F1 GPX books)
- 作者: 中村 良夫
- 出版社/メーカー: 山海堂
- 発売日: 2020/02/06
- メディア: 単行本
絶版になっているらしく、中古で購入したが五千円もした。
この本の中で中村は、本田宗一郎の暴力についても色々とコメントを残している。
本田宗一郎は、殴り返してこない人間は、怒っているときにそばにいたというだけで何も悪くないのに殴られたりすることがあったそう。
中村は殴られない側の人間だったが、
その光景を「見ていて嫌でしょうがなかった。オヤジさんがブン殴るべき、何の正当な根拠もなかったからである。」と書いている。
ゴルゴ本田漫画でも印象的だった、いい歳して学生になるエピソードについても裏を語っている。
>後、東海精機を設立され、鋳鉄ピストン・リングを生産されるようになり、どうしても的確な鋳鉄ができないことから治金額の必要を痛感され、当時の浜松高等工業学校の聴講生となっていらっしゃる。
ピストンリング作りが上手くいかず、方々に相談に行ったが大学に行ってみたら簡単に謎が解けてしまったことから学問の大切さを知り、30歳を目前にして学校に通い始めてしまったという本田宗一郎の思考の柔軟性を褒め称える話なのだが、ゴルゴ本田漫画では怒られて退学になったという結末が後の方になって明かされている。これが読んでいていまひとつ理解できなかったのだが、中村氏の本を読んで初めて理解した気になった。
>ただし学校側としては、金相学や治金額を学ぶためには、例えばどうしても基礎数学の習得は必要であり数学も物理、化学も学ぶべし!ということになり「俺は卒業証書(免状と本田さんはおっしゃっていた)が欲しくて学校に来てるのじゃねえや」といって退学されてしまっている。
>学校では、ズバリ、良質のピストン・リングを鋳鉄治金法を教えてもらえるものだと勘違いされていたようである。そんな便利な(?)学問なんか世の中に存在するわけはなく、だからどうしても基礎学問が必要になるのだ、ということはとうとう正当に理解していらっしゃらなかったように思われる。
本田宗一郎自身が冗談めかして「目に見えるものは強いけど、目に見えないものはサッパリだ」と言っていたそうである。
>鋳鉄もまた湯(融解鉄)を見るだけでは何もわからない。試片をとり、分析や検鏡をやって、はじめて何がどうなるかがわかるのである。(中略)見えないものにも理論で取り組むことができるエンジニアでもなかったのである。
本田技研が成長し、上のステージに行くごとにこのズレが激しくなり、最後の空冷水冷論争で本田宗一郎は部下たちからついにNOを突きつけられるのである。
で、YouTubeを見ていたら、ホンダ公式チャンネルが本田宗一郎の漫画をアップしていたのを見つけた。前回、ツイッターで見たと書いたが、こっちだったのかもしれない。
何か妙な違和感を感じながら、なんとなく動画をクリック。
そして驚いた。
作画は同じひきの真二なのに、内容が全然違う!
ボートは2つあった!
本田公式が推していた漫画は小学館版ではなく、
「本田宗一郎本伝 飛行機よりも速いクルマを作りたかった男」という、
全く同じスタッフ(シナリオ:毛利甚八、作画:ひきの真二)に同じ題材について描かせた、全然別の本だったのだ!
続く。
今日も一日 pic.twitter.com/FkTONqM5gP
— sa. (@sagikaos) July 28, 2022
小学館版 学習まんが人物館 本田宗一郎 (小学館版学習まんが人物館)
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1996/06/14
- メディア: 単行本
ひとりぼっちの風雲児―私が敬愛した本田宗一郎との35年 (F1 GPX books)
- 作者: 中村 良夫
- 出版社/メーカー: 山海堂
- 発売日: 2020/02/06
- メディア: 単行本
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