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漫画にできなかった壮絶な暴露本?西村繁男「さらば、わが青春の少年ジャンプ」 [名作紹介]

西村繁男の「さらば、わが青春の少年ジャンプ」を読んだら驚いた。
先に読んでいたコミカライズ版の「少年リーダム」とぜんっぜん違う。
活字の本だが、めっちゃくちゃ面白くて一気に読破してしまった。

「少年リーダム」は「青春の少年ジャンプ」のコミカライズというよりは、
名前を借りただけの全くの別物で、
掲載誌「コミックバンチ」の編集長である堀江信彦が自身のジャンプ史観を語った漫画という感じだ。

というわけで「青春の少年ジャンプ」は西村繁男視点となり、ジャンプ創刊前からお話は始まる。自分がジャンプを読んでいた時期までは長い道のりではあるのだが、読んでいて全然退屈しないのが意外だった。

意外なキーパーソンが「ちばてつや」だ。
西村はこの時代の漫画編集者にありがちな(と漫画ではよく描かれる)文学に傾倒する男で、それが少年ブックで仕事をするようになり、ちばてつやの偉大さと漫画の可能性を知る。結局、ちばはジャンプとあまり縁がなかったが、足繁くちばの仕事場に通う中で西村は、同じくちばてつやを尊敬してやまない本宮ひろ志と出会うことになるのだった。

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(画像は「ちばてつや--漫画家生活55周年記念号」に寄稿した本宮ひろ志によるカット

また食えない時代の本宮の描写が上手い。
朝の連続テレビ小説「男一匹ガキ大将の女房」ドラマ化まったなしだ。
これが文学に傾倒した人の文章力というものなのか。

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(画像は本宮ひろ志「やぶれかぶれ」に登場する西村繁男)

読んでいて、やたら土田世紀の「編集王」を連想してしまうシーンがあった。
調べてみると、「青春の少年ジャンプ」は1994年の本。
編集王の連載開始も1994年だ。
「青春の少年ジャンプ」が編集王のタネ本の一つであることは間違いないと思う。

クライマックスはジャンプの部数がどうかということより、ストライキのシーンだ。と、体感で思う。集英社が躍進を続ける中で非正規雇用の人間が増え、それを過酷な環境で働かせている実態を認めず、ついにストライキが起こってしまう。そのストライキのリーダーが西村繁男が可愛がっていた契約社員の遠崎だったことから、西村も窮地に陥る。説得を試みるが、想像を上回る遠崎のロジックの巧みさと覚悟に、西村は打ちのめされる。

西村を罵倒する編集長の長野も鬼の描写だ。
西村と家族ぐるみの付き合いをしている長野規(ながのただす)はカリスマ性のある上司だが、ひとたび仕事となれば容赦がない。ヤクザのような理屈で西村を追い詰め、冷酷な経営者の目で遠崎を潰そうとする。これを実名で書いているというのがすごい。ちょっと西村繁男という男もどうかしているのではないかと思う。少年リーダムは守りに入り過ぎてまるで危ういところがないのがカンに触るぐらいだが、青春の少年ジャンプは暴露本かと思うほどの攻め具合なのだ。

青春の.png
(画像は「そしてボクは外道マンになる」
 
ちなみに遠崎はのちに漫画原作者となる。
1話完結で全78巻の長編となる「ゼロ THE MAN OF THE CREATION」を愛英史のペンネームで。ドラマ化された「緋が走る」をジョー指月名義で。それらを同時期にスーパージャンプで連載していたという辣腕だ。代表作は天下に轟く「アストロ球団」。その遠崎史朗である。

 

さらば、わが青春の『少年ジャンプ』 (幻冬舎文庫)

さらば、わが青春の『少年ジャンプ』 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 西村 繁男
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 1997/11
  • メディア: 文庫


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