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伝説の「嫌いな漫画を終わらせる権利を持った漫画家」がついに誕生するのか?どうなるジェンダーバイアス論 [時事ネタ]

小畑健&大場つぐみの「バクマン。」のライバルキャラクター新妻エイジ。
その初登場シーンには震えた。
「もし僕がジャンプで一番人気の作家になったら、僕が嫌いなマンガをひとつ終わらせる権限をください」
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ゾクゾクした。
このセリフは結局「見栄切り」の用途で使われたということになるが、読んでいるうちにいつ伏線になるかという緊張感も与えていたと思う。

 
さて前回の続き。
楠本まきさんはジェンダーバイアスのかかった作品は滅べばいいと思っていて、そのガイドラインを作ろうという。

根本的な疑問なのだが、ルールを作ったはいいが、それが拡大解釈されて過剰な自主規制に繋がらないとでも思ってるんだろうか。あまり漫画家で、自ら出版コード的なものを作ろうという話は自分が不勉強なのかあまり聞いたことがない。
ジェンダー2.png
(画像は「ゴーマニズム宣言」

楠本さんは、タバコの描写で書き直しを命じられた経験を持っているそうだ。
未成年はもちろん、かっこいい大人がタバコを吸うシーンはダメで、カッコ悪いのはOKなのだそうだ。そんな業界のルールを信頼している人なのである。
聖人か。

しかも本人はこれまで生きてきて、何らジェンダーの被害を受けたことがないというのだ。大きな枠組みの中ではあったとも言っているが。例の医大入試のニュースを見て、初めて問題意識を持ったそうだ。黒人でもなんでもない日本人の家族から始まった黒人差別反対運動が、過剰な自主規制に発展していったのと似ている気がする。

ゴーマ3.png
(画像は「ゴーマニズム宣言」

だから問題として出てくるのが「おたまを持ったお母さん」だったり、「婚活アップ女子」だったり。そこなの?と思ってしまう。潜在的な差別心を助長するという理屈はわからんでもないが、単純に言ってそれを発禁にできるだろうか。それに潜在的とかいいだしたらなんでもアリだ。リアリティを追求するのをサボっているというのはそうかもしれないが、記号的に描かなきゃいかん場合もある。そもそも漫画というのは記号の集合体で、省略もテクニックの一つじゃあないか。

こういうルールが適用されると昔の漫画が発禁になる恐れもあるな。
ドクタースランプ完全版なんて、完全版と言いつつも読むに耐えないものになっているが。

スランプ3.png
(解説:肌に貼ったトーンで黒人メイクを表現していたが、のちにトーンは青を表現しているという風に修正された。ダメ押しでヒゲと耳飾りが付け足されている。よく見ると「カオに黒い絵の具をぬれ」という台詞がそのまま残ってしまっている。)

前回紹介した、ちばてつやの「ユカをよぶ海」のように面白い漫画を描いてジェンダーバイアスが取り除かれれば一番良いと思うし、作家として健全だと思う。理想論かもしれないが。楠本まきさんは作家なのに何故ガイドライン作りに頼ってそれを目指さないのか。描いてるらしいけど、残念ながらこっちまで届いてきていない。

ふと気づいたけど、俺はこの人の描いた非ジェンダーバイアス漫画を読もうという気が全く起きなかった。掲載されていた1コマから、ニーチェ先生とか、クロエの流儀みたいな「うまいこと言ってやったぜ」的なのが鼻につく論破漫画の匂いを感じたからだろうか。「滅びればいい」とまで言っているということは、自分の作品には一切ジェンダーバイアスは無いと盲信しているのだろう。そんな人間は間違いなく邪悪である。

 
長年漫画を読んできて、漫画とはこういうものだという固定概念が崩壊することが度々ある。「こういうものだ」が書き換えられてアップデートされるたびに、自分の小ささを実感し、漫画ってのは自由ですごいものだなあと思い直すのだ。

だから老害化してしまった作家を見るとゾクゾクする。
誤解されるかもしれないが、正直嬉しいと思ってしまう。
スプラッタ描写に爆笑するようなホラー映画ファンの心理といおうか。
(自分はホラー映画が苦手だけれども)

手塚治虫を邪道と評した島田啓三。
プライベートな場所で発言したことが後世に伝えられてしまったのは気の毒ではある。
手塚3.png

自分が漫画のガイドラインだと錯覚した寺田ヒロオ。
テラさん2.jpg

作家では無いけども、アトムやライダーを暴力反対の槍玉に挙げた人たち。
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寺田島田に関して、このまま漫画が自由にアップデートを繰り返して言ったら自分は淘汰されてしまうという危機感があったのではという説を最近聞いて、なるほどなあと思った。だから良識という言葉を盾に邪魔者の排除を図って、「自分に居心地の良い古き良き時代」を守ろうとした?楠本まきさんもそうだとは言わないけども、近いところはあると思う。漫画で敵わないから、良識を持ち出して政治で漫画表現を変えようとする。芸人でいえば「ヨゴレ」というヤツだろうか。

(追記:楠本まきが批判する「おたまを持ったお母さん」像は、楠本氏と同じ雑誌で連載していた人気漫画「サムライカアサン」に当てはまる事が分かった。TOKIO(トキオ)の城島茂主演でドラマ化もされている。) 

まあ彼女の意見については自分が誤読して部分もあるかもしれない。
でも自分のお眼鏡にかなわない作品は滅びろとまで言っているのだから、誤解はそんなに無いのでは無いかと思う。

さらに続く。

 

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  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/12/25
  • メディア: コミック



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  • 発売日: 2014/08/08
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コメント 2

まる

このひと若い頃
嫌いな漫画が沢山載ってる雑誌を
メジャーだからと言う理由で選んで
投稿デビューして
いろんな意味で目立ってたけど
そこの王道ではないし
表紙をとるほどじゃなかった

連載中に
気に入らないデビュー同時期の漫画家が表紙になったら献本にガムテープ貼るほど嫉妬してた

台詞の主張は自由でこの人らしいが
せっかくの35周年に、変なインタビュー受けて当時と変わらない不躾な物の言い方が露呈してしまってとても残念

広告費削減の炎上狙いキャンペーンだとしたら下品でさらに残念
by まる (2019-04-15 10:49) 

1up

ガムテープの話マジですか。
面白いですね。

本人の写真も見ましたが、
それと合わせて、
そばにいたら手強そうな人だなあという印象は持ちました。

炎上狙いなのかなというのは俺も考えましたね。
とにかく理屈がガバガバすぎて。。。
by 1up (2019-04-15 20:46) 

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